2-2
「マスター。お一つ、御聞きしてもよろしいでしょうか?」
「・・・・・・・・・・・どうした、愛。」
「ja。学校の方は今日は宜しいのですか?」
「ああ。今日は授業はないからな。」
休日ってやつだ、と連人は愛にそう言いながら身体を伸ばす様に両腕を上げる。気持ちよさそうに伸びをしている彼は雲が一つない空を見ながら、大きな欠伸をした。
「こんなにいい天気に動こうとするヤツはいないだろ。というより、こんなにいい天気なのに悪事を働こうとするヤツは俺は許せないね。」
「・・・・・・・そうなので?」
「あぁ。」
いいか。
「こんなに気持ちがいい程雲一つもない良い天気は、浜辺で昼寝するのに限る。それを妨害するってことは悪いことだ。」
だから今日は浜辺でのんびりする。
そう言った連人の横顔を心配した様子で愛は眺めた。
「ですが、マスター。あの『巨人』が出てこないとは・・・・・・。」
「限らねぇわな。お前の言う通り、連中がこの世界を我が物にしようと動いてる以上はいつ来てもおかしくはないし、な。」
「それでしたら・・・・・・・・・・・っ。」
「まぁ、そうなったらなったで、ぶっ飛ばす。」
俺とお前でな。
ニヤリと口元を上げて彼女に笑顔を見せると、彼は前方に視線を戻した。
「一応、俺だけでも戦えるって話だが。・・・・・・・初っ端から、死ぬことがねぇと慢心したらあれだから一応、一回お試しに使っときたいんだが。」
これ使ってな、と連人は今朝方に彼女から渡された黒いホルダーを取り出して彼女に見える様にひらひらと軽く揺らした。
「なるほど。仕様の確認、ですか。」
「そうそう。ま、昼寝もしたいんだけどな。」
彼女に聞こえる様に彼はそう言うと、前方に停車している濃い目の緑色に塗装された車両を見て声を潜めた。
「愛。」
「ja。なんでしょう、マスター?」
「ちょいと、というよりしばらくそのマスターって呼ぶのやめね?」
「それでしたら、私は貴方のことをなんとお呼びすれば。」
「普通に、兄さんとかでいいんじゃねぇの?」
「ja。分かりました、マス・・・・・・・兄さん。」
及第点かな。
そう言いながら歩いていると、車両から緑の迷彩服に身を包んだ数人の自衛官が降りて来る。
「兄さん。」
「・・・・・・・・・・普通に歩けよ?普通にな。」
彼女の慌てた反応に彼は静かに返事をして、どこにでもいる通りすがりが歩く様にごく自然に歩いた。その彼の反応を見て愛も彼に合わせる様に自然を装って自然な感じで歩く。そうしていると、自衛官が彼ら二人の方に歩いてきて・・・・・・通り過ぎた。
「兄さん。」
「ちょいと静かに。後で聞くから。」
「ja。」
通り過ぎて行ったとは言えど未だに距離は離れてはいないことを思ってか、連人は彼女の質問を後回しにする様に言った。
そうして彼ら自衛官が降りた車両を連人は横目で見ながら怪しまれない様にごく自然な感じで歩いた。
ここ、新十九志野ではあまり見ることはない機動機甲高駆動兵器運搬車両の一つだと思われた。なぜ、彼がそう思ったのかと言うと、車両の後部には大型のクレーンアームと固定具が用意されていて大型のロボットと思われる機体が横たわっていたからであった。
その横たわった機体をざっと見た感じで連人は彼らがどこの部隊かをおおよそではあるが悟った。
「おいおい、陸上自衛隊が誇る十九志野駐屯地にいる陸上特式機甲連隊のトップ連中の、第一機動小隊かよ・・・・・・・・。」
冗談じゃねぇ、と言った彼の言葉が何を意味しているのか、なぜ彼の額に汗が流れているのかを愛は理解できなかった。
「兄さん。」
「ん?どうした?」
「ja。いえ、どうしたかではなく。先ほどの・・・・・・・。」
「あぁ。陸上特式機甲連隊のことか?」
「ja。」
連人たち二人はあの機動機甲高駆動兵器運搬車両から距離が開けた場所、二人が初めて出会った浜辺に辿り着くと、愛は連人に訊きたかったことを訊くかのように口を開いた。
「陸上自衛隊、陸上特式機甲連隊ってのはな。この国、日本の中でかなりの練度があって出来れば敵に回したくない連中だ。」
「それはどういうことですか?」
「愛は・・・・・・・・・調べれば、すぐに分かるからあんまり言わないけど。この世界で『パワード・アーマー』っていう大型の人型機動兵器のことは知ってるか?」
「・・・・・・・nein。初耳です。」
「ま、俺が話してないからな。」
それでだ。
「この世界でそんな大型のロボット兵器がなんで日本にあるのか、疑問に思ったことは?」
「nein。・・・・・・・・というと、先程のあれは日本にしかないのですか?」
「あぁ。」
「なるほど。それであれば、初めて兄さんが『アイゼン』をご覧になった時に『パワード・アーマー』となぜ言ったのか、納得できます。」
「比べるものじゃなかったけどな。」
いいか。
「『パワード・アーマー』がなぜ日本にしかないのかと言うと、アメリカと中国、ロシアの三国はそもそも『パワード・アーマー』なんていらないって言ってるからないんだぜ。」
「なぜか訊いても?」
「まず、『パワード・アーマー』が二本足でいることについて言おうか。開発当初は脚部が脚じゃないタンクのものでも良いんじゃないか、って話し合いで上がったんだが、すぐに却下された。」
「理由は?」
「カッコよくないから、だと。」
ネット情報だからあんまり当てにはするなよと言いながら彼は話す。
「そんなわけで二足歩行になったわけだが、これが一番の問題だった。」
「問題、ですか?」
「あぁ。」
彼はそう言うと言葉を一旦切った。
「立つことは出来た。だけど、歩こうとすると足が折れた。」
「折れた?」
「あぁ、付け根からな。問題は人間誰しも立った状態で歩こうとすると、足の筋肉が身体が目に出ようとする
ま、それがほかの国が挫折した理由の一つなんだけどな。
「計算して・・・・・・・・・・いなかったのですか?」
「計算はしてたんだろうさ。だけど、甘かった。人間って生き物は立つってことに特に気にすることなく生きれる生き物だからな。」
「たしかに、そうなのでしょうが・・・・・・・・。」
「おかげで『パワード・アーマー』=足が折れて使い物にならなくなる大きすぎる粗大ごみとか言われることになったんだ。」
「ですが、マス・・・・・・・・、兄さん。先ほどの陸上特式機甲小隊の車両には。」
「あぁ。だって、あれ未完成な完成品だもん。」
「未完成・・・・・・ですか?」
「いいか、愛。人間って生き物は常に進化しようと、常に成長する生き物だ。『パワード・アーマー』も同じさ。完成という
「nein。そう言った話であれば私も同じです。
「おっと、皆まで言うな。」
「ja。すみません、兄さん。」
「いや、気にするな。」
つまり。
「そういう結果、他の国では『パワード・アーマー』なんてモノはなくて、日本だけの代物になったってわけだ。」
「ja。なるほど、理解しました。」
連人の結論に愛は理解したという様に頷いてみせた。
ま、それでも自衛隊が動き出すのはちょいと遅かったがな。
昨日の戦闘があったが故に、対応策として自衛隊の派遣が決定されたのだろうからいいとして、と連人は考える。
自衛隊がここ、新十九志野に待機するとなれば、あの『巨人』どもも下手には行動は出来ないはずだ。陸上自衛隊の陸上特式機甲連隊と言えば、最初期から『パワード・アーマー』の開発と実装に力を入れていた実験部隊と言われているが、この世界では、『パワード・アーマー』の動きに対して熟知している部隊は他にいないと言われるほどのエリート集団だ。すぐには倒すことはできないかもしれないが、そこは連人たちが『シュツルム・アイゼン』で
「・・・・・・・・・・あの『巨人』どもと同じく敵だと思われたら、ヤバくね?」
「はい?なんですか、兄さん?」
いや何でもない。
片手を振りながら、愛に気にするなとジェスチャーで返す連人であったが、そう考えるとかなり現状はまずいということになる事実に冷や汗が額を流れる感触を感じていた。
通信する手段も連絡する手段もない現状では敵だと思われて攻撃されても何も言うことが出来ないということに気付いてしまったからだ。自衛隊は他国と比べてお優しいことで有名ではあるが、裏を返せばだれとも分からない未知の敵には容赦はしないということを言える。
だとすれば。
「愛。訊いていいか。」
「ja。なんでしょう?」
「自衛隊の無線の周波数とか分かるか?」
「分かりますが・・・・・・・・。『アイゼン』から拾うしか手段はありませんよ、兄さん。」
「分かった。なら、いい。今は『シュツルム・アイゼン』は呼ばなくていい。」
「よろしいので?」
「ああ、呼ぶな。・・・・・・・・今はな。」
今呼んでおいて自衛隊に連絡を取っておいたほうがいいのではないか、と脳内にいる自分が自身に問いかけてくる。
だが。
だが、待て。そうもう一人の自分が自身を止める様に声を掛けてくる。
今動いて連絡が取れたとしても、彼らの目の前に『巨人』は現れたわけではないし、状況は何一つ理解などされないだろう。であれば、あの『巨人』が出てきた時に遅れて現れた方が良いのではないか?現れると同時に彼らを援護すればいいのではないか?と。
そういう風に考えれば、何も状況が把握できていない状況でも少なくとも『シュツルム・アイゼン』は敵ではないと認識されるはずだ、ともう一人の連人は答える。であれば、今はとりあえずその問題は考えないことにして、と連人はその問題について考えることをやめてサイに近いデザインがされた黒いホルダーを取り出した。
「んで、その問題は今は置いておくとして。こいつの使い方について教えてくれ、愛。」
「ja。であれば、兄さん。私に向かってそのホルダーをかざす様にして見せて下さい。」
「・・・・・・・・・?こうか?」
連人は彼女に言われた通りにホルダーを彼女にかざす様に見せた。すると、次の瞬間、どこからともなく、腰にあてがう様にベルトが巻かれるではないか!
「うぉ!?」
突然現れて腰に巻かれたベルトに連人は驚愕した反応をした。だが、愛はそんな彼の反応を静かに見て、静かに言った。
「兄さん。ホルダーをそのバルトのバックルに挿してください。」
「こう・・・・・・でいいのか?」
連人は彼女に言われた通りにホルダーをベルトのバックルと思われる箇所に挿入した。
その瞬間!
連人の身体が銀色の鋼に覆われたではないか!
「うお!?な、なんじゃこりゃ!?」
覆われたことに連人は驚きの声を出す。だが、身体が動かせることが分かると、鋼に覆われた自身の身体を触り始めた。
その感触は堅いもので、自身の身体とは決して思うことなど容易では出来ないはずであるのだが、彼は彼の身体だと認識出来ていた。
「おい、愛。今、俺はどうなってる?」
「ja。姿が変わっています。」
「それは分かる。分かるけど、どうなっているのかをだな・・・・・・。」
「?質問の意味が理解できかねます、兄さん。」
「は?」
愛が言った言葉が理解できずに連人は彼女に聞き返す。
「どうなって変わっているのを言うだけじゃね?」
「ja。であれば、カッコいい外見に変わりましたよ。」
「変わった、変わったか。そうか・・・・・・・・・変わったか。」
連人は変わったと言う彼女の言葉を数回独り言のようにただ呟いた。
だが、彼の中では変わるという意味は大きなものであった。
言うなれば。
子供のころに憧れたヒーローに近くなれた、いや、近くに立つことが出来たと。
その意味は何も知らない一般人であれば、どうとも何も思わない事柄であるが、一般人より詳しくはある変わり者の人種、世にはぶられ様としている人種、オタクである連人にとってはとても大きい意味があった。
「『マスクド・ライダー』・・・・・・・・・・、いや。」
違うな。
「仮面の男・・・・・・、『マスクドガイ』・・・・・・・。力・・・・・・・・、『パワード』・・・・・・・・・・。そうだな。『マスクドガイ・ザ・パワード』だな。」
決めたぞ。
「よく聞け、愛。俺は『マスクドガイ・ザ・パワード』、『マスクドガイ・ザ・パワード』だっ!」
「ja。覚えましょう。」
ですが、兄さん。
「その名に何か意味があるのですか?」
「意味・・・・・・・?・・・・・・・・・・あぁ、あるとも。」
それは。
「俺が俺として、ここにいることを刻み込むってことさ。」
「兄さんが、兄さんとして、ですか?・・・・・・・私には分かりません。」
「だろうな。お前は女の子なんだから。これは男の子の決まり事だからな。分からなくて当然さ。」
「・・・・・・・・・兄さんの意地悪。」
「ハッハッハ!悩めよ、愛。時間は有限だ。限られた時間で大いに悩み答えを出し給え。何故なら、お前と俺は今、ここにいるんだから。」
ハハハ!!と連人は『マスクドガイ・ザ・パワード』の姿のまま、笑っていた。
その彼の目の前で怒ったような頬を膨らせた顔で愛は彼を見ていた。
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