◆3ー1ー4
そのまま彼は、水たまりの中へと落下していったのである。
一度はきつく両目を閉じたものの、すぐさま見開いて何が起こったのかを確認する。
たづな「ぅ……ぅぅうおおおおお──!!」
今度は興奮からではなく、恐怖から悲鳴を上げなくてはならなかった。
いったい何の冗談か、あるいは夢か。
気付くとそこは雲の上で、すでにトップスピードで落下中という状況であったのだ。
もしやと思い、首をねじったり体をひねったりしてどうにか後方を確認してみると、星空と青空が混在する高々空に、ひとつの穴が開いていた。
どうやらそこから落ちてきたらしいのだが、右手を伸ばしても届くはずはなく、さらに絶望的なことには雪をちらちら吐き出すその穴は、見る間に小さく縮んでいって、とうとうかき消えてしまったのだった。
たづな(い……息ができない……。
しぬしぬしぬしぬしぬ!!)
目を半分も開けてはいられず、手足をばたつかせても自由落下を止めることは当然できない。
ほどなく厚い雲に突入して、視野が暗くなってきた。
たづな「……っかは!
くっ……はっく……!」
自分のだ液を気管のほうへ入れてしまい、自由のきかないまま目を白黒させてせきをしようとする。
やがて雲が切れ、一挙に視界がひらけた。
海だ。
眼下に広がる大海を見据えて、いよいよ自分の命運も尽きるのか、と、にわかに死を覚悟する。
最後のあがきと何とか体勢を整えて着水に備えようと、望み薄と知りながら両足を踏んばってもみる。
【ガッ!!】
そのすぐ後、くつ底が足場らしきにぶつかって、さらに強い衝撃のためにその足場が大きく下に落ちこんだ。
理由は心底分からなかったが、とにかくたづなは、奇跡的にどうにか無事に着地しおおせたのである。
クマか何かが、つまずいてすっ転んだような奇妙な鳴き声がした。
たづな「ぐっ……ごほっ、ごほっ、ごほっ!」
よろめいてその場に両手をつく。
突っ伏したまま視線を左右に走らせてみれば、どうやらそこはまだ地上ではないらしいことが分かる。
見たままを言葉にしてみるならば、彼が足場としていた所はなんとも巨大な鳥の頭で、眼前をふさぐ2つの黒い翼が今しも力を失ってしなる途中であった。
たづな「はっ?
えっ、えっ?
ちょっ、何だコレ!?」
イヤな予感がして用心して立ち上がってみるものの、たづなを頭に乗せていた怪鳥が即座に落下を始める。
たづな「わわわわわ!
落ちる、落ちる!
たすけて、助けてっ!!」
他にどうしようもなくなって叫び声を上げると、取り乱した彼は助かりたい一心で上空へとジャンプする。
自分が落ちてきた方向にせいいっぱい手を伸ばし、何かつかめるものはないかと、あろうはずもないものを必死の思いで探し続ける。
たづな「……はっ!」
不意に、右手の平に感触があった。
触れた瞬間、離してなるものかとその手に力をこめるが、見ればそれは人の手だった。
にぎり返してきた手のもとのほうを視線でたどってゆくにつれて、たづなは両目を大きく見開く。
落ちゆくたづなを救ったのは、巨大なロボットの操縦席から身を乗り出した、彼よりもまだ幼いブロンドの少女だったのだ。
少女「つかまえた……!
わたしの、エインヘリヤル!」
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