第七話 風は一時止む
第七話 風は一時止む
静かに波打つ音を聞きながら男が浜辺で横になっている。
時刻は昼を過ぎてはいたが、夜にはまだ早いと言えよう。
そのことを示すかのようにまだ陽は出ていて、男の丁度真上辺りまでに昇っている。
その男に向かって一人の少女が歩いていく。
男物の薄い上着に袖を通し、前は閉めずに風が吹くままに任せる様に自由にしているのと同じように長く伸ばされた薄い青色が白という色に交じっている銀色の髪を揺らしながら、少女は男に向かって歩いていく。
風が強すぎるのか彼女は飛ばされぬように髪を抑えるが、男はそんな様子の彼女には全く気が付いていないのか、寝息を立てていた。
その様子を見て少女はクスリと微笑むように笑い、彼を呼ぶように言った。
「兄さん。・・・・・・起きていますか?」
彼女の言葉を聞くと彼はぐっすりと寝ていたのか瞼を擦ると起き上がり、少女の方を向いた。
「どうした、愛?・・・・・・また連中が騒ぎ始めたか?」
「ja。・・・・・・・・と言いたいところですが、現状はそれほどですかね。」
「そんなには、まだ騒いでない・・・・・・・・って言っても、陸自だけじゃ手が余るだろう。『巨人』がいれば余計にな。だろう?」
「ja。そうですね。ここ数日で自衛隊の実力は把握は出来ましたが、全てを倒すとなると、
「だったら、行くとしますか。・・・・・・・・・・・・愛。『シュツルム・アイゼン』の調子は?」
「好調です。絶好調と言えないのが歯がゆいですけど。」
「だったら、了解だ。」
それじゃ。
「一っ飛び、付き合ってもらおうかね。」
身体を起こして彼は立ち上がりながらそう言うと、彼の目の前に現れる様に透明な靄に似たなにかが現れて、風が強く吹くと翼を持った白銀の機体が現れる。
「ja。であれば、お付き合いさせていただきますね、兄さん?」
彼女はそう言うと、ニコリと彼に微笑んだ。
「木原二尉!!『雷光』はまだっ!?」
「はっ!!今現在、こちらに向かっているとの連絡が入りました!!」
「ったく、上は少したるんでるじゃないかしら。この前、『閃光』が壊れて、新人の一等陸士が倒れたばっかってのに応援は寄越してこないわ、『雷光』がやられたらやられたで新しい『雷炎』とかが来ると思いきや『新型?そんなのいちいち送ってたら開発部が参っちまうから「雷光」送るわ。その方が慣れてるだろ?』とか言い出すわ、昨日は昨日で江島がやられたばっかだってのに応援は送ってこない上に『オーバーホール』とか言いやがって、全機回収するわでほんと何考えてるやら、分からないっての。分かる、二尉!?」
「えぇ。一尉が『雷光』じゃなくて『雷炎』希望だったのに他所の、倉庫に眠ってたポンコ・・・・・・・ゲフンゲフン、『雷光』送られて不満が溜まっているのは理解できますよ。そう言いながらでもいいんでこのガラクタどもにいくら撃っても弾かれるのに頭来たっていうその気持ちは分かりますよ、えぇ!!でも、だからって手を休まずに撃ってるってのにこのガラクタが止まろうとしないってのには理解しかねます、一尉!!」
手に持っている小銃を背後から二人を追う様に迫ってきているガラクタに撃ちながら二人は言い争う様に言いながら前を向いて後退していた。
「あの、一尉!!一つ訊いてもよろしいでしょうか!?」
「あぁ!?なに、二尉!?」
「このガラクタっぽいのはどこの開発ですか!?」
「知るか、んなもん!!」
「いや、でも気になるじゃないですか!!こんな鉄屑集めてただけの姿をしてるのに本体は結構丈夫ときてる!!個人的には興味がそそられるんですが、そこんところ、一尉はどう思いますか!?」
「んなもんどうだっていいわ!!アメリカ製だろうが、ロシア製だろうが、中国製だろうが、どうだっていい!!問題は今、こいつらに私らが食われるかどうかってことだけ!!違う!?」
「そこは同意します、一尉!!」
木原が彼女に同意した瞬間に、手に持っていた小銃から弾がないことを知らせる音がカチッ、カチッ、と鳴った。
彼は残弾がなくなったことに遅れながら気が付くと、残りの弾倉がないかを探すために迷彩服に取り付けられているポーチを手で探る。だが、そこには何もないことを示す様に宙を切る感触が感じられるだけだった。
僅かな希望を賭けて木原は山下を見て、彼女に大声で訊いた。
「予備無し!!尽きました!!一尉、予備はありますか!?」
「あぁ!?あるかよ、んなもん!!」
山下がそう言った瞬間に彼女の小銃も木原の小銃と同じくカチッ、カチッ、と残弾がなくなったことを知らせた。
「はい、全部終わり!!なにかある、二尉!?」
「閃光と発煙筒があります!!」
「意味ないでしょうが、んなもん!!」
「ですよね!!」
「ったく、何が『一般市民の身の安全を考慮して手榴弾などの大規模爆発を発生させるものは許可が出来ない』よ!!日本国民の盾は自衛隊だけど、自衛隊も日本人だっての!!調子乗ってるんじゃないっての!!」
「しかし、一尉!!現状の武装では対応できませんよ!?」
「だから、『雷光』なり、『月光』なりの特機がいるんでしょ!?」
「そうですけど、回収の指示出したのは上ですよ!?自分に怒鳴らないでくださいよ!!」
「知るかよ、んなもん!!」
ここまでか。
二人が終わりを覚悟したその時、風が強く舞った。
「なっ!!」
「新手か!!」
二人に近付いてきていたガラクタを薙ぎ払う様にその翼を持った白銀の機体は地面を滑る様にアスファルトを削る様に地を舞った。
「白いの!!助かった!!」
「えっ!!知ってるんですか、一尉!!」
「知ってるの何も最近世話になってるよ?」
「最近?」
その様に木原が彼女に訊いた時だった。その白銀の機体が誰かを地面に降ろす様に、腰を屈めたのだ。それが誰なのかを木原が確認する前に、白銀の機体は屈めた上体を起こすと、両手に持ったライフルを前に向かって発砲した。
その方向を見ると、最近見るようになったどこの国が作ったのか全く分からない大型のモノがこちらを見ていた。
「ヒッ!!」
「今度はデカブツか!!今日は全くついてないね!!」
まぁ、それでも。
「私たちには彼がいるから、まだお天道様には捨てられたわけじゃないか!!」
「そんなに期待されると、お応えできるか不安になりますね。」
そう山下に軽口を言ったのは、一人の男だった。
いや、男ではない。
性別は恐らくは男性だろうが、まだ男というにはさほど年齢をとってはいないだろう。男と一瞬、判断が誤ったのは青年にしてはやけに筋肉が盛り上がり、外見よりも少しだけ年齢を重ねた服装をしていたためだった。
「遅かったね、青年!!」
「これでも、早かった方なんですがね。」
そうは言っても遅れたのは事実ですけど、と言いながら腰から彼はなにかを取り出すと、二人にそれを見せる様に前に出した。
「ちょいと失敬。」
それはサイに似たなにかを象った黒いカードホルダーの様に二人には見えた。
彼がそう言った途端に彼の腰にバックルが抜かれたベルトが突如として現れたが彼はそのことには特には反応した様子はなかった。
そして、二人に背を向けるように、ガラクタどもに対峙するように身体を振り向かせると、バッと右腕を左斜め上に構えると、
「変、身っ!!」
ヒュッと風を切る様にして右後ろに左斜め上に構えた腕を振り抜くと左手に持ったカードホルダーをバックル部分に差し入れた。
その瞬間。
彼の身体が目には見えない透明な何かに覆われて、光りに包まれる。
「うっ!!」
「っ!!」
一瞬眩しくなったことで二人は彼から目を外し、元の場所に視線を戻すとそこには彼はいなかった。
いや。
そうではない。
厳密には彼ではないだれかがそこに立っていた。
その人物は身体を固く分厚い装甲に身を包んでいた。先ほどまで目の前にいた青年とは全く別の姿だったが、山下はその人物が誰であるのかを知っているという様に彼の名を呼んだ。
「やっちゃって、『マスクドガイ・ザ・パワード』!!」
「『マスクドガイ・ザ・パワード』・・・・・・・・・?」
山下が呼んだその単語に木原は首を捻るが、その人物は山下の方を一瞬見て、視線を戻した。
「ご期待に添えられるかは自信はありませんけど、そう言われちゃ男が廃るってものですよね。」
そういうわけだから。
「一っ飛び、付き合ってもらおうか!!」
彼がそう言った時、一つの風が力強く吹いた。
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