3.訓練生
◆3ー3ー1
たづなは個室をあてがわれた。
疲れているのですぐに休みたいと申し出ると、ロタ達が色々と世話をやいてくれたのだ。
出された軽食をたいらげてシャワーをすませると、その夜は早々にベッドへもぐりこむ。
目を閉じるとたちまち、深い眠りに落ちていった。
翌朝。
まるでつい先ほど就寝したような気分だった。
学生服姿で部屋へやって来たロタの声に起こされてみるのだが、何やら様子がおかしい。
ロタ「タズナ、━━?
━━━、━━━━━♪」
たづな「えっ、何?」
ロタ「━━?
タズナ、━━━?」
たづな「いや、なに言ってるか分かんないんだけど……」
頭がおぼつかないままに問い返したが、どういうわけか彼女が日本語を話さなくなっていたのだ。
自分の名前以外をうまく聞き取れず、首をかしげてばかりのたづな。
向こうもこちらの言葉が分からず何か手ぶりを交えてきたが、それでも意思を読み取れそうにはなかった。
たづな「待って待って、わかった。
とりあえず起きるから、ちょっと待ってて……」
仕方なく、彼はベッドのかたわらに置いていたブーツに足をさし入れて立ち上がった。
【ピピピッ】
昨日、初めてこれをはいた時のように、効果音が鳴ってくつの内側がふくらみ、足をしっかりとくわえこむ。
【ピー ピー ピー】
完了の確認音がそれに続いて、例によってふわりと軽くなった。
ロタ「面白いね、そのブーツ」
たづな「……あれ?
やっぱ日本語しゃべれるじゃん、ロタ」
ロタ「にほんご?
何それ?」
たづな「…………あっ!
そういうことかぁ……!」
ロタ「…………?」
たづなは足もとを見下ろして、その答えを見出した。
しかし、祖父の発明というものは、想像をはるかに絶する代物であるらしい。
ロタ「どうしたの?」
たづな「このブーツ、じーちゃんが作ったんだ。
コレはくと、すごい高さまでジャンプできたり、氷を踏んづけてワープできたりするんだけどさ、たぶんそれ以外にも、外人と話ができる機能もあるみたいなんだよ。
ほら、今の俺らみたいにさ」
ロタ「それって、翻訳機能ってこと!?
きみのおじいさん、なんかすごいね!」
エイル「あら、それはとても興味深いことですわね♪」
かわいらしい声がしたほうを向くと、開いていた部屋の戸口に栗毛の少女が立っていた。
たづな「あ、えっと、エイル……だっけ?」
エイル「まあ、おぼえてくださいましたのね、うふふ♪
たづなさま、おはようございます♪」
たづな「お、おう、おはよう」
正直、たづなは彼女がロボットに乗っている姿を遠目に見ていただけで自信がなかったのだが、正確な名前を記憶していて助かった。
間近に見れば声柄からの印象どおり、とてもしとやかそうな少女だ。
そのエイルが両手を前で重ねてしずしずとした歩き方で部屋の中へ入ってきたので、いよいよ本当に名家のお嬢さまっぽく思えてしまう。
たづな「今日は2人とも、制服なんだな」
ロタ「ええ、昨日は操機実習だったから」
どちらもライトグレーのブレザータイプの学生服を着ていて、まるで中学生か高校生のような出で立ち。
ロタが上体をひねってモデルみたいなポーズをすると、短めのプリーツスカートがひらりと揺れた。
エイル「それにしても不思議ですわね。
あなたの国の科学力は、ずいぶんと高いようですが……」
ロタ「エイルは機械に目がないの。
ドラッシルの装備まで自作しちゃうくらいなのよ♪」
小腰をかがめてたづなのブーツを熱心にながめるエイルを横目に、ロタが相手にも聞こえるように小さくもない声で自慢げに耳打ちしてきた。
たづな「マジで!?
じゃあ、何か分からないかな。
これを使って家に帰る方法とかさ」
エイル「異世界にあるというあなたのお家ですわね。
絶対というわけではありませんが、わたくしにそれを解析させていただければ、あるいは……」
たづな「たのむ!
きっと今ごろ、あっちでは俺がいなくて大変なことになってる……。
なるべく早くもどりたいんだよ、助けてくれよ!」
たづなは懇願のあまりエイルの手を取って、彼女の鼻先まで迫った。
エイル「お……おまかせ下さい。
ではさっそく、わたくしのラボにご招待いたしましょう♪」
ロタ「待って待って!
たづなの入隊手続きが先でしょ!」
エイルはたのもしい言葉で応じてくれたが、その2人の間に割りこみつつロタが今日の予定を口にした。
こうしてたづなは、ダウンジャケットを羽織ると、一時的にもこの基地に身を置くため、少々面倒な手続きへと、2人の少女に連れられて部屋を出発したのである。
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