2-3
昼過ぎ。
連人と愛の二人は大学の食堂にいた。いたのだが、今日は休日ということもあってか食堂にいる人の数はほとんどいなかった。まぁ、ほとんどの休講になって講義を休むということはなかったのだから仕方ないと仕方がないのかもしれない。
そう言った意味では、昨日の講義は休講扱いになったのかもしれなかったのだが、休講になって、本日に変わりになるという連絡は連人は受けてはいなかった。であれば、本日は休日ということでいいのだろうと連人は思っていた。講義がれば、人が来るはずであり、人が来るということは食堂に足を運んでくるはずで、人がほとんど食堂にはいないということは本日は休日であり講義は日を変えてはいないということになる。・・・・・・・・と思うのは連人の勝手かもしれなかったが。
「でも、まぁ、ちゃんと元に戻れてよかったよ。」
そう言いながら、黒いカードホルダーを出すとひらひらと軽く振る。
「ja。しっかりと戻れるようには出来てはいますので。」
愛はそんな彼の軽口をしっかりと返事をする。
あの後、ベルトのバックルから外したときに、元の姿に戻れなかったらどうしようなどと考えていた連人ではあったが、普通に元の姿に戻れた時には涙が出てきそうなほどに感動していた。
「ま、変身出来て変身の解除が出来ないって、ヒーロー番組であったとしても売れないだろうしな。」
ここは現実で架空の、もしとかの話はないわけだけど。
心の中でそう付け足しながら、連人は大学の食堂を利用するようになってから食べる頻度が多くなったカツカレーをスプーンで掬って口元に運んでいた。このカツカレー、料金はさほどかかりはしないのだが、なぜかは理解は出来ないが、注文する人の姿はあまり見かけたことがなかった。まぁ、このカツカレーよりも安い大盛りカレーの方が見かける頻度としては多かったのだが。とは言っても、たったの四十円しか変わらないので、やはり理解は出来ないなと連人は一人悩んでいた。
そう思いながら食べる連人の反対側ではこの食堂では安い部類に入る定食セットAなる定番の定食メニューを愛は食べていた。定食セットAがあるということは定食セットBもあるので、連人は日替わりでメニューが変わる定食セットBの方を愛は注文するのかと思いきやほとんどメニューが変わらない定食セットAの方を愛は選んでいた。
ちなみに、愛は昨日も定食セットAを食べていた。
「愛。別によ、定食セットAでなくてもいいんだぜ?料金のことを心配するなら定食セットBでもいいんだし。大盛りカレーにしても食券に十円足すだけだしな。」
「nein。私はマス・・・・・・・いえ、兄さんが食べているものに興味があって食べているだけですので、別に変化は求めてはおりません。」
「そうか?」
「ja。」
そう言うんなら、別にいいけど、と言いながら彼はふと今朝方見掛けた陸上自衛隊の特式機甲連隊の車両とすれ違った小隊員のことについて考えていた。ここ、十九志野市に万が一部隊を派遣することになるとすれば、横浜から千葉にかけて海を横断できる海上ターミナル『竜宮城』を経由すれば、部隊の派遣などは容易なはずだ。にも関わらず、十九志野に駐在する陸上自衛隊の特式機甲連隊第一小隊を派遣してくるのは国はそれほど事態を重く受け止めているのだろうか。
いや、それはないな、と連人は考える。
もし、万が一にもそうであった場合、たった数十名単位の小隊を派遣してくるよりかは大人数を派遣してきた方がいいだろう。そうなった場合、何かが起きているとそのなにかを調べようと根掘り葉掘り野党から追及されてニュースになって騒がれることであろう。だが、現状はそうはなっていないということはあくまでも視察か、調査であろうと連人は考える。
そこらに飛んでいるインターネットの無線回線から愛は情報を拾ったと言っていて、その言葉を文字通りのものと推察するならば、インターネットの情報を愛は拾えるはずだ。そして、その彼女が何も言っていないということは連人が思うほどの状況にはなっていないと推測できる。
厳しいね、と連人は思いながらカレーの上に乗ったカツを食べやすい大きさにスプーンで切り、器用にカツとカレーをスプーンでよそって口に頬張った。現状、単なる調査目的で来ているとなれば、援護は期待できないだろう。連人たちが自衛隊を支援することは出来そうではあるが、事情説明など言われて連行されてしまう可能性もなくはないと考えられる。そうなれば、国防目的で『シュツルム・アイゼン』と連人は国に確保されてしまうわけだが、そうなったらなったで大変だな、とも連人は思いながら目の前で器を上げずに食べにくそうに食べている愛の様子を呑気に観察していた。
愛のこんな様子を見て、高さ十m近くある『シュツルム・アイゼン』の制御用AIであると誰が信じられるだろうか。
いや、いないな、と思い彼女の様子に微笑んでいた連人は食べやすくしようと思い、彼女に助言を与える。
「そういう時にはな、愛。茶碗を持って食べるんだぜ?」
「茶碗を・・・・・ですか?・・・・・・そうしたらもっと食べにくくなると思いますが。」
「どこから拾い上げてきたんだ、その情報。」
騙されたと思ってやってみ?と言う連人の言葉を不審に思いながら彼女は白い白米が乗っている茶碗を片手に持って持ち上げる。
「・・・・・・・?合っていますか、マス・・・・・兄さん?」
「いちいち訊かなくてもいいぜ?心配せんでも合ってるから気にするな。」
「ja。それでは。」
そう言うと、先程よりかは食べやすい様に彼女は食べ始めた様子に連人は微笑ましいものを感じて、最後の一杯分になったカレーをスプーンで掬い、口に運んで数回咀嚼すると水が入ったカップを手に持って呷った。
ぷはぁ~、と最後の味に満足した様子でいる連人の前で先程より食べやすくなったからか食べるペースが上がった愛は食べやすくなった事実に驚いた様子で箸を休めることなく食べ続けていた。彼は彼女が箸を休めるその瞬間まで「ご馳走様」とは言わずに、ただその様子を見ていた。
そして、愛が食べ終わって箸を置いたと同時にそれに合わせる様に、彼は言った。
「ご馳走様でした。」
「ご馳走になりました、兄さん。」
「お粗末様ってな。」
連人は彼に対して言った彼女の言葉にそう返しながら、空になったカレーの皿がのったお盆を両手に持つと、立ち上がる。そんな彼の動きを見て、慌てた様子で愛も両手にお盆を持って立ち上がった。
「それで、食べやすかったか?」
「ja。食べやすくなりました。感謝いたします、兄さん。」
「別に礼を言われることじゃねぇよ。お前がそう言うんだったら、俺はこう返すよ。気にするな。」
「ja。それでは、お気持ちだけでも受け取ってください。」
「了解だ。」
二人はそんなことを話しながら食器が乗ったお盆を『食器返却場』と書かれて一定の速度で横に動いているレールの上にお盆を置いた。
「ご馳走さん。」
「?」
誰も人がいないのにそう言った彼の言葉に疑問を思ったのか不思議なモノを見る目でその動くレールに愛は目を向けた。しかし、そのレールには当然のことながらひとがいることはなかった上に人の姿など見ることなど出来なかった。
では、誰に言ったのだろうか?と疑問に思う彼女を他所に連人は外へと歩き出してしまう。
遅れるわけにはいかないと彼女は思考をやめて彼がしたようにお盆をレールの上に置いた。
「ご、ご馳走様でした。」
愛は彼がしていた様に誰もいるはずのないレールに対して礼の言葉を言うと彼の後を追った。
「マス・・・・・・・・・・・・兄さん。これから、如何します?」
「講義があるかと思って来てみたらないからな。することがなくなった以上は帰るしかないんだが・・・・・・どこか行きたい場所はあるかね、お姫様?」
「nein。いえ、特に御座いません。」
「だったら、帰るか・・・・・・・・・・・、いや。今夜のおかずがなかったな。買いに行くか。」
「兄さん。私もご一緒してもいいですか?」
「金はあるからなんでもいいぜ・・・・・・・、って言いたいところだけどそう言えるだけの金がないんだよな。あんまし買えないけど、それでもいいならいいぜ。」
「ja!それでは、ご一緒させていただきますね、兄さんっ。」
彼の言葉を聞いて、嬉しそうに返事をする彼女の様子の変化になにか違和感を覚えつつも、まぁいいか、と連人は思考を放棄した。
そんな会話をしながら大学の校外へと出た彼らをどこか慌てた様子で走り回る自衛官たちが出迎えた。
「江島二尉!『月光』はっ!?」
「はっ!暖機運転中であります!」
「ちっ!木原二尉!貴官のはっ!?」
「はっ、山下一尉!自分も同じくであります!」
「二人とも、暖機運転中のこのタイミングって・・・・・ついてないなぁ!」
「一尉!一尉は出れますかっ!?」
「あぁ!?あんた、『雷光』の暖機完了速度舐めてるのっ!?」
「い、いえ、そういうわけでは。」
「山下一尉!素が!素が出てます!」
「はぁ!?ぶっ飛ばすよ!?」
「だめだ、この人!!ネジがどこかに飛ばされてる!!」
「あぁ!?ねぇよ、んなもん!」
「ステイ!山下一尉、ステイ!落ち着いてください!」
何やら騒いでいる彼ら自衛官のやり取りを遠くで聞いていた連人は隣にいた愛に確認を取った。
「『巨人』か?」
「ja。お待ちを。・・・・・・・確認取れました。近くの市内でガラクタが暴れているようです。」
「ガラクタ?」
「ja。世界を壊した張本人、ロキとヘルの二人が生み出した世界を食らう害虫です。」
「・・・・・・・・・・・・敵か?」
「ja。世界を食らう・・・・・・・・いえ、壊すので私の敵です。」
「そうか。それじゃ、愛。悪いけど。」
「ja。貴方が望むがままに。私はそのために貴方のお傍にいますので。指示を。我が
「了解だ。・・・・・・・・・ちょっくら倒しに行ってくるから手を貸せ。」
「そのお言葉を待ってました、マスター。」
彼女がそう言った時に彼女の背後の青空が僅かにだが、歪んだ。
それを彼は確認すると彼女に頷いた。
「一っ飛び付き合ってくれるか?」
そう言うと彼女に向かって彼は手を差し出した。彼女は差し出された彼の手を二、三回瞬きをすると、彼の手を取ってこう言った。
「よろこんで。」
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