2-4

「愛。・・・・・俺の気のせいなら気にしないでくれていいんだが・・・・・、あの『巨人』となんかちっこいっぽいのがうろついているんだけど。」

『ja。確認しました。恐らく、ベルセルクだと判断できます。』

「ベルセルク?」

 なんだ、そりゃ、と訊きながら『シュツルム・アイゼン』のコックピットのモニターに映り、映像として出てくるとしか形容できない何やら金属の様なモノを貼り合わせただけとしか言いようがないモノが市内を闊歩していた。

『ja。も見ていると思いますが、「巨人」と違う造形のあの小さいです。』

「ああ、見えてる。・・・・・・・・・連中もでいいんだな?」

『ja。を食らうモノで、です。』

「了解だ。だったら、俺にとってもなわけだ。」

 そう連人が言いながらも愛は『シュツルム・アイゼン』の姿勢を制御する。急に動きを止める様に全身に掛かるGの衝撃を全身で受けながら、連人は前を見る。

 すると、数メートル先、目と鼻の先を掠める様に光線が目の前を掠めていった。

「ちぃ!足止めでもするってか!」

『であれば。が引き受けます。』

「やれるか?」

『二体以上いたら難しいですが、一体だけであれば、問題はありません。』

「了解した。それじゃ、に任せる。」

『ja。ご存分に。』

 その様に言う愛は言葉を言いながら、『シュツルム・アイゼン』から連人を地上に下すために緩やかに降下して、誰もいない通行路の近くに降下する。そして、ックピットに手を近づけると、はコックピットのハッチを開けた。

 連人はハッチを開けたのと同時に入って来る風を受けつつ、吹き付けて来る風から顔を守る様に片腕で顔面を守った。

「いい風が吹いてやがる。」

『ja。本日もいい天気です。』

「上手いこと言うぜ、全く。」

 彼女の軽口に連人も言葉を返しながら、コックピットから外へ出る様に、が差し出してきた手の上に乗った。彼が手の上に乗ったことを確認すると、はゆっくりと手を地面に下す。

「よし、は任せろ。・・・・・・どこまでいけるかは分からないけどな。は頼んだ。」

『ja。お気をつけて。』

もな。」

 身体を起こしつつ、連人の言葉に応える様には首を縦に下すと、連人から視線を外して『巨人』の方を向いて、飛んで行った。

「さて、と。」

 の姿が見えなくなると、彼はあの、いや、ベルセルクたちがいると思われる方向へと顔を向けた。

「俺が死ぬか、どもが死ぬか・・・・・・・。ベットするには、チップが少ない気がするが・・・・・・・・。」

 自分の命と、多くいると見えたベルセルクどもとは割合が均等ではないことに少し腹が立ちそうになるが、連人は静かに深呼吸して、その考えを考えない様に思考を切り替えると、気合を入れた。

。」

 パパンと軽く服に付着した埃を払うと、連人は駆け足で向かって行った。















 そこはまるでであった。

 いや。

 とは言えないのかもしれない。

 何故なら、どもからの魔の手から逃げる様に何も持たないが列を作ることなく、悲鳴を上げて逃げていたからだ。その光景を見ると、逃げようと思い判断したのが早かったからか、それほどまで怪我を負った人がいる様には連人には見えなかった。

「そこんとこは優しいのかもしれねぇな。」

 ま、優しくはないだろうけどな、と声にしないでベルセルクたちに向かって行く連人を不審に思ったのか逃げ惑う一般人の一人が連人に声を掛けて来る。

「君っ!そっちに行ったら死ぬぞ!逃げないとっ!」

「逃げようにも何もしないで逃げていてもその内捕まったら、死ぬでしょ。だったら、誰かが。」

「死ぬ気かっ!?」

「いや。死にには行きませんよ。単にだけで。」

「正気かっ!?」

「少なくとも、正気だとは思いますけどね。」

 ちょいと、と連人はその名も知らない一般人に向けて愛から渡されたホルダーを左手に持って見える様に翳した。

 突然、連人が取った行動が理解できないという様にポカンと彼は口を開けて連人が何をするのかをただ見ていた。そして、次の瞬間、連人の腰にベルトが巻かれた瞬間に彼はハッと正気に戻った。

「そのベルト・・・・・・・・・。まさか、君はっ!?」

。」

 何かを悟った彼に連人はニコッと微笑みながら、身体の向きをベルセルクに向けると、右手を左前に突き出して

!」

 そう言うと、連人は前に出した右手を右後ろに引くと同時に左手に持ったカードホルダーをバックルと思われる場所に差し入れた。

 入れた瞬間、連人の身体を頑丈な鎧で守る様に銀色の金属と思われる装甲が連人の身を覆っていく。やがて、全身が覆われると西洋の鎧の様に頑丈そうに見える強固に見えるフルフェイスの兜のスリット部分に両目の様に見える二つの鋭い光が点灯した。

・・・・・・・・・?」

 連人の変わった姿から想像したのか、日本のを指し示す言葉を彼は呆然とした様子で言った。

?・・・・・・いや、違うね。」

 左手に握った角に見えなくもない鋭い先端が付いたの持ち手を強く握りしめては言った。

。俺の名はだっ!」

 おい、ども!!

の相手をしてやるっ!だから・・・・・・。」

 だから。

!!」

 ベルセルクに指を差して、そう言うとはベルセルクたちの群れに立ち向かって行った。

「待て、青年っ!」

 ベルセルクの群れに向かって行く連人に向かって彼は声を掛けた。だが、連人はその言葉を無視した。

「グァァァァァ!!」

 群れに向かってくる連人に対して咆哮をする様には言葉になっていない声を浴びせる様に声を向けて来る。だが、連人は怯むことなく歩く歩を休めることなく歩き進んでいく。

 壁としては薄く脆い様に思えるであろうか。

 しかし。

 しかし、だ。

 の後ろには多くの民間人が、何も戦う術を持たない一般人がいる。戦えるのはにはいない自衛隊とだけだ。

 であれば。

 だとすれば。

 でベルセルクと愛が呼んでいたどもの相手をしなくてはいけない。その結果、が死ぬことになったとしても。

 

 

 が彼女に頼んで得ることが出来ただ。

 であれば。

 で立ち向かうことは誰からも笑われたり、侮辱されることではないはずだ。

 そうだと考えれば。

 そうだと思い込めば。

 に襲ってくる死への恐怖ではなく、というという使命感に似たものに近いものが連人の背を押してくれる様に高揚した気分で歩く足に力が溢れてくるように感じるのも気のせいではないはずだ。

「キシャァァァァァァ!!」

 身体に噛み付いてくるようにバルセルクが鋭い歯がそろった口を開けて、連人の身体を噛み砕かんと向かってくる。だが、そう簡単に食われる連人ではない。

「っらぁ!!」

 左手のでベルセルクの顔面を吹き飛ばす様に思い切り渾身の力を込めてぶん殴った。

「ギシャァァァァァ!!」

 ぶん殴られたベルセルクは歯の様に思えるを地面にぶちまけながら一、二歩後ろに下がる。そこを追撃しない連人ではなかった。

「壊れろ、ァ!!」

 今度は右手に力を込めてベルセルクの顔面を思い切り殴った。

「ガァァァァァァァァァァ!!」

 悲鳴を上げてベルセルクは身体を後ろに倒しながら、仰向けになって倒れると、ピクピクッと数回痙攣を起こし、動く事がなくなると徐々にに分解されるように身体の部品が崩れていき、

「すごい・・・・・・・・・・・・・。」

 どこにでも居そうではあるがあまり居そうにはない今どきの小学生が零す感想とは思えない感想を連人の様子を見ていた一般人の男性は零した。

「・・・・・・・・、なんだ、まだ居たのかよ?早く逃げろって。」

 じゃないと。

「食われちまうぜ?」

 彼に聞こえそうではありそうに連人はそう言うと、あらためてどもに顔を向けた。顔を向けた瞬間、どもは先程の戦闘という一方的な攻撃を見ていたのか、一瞬、静かに連人を見る。

 見られた当の本人は、どもの視線を受けると、ハッ!という様に鼻で笑い、空いている右手を上げてクイクイっと、どもに向かって手招きをした。

「俺のはまだども。」

 こんなんじゃ。

。」

 かかってこい。

 そう言った連人の言葉に応える様にベルセルクは突然勢いを増して連人に向かってくる。

「無茶はするなよ、青年っ!」

 少し離れた場所から聞こえる一般人と思える男性の声に連人は片手を上げて応えた。

 だが、あっという間に連人の身体は向かってきたベルセルクたちに埋もれて見えなくなってしまう。

「青年っ!」

 連人を心配した男性は連人に聞こえる様に大きな声で問いかける。しかし、その声に連人ではなくベルセルクたちが一斉に男性の方を向いた。

「ひっ!!」

 一斉に自身に集まったベルセルクの視線に彼は一瞬、身が竦んでしまったかのような悲鳴を上げる。

 だが、次の瞬間。

『「Crash Horn」。』

「暑苦しいわ、ボケがぁ!!」

 大きく太い角を振りながら、連人はどもを弾き飛ばす。弾き飛ばされたたちは周囲に身体の部品を弾きばら撒く。

 その光景に、数体のベルセルクは連人に向かおうとした足を止めてしまう。

 それが大きな隙を作ってしまうことになるとは知らずに。

「全部、弾き飛ばしてやる!!」

 右手で握っている角を握っているせいで取りにくそうにホルダーからカードを取ると左手のにカードを入れて、先端部の角を上に上げた。

『「Giga Pressure」。』

 からカード名を読む音声が聞こえると同時に連人の背中の分厚い装甲が割れる。その割れた個所からブシューと風が強く外に向かって吹き荒れる。

 なにか察したのかベルセルクたちは連人から距離を取ろうとしたが、距離を取ろうとしたにしては

 背中から吹き出す風に連人は身体を浮かばせると右手に持った角を突き入れる様にどもに向け、全身から身体を弾く様に強く風が、連人の身体はベルセルクの群れに向かって

 瞬間。

 二本の足で立つことが出来ずに胴体を失ったモノ、なんとか形状は維持できたものの機能を失ったモノ、バルセルクたち、それぞれは文字通りの状態となって、崩れ落ちる。連人が突き向かった場所に立っているベルセルクは一体もいなかった。立っているのは、連人、ただ一人のみ。

「ハッ。愛が呼ばわりするのも納得だ。軽くしようと思ったら、不完全燃焼だ。もう少し、骨があると思ったんだがな。」

 やれやれ、と独り言を言いながら連人はベルトのバックルからホルダーを抜き外す。

「青年っ。無事かっ!?」

 連人のことを心配するように男性は連人に向けて声を掛けながら、走って向かってくる。

「右足と左足の二本足で立って話せるほどには。」

 男性を安心させるように皮肉交じりに連人はそう答えた。

「だったら、大丈夫だな!うんうん。良かった、良かった!」

 その様に二人が話していると、二人より遠くの位置から爆音が響いてくる。それと同時に『シュツルム・アイゼン』の背中にあり、翼の様に見える六基のうち、一基の『グラム』が空を飛んでいるのが連人の目に映った。

の方もちょうど片付けたとこか。」

「えっ?なにか言ったかい?」

「いえ、なんでも。」

 愛の方も無事に終わったみたいだなと安心した様に連人はつい独り言を呟いてしまう。連人が零した独り言に男性は気になった様子で何事か、と彼に問いかける。彼は訊かれた言葉になんでもないと答えた。そのような会話をしていると、遠くの方からが二人の耳に聞こえる。

 その音を聞いて、連人はやっと暖機運転が終わったのか、遅いぜ全く、と心の中で文句の言葉を呟いた。

「なんの音だ?」

 突然聞こえたモーター音に男性は聞こえてくる方向に顔を向けて目を凝らす様に見つめた。そんなことをしなくても、連人は軽口を言う様に呟いた。

「陸上自衛隊の特式機甲連隊の機動機甲高駆動兵器、『パワード・アーマー』の第一世代『雷光』と第二世代『月光』を機動機甲高駆動兵器運搬車両に積んで来ていたみたいなんで、それじゃないですかね。」

「よく分かるね。」

「『パワード・アーマー』を使おうとするなんて自衛隊しかいませんからね。」

 脚の根元から折れて使い物にならなくなるを使えるレベルにまでにしたってのに、って呼ぶのはどうなんだろうねぇ、と思いながら男性の質問に答えた。

 そうしていると、『シュツルム・アイゼン』の浮かんだ機影が遠くの方から連人の目に映り、連人はその事に安堵して、その場所を離れた方が良さそうだと判断して回れ右をして歩き出す。その連人の動きを不審に思った男性は連人に声を掛けた。

「どこかに行くのかい?」

「えぇ。今夜の夕飯のおかずを買わないと今日食べる分がないので、買い物に行こうかと。」

「でも、戦ったの君だろ?を倒したのは君なんだから。」

 そう言って連人にも見える様に腕を広げて男性は視界を開く。だが、開けた視界には倒れて壊したの姿は一つも残すことなく

「あ、あれ?」

。これじゃ、何をどうしたのかっていう証拠にはなりませんね。いやぁ、残念。、いなくてはいけなくなるでしょうけど、ここにいる意味はないですね。残念、残念。」

 わざとらしくそう言った連人の言葉に男性は不審に思ったのか、連人の顔を何も言わずに見つめた。だが、答えたくてもベルセルクや『巨人』を倒すと、なぜ姿が消えるのかということを説明できるわけではないし、そもそも理解も出来ていない上に、分かっているはずの愛から説明もされてもいない以上は連人が言えることはあるはずがなかった。

「あっ、それじゃ、俺はこの辺で。。」

 そう言うと、連人はそそくさとその場を離れた。

 離れていく連人を引き止める様に男性の声が連人の耳に聞こえるが、連人は聞こえない振りをして、男性の言葉を無視した。















 その場所から数百メートル離れた場所には『シュツルム・アイゼン』の身体を大地に降ろし、翼を休めていた。

「大丈夫だったか、愛?」

『・・・・・・・・ですか?』

「俺以外にお前のことを愛って呼ぶ野郎は誰がいるのよ。」

『ja。そうですね。失礼しました、。』

 に軽口を言いながら連人はに近付いていく。

 は彼の姿を確認すると、上体を上げて顔を連人に向けた。

『ご無事なご様子で安心しました。息災で何よりです、。』

の方こそ。よく無事でいてくれた。」

『ja。御心配をおかけしました。』

「いや。そう真面目に返さなくもいい。」

『そうですか?』

「あぁ。・・・・・・・・そういうもんだ。」

 軽い会話をしながら連人は初めての戦闘の疲れからか少し疲労感が身体に溜まっている感じを感じ、に提案した。

「・・・・・・・なんか疲れちまったし。今日は帰るか。」

『ja。であれば、?』

「あぁ、頼むぜ。」

『ja。』

 そう言いながら、は片手を連人に差し出してくる。

 連人はその差し出された手に何も言わずに乗ると、は身体を浮かせた。




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