◆3ー5ー3
【ピピ──────】
たづなの網膜ディスプレイのターゲットコンテナは、すでにフリストの顔に赤く固定され甲高いシグナルを発していたのだった。
たづな「センメツ!!」
彼がアサルトライフルのトリガーを引く、まさにその刹那。
【バキバキバキバキッッ!!】
フリストの機体が尋常ではない音を立てて、ひねった腰部関節あたりから亀裂が走り、飛行中にあるうちにみるみる分解してゆく。
フリスト「ああああっ!!」
たづな「フリスト──!!」
亀裂はコクピットまで達して、搭乗者を空へと投げ出した。
彼女の体が人つぶてとなってたづなの足下を通り過ぎる。
たづなはとっさに持っていたものを放り出し、フリストを追う。
スカジのジェットエンジンが爆発を起こし、黒煙が2人を包みこむ。
爆風にあおられながらも、たづなは何とかフリストを背中から抱き止めることに成功した。
そのまま黒煙の中から脱出し、充分距離を取ってから空中に停止すると、直後にスカジの残がいが地面へ墜落して物すさまじい破砕音ともうもうたる土けむりを生じさせた。
乱れた呼吸を整えてみると、驚くほど近くにフリストのうなじがあった。
ロタ『ダイヴァージェンス……』
エイル『無理な荷重がかかったために、機体がもたなかったのですわ……2人とも、ご無事ですか?』
カーラ『大丈夫そうだよ♪
ほら、ちゃんと抱き合ってるじゃん♪』
たづな「はっ……!」
知らぬ間に自身の手が、もちろんハードグローブ越しにではあったが、フリストの胸や太ももを強くにぎりつけてしまっていた。
たづな「うわわっ……!
ちが、ごめん!
これは……!」
フリスト「フッ……気にするな。
自分はもう、貴様のものなのだぞ。
す……好きなようにすればよいのだ……」
たづな「お……おいおい……ι
そんなこと言われても……急に……ι」
フリスト「全く……自分がいやになる。
結局、戦士として認めてほしかったのは、自分のほうなのだ。
家族や親族に早く認めてほしくて、あせったあげくにテスト機体を持ち出してものの数分でつぶしてしまうのだから、未熟だったのはむしろこっち。
自分は負けた。
貴様になら、何をされても構わんよ……」
たづな「……何言ってんだよ。
決着なんてまだついてねぇじゃん。
どっちもペイント食らってないし。
次はいつも乗ってるヤツ使ってやろうぜ。
けっこう面白かったよ、サンキューな」
フリスト「サンキュウナ?」
たづなの最後の言葉は、ほん訳しきれなかったのかいまいち伝わらなかったようだ。
それでも、相手の顔を確認しようと向きを変えただけで口と口がくっつきそうな距離だったので、たづなはずっとそっぽを向いて地上への降下を開始した。
2人がほどなく無事に着地を果たすと、2機のフレイヤと携帯端末を持ったエイルが駆けつける。
生身となったフリストとたづなが騎兵式の礼を交わして、模擬戦と称した決闘を終了した。
ギャラリーからも自然と拍手がわき起こり、たづなは何とかやりとげたことを実感してすがすがしい気分になった。
廠舎のすみで、部外者らしき人物が電話かトランシーバーのようなものを使って誰かと交信していたようだが、この時は特に気にもしなかった。
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