1-4
突然聞こえてきた爆音を聞いて外に出た連人を待っていたかのように外で待っていた愛は蓮人の姿を見つけると、すぐに駆け寄って来る。
「マスター!」
その彼女の言葉に彼は彼女の方を向いた。
「奴らか?」
「現状で日本国内で行動できる遊び
「連中は・・・・・・・。愛、お前が言ってた通りにこの世界を壊したがってるのか・・・・・・・・?」
「少なくとも、マスター、貴方方の様な人間を消そうと。消した上この世界をどうにかしようと企んでいるものかと思いますが。」
そう言った彼女の顔を彼は少し不安げに見る様に見る。
「お前は違う、と思ってていいんだな?」
すると、連人の顔に目を向けて、彼の目に自分の目を合わせる様に見た。
「ja。・・・・・・・貴方がどう思わているのかは、私には分かりませんが。少なくとも、私は彼らとは違います。」
はぁ。
「いや、十分だ。それさえ分かればな。」
そんな風に話をしていると近くの方から大きな何かが歩いてくるような駆動音が二人の耳に聞こえる。
「おいおい、こっちまで来るなよ。」
「ですが、マスター。ここには人が多くいます。こちらに向かってくるのは当たり前かと思いますが?」
「正論をありがとう。」
「お褒めに預かり恐悦至極。」
そうこうしていると大学の外の道路から爆音が聞こえてくる。これはまずいな、と蓮人は思って愛に指示を出す。
「愛っ。『シュツルム・アイゼン』で出来るだけ遠くに引っ張ってくれ。ここらじゃ邪魔が多すぎて戦いにくい。」
「ja。分かりました。ですが、どちらに?」
彼女の質問に連人は一瞬思い悩む。ここで近くと言えば、海岸だが戦いやすいと言えるのか。まぁ、昨日も海岸で戦ったんだからどうにかなるだろう。
「昨日の海岸の方に押してくれ。俺も後で行く。」
「ja。マスターの望むがままに。」
そう言うと、彼女は勢いよくバッと片手を上げる。
「『アイゼン』ッ!!」
瞬間、彼女の背後から巨大な両翼を持った白銀の身体を持つ機体が姿を現す。すると、彼女は機体に手を触れて、姿を消した。
『誘導はこちらに任せて下さい、マスター。』
「おぅ。頼んだ。」
『ja。それでは、ご存分に。行って参ります。』
『シュツルム・アイゼン』は顔を上げると、背後のスラスターを吹かし身体を上昇させると、爆音が聞こえてくる方に身体を向けて飛んで行った。
噴射の勢いに身体が吹き飛ばされそうになるのをなんとか耐える様にしていた連人だったが、耐えることが出来ずに身体を地面に倒してしまう。
「・・・・・・・・ご存分にってやけにやる気が入ってねぇか、あいつ。」
ま、いいか、と連人は思考を放棄して立ち上がると、昨日出会った海岸へと足を向けるのであった。
『「シュツルム・アイゼン」っ!貴様、なぜ人間の味方をする!貴様は我らと同じく食らう者だろう!?それが、それがなぜ、なぜだ!?』
『・・・・・・・・nein。少なくとも貴方方とは違います。世界という生き物を殺そうとする貴方方とは。』
『巨人』と呼ばれる大型の機動兵器を相手にこちらも負けてなるものかと愛は自身の
(難儀なっ・・・・・・・・・。)
今ある武装は両手に持つ『アサルトライフル』と背中にある六基の『グラム』だけだ。自身が眠っていた大きすぎる
その砲撃音は大砲でも放たれているのかと思うほど、大きな爆音であったが、それほどまでの口径は持っていない。よくて細長い対物ライフルが大きくなった位だろう。
一発一発当たるごとに『巨人』は後退する。だが、彼女は彼にできるだけ遠くに引っ張ってくれ、と言われている。言われている以上は後ろに退かせるわけにはいかない。そう思うのと同時に背中のフレームに繋がっている六基の『グラム』のうち、二基が『シュツルム・アイゼン』から離れる。
愛は自身の脳内に浮かぶ光景と目の前にある光景を重ね合う。愛自身が見ている光景と離れた二基の『グラム』が視ている光景の二つを同時に視ながら戦闘を行うのは初めての経験であった。
しかし。
しかしである。
(退くわけにはいかないっ。)
彼が愛を頼って指示をしてくれたのだ。そこには信頼はまだないにしても信用してくれようとしているのだと彼女は感じる。
であれば。
二基の『グラム』が『巨人』の背後を取り、砲撃を開始する。
その二基から放たれたのは実弾ではなく、実体を持たない分厚い光の線だ。その光線が『巨人』の背中に突き刺さると同時に爆発が起こる。
『・・・・・・・・・ぐっ!!』
直撃すると同時に『巨人』の一つだけの瞳から光が点滅する。
(やったっ!?)
だが、愛の思いを裏切る様に『巨人』は巨大な胴体を倒させてはなるものかという思いがあるからか二本足で転倒を防ぐと、背にしていた巨大な一本の砲身を愛に向けた。
『まだだっ!まだ倒れるものかっ!』
『しつこいお方は嫌われますよ。』
『何を言うかっ!この世界を食らおうとする者が好かれる理由が分からんなっ!』
『・・・・・・・・・・・・・っ。』
彼女は『巨人』の言葉に唇を噛み締める。
(だったら・・・・・・・・・っ。だったら、私は・・・・・・・っ。)
愛は今朝のことを思い出しながら、『巨人』が放つ砲撃を避けていた。避けながらも脳内に浮かぶもう一つの光景に意識を外さない様に意識を向ける。
(彼は・・・・・・・っ、マスターは、何のために・・・・・・・っ。何のために・・・・・・・・っ。)
彼は彼女の為に靴を選んでくれた。ファッションに疎いと言いながらも選んでくれたのだ。愛の身体は『シュツルム・アイゼン』でもある。そのために、靴などは選ぼうが選ばまいが、愛には全く影響もない。それなのに、彼は愛の為に一つの靴を選んで、彼女の為に買ってくれたのだ。愛は今、自身が履いている靴の感触を確かめる様に足元に意識を向ける。
(でも。・・・・・・・・・・だとしても。彼は、マスターは。私にとっては大切な人で。その人はこの世界に生きている。私と違って。)
名前など必要性がないにも関わらずに彼は名前という一つの居場所を彼女に与えてくれた。
であれば、彼女にとってはもう既に答えなどは決まっているようなものだ。
『私は・・・・・・・・っ。この世界を殺そうとする貴方方とは違います・・・・・・・・っ。彼が、あのお方が生きようとするこの世界を壊そうと、殺すというのであれば、私は・・・・・・・・っ。』
『そこまで想うかっ!!それほどまでに好いておるというか、この世界がっ!!分からぬ、分からんぞっ、「シュツルム・アイゼン」!!』
であれば。
『だとすれば、それが貴方方の限界ですっ。』
そう言いながら、愛は両手に握った『アサルトライフル』に引き金を引き絞り、『グラム』を咆哮させる。
『巨人』は正面から『シュツルム・アイゼン』の弾丸を浴び、背後では『グラム』から放たれた砲撃を浴び、地に倒れそうになるが、まだ踏み止まっていた。その様子はまるでまだ倒れるわけにはいかないという強い意志が伝わってくるモノだった。
その様子を見て、愛は一人だけでは目の前の敵を倒すことは難しいと悟った。
そう、愛一人だけでは。
「愛っ!」
戦場から少し離れた場所から彼女の主たる連人の彼女を呼ぶ声が聞こえた。
その呼び声に反応して『巨人』も彼の方に身体を向けようとする。
だが、それを許す愛ではない。背中のフレームに待機させている残りの『グラム』四基を枷から解き放つ。
解き放たれた『グラム』が視ている光景が愛の脳内に投影される。
(ぐっ・・・・・・・!)
六基同時の処理に脳が焼き切れそうになるほどの激痛が愛を襲う。だが、『グラム』の操作が出来なければ、彼は『巨人』に殺されてしまう。そんなのは、嫌だった。であれば、この程度の痛みなど安いものだ。そんなことを思い、『グラム』を操りながら、彼の近くに自身を降ろし、彼の身体を片手で大切に拾い上げると、コックピットのハッチを開いて彼を自身の中に入れた。
「悪い。ちょいと遅れた。」
『気にはしません、マスター。ご無事で何よりです。』
「お陰様でな。」
彼の皮肉に愛はクスリと笑う。
彼とこうして会話ができるということは、彼は生きているということであり、彼はここにいるということだ。
「それじゃ、ちょっくら、一っ飛びするとしますかねっ!!」
『お付き合いさせていただきます、マスター。』
そう言うと、彼女は自身の身体から意識を離し、宙を飛び『巨人』に砲撃を加えている六基の『グラム』に意識を向けた。
『それがどうしたというのだっ、「シュツルム・アイゼン」っ!!』
「ハッ、てめぇには負けねぇってこったっ!!」
連人は『巨人』に対して挑発の様に思える言葉を向けながら、左右の『アサルトライフル』の引き金を引き絞る様に左右のトリガーを引き絞った。
引き絞ると同時に二発の弾丸が砲弾の様に撃ち放たれる。その二発の弾丸を受けると、受けた衝撃を殺しきれずに後ろに倒れる様に『巨人』は後ろに身体を逸らせる。だが、思い出したかのように身体を震わせると、踏み止まってみせた。
『まだだっ、まだ倒れるわけにはっ!』
『チェックメイト。』
『巨人』が言い終わる前に愛が王手という様に口にした瞬間、宙に浮かぶ六基の『グラム』が容赦なく『巨人』に砲撃を加えた。
砲撃が終わると、もう既にボロボロの身体をゆらりゆらりと静かに揺らし、『巨人』はゆっくりと身体を倒し、大地に身体が着くと同時に・・・・・・・爆散した。
その爆発した光景を見て連人はぼそりと口にした。
「これにて一件、状況終了・・・・・・ってな。」
戦闘が終わり、数分が経った浜辺。
そこに、連人と愛の二人の姿があった。
「こうして爆散するのは、まぁ、分かるとしてだ。すぐに消えるってのはどうなのかねぇ・・・・・・・・。」
「ja。お気持ちは分かります、マスター。しかし、そう思われたとしてもこの世界にはいるはずのない存在たりうる私たちが残骸というそこにいた証を残すことが出来ないということもまた事実です。」
「そうは言うがな・・・・・・・・・・。」
どこか釈然としない様子の連人を愛は彼が何かを言う前に片手で制した。
「ここで話すのもなかなか乙ではありますが帰りませんか、マスター?」
「まぁな。夏が近くなって少し暖かくなってきたとは言ってもまだ寒いしな。」
帰るとするか、という彼女の言葉に彼は同意する様に言うと、浜から出る様に防波堤とは言い難い塀を上り通り道に出ると二人で横になって歩き出す。
「しっかし、あいつらは何か用があってここに来たんだ?」
「マスター。それは恐らく、この世界を・・・・。」
「それだったら、別にここじゃなくてもいいはずだ。自衛隊以外にも軍隊はいるんだからな。」
ま、戦えるだけの実力があるって言えるのは自衛隊以外にゃいないけどな。
誰にも言うでもなく連人はぼそりと呟く。それにしてもいったい何故?戦える戦力は自衛隊を除けばないと言ってもおかしくはない。だが、日本に限定して攻撃を仕掛けてくるにしてもなぜ、愛がいるこの新十九志野に限定して攻撃をしてくる?なぜだ?と連人はそうした考えを隣にいる愛に相談することなく、ただ歩いていた。
しかし、そうして考えていても、今夜の夕食をどうするかという比較的どうでもいいことを考えてしまうと、脳内のどこかに霧散してしまう。
「愛。今夜、食いたいものとかあるか?」
「今夜・・・・・・?夕食ですか、マスター?」
「ああ。お前もいるのに、食べるのは自分一人ってのは寂しいものでな。」
「ja。なるほど、了承しました。ですが、これといって私からは特にはありません。」
「希望なしってか。作る身としては楽っちゃ楽な回答なんだが、難しくもある答えだわな。」
「そうなので?」
「俺はともかくお前もってなるとな。一緒の野郎の飯っていうわけにもいかんだろう?」
「nein。マスターが御作りなられた料理をご馳走になれるのであれば、私はなんでもいいですよ?」
「なんでも・・・・・・・・・・ねぇ・・・・・・・・。」
愛の解答を聞いて連人はますます悩む。愛は彼がどうして悩んでいるのか、理解が出来ない様子で彼の顔を覗き込む。
そうこうして歩いているうちに、東京湾に流れ込むように流れる大きな河にぶつかる。連人は普段そうしているように何も気にせずにただ歩いてそこを後にしようとしていた。だが、なにかが、誰かの視線を感じて対岸を見てしまう。
その視線の先には二人の男女がいた。
男の方は白と黒が交じり合った髪をしていて、身体にはぼろ布としか言いようのない大きな一枚の布を身体に巻いていた。その見た目を言うならば、古代ローマ人が着ていたかのような服装であった。そのローマ人の隣にはその男性よりかはまだましだと思えるような服装ではあるが、現代を生きる連人からして見ればマシだとは思えない服装をしていた。彼女は男性と違って白一色の髪をしていた。
何も考えずにただ見るだけであれば、なにかのイベントの下見にでも来た外人かな?と思えてしまうが、その二人の背には大きな鎌と背負うにしては大きすぎる一本の砲身があった。
「・・・・・・・・・・・・っ。」
連人は一瞬、隣にいる愛に声を掛けるべきか思い悩む。だが、一般人である可能性もなくはない。現代を生きるコスプレイヤーと呼ばれる人たちは高度な再現技術を持っている。先ほどの『巨人』の関係者かと連人は考えるが、それはないな、と考えを打ち消す。まだ、二日だけではあるが、大型のロボットといえる存在には会っていても、人間といえる存在にはまだ出会ったことはない。
それに。
それに、である。
連人はただの大学生であって、対抗するために必要な力などは持ってはいない。今、こうしている内に目の前のコスプレイヤーが敵であったとしても、連人には力も何もない。
であれば、答えは一つしかない。
何も見なかったとして背を向ける。
だが、そうして背中を相手に向けてしまえば、仮に敵であった場合、連人が撃たれてしまっても誰も咎めることはできない。
喉が渇く。
今、向けているこの視線を外してしまえば自分は死ぬ。
そう考えると、呼吸が徐々に早くなっていることには気が付くことは出来なかった。いや。ただその事に思考を向けることなど出来なかった。
「・・・・・・・・・・・・ふっ。」
その男性は連人の様子を悟ったのか、鼻で笑う様に連人を笑い、身を翻して連人に背を向けて歩き出してしまう。
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
だが、連人は視線を外すことなくただ彼の背をじっと見ていた。
そして、男性と女性の背が共に見えなくなると、連人は息を吐いた。
「マスター?」
愛はそんな彼の隣に居ながらも気が付かなかった様子で連人に問い質す様に彼に訊いた。だが、連人はそんな彼女に気にするなとでも言うかのように片手を彼女にひらひらと振ると同時に決意した。
ただ。
ただ自分だけの力が。
誰にも頼ることのない強い自分だけの力がほしいと。
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