疾風鋼鉄シュツルム・アイゼン
田中井康夫
第一章 異界の風は海原に吹いた
プロローグ
波音が聞こえる。
静かな波音が聞こえる風も吹かない穏やかな気候となっている浜辺に一人の男が砂浜に横になっていた。
いや。
男というよりかはどちらかと言えば、青年と言った方が良いのだろう。世間一般的になら、であるが。
なぜなら、その青年は一般男性よりかは背が高い部類に入るほどと思われる位には背が高く、年頃の他の男性と比較すれば身体は筋肉に覆われているようにガッシリとしているようにも見える。言うなれば、
彼の外見はそれほどまでに筋肉が主張していて、上に着ているのは半袖のTシャツに薄い布と言わんばかりに薄そうな厚さの上着を着るというよりかは羽織っただけという服装をしており、下には損傷が目につく所謂、『ダメージジーンズ』に近い状態になっているジーンズを履いていた。
外見的にはスポーツ選手か、それに近い職業に就いている様には思えてしまう。だが、その様に思う事を否定するかのように、頭の下、枕代わりに置いている布製のアタッシュケースに似たバッグから覗かせている『数ⅢC』と書かれた薄い教科書と『物理実験教本』と書かれた分厚い教科書が見えていた。
そのことから推測するに、彼はスポーツ選手やそれに近い職業に就いているというわけではなく、ただの学生であった。
そんな学生という身分でありながらも彼は午後の授業を海岸の浜辺で時間を潰していた。
彼は授業をサボるということに罪悪感を感じてはいないように思えてしまうが、こうして午後の時間を過ごすというのには至極全うでありれっきとした立派な理由があった。・・・・・・と言っても、ただ単に今日の午後の授業はないというただそれだけの理由でしかないわけだが。
「・・・・・・・つっても、今日みたいに天気のいい日にはこうして横になって時間を過ごしたいと夢に思ってたわけだから、理由なんてないんだよなぁ、これが。」
強いて言うなれば、そこに浜辺があるからといった具合であろうか等とどうでもいいことを彼、
などと独りごちていると、突如として空間が割れるようにバチッバチッ、と雨雲が一つもないにも関わらず、稲妻が起こる前触れのような音が響き渡る。
「なっ、なんだっ!?」
突然聞こえた音に驚いて連人は身体を起き上がらせ、周囲を見渡す。だが、当然のことながら目に写るのはいつもと同じように変化など一つもない青い海岸線が見えるのみ。
「気のせい・・・・・・・・・なのか・・・・?」
それが気のせいなはずがないと思う連人だが、変化など何一つもない。であれば、気のせいか、と思う連人だったが、もう一度、横になろうかとした丁度その時、空が蒼く彩るその青空に巨大な物体が現れる。
「やっぱり、気のせいじゃなかったか!」
大声を上げる連人だったが、今から逃げるために走ったところで海上に現れたその巨大な物体が落下している段階で、間に合うはずがないと冷静に分析している自分がいた。
その物体の総重量は連人には全く分析はできない。だが、落下速度から見て起こる津波は余裕で連人を飲み込めてしまうだろうと、予測することができた。ならば、逃げたところで無駄になるのも予測ができるというもの。
逃げようとする脚を地面に固定するが、突然目の前に現れた死への恐怖が彼を襲う。
「・・・・・・・・・?ありゃ、オベリスク・・・・・・・・か・・・・・・?」
笑い始めた脚を押さえながらも連人は死への恐怖よりも落下してくる物体へと目を向けていた。
その物体は六角形のように多角形をしているように連人には見えた。・・・・・と言っても、彼から見て四角形の様に片面のみが見えたわけではなく、三つの辺が見えたから、そう判断ができただけだが。
判断ができるということは彼にそれだけの余裕が出てきたという意味でもあった。
「オベリスクって言ったら・・・・・・・エジプト・・・・・?いや、アメリカか・・・・・・?」
確かアレはどこにあったヤツだったっけかな?等と考え始めた彼はふと、現状を思い出す。
どちらの国にあったとしても彼が立っている日本という国にはそんなものはない。それに空間移動が可能な空飛ぶオベリスクなんてものはこの世界には、存在なぞしない。であれば、今、目の前で起こっている現象はどういうことか。
何も知らない一般人であれば、これがどういうことなのか、全く分からないかもしれないが、悲しいかな、連人はこうした目の前で起こっている現象を題材にしたゲームや本をプレイしたり、目にしたりしている少し特殊な人種、オタクと呼ばれる人種であった。・・・・あまり自慢できないことであるが。
「侵攻・・・・・・いや、侵略か!!!!」
それが連人の口から出たときには時既に遅く、丁度、海に落下し終えて、落下の衝撃によって起こった津波が連人を飲み込まんと大波が発生した時だった。
その津波は連人の目測でしかないが7~8メートルは越しているように見えた。
これは死んだな・・・・・・・。
死んだと冷静に判断する脳内で、まだ終えていないゲームとかあったな・・・・・、こんな終わりなら部屋に引きこもって一日ゲームでもしているんだった・・・・、でもゲーム機がないか・・・・・・、いや、R指定のクリア一歩手前にしていた『ヌキ時っ!!恋の三角関係っ!?』はパソコンがあるからいいか、等と思い始めていた。そして大津波に、飲まれるっ!!と恐怖のあまり、ギュっと強く目を瞑ってしまう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・?
だが、起こりうるであろう衝撃は全く彼を襲ってはこない。そのことを不審に思った連人はうっすらと片目を開ける。
すると、どういうことか。津波は眼に見えない障壁によって阻まれているではないか。
その様子を見て、彼は目の前に落下してきたオベリスクが敵なのかどうなのか判断ができなかった。そんな彼の様子を知ってか津波が収まると、オベリスクから連人に向けて透明な階段のようなものが降りてくる。透明というのは太陽の反射を受けて階段のように見えたというだけだが。
「・・・・・・・・昇ってこいってか。」
連人は降りてきた階段をその様に捉えた。そもそも敵か、味方かも分からない未知との遭遇に連人は昇ろうと脚が震えて動けないのだが。
何も分からない一般人が踏み入れることではない。
・・・・・・であれば、未知のモノに背を向けて走ってこの場から離れるか?逃げれば背を撃たれるかもしれないのに?
「だったら、逃げるっていう選択肢は取れねぇわな。」
それに、ただ逃げるってのは男の子が取るべき選択肢じゃねぇわな。
連人は逃げたい思いを一蹴するように両足に渇を入れるように強く叩いた。そして、震えが止まると、降りてきた階段を睨み付けるように見上げた。
吉が出るか、凶が出るか。
どちらが出るかは連人には分からない。
だが、一つだけ分かっている事がある。それは、今この瞬間、ここにいるのは連人一人しかいないというただそれだけだ。
連人は階段を昇るように脚を一歩踏み出す。
すると、脚を伝って階段が頑丈であるような感触が分かった。もう一段、もう一段と頑丈であることが分かると彼は昇る脚を止めることなく、上に上がり始める。そうして、何段か上がってから、彼はふと後ろを振り返った。それがいけなかった。
振り返ると昇ってきた分だけ階段が消えていたのだ。
「・・・・・・・・・クソッタレ!!」
逃がす意思などはないことが分かると、彼は暴言を吐いて昇る脚の速度を速めた。別に速めなくとも良いのでは?と思うかもしれない。だが、考えてみてほしい。後ろを振り返れば、昇ってきた分だけ階段が消えているということを。その現象に恐怖を抱かない人はいるはずがなかった。
そうして階段を昇り終えると、入り口のような扉のない勝手口が彼を出迎えた。
連人は躊躇することなくその入口に脚を踏み入れた。
踏み入れた瞬間、薄暗い暗闇が連人を出迎えた。連人は薄暗い闇の先にうっすらと薄い光を受け入れるように二本足で立っている巨大な機体を目にする。
「・・・パワード・アーマー・・・・?」
現在戦場の第一線で活躍している現代兵器の名称を連人は口にする。
だが・・・・・・・・・、と連人は自分の考えを脳内で否定した。
もし、そうであったとしても、目の前にある機体がそうではないことを示していた。
現代兵器がいかに優れていようとも背中に天使が羽ばたく様に見える大きな翼なぞ付けている筈がない。・・・・文字通り空を飛べたとしても。宇宙ならまだしも地球圏内であれば、地球の重力に引かれて飛ぶことなぞ出来る筈がない。
そんなことを考えていると、ふと、誰かの視線を感じて、目線を下に下げる。すると、一人の少女が既にそこにいたかのように立っていた。
「うぉ!?」
彼は少女がいたことに驚いた様子の声を出す。だが、少女は彼の反応に何も応えず、彼に視線を向けることで応えた。
「・・・・・・・・・・・・・。」
「な、なんだって?」
彼女は口を開いて彼に何かを言った。だが、彼はそれを理解することができずに彼女に聞き返してしまう。
彼女は彼の言葉を理解したかのようにコクりと頷くと目を閉じてしまう。そうした彼女の反応に連人は、
(しまった!!英語で訊くべきだったか!!)
などとどうでもいいことを考える。彼がそんなどうでもいいことを考えているうちに、彼女は再び口を開いた。
「ここはどこですか?」
「ここ・・・・・・・・・?」
彼女の質問に連人は彼女に聞き返してしまう。彼女は彼のそんな反応に大して気にはしていない様子でコクリと再び頷いた。
彼女の反応に今度は連人が悩んでしまう。
ここがどこであるかという質問にどう答えるべきか。
彼女は連人に対してここは何処であるのかと訊いてきた。
であれば、分かりやすく説明をするべきではないのだろうか。
そう結論付けると、彼女に言った。
「大銀河系内にある銀河系って中に属する地球っていう
「・・・・・・・・すみません。もう少し分かりやすくお願いします。」
頭を下げる彼女の反応を見て、今の説明以上に分かりやすくねぇ?と内心で首を傾げながら、もう一度、説明した。
「日本国内にある千葉県ってとこの
「成る程。了解しました。ご丁寧にありがとうございます。」
「いや、気にするな。」
今の説明で本当に分かるのかな?と不安に思う連人を他所に少女は何度か首を縦に振る。
「だとすれば、彼らより早くに着けた?・・・・だったら、まだ間に合うの?」
ぶつぶつと独り言を話す少女を連人はただ見ていて・・・・・・そして、気が付いた。
薄暗い闇の中でほんの僅かな光が彼女の髪に反射して綺麗な銀色を写していた。切り揃えられることなく、長く、腰まで伸ばした銀色の髪。ふと、思い後ろの機体を見てみればその機体の色も彼女の髪色に似て銀の色彩で描いている様に連人には見えた。
「綺麗だ・・・・・・・・。」
「だとすれば・・・・・・・・はい?今、なんと?」
この世に生きるものであれば、彼女の髪色のような銀の色彩の髪など存在などするはずがない。あるはずがない。そのために連人が綺麗だと言ったのは現代社会に生きる少々特殊な人種である者にとっては納得が出来るモノであった。
問題はここには彼と目の前にいる少女の他にはいないということだったが。
連人は無意識で言葉にしていたらしく、彼女は連人の言葉に反応して彼に聞き返した。だが、そんなこと言えば、彼女に軽蔑されかねない。その為、彼は片手を振って先ほど言った言葉を否定した。
「何でもない。気にするな。」
「そう・・・・・ですか・・・・・?」
「ああ。ところで、君の名前を聞いてなかったな。何て言うんだ?」
連人は現状の気まずい雰囲気を打破するため、彼女の名前を訊いた。訊いた直後に連人はしまった!!と己を内心で叱るとすかさず言った。
「俺は手束。
「私・・・・・・・・ですか?」
「ああ。君の名前は?」
「ありません。」
「えっ?」
「ですから、名前はありません。」
「そんな・・・・・・・・そんなことって。」
名前はないと言う彼女に連人は愕然とする。名前とはその個人をこの世界という場所に存在を確定させるものだ。それ故に名前というモノは大事にしないといけないものだ、とかつて父親に言われた言葉が脳裏に浮かび出てくる。
「だったら、アレは?」
陽の光を受けて白銀の色彩を浮かべる機体の名前を彼女に訊いてみる。すると、彼女は連人と同じように機体の方へと視線を向ける。
「シュツルム・アイゼン。・・・・・・・・・えぇ、あの機体の名はシュツルム・アイゼンと言います。」
「シュツルム・・・・・・・疾風・・・・・・?」
「よくお分かりになられましたね。」
「えっ。い、いや、褒められるほどのもんじゃ・・・・・。」
ハハハ、と軽めに笑いながら連人は鼻下を指で擦る。現代人が高確立で発病する永遠に治ることがない病、俗に言う『中二病』というモノであり、ドイツ語等は連人のロマンに引かれるモノがあって調べたりしただけのことだ。
そう考えて、気が付いてしまった。誰も人がいないこんな寂しい空間に少女は何故一人でいたのかということに。出来れば、この予想は外れてほしい一心で彼は彼女に訊いた。
「もしかして、なんだけどさ。君はあの機体の制御ユニットとかだったり・・・・・・はしないよなぁ。」
「よくお分かりになられましたね。・・・・・・・・正解です。」
「ハハハ・・・・・・えっ?」
「私はあの機体であり、あの機体は私です。」
「・・・・・・・・・・・本当に?」
「えぇ。」
連人の問いに彼女はしっかりと頷いた。そっか、そうなのか~、と明後日の方角に連人は顔を向ける。その様に現実逃避気味になり始めた連人の脳内に突然、電流が走った。
だが、彼はその言葉を口にすることは出来なかった。人の心を受け入れるからといって愛と彼女のことを呼ぶのは如何なモノだろうか。
それに連人と彼女は初対面で彼女のことなど何も知らないに等しく、彼女の背後に佇んでいる機体、『シュツルム・アイゼン』が味方か、敵かも連人には分からなかった。
そうして悩む連人に彼女は訊いてきた
「ところで我が
「・・・・・・・・あっ?マスター?マスターって誰だ?」
「貴方です。我が主マイ・マスター。」
さも当然だと言うかのように彼女は、彼女は連人を指差してそう応えた。
「俺、なんにも知らないただペーペーだぜ?」
「サポートします。私が、全身全霊を掛けましても。」
「そこまでしなくても・・・・・・・。」
「いえ。貴方は私にその名を聞かせてくれましたし、言語も教えて下さった。その上で、私のことを消そうとはしなかった。であるなら、その恩に応え、貴方をサポートするのが我が努め。」
宜しいですね?と連人に声を向けながら彼女は彼に向かって手を差し出した。細い女性の手を連人は優しく握り返した。
「そう言われちまったら、男が廃るってもんだ。こっちこそ、宜しく頼む。」
「ja。我が
彼の言葉に対して彼女は笑顔で返した。
すると、その時。
衝撃が連人たちを襲った。
「な、なんだっ!?」
「奇襲・・・・・・・・いえ、強襲です!!」
「っ!!分かるかっ!!」
「はい、恐らくは機械人類、巨人かと。」
マスター、あちらに、と言いながら連人を機体へと彼女は導く。
「巨人・・・・・・・ってことは、この世界で
「残念ながら、彼ら一同、言葉は介しません。」
「暴力こそが唯一の交流手段ってか!!野蛮だねぇ~!!」
等と軽口を言っていると、機体の足元に辿り着く。彼女は機体の脚に手を触れると、うっすらと身体が薄れていき、唐突に姿を消してしまった。
「なっ!?」
消えた彼女の身体を探すように彼はキョロキョロと目を泳がせる。だが、それも唐突に終わりを迎えてしまう。今まで動くことがなかった機体の両目に灯が灯ったのだ。
『マスター。どうぞ、お乗りに。』
機体から彼女の声が聞こえ、連人は先程彼女が言っていた言葉を思い出して、納得した。
「君はコイツで、コイツが君ってそういうことか。言うならもっと分かりやすく頼むぜ。」
『?分かりやすく言ったとおもうのですが?』
「意趣返しかよ。・・・・・・・・・・・皮肉をどうもありがとよ。」
そんなことを言っていると、彼女は身体を屈ませて乗りやすい様に配慮してか片手を連人に差し出す。彼は差し出された手に飛び乗ると揺れから身を守るように自身の身を屈めた。そんな彼を配慮してかゆっくりと片手を上げ、胴体にあるコックピットと思われるハッチまで導くと、連人はハッチが開くと同時に機体の内部へと入っていった。
入ると同時に薄暗いコックピット内部を操縦席に向かいながら観察した。左右それぞれに一本ずつレバーがあり、レバーには引き金、トリガーのようなものが設置されている。足元にはペダルが左右一つずつ取り付けられている。
そこまで見ると、連人は「だいたいわかった。」と一言だけ言って操縦席に座った。
「動かすのはいいけど、さっきも言った通りこっちは初心者だ。」
『では、初心者マークでも付けますか?』
「付けるなら車だ。それに若葉印はお前には似合わない。別嬪さんが台無しだぜ?」
『クスッ。お褒めに預かり恐悦至極。感謝の極みでございます。』
「皮肉をどうもありがとう。」
彼女は皮肉を言ったつもりはないだろうが、連人には皮肉の様にしか受け取れなかった。
さて、と連人は気持ちを引き締める。
「一っ飛び、付き合ってもらおうか!!」
連人が『シュツルム・アイゼン』に搭乗していたとき。
その頃、オベリスクの外側では。
十数メートルはある巨大なロボットがオベリスクに向けて砲撃を行っていた。
『ヒトに寄り添い、共に生きる等と戯れ言をよくもまぁ言ってくれたものだ。ヒトは世界、そのものを終焉に、終わりへと向かわせる。ヒトは世界にあってはいけない存在だ。それが分からぬか、「シュツルム・アイゼン」!!』
『でしたら、世界を愛し、世界と共に生きるのみっ!!』
砲撃を受けていた箇所とは逆、別の箇所が爆発すると同時に左右それぞれ三つずつ計六基の独立型砲戦ユニット、『グラム』を翼を羽ばたかせるように白銀の機体、『シュツルム・アイゼン』は天空へと舞い踊るようにして出てきた。
『ハッ!!!ヒトを乗せていない速いだけが取り柄の貴様が何を言う!!』
『ピーピー喚いてるんじゃねぇ。文句しか言えねぇならその口、チャックでもして黙ってるんだな!!』
『巨人』は突如として『シュツルム・アイゼン』から聞こえた男の声に一瞬、身を縮めた。
『男の声!?まさか、貴様、劣等種族たる人間を乗せているのか!?』
『劣等・・・・・・・・?ハッ、笑わせないで。その劣等種族の人間の手で私たちは産まれたのよ?それに、マスターは、この人は、人間は劣等種族なんかじゃない!』
『それが、貴様の価値を貶めているのだ!いいか、人間!!「シュツルム・アイゼン」にはな、環境を蘇らせる力がある!!貴様らが存在し、終わらせようとする世界を、だ!!!分かるか!?』
『・・・・・・・・・・いんや、さっぱり分からないな。話すなら、ちゃんとした日本語で話してくれ。外国語はさっぱりなんだ。』
『マスター・・・・・・・・・。』
『俺はな。お前らが誰で何を考えてどうするのか、さっぱり分からん。だが、一つだけハッキリした事がある。』
『それは?』
そう訊いてきた『巨人』に向けて両腕に装備している巨大な砲身、片方の『アサルトライフル』の銃口を向けた。
『お前らが俺にとって敵だってことだっ!!!』
一発だけ放つと、衝撃によって銃口が跳ね上がる。
連続での使用は難しい、と判断していると『巨人』は足元に置いていた巨大な盾を蹴り上げた。
おいおい、盾持ちかよ、と苦言を口にするより背中にある『グラム』がゆっくりと機体から離れる。
『イケるかっ、愛!?』
『ご存分に。・・・・・・・愛?』
連人の言葉に彼女はフッと笑うように答えるが連人が呼んだ名前かどうか分からない言葉に疑問も持ったように言ったが、その時、彼は答えなかった。
その瞬間、機体の背から離れた一本の刃、『グラム』が敵を薙ぎ払うように咆哮した。
『なんっ・・・・・・・・・だとぉっ・・・・・・!?』
『グラム』の咆哮に『巨人』は体勢を立て直すことが出来ずに地に倒れる。
『マスターっ!!』
『へっ、任されて!!!!』
愛の指示に似た言葉に対して連人はレバーのトリガーを引くことで応えた。
右、左、右、と三発の弾丸が『巨人』の巨体を襲い、その巨体を抉る様に弾丸が突き刺さる。
『ぐふっ!!まさか、この程度で我が身を撃ち破るとは・・・・・・・・・・・っ!!!』
『文句があるなら、一昨日来るんだなっ。』
連人はそう言うと、追い打ちを掛けるように更にトリガーを引いて弾丸を打ち出した。そして、『巨人』が動かないことを確認すると両手の『アサルトライフル』を器用に回し、一回転ずつ回し終えると、何もない空に銃口を向けた。
『これにて状況終了っ!!』
『巨人』が倒れた場所に連人は立った。だが、あの『巨人』の姿はどういう手品かは理解ができなかった。何故なら、『巨人』はいなかったのだから。
「どういう手品だ、コイツは?」
「お答えしましょうか?」
彼がぐぬぬと悩んでいると、愛は連人の傍まで歩いてきてそう言った。
彼女の言葉を聞いて、彼はコクりと静かに頷いた。
「先程、彼が申していたことは理解できますか?」
「俺たち、人間が世界を壊すから云々ってやつか?」
「ja。それは正解でもあり、同時に間違いでもあります。」
彼は彼女の言葉を静かに聞こうとしたが、脳裡に浮かんできた疑問に静かにいる事が出来なかった。
「どういう意味だ?」
「簡単です。人間が世界を壊すのではなく、彼らが世界を壊すのです。」
「・・・・・・・・つまり、あれか?人間が世界を壊す云々言ってる奴等が世界を壊すって言うのか?」
「ja。」
「訳が分からん。」
連人は愛の説明を自分なりに噛み砕いて愛に正しいか否かを問い、彼女は彼の言葉が正しいと賛成した。
「・・・・・・・待てよ?もしかして、なんだが。奴等が言う世界ってのには人間も含まれてるのか?」
「ja。その通りです、我が
「いや、皮肉は結構。」
連人は彼女が心から褒めているのではなく、皮肉も交えて言ってると思い言ったのだが、彼女からしてみれば皮肉は交えてはいない心の底から出てきた称賛の言葉だった。だが、悲しいかな、彼にはそれが伝わらなかった。
「ってことは、なんだ。連中は何を考えてる?」
「ヒトを下に置いての世界征服、と言ったら、信じますか?」
「連中の言葉は信じられんが、お前の言葉なら信じられるぜ、愛。」
「ja。感謝の極み、痛み入ります。」
「だったら、頑張らないとな。」
「ja。私は御身が御側におります、我が
連人は何も言わずに空を見上げた。彼の動きに合わせて彼女も空を見上げた。その空には月が綺麗に浮かんでいた。
「ところで、マスター。」
「あっ?どうした、愛?」
「ja。その・・・・・・・訊きにくい質問なのですが。」
彼女は言い難そうにした態度を見せたので、月を見上げた顔を下に下げた。
「その愛というのは何でしょうか?」
「えっ。名前だけど?」
「誰のですか?」
「お前のだよ。」
「えっ。」
「えっ。」
彼女はその事になぜか驚いた様子でいた。彼も同じく驚いていた。
何故ならば、ここには連人と彼女の二人しかいなかったからだった。
「まぁ、なんだ。これから長い間の付き合いかもしれないのに、名前がないってのは・・・・・・・・・・・、あれだろう?」
「nein。私は困りませんが。」
「俺が困るんだよ。それに、いつまでも名無しってのは・・・・・いかんだろう?話しにくいし。」
「そうでしょうか?」
「そうなんだよ。困るんだよ。それに名前があった方が何分色々都合もいいしな。」
「ja。であれば、従いましょう。」
「分かったか。」
「ja。・・・・・・・・・・・それで話は変わりますが。」
「なんだ、愛。」
話は変わると言っても話題はあんまり変わらないんだろうな、と思いながらも連人は彼女、愛からの言葉を待った。
「ja。その、愛という名前の理由についてお尋ねしてもよろしいでしょうか?名前とは初めて持ちます故、教えていただければ幸いです。」
その言葉を聞いて、あぁ、恥ずかしいから言わないって選択肢はないわけね、と彼は少し後悔に似た何かを感じていた。だが、言わねば彼女は納得しないだろう。それが初めて持つというのならば、尚更。
「その、なんだ。人の心を受け入れるってことで思い浮かんじまったんだ。」
「人の・・・・・・心を・・・・・・受け入れる・・・・ですか?」
「あぁ。お前は一人じゃなくて俺を乗せて動くわけだから、な。他人がいて初めてお前が動かせるなら、そのイメージがしっくり来るって言うか・・・・・・。」
そう言って、自分がやけに恥ずかしいことを言ってるな、と連人が思っている一方で愛は自身の胸元にギュッと握った拳を抱え込んでいた。
「愛・・・・・・・。人の心を受け入れる・・・・・・。」
細々とではあるがしっかりとした口調で彼女はしっかりと連人の言葉を受け入れる様に呟いていたが、彼にとってはなにかの罰ゲームかよ、という様にしか思えなかった。
やがて、彼女は顔を上げると連人の方に顔を向けた。
「マスター。」
「お、おぅ。どうした、愛?」
何事か、と訊いた彼の言葉に愛は嬉しそうに微笑んで答えた。
「いえ、何でもございません。」
「そ、そうか?」
「ja。」
そう言うと、彼女は空に浮かんでいる月を見上げる様に見ると、言った。
「月が綺麗ですね。」
「あぁ。・・・・・・・・・・死んでもいいな。」
「?どういうことです、マスター?」
彼の返事がおかしいと思ったのか愛は連人に訊いて、彼は彼女がそんな意図もなく、ただ普通に呟いただけだと分かると顔を赤くして片手を振って答えた。
「気にするな。」
二人の戦いはまだ始まったばかり・・・・・・・・。
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