4-4
正面にいるガラクタどもに連人は視線を向ける。
目の前いるといっても目の前にいる『ベルセルク』はほんの数体程度しかいないわけで先程の『巨人』が投げていたものから想定するに単にここにはいないだけで他の場所に移っているものであると連人は考えた方が良さそうだと一人思っていた。
それに。
連人の後ろにはボロボロの使い物にならないポンコツと『パワード・アーマー』に対する評価を与えた第一世代機『雷光』があり、その操縦者の自衛官がいる。装備をさっと軽く見た程度ではあるが一人でこのガラクタどもを相手にするのには装備が脆弱なモノであるといえる。
ならば。
今現在、三体の『巨人』たちと交戦している二機の第二世代『月光』と愛が操る『シュツルム・アイゼン』、彼ら彼女らの援護が受けられるまでここを動くわけにはいかないだろう。
後ろに退くこともできなければ、前に向かうことも出来ない。
いや、そうではない。
相手を後ろに向かわせるほどの戦力がない程度に倒しながら、ただ前へと進めばいいだけか。
顔を上げる。
遠くで『シュツルム・アイゼン』が空を舞いながら、『巨人』に向けて両手のライフルで攻撃を加えているが、背中にある六機の『グラム』は一機も『シュツルム・アイゼン』から離れることがなかった。その様子から察するに、機体を動かすことに彼女は集中しているのだろうと彼は思った。他の機体もいるとは言ってもまだ彼女にとっては信頼できる相手とはまだ言えないのだろう。
連人にとっては自衛隊は信頼に足りうる部隊だが、彼女にとってはこちらの世界に来たばかりでまだ馴染んでもいないのだ。その状態で「信頼しろ」と言われても信頼などは出来ないだろう。
ただ、彼女は二機の『月光』に向けて一発も発砲をせずに『巨人』に攻撃を加えている現状から言えば少なくとも敵だとは、彼ら彼女らには認識はされていないのだろうと連人は判断できる。
だったら、話は早い。
「とっとと倒させてもらうぜ。」
愛の負担も軽くしてやりたいからな。
ベルトのカードホルダーから右手でカードを一枚引き抜いて、左腕の一本角が付いているラウザーにカードをセットして、角を上に上げる。
だが。
『Error』
「なにっ?」
カードが読み込めないことを示すだろうと思われる『エラー』という言葉がラウザーから発せられたことに彼は少し驚いた。
エラー・・・・・・・・・って、んなバカなことがあるかよ。
文句を言いたくなるが、数メートル離れたところにいたはずの『ベルセルク』がいつの間にか目の前に迫っていたことに連人は一旦、思考を放棄した。
「クソッたれがっ。」
ガラクタに向けて暴言を吐き捨てながら、彼は拳を握り締めてガラクタの顔面を殴った。
『キシャァァァァァァァァァァ!!』
殴られたガラクタは殴られた衝撃からか、体内にあると思われるバネや歯車といったモノを体内から体外へ撒き散らすように吐きながら後ろへと飛ばされた。
「エラーがなんだ。ここで時間とってる場合じゃねぇ。さっさとこのガラクタどもをぶっ飛ばさないと・・・・・・・愛が、アイツがやれちまう。クソがっ。応えろ。応えやがれっ。お前は俺だろうっ!俺の思いに応えやがれ、『マスクドガイ・ザ・パワード』っ!!」
彼が彼自身の
だが、彼はそんなことなど気にする事でもないかのようにその光には全く反応せずにカードホルダーから一枚のカードを引き抜いて、先程と同じようにラウザーにカードをセットして、角を上に上げた。
『Powerkick Impactbreaker』
「よっしゃ!ぶっ飛ばしてやる!!」
そう言うと彼は左足を半歩後ろに下げ、右足を半歩前へと出す。
「パワァァァァァァァ、キックゥゥゥゥゥァァァァァァァ・・・・・・・ッ!」
気合を込めて連人は膝を折りながら、前のガラクタから視線を外さない様に前を見る。
『キシャァァァァァァァァァァァ!』
態勢を立て直すとガラクタは連人に向けて吠え上げる。
だが、それこそが彼の狙いだった。今は後ろにいる自衛官ではなく、目の前にいる彼を倒すべき敵だと判断している。
だとすれば、外すことなどあるはずがない。
「とぅ!!」
折った膝を勢いよく元の状態に戻しながら、彼は天高くに飛び上がった。高く舞い上がりながらも勢いを殺すことのないように、勢いをより付ける為に数回身体を回す。
「インパクトォォォォォォォォォォ、ブゥゥゥゥゥレイカァァァァァァ!!」
ガラクタ、『ベルセルク』に向ける様に足先が向いた瞬間に渾身の力を振り絞る様に胃の奥から、その言葉を叫んだ。
その瞬間。
背中からなにかが思い切り外へと吐き出される衝撃に連人は襲われる。だが、身体の態勢を崩すわけにはいかない。故に、連人は風やら風圧に押されながらも態勢を崩すということは一切なかった。
そのため。
連人の蹴りは見事に『ベルセルク』の胴体に命中し、ガラクタの上半身を打ち砕く。
「・・・・・・・・・・っと。まずは、一体。鎮圧完了。」
着地した勢いを地面に吸収させようと膝を折り畳み、その場に小さく座り込む。だが、あくまでも、一体を倒したというだけでまだガラクタは他にもいる。休んでいるわけにはいかない。
「ったく、多く出せばいいって話じゃなかろうにってな。・・・・・・ま、出てきたら出てきたで、片っ端からぶっ飛ばせばいいだけだけど。」
パンパンと自分の身体から埃を叩き落しながら彼は立ち上がった。
「青年っ!!大丈夫っ!?」
背後から連人の具合を心配する声が掛けられる。
無事かそうでないかは見ていれば分かるようなものだろうに。
そんなことを思いながら、連人は後ろを振り返る。
「大丈夫ですよ。少なくともあのガラクタよりかは身体は丈夫なんで。」
「丈夫って言ってもね。君は一般人でしょ!?一般人なら・・・・・・っ!」
「後ろの方でガタガタ身体揺らしながら待ってろって言うんですか?そうは言いますけどね、今ここで戦えますか、貴女は?」
「戦えるよ!」
「あのガラクタどもに刺されて終わりだと思いますけどね。とは言っても・・・・・・・・・。」
そう言うと連人は一旦言葉を切って前の方へと視線を向ける。その方向からは続々と『ベルセルク』が列をなして連人たちの方に向かって歩いてくる様子が目に映った。彼はそのガラクタどもに向けて顎をしゃくる。
「一人であのガラクタどもを相手にするのは、流石に骨が折れるでしょ?平らげますよ。それくらいはいいでしょ?」
「平らげるって・・・・・・・死ぬよ、青年?」
「死にはしませんよ。・・・・・・・・・・・・死には、ね。」
そう言うと、ホルダーから一枚のカードを取り出し、ラウザーにセットし先端の角を上に上げる。
『Crash Horn』
ラウザーから発せられるワードがなんであるかを自衛官が考える前に、どこからか大きくて太い一本の角と思われる一つの鎧が現れて連人の右腕に装着される。
「ま、食われる前に食らってやる・・・・・・・・・ってな。」
そう言いながらも、また一枚のカードを腰のカードホルダー・・・・・・・・いや、バックルから抜き取り、左腕のラウザーにセットすると、角を上に上げる。
『Giga Pressure』
ラウザーがそう発するのと、彼の全身がひび割れる様に割れると身体を押し上げる様に彼の身体が宙に浮かぶ。そうした状況でも彼は右腕に装着された一本角を上に向ける様に上向きに向ける。
「ぶち抜くぜ。」
そう、彼が言うと同時に、彼の身体が水平に向けられて右腕の一本角を目の前にいるガラクタの群れに向けるように態勢が変化すると彼を撃ち出す様に、突如として彼の身体は弾かれた。
『ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!』
彼の身体が弾き出され、ガラクタの群れに向かって行くと、ガラクタどもを粉砕しながら、彼は群れの中を止まることなく突き進んでいった。
「青年っ!?」
女性自衛官はガラクタの群れを打ち砕く様に撃ち出される様に向かって行った彼の安否を心配するように声を出した。
だが、彼女の目には彼の安否を確認することは出来なかった。
彼が無事かどうかは一切分からなかったが彼女には一つ分かることがあった。
彼は生きている、と。
そうでなければ、ガラクタどもは悲鳴を上げるような奇声を上げることはないはずだ。
故に、彼女は彼は無事だと思うほかなかった。
いや、思わざるを得なかったと言うべきだろうか。
そんな風に思っていると視界を晴らす様に徐々に彼が撃ち出された衝撃で舞い上がった砂埃が晴れていく。と、そこには。
「青年っ!!」
「ま、死んではいませんよ。・・・・・・・・死んでは、ね。」
そう言いながら、連人は『シュツルム・アイゼン』が飛ぶ空の一点を見ていた。
すると、彼の視線に気が付いたのか彼女は連人の方を向くと、一、二発『巨人』たちに向けてライフルを打ち放って、連人の方へと降りてくる。
『兄さんっ。少しお手をお借りしてもよろしいでしょうか?』
「あぁ、いいぜ。今ちょうど、手が空いて暇になったところだ。」
『ja。それでは、お頼み申し上げます、兄さん。』
彼女は彼を乗せる様に片手を差し出すと彼は彼女の手の上にひょいと言った具合に軽く身体を乗せる。
「青年っ!?その機体は・・・・・・・っ。君たちは一体何者なの・・・・・・・・っ!?」
彼女の疑問に答える様に、連人は彼女の方を見た。
「俺たちは日本人ですよ。・・・・・・・・・・・・・少なくてもね。」
「だったら・・・・・・・・っ!!」
「と言っても、高みの見物で見てるだけってのもまずいでしょ。ちょいと手を貸しますよ。」
俺じゃなくて、愛だけどな。
彼は彼女の手をたたんと軽くタップする。
「いいぜ、愛。」
『ja。分かりました、兄さん。・・・・・・・・・・ですが。』
「俺たちがのんびりしてたら自衛隊とは言っても難しいだろ?さっさと倒してパパッとずらかろうぜ。」
『ja。了解です、兄さん。』
そう言うと、彼女は彼を胴体にあるコックピットに導いて、彼を自身の身体の中に入れると、バッと顔を上げて、先程と同じく宙を舞う様にして飛び上がった。
「少なくても、日本人、か。だったら、彼らを援護しないとね。」
それが日本を守るために組織された自衛隊ならば。
そう、彼女はギュッと拳を握り締めると、耳元に当ててあるイヤホンに片手を当てて、こう言った。
「全機、そちらに向かった機体を援護せよ!機体名は不明であるが、日本国民が搭乗している。その機体に向けての攻撃は日本国民に対する攻撃と同意義である。よって、全機、援護せよ!繰り返す!機体に向けての発砲は禁ずる!これは隊長命令である!」
『おいおい、正気かよ。』
『聞こえるぞ、木原。』
『って言ってもよ、お前はどう思うよ?』
『奇妙な命令聞けるわけない・・・・ってお前の意見には同意するけど、あの山下一尉だぞ。』
『そうすると、日本人が乗ってるってのも・・・・・・・。』
『嘘・・・・・・・・じゃねぇってわけだ。ま、一見は百聞に如かずってな。』
呑気に何言ってるんだ、この二人は。
そう思いながら、『シュツルム・アイゼン』のコックピットにいる連人は右と左のレバーを握って、前にいる『月光』二機ではなく、三体の『巨人』を見ていた。
『あ~あ~。その白い機体、聞こえますか?聞こえたら片腕を上に上げて下さい。こちらは陸上自衛隊特式機甲連隊所属・・・・・・・・。』
『どうします、兄さん?』
「言われた通りにすりゃ、撃たれることはないと思うぜ、自衛隊だし。」
『その心は?』
「最初の一歩は人を信じることから、でどうだ?」
『ja。成る程。』
そう、彼女は言うと自衛隊機に言われた通りに片腕を上げた。
『日本語が分かるんだな?分かるんだな!?』
『おいおい、ってことは・・・・・・・・・。』
『やっぱり一尉は嘘ついてなかったってことだ!!・・・・・・・まだ戦えるかっ!?』
その疑問に彼女は両手に持ったライフルの片方をその場で器用に回した。
『頼もしいなっ!!・・・・・・・了解だ、江島二尉!!』
『分かってるって、木原二尉!・・・・・・掩護する!!背中は預かったぜ!!』
「任せます!」
そう言うと、両足のペダルを器用に踏んで機体の操作を行いながら連人は『巨人』に目標を定めてライフルを打ち放った。
その動きに合わせる様に、『シュツルム・アイゼン』の背中にある六機のうち三機の『グラム』が背を離れて『巨人』に肉薄する。
『ゲルグガ・・・・・・ッ!』
『キッグセルガ!?・・・・・・・・ヂグゼウ!!』
『ギンニンゲルギグ・・・・・・・・ッ!』
肉薄した『グラム』が三体の『巨人』に向けて砲撃を行い、その砲撃を受けて『巨人』たちは次々と声を上げる。だが、連人には彼らが何と言っているのかさっぱり理解が出来なかった。
「あいつら、何言ってるんだ?・・・・・・分かるか、愛?」
『理解は出来ますが・・・・・・・・・御聞きになりますか、兄さん?あまり聞けたものではありませんが・・・・・・・・。』
「お前がそう言うってなら、結構ひでぇんだな・・・・・・・・。」
『ja。・・・・・・・・同時翻訳程度は負担にはなりませんので訳しましょうか?』
翻訳程度は負担にはならないという彼女の言葉を聞いて少し彼女の誘惑にのってみようと連人は思った。
「分かった。だったら、頼もうか。」
『ja。それでは。』
そう彼女が言うと、一瞬だけ機体の動きが止まるがすぐに再起動を果たす。
すると。
『くそっ!どうなってやがる!なぜ、連中は「アイゼン」を攻撃しようとしない!?』
『それどころか、ヤツを援護してないか!?ちぃっ!!自称「人間」の護り手風情が!!』
『「アイゼン」も我らと同じ勢力のはずだろうに!なぜだ、なぜ攻撃する!?答えろ、「アイゼン」!!』
その『巨人』の疑問に彼女は何も答えずに、ライフルを向けて撃ち放つことで応えた。(実際には連人の操作に応えただけだったが)
『ちぃっ!!撃って来るか!!』
『それだけあ奴は本気ということだろうよっ!』
『なぜだ、なぜ接したことのないこの世界を守ろうとするのか!?』
『巨人』たち、彼らの言葉を聞いて連人は少し疑問に思った。
そう言えば、なんで関わりもないこの世界を彼女は護りたいと思ったのだろうか。
以前、彼女は言っていた。
『彼らは世界を破壊します。故に、私がここにいます。』
その言葉の真意を確かめようと思ったことはあったがそのことを訊くことは後にして彼女から聞き出すことはなかった。
「愛。訊いていいか?」
『ja。なんでしょうか?』
「お前はなんで関わりがないこの世界を護ろうと思ったんだ?なんで、お前は俺に力を持たせたんだ?お前は・・・・・・どっちなんだ?」
戦闘中にも関わらずに連人は彼女にそんなことを訊いていた。
戦闘中である今でなくとも質問する機会などいくらでもあるだろうに、と言われればそれで終わるだけの話ではあったが、連人は彼女に訊かなければならかった。知らなければならかった。
『・・・・・・・・・・・・・。』
いつもならば、すぐに返事をする彼女であったが、ほんの数呼吸分間隔を開ける。
直後に『グラム』がその動きに合わせる様に、『巨人』たちに向けて砲撃を行った。
「・・・・・・・・愛?」
『兄さん。その問いにお答えします。・・・・・・・・・・・・まず一つ。私は確かにこの世界とは一切関わりがありません。どちらかと言えば、向こうに就いていると思われても仕方ないのかもしれません。ですが、彼らは私にとっての大切なモノを奪いました。そのため、彼らとは違います。』
二つ目。
『なぜ兄さんに『マスクドガイ・ザ・パワード』という力を持たせのか、ですが。兄さんは私に、愛という名を、存在を与えてくれました。名もなき、「シュツルム・アイゼン」の制御用AIではなく、です。そのお礼がしたかったのです。』
三つ目。
『私は、彼らの仲間ではなく、敵です。手を取り合うほどの仲でもありませんし、互いに互いを熟知する仲でもありませんからね。ですので、私はこちらにいます。・・・・・・・・・これでよろしいでしょうか、兄さん?』
彼女の言葉を聞いて彼はゆっくりと彼女の言葉を自分の中で理解できるように分解して吸収していった。
「・・・・・・・・・・・・・・・あぁ。なんとなくわかった。今はこれ以上聞かないよ。・・・・・・・今はな。」
『ja。兄さんのお言葉に私はいつでもお応えします。ですので、疑問に思った時はいつでもお聞きしてください。全力を持ってそのご質問にお応えしましょう。』
故に。
『貴方方はいなくてもよろしいと判断します。兄さんの御耳を汚し、兄さんに迷いを持たせた。その罪は万死に値します。・・・・・・消えなさい。』
彼女がそう言った直後に『シュツルム・アイゼン』の背中に残っていた残りの三機と空中に待機していた三機、計六機の『グラム』の砲撃が三体の『巨人』の身体に続けざまに突き刺さる。
悲鳴や叫び声などは決して連人の耳には聞こえてこない程の分厚い砲撃音が鳴り響いたのは言うまでもないだろう。
『終わりましたよ、兄さん?』
如何します?といつもの様に気楽に彼に訊いてくる彼女の言葉に連人は少し、彼女に対する考えを改めた方が良さそうだな、と思わざるを得なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます