第二章 その名は、『マスクドガイ・ザ・パワード』
第二話 その名は、マスクドガイ・ザ・パワード 2-1
「・・・・・・・・・はぁ・・・・・・・・・・。」
連人はどうしたものかと炬燵に足を入れながら悩んでいた。
朝日が狭い室内を照らす。彼は照らされた朝日を吸収するかの如く、黒い髪をしていたが、服装は光を反射するかの如く白、もしくは白に近い色の服を着ていた。両手には手を守るためか手袋を付ける様にしていたが、その手袋もまた黒いので、黒と白に黒という変な組み合わせであった。そう言った意味では下に履くズボンの色は青色ではあるが、白に近い水色などではなく黒に近いような濃い目の藍色であった。人の見ようによっては、おかしな組み合わせだな、と思われることだろうが、当の本人である連人にとっては最高の組み合わせであると思っているので、特には問題はなかった。そう、特には。
そう思うと、視線をベッドの方へと向ける。
そのベッドにはこの部屋の主たる連人ではなく、住み着いてしまった少女が眠っていた。彼女の着ているモノは一般男性が着るもの、そのままなのであるが、彼女の髪が普通ではないことを示すかのように、朝日の光を受けてキラキラと煌めいている銀色の髪をしていた。
連人が悩んでいることも彼女に関する事であった。
昨日の戦闘を終えて、部屋に戻って来る前に出会った白と黒が混じった髪をしていた男性と白髪の女性。彼らは共に武器を持っていた。しかし、あの時、連人は何も持ってはいなかった。
不意に脳裏にあの光景が思い出される。
男性は、彼は、連人を見て、視線を合わすと何も言うことはなかった。
いや。
言わなかったのではない。笑ったのだ。
「・・・・・・・・・・・・っ。」
あの時に感じた恐怖が連人の身体を覆う様な感触に連人は襲われる。その恐怖に負けてなるものかという様に連人は身体を抱かかえる。
もし。
もし、あの時、彼らとの戦闘になったのであれば、連人には何も出来ずにただの屍となっていたであろう。愛が隣にいたとはいえ、連人には力も何もない。何から何までこのベッドで寝ている少女に任せてはいけないだろう。男としての意地が連人自身に戦うのは男の仕事であって女性の仕事ではない、と連人の心に訴えかけてくる。だが、連人一人だけでは戦えないのもまた事実であった。
となれば。
「力がいるな。」
連人は決意したかのようにただ呟く。『巨人』相手では連人だけでは何もできない。何故なら、力も持たないただの人間でしかないのだ。
だが、一人だけでも戦える力があれば。
愛がいなくとも、連人一人だけで戦うことが出来る。・・・・・・・と言ったところで、連人一人だけでは『巨人』相手には戦えないのだが。
となると、どうしたものか。
連人はただ一人だけで悩む。
「・・・・・・・・・・・とは言っても、どうもこうも出来ないのが現実・・・・・・なんだよぁ。」
そう言うと、彼は自身を抱えた両腕を身体から外すと、顔を上に上げる。
連人が顔を上げた時に顔を合わせる様にして先程まで眠っていた愛がベッドから顔を向けていた。
「力・・・・・・・ですか、マスター?」
「ん?・・・・・・・・おはよう、愛。あぁ、一人だけでも戦える力だけどな。」
おかしいかな、と付け加えながら、愛に向けて首を傾げる。
だが、彼女は彼の言葉を否定することなく首を横に振るとこう言った。
「いえ、おかしいとは思いません。それと、おはようございます、マスター。」
「あぁ。でも、それだったら、どう思ったんだ?」
「どう・・・・・・・・とは?」
「お前がいて、『シュツルム・アイゼン』もいる。それなのに、力が欲しいと言う俺のことをお前はどう思う?」
「ja。・・・・・・・・・・難しいですね。」
「難しい?」
「ja。私は人間とは違います。ですので、マスター。貴方がどう思われているのかは私には分かりませんし、貴方がどう感じて力を欲するのかも私には分かりません。」
ですが。
「貴方が力を欲するのであれば私は貴方に力を与えましょう。それをどう扱うのかは貴方次第です、マスター。」
「・・・・・・・・・・何?ちょっと待て。力をやるって言ってるのか?」
「ja。」
いいですか。
「私の目的は、この世界を彼らの手から守り抜くことです。それが原因で私が倒れてしまったとしても、彼らを倒せるのであれば、喜んで貴方に力を与えましょう。」
「・・・・・・・・・・・・・・お前が倒れるなんて悪い冗談にしか聞こえねぇな。」
「ja。・・・・・・・・・ですが、そうなる可能性も高いのもまた事実です、マスター。」
どうしますか?
そう彼に訊いてくる愛は冗談を言ってる(あまり聞いたことはないが)様な顔ではなく、真剣であるように連人には思えた。
たとえ、この彼女の言葉が悪魔の甘い誘惑の様に罠だったとしても、戦えるだけの力が得られるのであれば彼にとってはどうでもいいことだと、彼は思った。
「それじゃ、愛。俺に力をくれ。」
「ja。そのお言葉、我が命に変えましても、お応えします。」
お手を、と彼女は手を伸ばして来る。彼は彼女が伸ばした手を右手で掴むと、彼女はしっかりと彼の手を握った。その瞬間、彼女の蒼い瞳に走ることがない電気の線が走ったのが連人の目に映った。
すると、彼女は彼の手を離すとどこかに手を入れて、なにかを取り出した。
「それは?」
「ja。マスターのご希望の品物です。」
どうぞお納めしてください、と言う彼女の手からそれを連人は受け取ると、それがなんであるのかを見るために顔上に上げてそれを見た。
それはカードホルダーの様に見え、すでに何枚かのカードがその中に入っているのが目に見えた。ホルダーの柄は黒一色であるが、ホルダーの正面にはサイの様ななにかが描かれていた。その柄には特に言うことがなかったので彼はそのホルダーから何枚かのカードを引き抜いた。
一枚目は『Crash Horn』と書かれた一本の角が描かれている。
二枚目は『Giga Pressure』と書かれ、一人の人間がどこかに向かって、なにかを片手に持って真っ直ぐに突く様に飛んでいる絵が描かれている。
「なるほどね。」
その二枚の絵を見て、連人はおおまかにではあるが理解できた。言うなれば、『だいたいわかった』という言葉で表せるほどには理解が出来た。
何も知らないはずの人間が理解できるわけはないのだが、悲しいかな、連人は一般人と同じでありながら同じとは言い難い人種、オタクと呼ばれる変人と分類される人種であった。
「でも、どうやって使うんだ、これ?」
理解できたのは良いがどう使うのかが分からないというのが一番の問題であった。使い方はおおまかにはだいたい予測は出来るが、そういう使い方ではないという風に自身になにかが訴えかけてくる。理解が出来なかったために、彼の様子を見ていた愛に訊いてみることにした。
「一応、訊くんだが・・・・・・・・・・。鏡とか使うのか、これ?」
「鏡・・・・・・ですか?nein。それは貴方ではない他者から見た貴方の姿に変化させるものです。ですので、鏡は不要かと思いますが、マスター。」
「えっ。必要ないのか、これ?」
「ja。必要ありません。」
「えっ。」
「えっ。」
彼は彼女からの説明を聞くと驚いたような声を出し、彼女は彼の反応に驚いた声を出す。
「なにそれこわい。」
連人は彼女の説明を聞いて呆気にとられた様子で棒読みでそう言った。
「いや、ちょっと待て。鏡がいらないとなるとどう使うんだ、これ?」
「ja。ですので、他人の目、他人に見せる必要があります。」
「は?」
愛の言葉を聞いて連人はいやいや、と否定したくなる気持ちを抑える。だが、そう思うのと同時に彼女の言葉は事実なのだろう、と思う自分がいるのも事実であった。
つまり、だ。
どの様な姿になるのかは予測は出来ないが、自分自身という
そうなると。
「誰かがいないと使えないってか。」
「ja。そうなります。」
彼の言葉を愛は静かに肯定する。
力が欲しいと願ったのは連人ではあるが、彼女の言葉を借りるならばその力は誰かがいなくては使えないということだ。彼女の言葉に彼はため息に似た何かが口から吐き出た。人と連なるとは上手く言ったものだと思いながら、後悔しても仕方ないと気合を入れ直す。
「でも、これがあれば、戦えるんだな?」
「ja。
「いや。欲しいって願ったのは俺の方だ。とやかくは言うつもりはないさ。」
いちいち要望とか言ってたら、折角手に入った力もなくしまうしな。
そう言うと、彼は箪笥の上に置いてある置時計を見て時刻を確認する。
「おっと。もうこんな時間か。遅くなったが、飯にするか。愛、ご希望はあるか?」
「nein。特にはございません、と言いたいのですが、私はこちらに来たばかりで料理など分かりません。貴方にお任せします、マスター。」
「んじゃ、ソーセージをボイルして、目玉焼きでもするか。」
そう言うと、連人は愛から渡されたカードホルダーを机の上に置くと立ち上がった。
そして、台所に向かいながら、先程見たカードと彼女が言ったことについて彼は考えた。
『貴方ではない他者から見た貴方に変化させる。』
彼女は彼にそう言った。
そして、あのホルダーにあったカードには誰かを守るモノではなく、誰かを、何かを破壊するような絵が描かれていた。となると、連人は穿ち貫くという願望があるということになると心の中で考える。彼女の言葉を自分なりに理解して考えるのであれば、他者から見た自分の姿、
そう思うと、連人は少し自分に失望し、歩く速度を遅めた。
「マスター?」
動きを遅めた彼を心配するように愛の声が連人の耳に届く。彼は彼女の声が聞こえると、先程考えたことを振り払うように数回頭を振り、彼女を心配させまいと笑顔を作って後ろを振り返った。
「どうした、愛?」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫さ。・・・・・・・・あぁ、大丈夫だとも。」
「ja。であれば、よろしいのですが。」
「ははは、お前は心配性だな。あぁ、俺は大丈夫だ。」
そう言うと、彼女を背に向ける様に再び前に身体を振り向かせた。
「あぁ。大丈夫だ。・・・・・・・・大丈夫だとも。」
もし、誰かを破壊するような力であったとしても。
もし、誰かを破壊するのが自身の願いであったとしても。
「自分じゃない誰かの為に使えるなら、それでお前は満足だろう?えぇ?手束連人。」
そうだ。
その為に愛に、彼女に言ったのではないか。
その答えがあれだとしても別にいいではないか。
誰かの手を繋いで、人と連なることが出来るのであれば。
それが自身の願いだろう?
連人は彼女には聞こえない様に心の中で自身に向けて言っていた。
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