6-4
「・・・・・・・・・・っ!」
何も話すことなく本を読んでいた愛が突如として立ち上がったことをなにかの合図だと察した連人は本を静かに閉じて愛の隣まで静かに移動すると、彼女に訊いた。
「・・・・・・・・・やつらか?」
「ja。・・・・・・・その様です、兄さん。」
「ったく、連中は連中で暇すぎやしないかねぇ~?」
「nein。彼らにとってはこちらの事情などは知ったことではないかと存じます、兄さん。」
「ま、連中は動いて壊すだけだからな。・・・・・・・・・飛べるか?」
「『アイゼン』ですか?」
昨日の戦闘から一晩経ったが、『シュツルム・アイゼン』の調子が気になった連人は彼女に調子の具合を訊いたが、愛は確認するように連人に訊いてきたので、彼はコクリと首を縦に振った。
「ja。問題なく、良好かと。されど、一対多数においては分が悪いですね。」
「あの背中のは使えないのか?」
「『グラム』ですか?私一人では困難ですね。」
「だったら、答えは一つだな。」
「それは?」
それは何だと彼に訊く様に訊いてきた彼女に向かって連人は二カッと彼女に笑い、頭の上に手を置いてこう言った。
「あのガラクタどもを早めにぶっ飛ばして、『巨人』どももぶっ飛ばす。」
「ja。なるほど。・・・・・・・つまりは、いつも通りというわけですね。」
「あぁ。」
というよりかはだな、と彼は言葉を続けて言った。
「今日の午後最後の
「・・・・・・・・・・あの、兄さん。この世界より、授業の出席点が大事ですか?」
「あぁ、大事だね。この世界も、授業の出席点も。両方大事だ。」
「貪欲ですね、兄さん。」
「欲したいという欲求ってのは、人間には必要なんだぜ?掴める時には掴んどきゃなきゃならんしな。」
そういうわけだから。
座っていた椅子を机下に入れると通学カバンを肩にかけて、
「一っ飛び、付き合ってくれないか?」
「ja。私は貴方のモノです。」
ですので。
「一緒に踊ってくれませんか?」
「・・・・・・・・誘ったの、俺なんだけどな。」
「ja。ですが、兄さんのお誘いにはきちんとお応えしましたよ?」
「いや、そうなんだけど、お前が誘って来たら意味なくなるじゃんか。」
「では、これから見つけましょうか?」
貴方が仰る意味というモノを、と言葉を切らずに彼女は続けて言った。
「あぁ、そうだな。」
でもその前に、と言いながら彼は机上に置いてある本を指差すと、こう言った。
「本をあったところに返さないと。後の人に迷惑かけちまうからな。」
「ja。ルールを守ることは厳守すべき優先事項ですね。」
そう言うと、連人と愛の二人は読んでいた本を戻すために本棚に向かって歩いて行った。
『ちぃ!!このデカブツがっ!!・・・・・・・江島!!』
『待ってください、一尉!!先行し過ぎです!!まだ木原のやつが・・・・・っ!!』
『知れたことっ!!』
先日大破した『雷光』の応急修理という名の機体交換を行ったばかりでまだ機体調整が済んでいないにも関わらず、自分の手足を操る様に機体をいとも簡単に操る様子に、江島二等陸尉は戦慄を覚えるよりも恐怖心を覚えていたわけだが、第一世代機『雷光』のいとも簡単に折れてもげて使い物にならない速いだけのただの棺桶という世界各国から付けられた渾名を思い出すと、仕方ないのかな?と納得していた。
まぁ、その速さというのが、本気を出せばF-1にも出られるのではないのでは?と言われるほどの速度を出せる程の加速が出来るわけだが、その際に、『雷光』がどうなろうとも知ったことではないと頭の中に入れての評価になるわけだ。それほどまでに『雷光』の出せる速さは速いと言えよう。
そんな加速力がある『雷光』と、象一体が出せる速度しか出せない第二世代機『月光』を比べないでほしいと江島は声に出さずにいた。
象一体が出せる速度というのは少し言い過ぎたが、何も訓練も調整も受けていない機体が出せる速度はそれ位しか出せないことは本当の事実である。
それでも、第三世代機『閃光』になってようやく重機が出せるだけの速度が出せるわけだが。
とりあえず動くであろうと思われる設計を描いてとりあえず動かしてみた『雷光』と、動けると分かったデータで出来るだけ操縦者の身の安全が確保できると断言できるくらいに頑丈にしてみた『月光』とでは天と地の差があるのだが、この動くには動くけどかなり装甲とか減らしているから安全なんて保障できないけどとりあえず壊れることは保証する機体に慣れている山下とはそもそも練度が違うわけだが。というより、なんであの人、あんなポンコツに乗ってるのになんで飛び舞われたりできるのよ?バカかよ、バカだな、バカだったな。でも、せめて自分たちが追い付けなくなる速度で前に突っ込んで攪乱するのはやめてくれませんか?
そんなことを江島が思っていると、前方で回避というよりかはどちらかと言うならばダンスを踊っている様に見える『雷光』が『巨人』からの砲撃を避けながらこちらの方を向く様に後ろを振り向いた。
『なんか言った、二尉?』
『言ってませんよ、一尉。』
だから、せめて相手の攻撃がどんなの来るか確認してくださいよ。こっちの方見ながら回避するんじゃなくて。心臓に悪いんで出来れば、やめてください。
『だから、何?』
『言ってませんから、前見て下さい!!なんでもしますから!!』
『そう?それじゃ、援護お願い。』
『了解!!』
掩護欲しいんだったら、最初から言えよ。言ってくれなきゃ分からねぇよ。俺は聖徳太子でもなんでもないんだぞ。人の心なんざ、全然読めないって。でも、妖怪とかでいたよな・・・・・・。あれ、なんて言ったっけ?人の心を読む妖怪・・・・・・・・・・。たしか・・・・・・。
『回避!!江島、ブレイク、ブレイク!!』
『えっ?』
突然耳に聞こえた山下の声に江島は意識を戻すが、時はすでに遅く。衝撃を受けて江島の『月光』が態勢を崩す姿が山下の目に映った。
『クソッ!木原二尉!!まだ来れない!?江島がやられた!!』
『・・・・・・・まだ・・・・・・・、、まだやれます・・・・・、山下一尉。』
『そんな状態で戦えるか!!直撃弾受けてもまだ生きてるだけマシだけど!!』
会話をしている状況ではないにも関わらずに、相手の砲撃が来る位置をすでに読み切っているかのように山下の『雷光』は華麗に避けていく。
彼女の前には五体の『巨人』がいる。劣勢だと断言できる状況下でも『雷光』を操っている山下の口元には笑みが浮かんでいた。
(どう考えたって覆るわけがない・・・・・・。覆ることなんてできるわけがない・・・・・・・・・・。)
覆ることなど奇跡に等しく、奇跡ともいえる低確率に賭けようと思うほど山下はバカではない。
しかし。
しかし、なればこそ、だ。
人は奇跡を信じたくなる、そういう生き物なのだ。
奇跡に縋るほど、ほんの僅かな可能性に自分が持ちうる掛け
『賭けるにしても分が悪いか・・・・・。結構、運とか強い方なんだけどな・・・・・・・。』
だから。
『頼むよ、青年。・・・・・・・・・・・・・・・・来るなら来て。』
山下が願う様に呟いた瞬間、目の前にいる『巨人』の胴体に爆発が一つ巻き起こる。
『ギガッ!?ベルゼブブッ!!?』
『ゲルッ!!』
『ギルガヘス、「アイゼン」ッ!!?』
『デベブガ!!フルウメス!!?』
何を言っているのかさっぱり理解は出来ないが、一つだけ分かることがある。それは、ここ数日の間、自衛隊とは別の『巨人』と戦っている第三勢力と思われる機体が来たということと。
『青年!!』
『まだ生きてるようで何よりです、陸上自衛隊の方。・・・・・・・あれ?お一人ですか?』
背後から空中を文字通り飛んできたであろう名も知らぬ白銀の機体は『雷光』の隣に着地すると、なにかおかしいと思ったのか器用に機体の首を傾げてみせた。
『一人は遅刻で、もう一人は食われたばっか。』
『食われた・・・・・ってマジですか。そうなると、きついですね。』
『そ。出来たら、援護頼みたいんだけど、頼める?』
『そのお頼みにはお応えしたいんですが。』
そこまで言った時だった。『巨人』たちがなにかを空高くに投げる様に投げたのは。
『ゲッヘッヘッヘ。ゲレド、バセダブ。エレクドヘサタフ、「アイゼン」ロゲスニタヘフ。』
『へっ、性懲りもなくまたガラクタかよ。何が面白いのか、ガラクタばっか使いやがって。ちょっとは学習をだな・・・・・・・・。へっ?・・・・・・・あぁ、そうか?それだと確かにそうだな。・・・・・・あぁ、悪い悪い。訂正するわ。学習はせんでいいぞ。』
片手に持ったライフルをくるくると回すと、地面に膝をついて名を知らぬ白銀の機体は胴体部のコックピットと思われる場所まで手を出すと、そこから人檻の青年が手に降りる様子が目に映った。
だが、今重要なのは青年が降りたことではない。何を言っているのかさっぱり理解が出来ない言葉を理解できているとでも言うかの様に彼が言っていたことだ。
『せ、青年!?連中の言葉が分かるの!?』
青年に問い質す様に山下は彼に向かって言葉を投げかけるが、彼が答える前に、遠くの方でガラクタたちが動き出すのが目に映った。
「さぁ?・・・・・・んま、それはともかく、あのガラクタどもは任してくださいよ。そっちは任せますんで。・・・・・頼めるか?」
青年は機体の手から降りて、地に足を付けると顔を上げて、白銀の機体に訊く様に問うた。それはまるで生命が宿ることのない無機物の塊に魂が宿っているかのように彼女には思えた。
その疑問に答えるかのように、名を知らぬ白銀の機体は青年に向かってコクリと頷いてみせた。
その瞬間、山下には白銀の機体ではなく大きな人に近い姿が見えたような、幻覚を見てしまったかの様な錯覚に襲われる。
だが、そうしている間にも事態は変わっていく。
機体に向かって青年も頷き返すと。
「じゃ、あとは任せた。こっちは任せとけ。」
彼がそう言った途端に白銀の機体は空に向かって飛び上がる様にすると、『巨人』たちの群れに向かって攻撃を始めた。
『民間人が戦おうとしてるのに、止まってるわけにはいかない、か。・・・・・・さぁて、第二ラウンドといきますか!!』
山下は己を鼓舞するように気合を入れた声でそう言うと、操縦桿を握る手に力を入れた。
「あんの『巨人』どもも大概だけど、あの『雷光』のパイロットもすげぇな。あんな機動でよく折れないもんだ。」
ははぁ、と目の前で砲撃を避けている『雷光』の動きに感心したような声を連人は出す。
だが、ただ見ているわけにはいかなかった。
『シュツルム・アイゼン』と『雷光』が戦っている後ろでは数十体ものガラクタ、『ベルセルク』たちが群れを成している。それらが前に動くたびに街を緑豊かにしている自然が、街路樹が、花が、葉と花を枯らしていき、地面にはアスファルトがボロボロに砕かれて砂となり、街を壊している。
「連中は世界を壊す、か。愛の言う通りだな。」
そのために彼女はこちらへと渡って来た。
世界を守るために。
だが。
だが、自分はどうだ?と連人は自問する。
守るためにではなく、壊すために力を欲して、彼女に力を求めた自分は。
今、なんのためにここにいる?
なんのためにここにいる?
「んなもん、決まってるじゃねぇか。」
へっ、と彼は皮肉気味に自身に鼻で笑う。
「俺には力があって、周りには力がない。それで、戦えるのは俺一人・・・・・・・・・・・、だったら、答えは一つしかなぇわな!!」
そう自答する。
そして、自身を見ている誰かの視線に彼は気付くとそちらに身体を向ける。
そこには『巨人』からの攻撃を受けたからだろう。横たわる『月光』の中から這い出てきた自衛官の姿が彼の目に留まった
「・・・・・・・・・・・・お、おい。・・・・・・・・・・そこの、青年。・・・・・・・・早く、早く非難しろ。・・・・・・・ここにいたら、君は死ぬぞ・・・・・・・。」
「死にはしませんよ。少なくとも、何もせずってのは。」
ちょいとお借りしますよ、と言いながら彼は自衛官に向かってサイに似た何かが描かれている黒いホルダーを翳した。
すると、翳したと同時に、彼の腰にバックルがないベルトが腰に巻かれる。彼はそれには特に大した反応は見せずに、『ベルセルク』たちがいる方に身体を向けると、ホルダーを持った左手を後ろに引いて、何も持っていない右手を前へと突き出した。
「変、身!!」
言うのが早いか、遅いかという絶妙なタイミングで左手に持ったホルダーを腰に巻かれているバルトのバックル部分に差し入れた。
瞬間。
透明な何かが青年の身体を覆う様にどこからともなく現れて青年の身体を包い始めた。
「なっ・・・・・・・・・・・・・。」
何をしていると言いそうになった江島の脳裏に、上官の山下がつい先日、呟く様に話していた会話が思い出される。
『昔見た漫画の話になるけど、「なぁ、信じてみねぇか?たとえ、神や仏がいなくとも
その時、自身は何と言ったのか。
『なにをです?』
そう訊かれた山下は二カッと笑いながら江島に言った。
『
あの時に彼女は恥ずかしいと思って顔を背けるのかな?と江島は思ったのだが、彼女の顔には妙に自信が満ち溢れていた様に見えていたことを思い出していた。
いるはずがない。
いるわけがない。
何故ならば、その存在は空想上の存在であり、現実にはいるわけがないのだから。
江島はそう思いながら、目の前にいるそれを見ていた。
いるはずがない伝説的存在であり、子供たちが見ている画面から出るはずのないその存在を。
「
「そんな偉大な方々とは違いますけどね、俺は。」
そう彼は言うと、パンパンと身体に付いた埃を払う様に身体を叩いて、前にいるガラクタたちに向かって指を差して、こう言った。
「俺の名は『マスクドガイ・ザ・パワード』っ!!さぁ、ガラクタども!!一っ飛び、付き合ってもらうぜ!!」
腰のホルダーからカードを一枚抜くと左手に装備しているラウザーにカードをセットして、先端部の角を上に向ける様に上げた。
『Powerkick Impactbreaker』
「一発目から、飛ばしていくぜ。」
ま、その方がやりやすいけどな。
そう言いながら、自身の身体に力を込める様に腰を落とした中腰の状態になって、気をためる様に両腕を回して・・・・・・・・・、今度はピタッと止まって顔を上に向けて飛び上がった。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・、パワーキックゥゥゥゥァァァァァ・・・・・・・。」
かなりの高さまで上がると今度は勢いを殺さない様に身体全体を回し始めた。まるで人間ではない別の生き物が身体を操っているとでも言うかのように江島には見えた。
「インパクトォォォォォォォォォォォォォォォォォ・・・・・・・・!!ブゥゥゥゥゥゥゥレェェェェェェイカァァァァァァァァ・・・・・・・!!」
彼が地上に向けて足を突き出した瞬間、彼の身体のほんのわずかな隙間から勢いよく風が吹き出て、一つの弾丸を撃ち出さすように彼の身体が地上にいるガラクタどもに向かって打ち出された。
「く・・・・・・・・・・・っ。」
衝撃と共に巻き起こった突風から江島は顔を守る様に腕で防いだ。その間、何が起きたのか江島は見ることが出来なかったが、なにかが、金属を引き裂く様な音だけは聞くことが出来た。
そうしていると、風の勢いは徐々に弱くなっていき、顔を防ぐように覆っていた片腕を江島は外して、それを見た。
そこには今しがたいた多くのガラクタの姿は一つもなくただの残骸が転がっているだけとなっていた。
「へっ。暴れていようが、なんだろうが、あいつらはガラクタでしかねぇ。壊すには実に簡単な作業だってな。」
先程もしたように身体をパンパンと叩きながら上体を置き上がせながら彼はその様にぼやくと江島の後ろ、先程まで彼がいた場所の後ろの様子を見た。
すると、江島の上官、山下が怒鳴る様に大きな声で言っている声が聞こえる。
『よくやった、白いの!!木原!!江島を回収して後ろに下がって!!』
『一尉は!?』
『まだでかいのがいるから下がろうにも下がれないでしょうが!!バカか!!』
『・・・・・・・・・・ッ!!了解ッ!!』
来るのが遅すぎた同僚と上官との話声を聞いて江島は少し安堵した。
しかし、目の前にいる彼はそんなことは大したことではないとでも言うかのように片手を上げると、彼を回収するように後ろから翼を持った白銀の機体が彼の身体を掬い上げた。
「なっ・・・・・・・・・!?一人では・・・・・・あのデカブツには・・・・・・勝てないぞ・・・・・・・・・・っ!」
「一人だったら・・・・・・・ね。ま、こっちは二人なんで、気にしないでください。」
そう言いながら、彼は機体のコックピットと思われる部分に入っていくと、名も知らぬ白銀の機体は勢いよく顔を上げた。
『上々だ。それじゃ、仕上げにもう一仕事やってもろうか・・・・・っ!!』
『お疲れ様です、兄さん。』
「状況は?」
操縦席に座ると、連人は彼女に現状がどういった状態なのかを把握するためにそう訊いた。
『ja。「巨人」を一体、自衛隊機の援護で倒せました。残りは四体。こちらの残弾と「グラム」の状態はいまだに良好。戦闘は続行可能です、兄さん。』
「上々だ。それじゃ、仕上げにもう一仕事やってもらおうか・・・・・っ!」
『ja。そのお言葉をお待ちしておりました、我が
彼女がそう言った瞬間、『シュツルム・アイゼン』の足元に砲撃が着弾する。
『ふっ。我らが敵たる「シュツルム・アイゼン」など恐るるに足らんわっ!!』
『そうは言うがな!!あのひょろくて小さくて速いのをどうにかせんと!!』
『えぇい!!なんだ、この小さいのは!!いい加減に・・・・・っ!!』
『ぐぁ!!今度はごついのか!!』
コックピットから聞こえてくる『巨人』たちの言葉に連人は苦笑した。
「ひょろくて小さくて速いのって・・・・・・・・・・。」
笑いを堪えているはいるがどこが笑えるのか分からない彼女は連人に言った。
『兄さん。どこがツボに入ったのかは私には分かりかねますが。今は戦闘中です。少しは緊張感をですね・・・・・・・・・。』
「あぁ、悪い悪い。けど、ひょろくて小さくて速いのって言うを聞いて我慢しろって、そりゃ難しいぜ、愛。」
『そうでしょうか?』
「そりゃそうだろ。確かに、『雷光』はひょろい脆い壊れやすいの三拍子揃ってる機体だけど、あんなにひょろくて小さくて速いのってのを聞いてればな。そりゃ、誰だって笑いたくなるだろ。思わないか?」
『nein。私は兄さんと同じヒトではありませんので。』
「つれないねぇ・・・・・・・・。そんなこと言ってると、俺、泣いちゃうぜ?」
『ははは、またまたご冗談を。』
「棒読みでそう言うの、やめてくれないか?地味に心にくるから。」
『ja。であれば、善処はしましょう。』
「善処はするってなに!?ねぇ!?善処はって何ですか、愛さん!?」
『青年!!』
ローラー音を周囲に響かせながら、『雷光』は『シュツルム・アイゼン』の隣に並ぶと訊いてきた。
『その、盛り上がってるとこ悪いけど、援護頼めないかな!?今、私一人で相手してるから結構厳しいんだけど!!』
『・・・・・・・・だそうですよ。どうします、兄さん?』
「
『ja。了解です、兄さん。』
足元のペダルを踏むと、『シュツルム・アイゼン』の背中から勢いよくブースターが噴射される。その衝撃をグッと堪える様に身体を強張らせて連人は左右にあるレバーのトリガーを交互に押しながら、前を見ていた。
「・・・・・・・っぐ・・・・・・・・・!!・・・・・・・っ!!・・・・・・このっ・・・・・・・!!」
一体何Gもの力が身体に掛かっているのだろうか。具体的な観測などを体感したことがない連人には全く分からなかったが、一つだけ分かったことがあった。
それは。
こいつは・・・・・・・・っ!!まるで空でも飛んでるみたいだな・・・・・・・っ!!
身体に掛かるGがどれくらいかは全く分からないとしても、まるで飛んでいるかのような錯覚が連人を襲ってくる。だが、連人はその衝撃を苦しいとも自身を締め上げるモノだとは思わずに、心地がいいモノだと感じていた。
『なっ!?速度を上げただとぉ!!?』
『バカなっ!?なぜあんなに早く動ける!?』
『あれでは、中に乗ってるやつ共々死んでしまうぞ!!』
『我らを倒すには中に乗せた人間までを殺すか!!人間を殺して、人間が住まう「世界」を救うか!?』
「そ・・・・・・・・れ・・・・・・・・・・・が・・・・・・・・・っ!」
それがどうしたって言うんだ!!
そう言おうとした連人であったが、口を開いて上手く言うことが出来なかった。
そのことを察したのか、彼女が口を開いた。
『nein。少なくとも、私はそうは思っていませんよ。』
『そうは・・・・・・だとぉ!?だが、現に貴様は・・・・・・・・・っ!!』
『私は彼に身を任せているだけでしかありません。彼を殺そうとはこれっぽちも思ってはいません。』
『減らず口を・・・・・・・・・・っ!!』
『ja。減りませんよ、私の口は。少なくとも、貴方方がこの世界からいなくならない限りは。』
ですので。
『死んでください。』
懇願するように彼女がそう言った途端、宙に舞う六機の『グラム』が四体の『巨人』たちに火を噴いて咆哮した。
連人が操縦して射撃するのとは別の砲撃を続けざまに受けて、四体の『巨人』たちは一体が倒れ、もう一体が倒れて、と四体すべての『巨人』たちが地に伏せると、彼女は自身の身体の操作を連人から奪った。
「・・・・・・・・・・・・・っぐ!!・・・・・・・かはッ!!・・・・・・うぐっ!!」
『大丈夫ですか、兄さん?』
深呼吸してください、と言う彼女の言葉に従って連人は数回深い呼吸を繰り返す。そうしているうちに呼吸が元に戻ると、彼女は連人の体調を訊く様に言った。
『お加減はよろしいですか、兄さん。』
「・・・・・・・・・・・あぁ。・・・・・・・・・悪くはないぜ。・・・・少なくとも、な。」
『ja。ならば、良好だと判断します。』
彼女はそう言うと、地に倒れ二度と動くことがない『巨人』たちを見下ろす様に身体の向きを変えた。
連人は戦いの中で彼女と『巨人』が話していた会話を思い出して、ふと、疑問に思い、彼女に訊いてみた。
「なぁ、一ついいか?」
『ja。なんでしょう、兄さん。』
「お前はこの世界さえ守れれば、それでいいのか?俺とかはどうでもよくて。」
『nein。兄さん、一つ訂正をさせていただきます。この世界には兄さんも含まれてますよ?貴方がいないこの世界など死んでいるのと同じです。私にとっては兄さんもこの世界と同じ価値があります。ですので、死なないでくださいね?』
彼女の言葉を聞くと連人は乾いた笑いをすると、彼女に言った。
「だったら、守ってくれよ?」
『ja。それが我が主たる貴方の願いだと言うのなら。この身が朽ち、私自身が消えようとも、叶えましょう。』
「きついねぇ・・・・・・・・・・。」
連人はそう言いながらも、まだ青空が見える空を見上げた。
その空には雲一つない青空があった。
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