1-3
「あ~・・・・・・・・・・・どうすっかな~。」
「?どうかしましたので?」
昼。
安いからというただそれだけの理由で学生食堂で食べることにした連人たちであったが、連人はこれからの日程を脳内で整理しながらどうしたものかと考えていた。その要因は目の前に座って連人の顔を見ている少女、愛にあるのだが、当の本人は特に気にした様子はしていなかった。いや、もしかすれば気にしていない様に見えるだけで実際は気にしているのかもしれない。・・・・・・・・・・まぁ、連人がどうこうと思っても始まったことではないのだが。
「いやな。朝も言ったと思うんだが、俺は午後から講義があってな・・・・・。お前の面倒を見れないんだ。」
「ja。それでしたら、『アイゼン』の中で待機していましょうか、マスター?」
「それだとまた『巨人』が出てきた時、どうするんだ?」
「その時はその時ですよ、マスター。」
「・・・・・・・・・・・するな、って言ってもお前は戦うんだろう?」
「ja。それが私がここに居る理由ですので。」
「あー、分かった、分かった。だけど、無理はするなよ?」
「ja。それが我が主たる蓮人様のご命令であるならば。」
「ホントかよ。」
彼女の言葉に、彼はハハハ、と軽く笑い、左腕に着けている腕時計を見て時間を確認する。時刻は午後の講義が始まる十分前を指していた。
「おっと、もうこんな時間か。んじゃ、俺は講義あるから行くけど。・・・・・愛。いいか?変な奴には付いて行くなよ?なんかあったら、校門前の建物の一階に行くんだぞ?そこだったら、学校職員がいるはずだから。」
「ですが、マスター。」
「それでもどうにか出来なかったら、あんまやってほしくはないけど『シュツルム・アイゼン』で捻ってやれ。」
「ja。そこそこにしておきます。」
「いい子だ。それじゃ、ちょっくら行ってくる。」
鞄を肩にひょいと担ぐようにして連人は立ち上がると、自身の食器を持って『食器返却場』の札が掛かっている場所へと向かっていく。愛は徐々に離れていく彼の背を見送る様にただ見届ける。それを見て、食器はここに置いていくのではなく、あそこの『食器返却場』に返せばいいのだと理解することが出来た。彼の様子をぼんやりとした様子で見ていると、食堂の出口から外へと出た彼は愛の視線に気づいて苦笑した顔をするとひらひらと彼女に向かって手を振った。愛は彼の仕草に頷くことで応えた。
「さて。」
彼の姿が見えなくなると、先ほど彼がしていた様にどうしようかと改めて考える。
考えると言っても、愛にできることはあまりない上に限られている。であれば、と愛は自問する。
どうも何もすることがないのであれば、作ればいいのだが。
作る?何もないのに?
困った様子で、はぁ、と愛は息を吐く。
昨日はたまたま偶然にも『巨人』に早く出会えることが出来た。昨日、倒した『巨人』から何かしら情報を探ることはできるかもしれない。だが、昨日の『巨人』が倒れた場所には何も残ってはいなかった。・・・・・・・いや、残すことが出来なかったと言った方が正しいか。
『巨人』と同様に『異世界』から来た『シュツルム・アイゼン』も同じだが、この世界に適応していない不適合機体は残骸となってしまうと、自分がいたという記録、残骸を残すことは出来なくなってしまう。それは愛も同様である。ただ、愛と彼らの違いは独立して動けるか否か。ただそれだけの違いでしかない。
彼には何度も言ってはいるが、愛は『シュツルム・アイゼン』であり、『シュツルム・アイゼン』は彼女である。詰まる所、愛がいなくなったとしても、『シュツルム・アイゼン』がいる限りは愛が死ぬことはない。・・・・・いなくなる直前までの記憶を持つことが出来るかどうかは保証は出来ないが。
もし、そのようになった場合、彼はどうするだろうか。
悲しんでくれるか。
泣いてくれるか。
それとも、愛を忘れてしまうだろうか。
もし、そうなったら悲しいと愛は思うのと同時に嬉しくもある。
彼の足枷になることはないのだと思えるのだから。
「それでは如何しましょうか?」
愛は誰に言うでもなく、ただ呟く様に言った。
誰も愛の近くに人がいない、誰もいないその場所で。
「・・・・・・・・・・やべ。」
「あっ?どうした、手束。忘れ物か?」
いや、そうじゃない、と同級生の声に手を振って連人は否定する。
否定してみたところでその否定は否定でない様に連人は感じていた。
(愛との連絡手段どうすりゃいいのかを訊くのを忘れちまった。)
その時はその時か、と連人は気にしない様に脳内からその考えを振り払う様に左右に頭を振った。その連人の様子を見て、先ほど連人に質問した同級生はおかしなものを見るような目で蓮人を見ていた。だが、当の本人の蓮人はそんな目で見られているとは知らずに、クラスで話す教師の言葉に耳を傾けていた。
「え~・・・・・・・・・・、知ってる人もいるかもしれませんが、先日、陸上自衛隊の方で
教師の疑問の声に誰も手を挙げることはなかった。なぜかと訊かれれば、この質問は単に講義と何の関係もないただの雑談でしかない。手を挙げて答えを言ったところで単位にはならない。そのため、誰も答えることも挙げることもなかった。
だが、連人はそういう事情を知っていて手を挙げていた。
「はい、そこの・・・・・・・・えっと・・・・・・・誰でしたかね?」
「手束です。」
「はい、手束さん。言えますか?」
「はい。陸上自衛隊所属大型二足行動式特殊地域対応型特式機動兵器、改特式第三世代『閃炎』です。」
「そう、『閃炎』です。よく分かりましたね。座っていいですよ。」
座っていいと言われて、連人は座席に着く。
「よく言えるな、手束。」
「簡単だろ。」
よく名前が言えるという同級生の言葉に、何言ってるんだ、と連人は同級生に返した。そうしている内に講師の話は進んでいく。
「では、この『閃炎』の特徴を分かる人は誰かいますか?」
再び言う教師の質問に誰も手を挙げないことに連人は、おいおい、と抗議したくなる気持ちを抑えながら再び手を挙げる。
「それでは、・・・・・・・・はいどうぞ。」
「はい。陸上自衛隊で使われているどの機動兵器よりも耐久度があり長時間の戦闘でも戦える正しい意味での『汎用機』だというところです。」
「では、その正しいという意味について、分かりますか?」
「はい。『汎用式』として作られた第一世代『雷光』は『汎用式』ではありますが、速度が出せるだけで耐久度はそれほどありません。その点を考慮した第二世代『月光』は耐久度に目を置いて作られました。ですが、その影響からか第一世代ほどの速度を出すことはできませんでした。第三世代『閃光』は第一世代と第二世代の優秀な部分を生かすことを目的に作られはしましたが、その性能はいいと言えたものではありません。ですので、『汎用式』とは言えなくなったのです。」
「『汎用式』であるにも関わらずに、ですか?」
おいおい、もっと踏み込んで来いってか。
授業そっちのけで『汎用式』と言われていることについての議論になりつつある議題に他の生徒たちは付いていけていないのもいるのに話せと言う教師の言葉にツッコミたい気持ちを抑えながら続きを言う。
「はい。ですので、次に出来た機体は第四世代ではなく、特式第一世代と言われるようになりました。」
「『雷炎』ですね。」
「はい。しかし、『雷炎』は『雷光』と同じくとある欠陥を持ってしまったのです。」
「それは?」
「耐久度の低下です。ですが、第一世代『雷光』のデータが役に立ちパイロット、初操縦者の訓練用の機体に改善されました。」
「その次に作られたモノはご存じで?」
「第二世代機『月炎』のことですね。」
「それの問題点もご存知ですか?」
「はい。特式第二世代ではありますが、第二世代機『月光』と同じくしての機動力の極端な低下が上げられます。」
「では、『閃炎』も同様に使いにくいということになるのではないのでしょうか?」
まぁ、普通はそう思うよな、と声に出さずに連人は心の中で言った。
「いえ。『閃炎』はそれまでの第一世代から特式のデータを有用に扱い生まれた機体ですので、機動力と防御力に関しては本当の意味での『汎用式』として誕生したのです。これは大型二足行動式特殊地域対応型機動兵器の研究が進んでいる日本でしかありませんので、他国には『パワード・アーマー』のパの字もありません。」
「よくそこまでご存知ですね。」
「ははは、ありがとうございます。」
教師の言葉に素直に頷くことにすると、連人は早く座ることにした。
そうして席に座ると、誰かが蓮人の机を叩いたので、何事かと彼はそちらに視線を向ける。すると、そこには先程話した同級生が連人に手を向けていた。
「おい、手束。お前、よく知ってるな。」
「別に褒めるものでもないだろ。ネットで調べればなんでも載ってるからな。」
「だとしても、お前ほど調べようとは誰も思わないだろ。」
「はっ、冗談。笑おうにも笑えねぇ冗談だな。」
いやいや、冗談じゃねぇって。
同級生の言葉を無視する形で連人は視線を教師に向ける。
「先程、手束君から説明があった通り、今、日本では大型二足行動式特殊地域対応型機動兵器と呼ばれる『パワード・アーマー』が開発され、実地配備されています。・・・・・・・・とは言っても、『閃炎』は全国で配備されているわけではありませんけどね。」
それもすぐには全国に配備されると思いますがね。
「私はそれに詳しく教えることはできません。それに一介の大学の教師が知ることは出来ませんし、ね。今の日本は最新の技術をどう使うか、どう活かすか。それを日々研究していると言っても過言ではありません。」
何が言いたいのかと言うと。
「そういったモノが今のご時世では貴重に扱われているということです。」
つまり。
「それについての研究を題材にしてみれば如何か?と言いたいのです。そうすれば、多くの道が開けることでしょう。」
そういうことです。
そう言うと、話を終わらせる教師の言葉に連人はただ感心した様に思っていた。
(ま、そっちの方に興味を持つヤツは滅多にいないだろうけどな。)
先程のやり取りを思い出しながら、連人は冷静にそう思っていた。研究ということで『パワード・アーマー』に関して調べるなり勉強をしていれば路頭に迷うなど困ることはない、ということを言いたかったのだろう。だが、悲しいことにそれに興味を持って研究の題材にしようとする生徒は少ないだろう。興味は持つかもしれないが他にしたいことがあれば、そう言えばそういうことがあったな程度になってしまう。そういう連人もただ興味があって調べただけで将来の夢に繋げようとは思ってはいなかった。それ故に将来、自分が何をしているかなどと言う未来予想図には研究者という予想はなかった。
(最先端とは言っても『シュツルム・アイゼン』よりかは落ちるんだよな・・・・・・・・。)
地上を高速で移動することは出来ても姿を隠したり空中を飛ぶなどと言ったことはまだ卓上の理論の域であり実現には出来てはいない。いや、そもそも卓上にも上がっていないのかもしれないが。
とすれば、『シュツルム・アイゼン』をこちらに送って来た連中の技術力はこちらを遥かに凌駕していることなる。いや、異なる世界という並行世界を認識することが出来て、移動することもできるとなれば昨日戦った連中の技術力はこちらを遥かに凌駕している。
こちらはまだ『並行世界』なるものがあるかもしれないという段階でしか認識はできていない状態であり、スタート位置にもまだ立ってはいないのだ。それもあるかもしれないと定義されただけで、あるものとはまだ認識されてはいない。
されていたとしても、こちらの技術力よりもはるかに高度な文明など存在などしないというところから始まっているのだ。向こうとこちらでは立ち位置など比べようもない。もう立っている者とまだ立っていない者との差だ。
とすれば、『シュツルム・アイゼン』を送ってきた者はこの現状も予想していた場合も考えられなくもない。
(差とかあり過ぎて泣けてくるぜ・・・・・・。)
連人は誰にも言うことなく、ただため息を吐く。
ため息を吐いたところで現状がどういった状況なのか理解などは多くの者は出来てはいないだろう。それこそ、連人ただ一人なのかもしれない。
であれば、『シュツルム・アイゼン』という力を持っている蓮人はただ一人しか戦うことはできないということでもあった。それはかなり厳しいことだろうと予想が出来るのは容易いことでもあった。
そんなことを考えていると、突如として遠くの方で爆音が鳴り響くのが耳に届く。
「・・・・・・・・爆発っ!?」
「慌てないで!!慌てないでください!!」
突如として聞こえた爆音に教室内は逃げようとする生徒や教師の喧騒に包まれる。そうした教室で連人はただ一人冷静に現状を分析していた。
爆音が聞こえたということは、昨日の『巨人』の勢力が動きを見せたということだろう。そして、どれほど早くともここから近くにある陸上自衛隊の駐屯地である十九志野駐屯所までは距離がある。であれば、自衛隊が駆け付けてくるまで時間が掛かってしまうことを意味することになる。つまり、それまでは抵抗することも出来ずにただ死ぬことを意味する。
「冗談にしてはきついな・・・・・・・・・・・・。」
そう言うと、連人はやれやれ、重い腰を上げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます