◆3ー5ー2
フリスト『調子に乗るなよ、たづな。
たかだかキャノピーにヒビが入ったくらいで……!』
すでに銃口を下げていたたづなに、フリストが言う。
スカジのキャノピーが突然跳ね上がって開くと、彼女は自機の右腕でもってそれをつかんだ。
ロタ『フリスト……?』
カーラ『フリン、何する気?』
皆が注視する中、フリスト機はキャノピーを引きちぎってにぎりつぶし、そのまま下界へ投げ捨ててしまった。
たづなにも、その行為の意味は分かる。
落下したキャノピーが、地上の岩にぶつかって飛び散り、無数のガラス片をきらきらときらめかせた。
これでフリストの機体にペイント弾のペンキはない、つまりたづなの勝ちはなくなったと彼女は言いたいのだ。
フリスト「『本当の戦士なら、相手を確実に仕留めるまで闘え!
たづな、貴様は中途半端なままで終わっていいのか!』」
たづな「……!」
巨大なロボットの頭部からの彼女の肉声と、両ほほに貼った三角のシールからの音声とが重なって、たづなの耳に届いた。
もしかすると、彼女もまた、こちらと同じように決心を持ってこの決闘にのぞんでいたのかもしれない。
その決心がどのようなものだったのかまでは分からないが、今、二人がいだいている気持ちはきっと同じに違いなかった。
何ともあっけない決着に、感じた不満、物足りなさ、不完全への不安。
たづなもまた、この闘いで何かが変わるのではないかと期待してのぞんでいたのだから、彼は彼女の声に応える義務があろう。
真剣勝負を経て二人の思いは、共有できると知ったのだ。
たづな「……フッ、だよな」
たづなは下げていたアサルトライフルを再び両手に構え、適当な距離を保ちつつ開放されたコクピットに乗るフリストと空中で対峙する。
ロタ『たづな……?
もう勝敗は決したんだよ?』
カーラ『もういいよ、フリン!
終わろ、ね?』
2人の制止は、もはやたづな達には届かなかった。
たづな「いくぜっ、フリスト!」
フリスト「来いっ、たづな!」
叫び交わすと同時に、たづなはスラスターをめいっぱい吹かす。
敵機へ飛翔する間に左手で腰部アーマーからコンバットダガーを引き抜き、気合をかけて突進した。
たづな「はああああっ!」
その切っ先が、相手の胸部装甲に達しようというところで、スカジの機体の一部が外れてこちらの視界をふさいだ。
見れば前垂れとして下部に納まっていたくさび型のパーツ。
シールドかあるいは大剣か、たづなの身長の倍以上あるそれで彼の突撃が阻止されてしまったのだ。
たづな「くそっ……!」
柄や十字つばが確認できることから、おそらく得物のほうであろう。
その場を退きざまにたづながライフルを撃ちこんでみても、刀身で全て受け止められた。
黄色く染まる大剣を右手につかんでひと薙ぎし、軽くペンキをぬぐうと、火力を総動員して攻撃を再開するフリスト機。
たづなも負けじと、残り半分の弾丸と7発目のミサイルを惜しまずくり出す。
両者はともに、激しくぶつかった。
ロタ『もうっ!
2人とも、やめなよ!
実剣は認められてないのよ!』
ロタの悲痛な叫びも、他の誰の言葉も、たづなには意識の外だった。
おのおのの銃火器が発する音と訓練場上空に充満する火薬のにおいで、たづなの脳は一段階上の状態へと高揚していたのだ。
テレビゲームでいうところの、覚醒モードとでも呼ぶべきもの。
ただ迫りくる砲弾をかいくぐり、多弾頭ミサイルの追跡をまき、至近距離まで詰め寄って一撃を叩きこむ。
彼はその作業だけに全神経を集中させていた。
フリスト機のふところ近くまで入ってしまえば、残るはあの小憎たらしいまで巨大な鉄剣だけなのだから。
たづな「おおおおおお!!」
あと少し。
彼は今一度ダガーを突き出してフリストに突進する。
フリスト「同じ攻撃を……!」
【ギィィン!!】
渾身の一撃も、ダガーが突き刺したのは、大剣の横っ腹。
ただしこれは、たづなの作戦の内だった。
コンバットダガーを突き立てた直後に彼はそれをそのまま放り出し、同じく大剣の横っ腹を蹴って上空へと跳躍したのだ。
フリスト「なにっ!?」
驚くフリストの顔を自らの影でかすめ、彼女の頭上を飛び越えるたづな。
反対側に回りこんでアサルトライフルを構え、今度こそ本当に勝利を確信する。
フリスト「くっ……!」
すぐさま操縦桿をひねり起こして機体をこちらへねじ向けようとするフリストだったが、もはや遅い。
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