◆旭光のフィラクタリ

1.薄氷を踏み越えて

◆3ー1ー1

 

 

 

 機関砲と爆弾の遠音。

 

砂けむりと黒煙が混じって、にぶくかすむ空。

 

破壊し尽くされたビル群。

 

そこは戦場だった。

 

 

通信『北西から敵機接近。

数、12』

 

 

たづな「来たか……」

 

 

 スピーカーから聞こえた女性オペレーターの声に、彼は操縦桿をにぎりしめて、にやりとほほ笑む。

 

かわき切った戦場に投入されたのは、たった一機、あるいは一人、弱冠12才の少年兵、たづなだった。

 

そして、彼が乗りこんでいるのが、科学技術の粋を集めて作られた、大型ヒューマノイド戦闘用機兵、いわゆるロボットだ。

 

 崩れかけたビルの屋上に、クラウチングスタートのかっこうで今はただ静かに待機しているのだった。

 

右手にはアサルトライフル、左腕にはバックラー、バックパックには8基の高性能ミサイルとコンバットナイフを装備。

 

もちろん全て、全高12メートルのこの機に合わせたサイズのものである。

 

 やがて砂けむりに、巨人の影がうっすら浮かび上がる。

 

それが接近してきた敵機なのであろうことを確認して、たづなはビルの屋上を飛び出した。

 

機体の下部に設けられたいくつかのロケットブースターが火を噴き、機体をはるか上空へと運ぶ。

 

 こちらに気付いた敵機らが、あわてた様子で発砲してくる。

 

たづなは桿をすばやく倒して、敵弾を軽やかにかわしてゆく。

 

まるで気まぐれのように、時おりアサルトライフルの銃口をさし伸べてトリガーを引くと、地上で面白いように炎が上がった。

 

 彼は敵機の上部装甲が極めて薄いことを知っている。

 

むろん、それを見越して上空から攻撃を仕掛けたのだから、砂けむりにまぎれて姿もはっきりと見えぬ間に3つの機影が早くも燃えて飛び散ったとしても、何ら不思議ではないのだった。

 

 攻撃の手はゆるめない。

 

ばら弾を撃ちつなぎつつ、絶好のポジションへとおどり上がって8つの敵影をマルチロックする。

 

ディスプレイのターゲットコンテナが赤に変わって固定されるたびに電子音が鳴り、フルロックオンに達したところでミサイルボタンを押しこむ。

 

 

たづな「センメツ!!」

 

 

 バックパックからいっせいに下界へと放たれた8発のミサイルは、けたたましい切り裂き音を生じさせてそれぞれの目標へ翔てゆく。

 

直後、着弾したものから順々に炸裂して、全部で8つの閃光と轟音をにごった空にどよもした。

 

 敵機をほうむるごとに、ディスプレイに浮かび上がる“DESTROY!”の文字。

 

すかさず爆煙にまぎれこみ、市街地のど真ん中に降り立つと、着地先にいた残り一機へと、たづなは流れるように取り出したコンバットナイフを突き立てた。

 

六脚型攻撃用機兵、くものような脚まわりに、人の上半身がくっついた姿の大型ロボット、それが敵兵の正体だった。

 

 

たづな「ふ……楽勝!」

 

 

 左のどくびから胸奥のコクピットまで、ずぶりと突き刺していたコンバットナイフを引き抜くと、動きの止まった敵機は盛大に爆発してその機体を四散させた。

 

というところで突然、派手なファンファーレが鳴り響き、画面上に“MISSION COMPLETE!”の文字がでかでかと表示される。

 

 

たづな「……っしゃー!

これでハードモードもクリアだぜ!」

 

 

 彼はコントローラを片手に、テレビ画面に向かってかちどきを上げた。

 

つまるところ、ここまでの戦いは全てゲームの中の出来事であったというわけだ。

 

たづなももちろん少年兵などではなく、来月から中学校へ通うことになっているごく当たり前の、全く立派な日本人小学生であった。

 

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