◆3ー1ー2

 

 ずいぶん寒い地方に住んでいて、3月に入っても雪勝ちのために、休日でありながら自室でゲームなどをして過ごすくらいしかないのだ。

 

片田舎とまではいかないが、大した遊びができるほどの人数を集めるのにも苦労する、というくらいには過疎化が進んでいる町。

 

 彼はそんな町においては少々まれな、都会じみた子供でもあった。

 

やや伸び気味の天然茶髪ははねが多くて挑戦的な髪型であったし、大きく輝かしい瞳もきりりとしたまゆも丸みを残しつつ大人びてゆく顔のりんかくも、幼稚さやどろ臭さがあまり感じられない。

 

本人は特に意識しているわけではないのだが、最新のゲーム機や様々の家電にあふれたこの家を、都会の暮らしとうらやむ友だちもいることは確かであった。

 

 だがそんな彼も、4月が近付くにつれてどうにも落ち着きがなくなってくるほど、精神の部分では確かに子供であるのだ。

 

それというのも、

 

 

母「まだゲームしてたのかい?

朝からずっとゲームばっかりじゃないの。

もうすぐ中学生なんだから、だらだらしてちゃダメよ」

 

 

 開けっ放しのドアに山盛りの洗たくカゴをかかえて現れたたづなの母が、言った言葉がその理由。

 

ことあるごとに“もうすぐ中学生なんだから”を連呼され、望んでもいない中学校とやらにまるで当然のようにありがたがって入学すると思われているのだから面白くない。

 

 そういった最近の母の口ぶりにうんざりし、また、中学という得体の知れない学校への怖さのために、彼は中学校に上がることを極端に不安がっていたのだった。

 

 

母「分かったら、おじいちゃんの様子を見に行ってちょうだい。

もう一週間も“向こう”にこもりっきりみたいなのよ……」

 

 

たづな「ええ~、雪降ってんじゃん。

寒ぃよ~……」

 

 

 母の命令に、たづなは床に座ったままベッドのへりに背中をもたせかけ、あごをしゃくって何ともだらしなく抵抗をしてみせた。

 

 

母「行きなさいっ!」

 

 

たづな「……ちぇ」

 

 

 長い髪をひっつめ、かんろくのあるまなざしをむき出しにした母に一喝されて、たづなはしぶしぶゲーム機を片付けにかかった。

 

テレビを消して壁にかかったダウンジャケットに手を伸ばし、それを羽織り始めたところで、母が“けっこう”とうなずいて下階へと降りてゆく。

 

時計は2時を示していた。

 

 “もうすぐ中学生なんだから”

 

またしても母の言葉が脳裏に浮かび、たづなの胸をさらにしめつけた。

 

中学とはどのような所なのだろう。

 

仲の良い友達と、離ればなれになるのではないだろうか。

 

きびしい先生や上級生がいるのではないだろうか。

 

むずかしい授業が待ち構えているのではないか。

 

不安を数え上げれば、きりがなかった。

 

それでも来月には、強制的に入学式を迎えなくてはならないのだ。

 

 義務教育という未だによく理解しきれていない言葉をうらめしく思いながら、逃げ出したい気持ちを一心におさえる彼であった。

 

 

 

 

 

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