3-4
秋津原から十津沼田に戻って来た連人と愛の二人。
陽がもう暮れかけているために今夜の夕飯をどうしようかということで駅前にある巨大なショッピングモールで買い物をするためにぶらりと散策をしていた。
「今夜、どうするかねぇ・・・・・・・。愛、なんか希望はあるか?」
「nein。私からは特にはありません、マスター。」
「・・・・・・・・・・・そうかい。」
「・・・・・・・・・?なんでしょうか、マスター?」
「いや、なんでもないさ。・・・・・・・・・そう、なんでも、な。」
秋津原のテレビジョン会館での一件以来、愛は連人のことを前に言い替えるように言う前に連人のことをマスターと呼んでいることに対して、彼は彼女に訂正するように言おうか言いまいかを悩んでいた。
言ったとしても、今の愛の状態を考えれば、修正をしたところで気が付かぬうちに言ってしまうのではないかと連人は感じていた。
であれば、修正をしない方が良いとは思うが、自衛隊所属の運搬車両が昨日と同じく停車していないとも限らない。自衛隊に所属しているのは、多くの人間は日本人であり、今は日本人の大半が連人と同じく一般人ではないオタクと呼ばれる偏った知識が豊富な人種であると言えるために、通学中に愛が連人のことをマスターと呼んだ場合に、すぐに悟ってしまう可能性もなくはないと言えなくもなかった。そのために呼び名を変える様に彼女には言ったのだが、現状を鑑みるに修正を促しても意味はないとは言い難いという考えが連人の脳内にはあった。
しかし、今現在、連人には愛なしで『シュツルム・アイゼン』を呼ぼうにも方法は分からない。『マスクドガイ・ザ・パワード』には変身できるとは言えども自身よりも大きい『巨人』相手では連人一人だけでは戦うことはできないと言えた。
だとするなら、愛が近くにいなければ『シュツルム・アイゼン』を呼び出して『巨人』を倒すことはできないと彼は考える。
すると、何かしらの連絡手段が必要となるのだが・・・・・・・・・、とそこまで考えて連人は秋津原での愛とのやり取りを思い出す。
あの時に彼女は何を連人に見せて、なんと言っていたか。
彼は確認の為に彼女に訊いてみることにした。
「なぁ、愛。一つ訊いていいか?」
「ja。なんでしょうか、マスター?」
「お前が持ってた端末に俺がメールを打ってお前に送ることって可能か?」
「ja。可能です、マスター。」
「それじゃ、もう一つ訊くけどな。お前から俺にメールを送って俺がそのメールを確認することも可能か?」
「ja。・・・・・・・・それが如何しましたか、マスター?」
「いや、大したことじゃないんだが・・・・・・・・。この前の時、言ってたけど、『巨人』一体の相手はお前一人でも出来るんだよな?」
「ja。一体だけならば、ですが。」
「それはあの背中にあるあの・・・・・・・・。」
「『グラム』のことでしょうか?」
「そうそう、それそれ。『グラム』が使えるからか?」
「ja。ですが、二体以上になると、機体制御に計算システムを使わなければなりませんので難しいですね。」
「となると、だ。二体以上であれば、お前一人だけだときついんだな?」
「ja。お恥ずかしながら。」
「別に恥ずかしくはないだろうが。・・・・・・・・まぁいい。了解した。」
ふむ、と連人は彼女と話して何が重要であるのかを脳内で簡単に纏める。
この前は『巨人』が一体だけだったらしいので彼女一人だけでも相手をすることが出来たと言っても、この前はこの前でたまたまの偶然が起きただけでしかなく、次が一体だけという保証はどこにもない。
そういう意味合いでは、この前出てきたのが張りぼてのガラクタであるだけで、次がどうなるのかも分からないし、どうせガラクタが相手だからと連人も油断はできない。
『マスクドガイ・ザ・パワード』という力の必要性を教えるきっかけになったあの二人が連人の目の前に出てこないという保証は決して出来ない。であるならば、愛との別行動はあまりするべきではないと連人には思えてならない。
いや、むしろ逆に考えるべきなのかもしれない。
別行動はする必要はあるのかもしれないが、戦わなくてもいいということではない。
彼女と共に戦うために時間を稼いでもらう、それだけだ。
「一応、訊くんだが。愛、『巨人』が二体以上いたとして、だ。時間は稼げるか?」
「どうでしょうか。相手の強さにもよりますので、回答は難しいですね。」
「多少稼ぐってのも厳しいか?」
「相手によりますので。ですが、多少は持たせましょう。
「ハハハ、命令はしないさ。指示はすると思うけど。」
「であれば、そのご指示にお応えできるように致しましょう。」
「・・・・・・・・・・やれるのか?」
「出来る限りは。」
「無茶はするなよ?」
「無理は?」
「多少程度なら。だけど、難しいと思ったらするなよ?」
「ja。・・・・・・・・指示ですか?」
「まさか。命令だ。」
「ja。であれば、我が主の御命令であれば、従いましょう。」
そう言いながら、自身の胸に手を置いて愛ははぁ、とため息をする様に息を吐いた。
その様子を見て連人は少し不安に思った。
思ってしまった。
だがしかし、彼女は目を開けると彼の目を見て、おかしいものでも見たかのようにフフッと軽く微笑んで見せた。
「大丈夫ですか、マスター?」
「俺は大丈夫だ。・・・・・・・・・・お前は大丈夫か?」
「ja。私はいつでも万全です。貴方の御命令をいつでも行えるようにしておりますので。」
「・・・・・・・それはなによりだ。」
「お褒めに頂き恐悦至極。感謝の極みにございます。」
褒めてねぇよ。皮肉だよ。
彼は声に出さずに、彼女と二人でモールでの買い物の時間を過ごした・・・・・。
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