9-4

 風が吹き荒れる。

 ただただ吹くわけでもなく、

 自然に起きたモノではなかった。

 自然にいたモノではない、

 となれば、どういうことか。

 それに、


 


 それは、

「ちぃ!!!撃ち過ぎたっての!!!どんだけに当てたいんだよ!!」

 連続して放たれる重音から逃れる様に、

 一機の機体、

 自衛隊が誇る『特式機甲連隊』所属、

 その第一世代である『雷光』が戦場と成り果てた一般道を駆ける。

『雷光』が駆け抜ける度に、

 数秒の遅れで道に穴が穿たれる。

 その穴を見ながら、

『雷光』の操縦者パイロット

 山下香一等陸尉は怒声を上げる。

「クソがっ!!ふざけてんじゃないっての!!道を整備するのに一体どれだけ予算が掛かると思ってるのよ!!ただでさえ税金が高い、高いとか言われて、最新の第三世代機、『閃炎』を回してもらえないってのに!!!」

『あの、一尉。非常に言い難いんですが、怒るところ、じゃないです。』

 同じ部隊員からの通信が聞こえ、

 そちらへ目を向ける。

『雷光』とは打って変わって重武装、

 いや、

 機体が見える。

 その機体名は、

 第二世代機、

『月光』である。

 通信に怒声を返す。

「あぁ!?なに、江島二尉!?あんたミンチになりたいって言った!?」

『・・・・・・・・いえ、一尉。誰もそんなこと言ってないです。』

 と冷静に返事の声が聞こえるタイミングで、

『月光』が構えていた分厚い盾に砲弾が着弾する。

 衝撃を受けて、

 一、二歩後ろに下がった姿を見て、

「木原ぁぁぁぁぁぁ!!どこ行ったんだ、お前!!?江島、一人で耐えられるわけ、」

 直後に、

 一歩向こうで砲弾が道を穿つ。

 着弾するより数舜前に脳裏によぎった予感で機体に停止を掛けた山下の身体に、

 今まで前に動いていたのを止めた反動が襲う。

 その反動を受けて、

 視界が暗くなるが、

 山下は下に向かう頭を上げ、

「ねぇぇぇぇぇぇだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 勢いに任せて身体を元の位置に戻し、

 再び機体を駆ける様に動かす。

 その光景を見て、

『化け物かよ・・・・・・。』

 離れた場所から見ていた江島が呟く声が聞こえた。

『G』というモノがある。

 それは重力と呼ぶ場合もあれば、

 運動ベクトルとも呼ぶときもある。

 これは物理学ではほぼ共通していて、

 常に下に向かって働いているでもある。

 常に下に掛かるということは、前に動く場合でも掛かっている力だ。

 前に動いて止まる時に人は下に力を掛ける。

 前とは反対向き、

 つまり後ろに力を掛ける場合もあるだろうが、

 下に向けた方が早い。

 重力は地球がモノを引く力なのだ。

 であれば、下向きに力を掛けた方が手っ取り早く済む、

 済んでしまうのだ。

 だが、そうした場合には、

 他の力が作用する。

 モノが前に進むということは、

 ほんの僅かにだが後ろにも進むということでもある。

 その場合、

 後ろに進むよりも前に進む力が強いから進むだけでしかない。

 つまりは、

 前方のみに力が掛かっていると思っていても、

 常にその向きとは逆方向に力が掛かっていることと同意義であるのだ。

 そして、

 その力を止めて、停まるということは、

 前に向く力と後ろに向く力、

 その両方の力を受け止めることになる。

 ということはつまり、

 山下は今の一瞬で前に掛けていた力と後ろに掛かる力、

 その両方の力を受けていたはずであり、

 しかし、それでも機体をは、

 機体の耐久性云々の話ではない。

 ただ、単に、

 ヒトを超えつつある化け物、

『人でなし』であると言えるだろう。

 いくらそれが、

 と呼ばれた機体、

『雷光』にからとは言えども。

 故に、

 江島は恐怖した。

 目の前にいる上官に、

 ではなく、

 ヒトを超えつつある『人でなし』というものに。

 そんなことを呆然と考えていると、

「くっ!!」

『月光』が構える盾に再び衝撃が襲った。

 目の前にいる

 その数は五つ。

 それに対するは、自身の搭乗機『月光』と、

 戦場を風の様に駆け抜ける上官、

 彼女が乗る『雷光』、

 そして、この戦場にいるはずの同僚が乗る『月光』、

 その三機だけだ。

『江島ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!状況!!!』

 戦場をその文字通りに駆け抜ける上官の声に、

 江島は反応する。

「ハッ!!、未だ変わらず発砲!!一尉、交戦規定の破棄を具申します!!」

『バカ言うな、江島!!連中は何処の連中なのかが分からないんだ!!』

 それに、

『規定を破棄して交戦してみろ!!マスコミから苦情が来るぞ!!』

「し、しかし!!」

 しかし、という自身の言葉に上官の言葉が続く。

 だが、と。

?』

 えっ?と疑問の声を発する前に、

 上官の機体、

『雷光』がその言葉通りではなく、

 真っ直ぐ、五機に銃口を向けて、

 躊躇することなく発砲した。

 その光景を見て、

 ・・・・・・・うわぁ~・・・・・・・。

 江島は少し、

 いや、

 かなり引いた。

 その江島の気持ちを悟ったのか、

『江島。』

 少し落ち着いた声で上官が声を掛けてくる。

『いい、江島?』

 続く。

『言葉ってのはそのままのと、で出来るのがあるの。覚えておきなさい。』

 と言いながら機体を動かしに発砲する上官の『雷光』を見て、

 ・・・・・・・でも、それって解釈次第で解雇処分にされますよね・・・・・?

 口では語らずに前を見る江島の視界に、

 新たな機影が映る。

 新手か!?と驚いた江島だったが、

 すぐに落ち着く。

 最近になって見掛けることが多くなり攻撃を仕掛けてくると同時期に見掛けることが多くなった、

 だ。

 その機体の名前は不明である。

 羽根を生やした白が特徴的の機体、

 その特徴を見れば誰もがこう呼ぶだろう。


 使、と。


 だが、と江島は思う。

 天使と呼ばれる存在には二つある、と。

 一つは人の魂を天に導くモノ、

 もう一つは

『神』の下僕、

 人が済む下界を焼き尽くす『神』の使いだ。

 そう考えると、

 目の前にいる『天使』は後者の印象が強い。

 そう思うのと同じく、

 ただ、と江島は思う。

 それは、

 この『天使』は人の味方であり、

『神』の使いではないということだ。

 手に握る二丁の銃口を五機に向け、

 発砲した。

『天使』の攻撃に、

 も反撃する。

 数は五対三とはなったが、

 不利なことに変わりはない。

 ・・・・・・・・それに、

 と江島は思う。

 ・・・・・・・・木原の野郎が何処にいるのか、それが分からねぇ。

 姿を消した同僚のことを江島は思う。

 せめて、もう一人いれば五対四となり、

 数は一つしか変わらなくなるのだが・・・・・・・・・。

 そうなれば、一機を

 四対四となって、

 丁度いいモノになる。

 だが、

 だが、と江島は考える。

 ・・・・・・・・交戦規定を一尉は破棄してない。となると、うちの隊で戦えるのは一尉だけ、ってことだ。もし、俺も一尉の言った通りにで射撃すればただじゃ済まされない。

 そこが面倒だな、と江島は結論付ける。

 そうだ、

 日本という国は憲法九条という厄介ながあるのだ。

 それは、


 


 というものだ。

 これを破ってしまえば国際社会から日本は孤立してしまう。

 下手すれば、第二次世界大戦以前、

 いや、悪ければ縄文時代にかもしれない。

 そのを解く方法はただ一つ。

 それは、


 というものだ。


 その条件をそのまま飲むのであれば、今の状況は反撃してもよいことになる。

 そうなるのだが、ここが非常に厄介なところで、

 下手に攻撃をすれば、

 憲法九条違反を自衛隊は平気で行う野蛮な連中だ、

 軍隊を持たないはずの日本が軍隊を持ったなどと、

 報道ネタの粗探しに定番の厄介な連中に何を言われるか溜ったモノではない。

 であれば、と江島は結論付ける。

 それは、

 ・・・・・・・・一発も攻撃することなく、この場をしのぎ切る!!

 というモノだ。

 今の現状を見れば、

 は無茶を通すことと同意義である。

 だが、と、

 江島は乾いた唇を舐めながら、

 ニヤリと笑う。

 ・・・・・・・・無茶や無理ってのはためにあるんだ。

 ああ、そうだとも。

 ・・・・・・・・意地があるんだ、

 何故なら、

 ・・・・・・・・男の子なんだからな。

 誰がどう聞いても、

「いや、その理屈はおかしい。」、と、

 そう言えるモノだったが、

 江島は気にはしない。

 気にすることもない。

 何故ならば、

 自身の愛機、『月光』の横を通り抜ける様にして、

 進む姿があったからだ。

 その姿に見覚えがある。

 そのことに江島は気が付くと、

 その背に声を向けた。

「青年っ!!」

 名を知らない青年は、

 江島の呼び声にチラリと視線を送り、

『ちょうどよかった。ちょいと。』

 と言いながら、

『サイ』に似た『カードホルダー』を江島に見せる。

 その動作に江島は声を向けない。

 いや、

 向けることが出来なかった。

 何故なら、


 言葉を向けるよりも前にベルトが現れて、彼の腰に巻き付いたからだった。


 そのベルトのバックル部分には

 いや、

 ないわけではない。

 何故ならば、

 そのベルトのバックルは既に、


 青年の手の中にあるのだから。


 青年は左手で持った『カードホルダー』を後ろに、

 右手を前に突き出し構える。

 そうする必要はあるのか?という疑問の声に応える様に、

 青年は声に出す。


『変身っ!!』


 変身、

 身体を変えると言葉の如く、

 青年の身体が覆われていく。

 無色透明だったものが色を作り、

 分厚い金属へと形を変え、

 銀色の鋼の身体へと変えていく。

 そして、

 全てが覆いつくされたその場には、

 先程までいた青年の姿はそこにはなく、

 

 その名は、

仮面マスクドガイ、』

 ああ、


仮面マスクドガイ、ザ・パワード!!!ここに、見参!!』


 と決め台詞らしきものを言いながら格好をつける彼に対し、

 砲弾が着弾した。





『なっ!?』

 爆炎に覆われるこちらに驚いた様子の声が聞こえる。

 ・・・・・・・ま、普通はそうだよな。

 連人は心の中で苦笑をしながら、

 右腕を前に出し、

 身体を覆う爆炎を払う様に、

 乱暴に腕を払った。

 砲弾が着弾すれば、耐えられるはずはない。

 そう、


 


 声が聞こえる。

『せ、青年っ!!無事なのかっ!!?』

 向けられる声はこちらを気遣う様に感じられる。

 だが、連人としては、

 ・・・・・・・無事なのか、ってそりゃ見たら分かると思いますがねぇ。

 どう答えたものかと考えながら、

 拳に親指を立てて見せながら、言葉を返した。

「ご心配いらないですよ、この通りピンピンですから。」

『だ、だが、直撃だろ!?それで無事に済むはずが、』

 ないだろう、と続くと思われた言葉は、

 再び連人に砲弾が直撃したことで遮られる。

『せ、青年ー!!!』

 こちらを気遣う声が聞こえることに、

 連人は申し訳なく思う。

 ・・・・・・・いや、さっきのを見てたら無事だと思うんだけどなぁ。

 どうしたものか、と思いながらバックルに挿し込まれた『カードホルダー』から一枚のカードを引き抜く。

 爆発で巻き起こった煙で何のカードかを確認することが出来ぬまま、

 左肩にあるスリットに向けてカードを投げる。

『Powerkick Impactbreaker』

 カードを読み込んでそう言ったのを連人は、

「よっしゃ、ラッキー!!」

 小さくガッツポーズを決めて、

 右腕と左腕、

 それぞれを大きく開き、腕だけを

 その間、連人は静かに大きく息を吸い込んで、

 静かに小さく息を吐きながら身体を静める。

 身体をある程度沈めたところでもう一度だけ息を吸って、

「ハッ!!」

 掛け声を出すと共に大きく大地を蹴り、

 身体を宙に

『なっ!?』

 大きく空に跳び上がったことに後ろから驚いた様子の声が聞こえる。

 だが、

 今の連人には反応している暇はなかった。

 上昇して限界点に到達すると、

 重力に引かれてただ落ちることに抗う様にして、

 連人は身体を宙で回す。

 その一回転、一回転は自然の法則に抗う様に周りからは見えたことだろう。

 そう見える一方で、

 連人は回りながら丁度良さそうな標的を探していた。

 ・・・・・・・アレは遠すぎ、コレは近すぎ、ソレは遠いんだか近いんだか位置が微妙、ああ、くそ。どれ狙えばいいんだよっ。

 下に見える五つの目標。

 それらの立ち位置は非常に分かりずらく狙いにくいものだった。

 だからだろうか、

 その連人の気持ちを察したのか、

 一体の『巨人』に向けて『アイゼン』が攻撃を加える。

 その攻撃を見て連人は咄嗟に考える。

 そして、それに狙いを定めて、

 自然の力、重力に身体を引かれる様に、落としながら両足を乱暴に動かす。

 それは乱暴に、

 乱雑に動かしている様に見えて、

 きちんとしたモノになっていた。

「パワーキックゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥァァァァァァァァァ・・・・・っ!!!」

 連人の声が続く。

「インパクトォォォォォォォォォォォォ・・・・・・・・・っ!!!」

 息を吸う音が聞こえ、

 その声に気が付いた『巨人』が顔を上げて連人に銃口を向ける。

 だが、

 ・・・・・・・・おせぇなぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・っ。

 動作が遅すぎると思いながら、続けて言う。

「ブゥゥゥゥゥゥゥレイカァァァァァァァァァァ・・・・・・・っ!!!」

 そう言った声と共に連人の足が『巨人』の身体に触れる。

 一つでは終わらない。

 一回、二回、三回。

 四回、五回、六回。

 止まることなく蹴りを続ける両足に、

『巨人』の身体は耐えることが出来ずに、

 身体を後方に向けて

 直後、

 大きな爆音と共に『巨人』の身体は爆散した。

 連人は着地して身体を起こし、両手を払いながら爆散した『巨人』がいた方に身体を向け、

「ハッ、これにてってな。」

『いやいや、何言ってるのさ!!まだ残ってるんですけど!?』

 まだ残っていると言う『雷光』に視線を向け、

 両手を上げながら肩を竦める。

 何故なら、

「流石にあと四体は厳しいですよって。」

 一体が倒せるのなら、あと四体は楽勝だろう。

 そう言ってる気がしてそう言ったのだが、

 取り付く島はない様子で再び『雷光』が駆け出す。

 その一方で、翼を持つ機体、

『アイゼン』が地を滑りながら連人の近くに身体を止めた。

 そして、連人を見る様にして顔を向ける。

 その視線から、連人が良く知る少女の声が聞こえた。


?』


 そんな風に訊いているに対し、

 連人は誘いを断る様に手を振りながら、

「いや、もうちとやってみるわ。」

 と言って、もう一枚カードを引き抜く。

 連人からそんな拒否の言葉が来るとは思わなかったは数秒の間、

 彼の方を見たまま動こうとはしなかった。

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