第五章 旋風が群れへと突き刺さる

第五話 旋風が群れへと突き刺さる 5-1

 陸上自衛隊との共闘から一夜明けた。

 連人と愛の二人は拘束も尋問もされることなく(厳密にはなにか言われる前に去っただけなのだがそこは割愛させていただく)、無事に部屋に戻ることが出来た。

 出来たのだが・・・・・・・・・。

「・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・。」

 お互いに言いたいことがあるのだが、どう切り出したものかとお互いに思いを思いやった結果、お互いに何も言えずにただ時間のみが過ぎていくという気まずい雰囲気が部屋中に広がっていた。

 カチッ、カチッ、カチッ。

 止まることのない置き時計の時を刻む音だけが二人の耳に聞こえる。

 すると、何を思ったのか連人はチラリと置き時計が示す今現在の時刻を横目で確認した。

 7時10分。

 7と表記されているところに長針があり、短針は2のところで止まっているから間違いはない・・・・・・・・だろうと連人は思った。

 今日の授業の開始時間と登校に掛かる時間を逆算すると、時間的にはそろそろ準備をしないと少し不味いといった時刻だ。

「あ~・・・・・・・・・。愛。」

「ja。・・・・・・なんでしょうか、。」

「朝食はトーストでいいか?」

「ja。・・・・・・・・言っておいてあれですが、、良いも悪いも時間的に厳しいのでは?」

「ま、米にするにも米を研いで炊かないといけないしな。レンジで温めるやるやつもあるにはあるけど、そっちは、とってある非常用だからな。・・・・・・・分かった。」

 そう言いながら、彼はおもむろに立ち上がった。

「一枚でいいか?」

「ja。問題ありません。」

「了解だ。・・・・・・・・・・コーヒーは?」

「nein。結構です。」

「別に遠慮せんでも構わないんだぜ?たかが一杯だしな。」

「ですが、。たかがとは言えども、その一杯でがお飲みになる量が減るんですよ?たかが一杯ですが、されど一杯です。」

「けどよ。何も飲まずにトースト食べるってのはどうなのよ?」

「よく噛んで細かく分解すれば飲み物がなくても十分です。たしかに唾液はパンに吸収されてしまいますが、吸収される量よりも多くの唾液を出せば事足ります。」

「・・・・・・・・・えっ、何その理論。俺、初耳だぞ。」

 彼は愛が、彼女が話す理論を聴きながら、彼女の分のパンと自分の分のパン、計二枚をトースターの中に入れて軽くメモリを『1』と書いてあるところまで回すと、手を放した。

 すると、トースターが中に入れられたパンをトーストに変えるべく加熱部分が赤く光り、熱を加え始める。

 そんな様子をしているトースターには目をくれないで、連人は食器棚から二枚の皿と自分の湯飲みを取り出すと、湯飲みの中にスプーン一杯分をイアンスタントコーヒーの容器から掬って湯飲みの中に投下した。もちろん二枚の皿は一旦台所に置いて、だ。

 スプーン一杯分のインスタントコーヒーが入った湯飲みを持って電気ポッドのところまで移動をして、電気ポッドの注ぎ口に湯飲みをセットしてポッドの『お湯』と書かれたボタンを押した。そうすると、注ぎ口から熱いお湯が流れ出るのと同時に、インスタントコーヒーが溶けていき、湯飲みの中はコーヒーの黒に近い濃い茶一色となった。普通の人間ならば、そのままのブラックでも飲めるのだが、連人は丁度いい適量まで湯を入れると、『お湯』と書かれたボタンから手を放して、立ち上がり、冷蔵庫まで歩いていくと冷蔵の扉を開けて牛乳を手に取ると、蓋を開けてコーヒーが入った湯飲みの中に牛乳を入れた。

 それで終わりかと思ったら、牛乳の蓋を閉めて、牛乳を中に入れて冷蔵庫を閉めると、今度は台所まで歩いていき、窓側に置いてある細かな白い粒子状の物体が入っている二つの容器のうち、『さとう』と書かれた容器を手に取ると、蓋を開けて軽くスプーン一杯分の量を湯飲みに投下した。そして、彼は今度こそ終わりだと言う様に容器を元に戻す。

 すると、戻したところで丁度良かったのかトースターが焼き上がったことを知らせる『チーン』という軽い音が鳴った。

 彼はその音を聞くと、二枚の皿にそれぞれ一枚ずつの焼き上がったトーストを置いて器用に皿を持つと、コーヒーが中に入った湯飲みと一緒に手に持って、リビングまで歩いていき、広いリビングを占拠する形で置かれている炬燵のテーブルの上に置いて、炬燵の中に足を入れる形で座った。

「はいよ、出来上がり。それじゃ、食べるとしますかね。」

「ja。はい、。・・・・・・・・・一つ、御聞きしてもよろしいでしょうか?」

「どうした、愛。」

「いえ、その、世の中にはコーヒーはブラック派といった人たちがいるわけですが、は、その・・・・・・・。」

「あぁ、これか?」

 彼女が何を言いたいのか、連人は察するとコーヒーが中に入った湯飲みを手に取り彼女に見せた。

「悪いな。俺、甘党派なんだ。苦いのはどうも好きになれなくてな。気分を害したなら謝るよ。・・・・・・・やめないけど。」

「nein。そういうことが言いたかったわけではありませんので悪しからず、。」

「だったら、何が言いたかったんだ?」

「ja。が甘党だということは分かりました。であれば、別にコーヒーでなくともよろしいのでは?」

「あぁ、それは無理。」

「理由をお聞きしても?」

 彼の言葉に彼女はそうでなくてはならないという彼の理由を訊いてきた。

 その彼女の言葉を聞くと彼は頷いてこう答えた。

「コーヒーだからこそやってるし、コーヒーじゃなかったらこうはしない。というより、こういう風にした方が飲みやすいんだ。・・・・・・・これじゃダメか?」

「nein。ダメというわけではありません。同時に理解も出来ました。その一杯はが生みだした趣向の、いえ、至高の一杯なのですね。感服しました。」

「いや、そういうわけじゃないんだが・・・・・・・・・・・・。」

 彼がそうしてコーヒーを飲んでいるのはただ単にコーヒーはこうして飲みたいんだという趣向があってだからこそ出来たものなのだが、彼女はそのことを痛く感銘を受けたようだった。

 どうしたものかな、と連人はただ一人心の中で呟いたのだった。

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