第三章 二人の休日
第三話 二人の休日 3-1
まだ、暗い朝。
連人は一人起きてパソコンのキーボードを叩いていた。
まぁ、暇だということも理由の一つではあるが、一番の理由はベッドで寝ている銀色の髪の少女にあった。・・・・・・・正確には彼女がいることが原因なのではなく、女の子と狭い空間で共に過ごすという経験がない連人にも原因はあるのだが。
暗い室内。
男と二人っきりで女の子は飛びきり綺麗な美少女である。
彼女からは時折嗅いだことのない良い香りがしてくる。
この三つの理由から言えば、現状が女性経験がない一般男性にとってはこれ以上はない良い条件なのだが、連人は自分の性欲を理性で抑え込むのに少し必死であった。
そのため、普段は起きるはずもない時間に起きてしまったために、こうして時間を潰していたのであった。
そうしてインターネットで情報を見ているのだが、昨日の戦闘の目撃情報などは特にはない様でいくら探しても見つけることは出来なかった。見つかることがない以上は不安要素はないので、心配することはないはずなのだが、インターネットが発達したこの高度情報社会になった現在では安心することなど出来るわけがなかった。
「まぁ、でも、ないみたいだから、気にしなくてもいいのかな・・・・・・?」
安心するにはしないほうがいいのだが、連人は見つからないことに安堵していた。
いや、せざるを得なかったと言った方が良いだろうか。
そんなことを思いながら、銀色に輝く髪をしている少女、愛が寝ているベッドに視線を送る。
「すぅ・・・・・・すぅ・・・・・・・・、マスター・・・・・・・・。」
優し気な顔で眠る彼女に対して、どんな夢を見ているのか連人は気になっていた。気になったとは違うのかもしれない。彼女は、少女は、どこにでもいる普通の少女の様に見えなくもないが、普通だとは決して言えない。
人型機動兵器『シュツルム・アイゼン』の人型制御ユニットが彼女という存在であった。それを非道と思うのは各自の判断だが、連人にとっては、比較的どうでもいいことであった。
彼女が一人でいたことと彼女が連人のことをマスターと呼んだというその二点以外はどうでもよかったのだ。
彼女は一人で、先日戦った『巨人』たちを止めようとこちらの世界に来たらしい(彼女の言葉を信じるならば、であるが)。
そして、彼女は先日恐怖感を得た連人が欲しいと言った力を与えてくれた。与える必要もないにも関わらずに、だ。彼女という
たったそれだけでも
「・・・・・・・コーヒーでも飲むか・・・・・・・・・・。」
思い出したかの様に彼はそう言うと、おもむろに立ち上がり、台所へ向かった。一応という体で置かれているとしか思えない食器棚からなにかキャラクターが描かれている湯飲みを取り出すと、食器とは別に置かれている容器としか思えない空の容器に挿す様に入れている箸やフォーク類のところから小さめのスプーンを取り出すと、戸棚を閉めた。
そして、玄関の傍にある台所まで歩いていくと、換気用の窓側に置いてある『インスタントコーヒー』と書かれた容器を手に取り、蓋を開けると、二、三回、スプーンで掬い上げると手に持っている湯飲みの中に投入した。そして、蓋を閉めて、元あった位置に容器を戻すと、腰を落として台所の下に置いてある電気ポッドの口下に湯飲みをセットして、電気ポッドのジャーを押した。
程いい具合まで湯が入ると、ジャーから手を放して腰を上げ、数回スプーンでかき混ぜて、台所に置いてある冷蔵庫から牛乳を取り出すと、量など気にした様子ではない目分量で牛乳を注ぐと、冷蔵庫に戻して、さらにスプーンでかき混ぜると、スプーンを台所の洗いどころに置いて、居間の、今では定置となりつつある炬燵へと戻っていった。
「砂糖が欲しいな・・・・・・・・。」
コーヒーを飲みながら苦さではなく甘さが欲しいなと思った連人はそう呟いていた。
だが、その様に呟いてみたところでないものはないので諦めるしかないのだが、悲しいかな、そう思っていても諦めきれないのが人間なのであった。
ま、これでも飲めなくはないんだけどな。
欲をかいてるな、と自身を自嘲する連人であった。
そうして、インターネットの中に再び連人は意識を埋めていった。
「兄さん・・・・・・・・・・?」
目をこすりながら愛は連人のことを呼ぶ。その声に連人は遅れて反応した。
「・・・・・・・・うん?あぁ、おはよう、愛。」
「ja。おはようございます、兄さん。今朝はお早いお目覚めで。」
「俺にはいつもと変わらないと思うけどけどな。」
「いえ。それでも、ですよ、兄さん。」
そんなものかねぇ。
コーヒーを入れて暇つぶしと、課題を解決するためにパソコンと教科書をを広げて大学から出された課題を解いていた連人にベッドから起き上がり愛は微笑んで挨拶をしてきた。
「ところで、兄さん。今日のご予定は、どのように?」
「クラスから出された課題を終わらせる・・・・・・・と言いたいところだけど、お前が寝ている内にほとんど終わらせたから今日はのんびりできるぞ。」
「のんびり・・・・・・ですか?」
「あぁ。」
そう言うと、彼は炬燵の机の上に出していた教科書類をささっとどかす。
「んま、のんびりと部屋に引きこもるわきゃいかねぇし、どっかに買い物にでも行くか?」
「よろしいのですか?」
「いいですとも。今日は日曜日で学校も閉まってるしな。毎日、学食で食べるってのも飽きたろ?」
「nein。私には新鮮な体験ですので問題ありませんよ?」
「そうか?」
「ja。」
なら、いいのか?
と連人は彼女が言った言葉に首を傾げる。なにか引っ掛かりを覚える連人ではあったが、ま、いいか、と思考を放棄した。
「それだったら、秋津原に行きたいんだが。」
「秋津原・・・・・・ですか?」
「あぁ。ここからだと十津沼田で電車一本で行けるからな。」
「如何様か、お伺いしても?」
「あぁ。まぁ、ゲームの初回限定版を買いにな。」
そう言った連人であったが、すぐに、あっと何かに気付いた。
秋津原というのは連人のようなオタクという人種にとってはこれほどともない聖地と呼ばれる電気部品などが豊富に売られている電気街のことである。まぁ、それだけの理由で聖地などとは呼ばれないわけではあるが。
秋津原に行くには多くの路線が集中するため、路線の乗り換えが多くなるわけだが、幸いなことに連人たちが今いるアパートからほど近い十津沼田の駅からは電車の乗り換えいらずで一つの路線電車に乗ってしまえば一発で行けてしまう。そのために、連人は特に何も考えていなかったのだが、冷静に考えれば、女の子の愛をそういった店に共に連れて行くのはどうなのだろうか、と思えてしまう。
「電車というモノがどういった乗り物であるかは存じませんが、遠くへの移動であれば、『アイゼン』が使えるかと思いますが?」
「あ~、それなんだがなぁ。愛、仮に『シュツルム・アイゼン』を使って移動するとしてステルス使って姿消しながら、移動することって可能か?」
「ja。・・・・・・・いえ、nein。私一人だけであれば問題ありませんが、兄さんも一緒となりますと難しいですね。」
「オーケー、オーケー。了解だ。それだったら、普通に電車乗って行こうぜ。別に女の子一人の料金が出せないと言って『シュツルム・アイゼン』を使おうと思うほど貧乏でもねぇしな。当面は金がねぇってひもじい思いするほどには金はなくもないしな。・・・・・・・・お高い買い物をしなければ、だけど。」
「よろしいので?」
「構わんさ。たまには二人でちょいと観光しても罰は当たらんだろう?」
「ja。それではお言葉に甘えさせていただきます、兄さん。」
「それじゃ、飯でも食おうじゃないか。」
よっこらせ、と歳を取った男性が言いそうな声を出しながら連人は立ち上がると、朝食のトーストを焼く為に台所に向かった。
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