◆3ー1ー3
できるだけ暖かいかっこうをして玄関へやって来たたづなは、シューズボックスを開けて長ぐつを探した。
たづな「あっれ~、おっかしいなぁ、小せぇのしかないぞ。
父ちゃん、はいて行ったかな……。
あ、何だコレ……」
見たところ、幼稚園の頃にはいていた小児用のものしかなかったのだが、奥の奥からずいぶんゴツゴツしたブーツを探し当て、代わりにそれを手に取った。
たづな「お……重っ!
ああ、じーちゃんの発明品だなぁ……。
こんなトコに置いとくなよな」
たづなの祖父は発明家という者であった。
ややこしい事情などはたづなには分からなかったのだが、完全ほん訳機なるものや、シール型の補聴器、あるいは力持ちになるスーツなどといったものを発明して県から賞をもらったりと、本格的なことをやっているのだった。
だからこそ、たづなは自分が手にしたこれも、その何らかの発明品であるらしいことを簡単に予想できたのだ。
雪道を歩く用途ではないようであったが、ものは試しと彼は玄関の上がり端に腰かけて、ずいぶん重々しいそのブーツをはいてみた。
たづな「よっ……と、入った!
……ん?
なんだ?」
【ピピピッ】
機械的な効果音が聞こえ、くつの内側が急にふくれてこちらの足に吸い付くように固定される。
何やら中で計算でもしているらしいノイズが続き、
【ピー ピー ピー】
最後に準備完了とばかり、再び効果音が鳴った。
たづな「うーん、特に変わった所は……。
あ、軽い!!」
驚いたことに、両足を持ち上げてはき心地を確認してみると、それまでバカに重かったブーツは、うそのようにとても軽くなっていたのだ。
たづな「あ……はは、これ、マジですごいんじゃねぇ?」
たづなは何だか体まで軽くなった気がして、元気よく立ち上がってみた。
玄関口を飛び出して、軽く走ってもみれば、本当に空も飛べそうな気分になった。
全くもって不思議なことではあったが、勢いをつけてジャンプすると、彼の体は家の屋根の高さまで達してしまった。
とび上がる瞬間にブーツのラインが光を放ち、くつ底から何か推力となるようなものを噴射しているらしかった。
たづな「う──おほほぉうっ!!」
興奮のあまり、彼は思わず奇声を発する。
とはいえ、民家がまばらで大雪をかぶった田畑が広がるばかりのこの町には、こちらの声に驚く人も迷惑がる人もいないのだが。
ちらつく雪が容赦なくほほを打ち、冷たい風が顔面を切りつけてきても、高揚した彼の心は押しとどめがたかった。
着地の際もふわりと軽く、まるで体重というものが無くなったみたいだ。
たづな「あははっ!
すげー、コレすげーよ!」
ますます調子づいて、たづなはハイジャンプを続けた。
もっと高く、もっと遠くと、くり返す。
慣れてくればしめたもので、家の前の通りを祖父のアトリエがある山に向かって進み始め、ものの数分でそく転やとんぼ返りといった技まで身につけてしまっていた。
山林にさしかかり、すっかりこなれた足さばきで舗装された山道をとび進む。
雪持ちの木々と、雪雲におおわれた空に、少年の楽しげな声が響き渡る。
路肩に積もった雪に爆発する足跡を刻みつけるのが、ことのほか面白い。
やがて道のり半ばの路上に、大きめの水たまりが凍っているのが見えてきて、それを目がけてまたジャンプした。
全く何の考えもなく、ただの好奇心、このブーツで地面に張った氷を踏み割ると、どれほどきれいに飛び散るのだろう。
何のこともない、ただそれだけの思いつきだったのだ。
だが、いざその氷を踏みつけてみて、すぐさま後悔するはめになってしまった。
【パァン!!】
たづな「うわっ……!」
なんと、氷と思っていたのは水たまりのごく薄い表面だけで、彼は着地と同時にその氷を踏み抜いたのだった。
下は氷水、と即座に予測して目を閉じ身をこわ張らせるが、どういう訳か着水の時に生じるはずの抵抗が全く無かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます