2.スヴァルトスの戦士たち

◆3ー2ー1

 

 

 

 全高だけで5、6メートルはあろうか、父が乗っているミニバンを縦にしてもまだ大きいらしかったので、だいたいそのくらいだ。

 

少女の乗るロボットは、ちょうどテレビゲームに出てくるような人間型をしていて、脚部から飛行翼が張り出し、頭部に相当する部分が戦闘機のコクピットとなっていた。

 

彼女はそのキャノピーを後ろに跳ね上げ、バイクのシートのようになった操縦席に前傾姿勢でまたがって、こちらに手を伸ばしていたのだった。

 

 

たづな「……っはぁ、はぁ、はぁっ……」

 

 

 何が起こったのかを把握しようと、まだ激しい呼吸もおさまらぬまま、周りを見回してみる。

 

気付けば、高い音程のジェット音が耳の端で捉える程度に鳴っていて、この空域にこの少女のものを合わせて足底から火を噴く4機のロボットが浮かんでいることを確認できた。

 

 下界で水柱が上がる音がしたので、そのままの体勢ですぐさま見下ろしてみる。

 

底から噴射物を噴射し続けるブーツの向こう、はるか眼下で今しがた彼が脳天を踏みつけた巨大な生き物が、にぶく光る海に墜落したところだった。

 

 奇怪で恐ろしいことには、大わしの姿をしたその生き物の周りがみる間に白く泡立ち、そいつを波が飲みこもうとしている。

 

海がふっとうしているというのか、生き物はやがて死がいとなり、骨を半ば露出して溶けて沈んでいった。

 

 あと少しで自分もそうなる運命であったことを恐怖して、たづなはつばを飲みこんだ。

 

手をつかんでくれた少女へ目を戻して、冷や汗をひたいににじませながら感謝で胸をいっぱいにした。

 

 

たづな「はぁっ、はぁっ、あ……ありがとう……」

 

 

少女「ふふ♪」

 

 

 彼女はにこりと笑って、こちらの手をにぎらぬほうの手で操縦桿を軽く引き起こした。

 

前のめりであった機体が反り身になって、たづなが足をかけやすい体勢となる。

 

機の胸もとに当たる部分にひざをついて足を安定させてから、彼はあらためて少女を確かめた。

 

 目測でいうと、10才くらいの女の子。

 

ブロンドのさらさらした髪は長く、腰のほうまである。

 

つぶらな黒い瞳が、何か期待に輝いてこちらをまっすぐ見つめている。

 

白のライダースーツの上に深い青のショートジャケットを羽織っていて、まるで軍人のような出で立ちだった。

 

たづな「お前……外人なの?」

 

 

少女「ガイジン?

何それ?

わたし、ロタ、よろしくね!」

 

 

 初対面に、もっと他にかけるべき言葉があったのだろうが、今のたづなが思い付けるのはせいぜいそんなセリフだった。

 

それでもブロンドの少女、ロタは明るい笑顔を崩さず名乗った。

 

 

たづな「俺……たづな。

ココって何?

なんでお前、ロボットなんかに乗ってんの?」

 

 

ロタ「たづな?

もしかして、ヨートゥンヘイムから来たの?

ロボットって何?

この子はフレイヤ、ヴァナドラッシルの最新型よ♪」

 

 

 口早に、まとめきれず問いかけてみたが、返ってきたロタの回答は聞いたこともない名前ばかりでよく分からなかった。

 

そのうちに、彼女の機と同じ型のロボットに乗った別の2人の少女がすぐそばまで滑空してきて、同じようにキャノピーを跳ね上げて声をかけてきた。

 

 先にやって来たのは赤毛をツインテールにした女の子だった。

 

 

赤毛「なになに?

あんた、エインヘリヤルなの?

巨人族?

もしかして、神族?」

 

 

ロタ「カーラ、この人、たづなっていうんだって」

 

 

 興味深げにくりくりとした大きな瞳をきらめかせて、赤毛の少女は自機から首を伸ばしてこちらを見やった。

 

代わりに応対してくれたロタの言葉から、その少女はどうやらカーラという名のようだ。

 

 次にやって来たのは銀髪を一つ結びにした、どこか大人びた雰囲気のある少女だった。

 

 

銀髪「天上から来たのではないか?

巨人族というにはまだ小さめのようだが……」

 

 

ロタ「彼女はフリストよ」

 

 

 とても落ち着いた様子で操縦席にまたがって、その少女、フリストが言った。

 

すずしげな目もとときりりとしたまゆに、年下とは思えないほどの品格すら感じられる少女だ。

 

 最後に彼女ら2人の後ろから、何やら大型トラックの荷台部分が至極ゆっくりと接近してきた。

 

ずいぶん大きい荷台は左右に設けられた合わせて4つのマルチローターによって浮揚していて、よくよく見ればその向こう側にまた違った型のロボットが荷台を押すような形で取り付いていた。

 

コクピットから手を振る栗毛の少女が確認できた。

 

 

ロタ「あの子はエイル。

バスケットのヘルヴォルよ」

 

 

通信『よろしくお願いいたしますわ~』

 

 

 こちらもまたロタが紹介をすませると、操縦席のパネル部分から、何ともかわいらしくおっとりとした声が聞こえた。

 

こんな幼い子供達が、こんな巨大なロボットを操っているなど、たづなにとってはとても衝撃的であった。

 

日本の地下にこのような世界が広がっていたことも衝撃的ではあったが、彼はどうにもこんな時になすべきことが思い付けない。

 

 

たづな「なぁ、ロタ。

上まで乗せてってくれない?

じーちゃんの家に行く途中なんだよ」

 

 

 とりあえず用事を思い出して助けを求めてみたが、自分で言ってその要求は無理なのであろうことを何となく悟ってしまった。

 

 

ロタ「上?

ドラッシルでも、天上へは行けないわ。

空気がないから飛べないもの」

 

 

たづな「マ……マジで……。

じゃあ、ミヤマ町までの電車……って、あるわけないよなぁ、なんか全然違う場所に来たって感じがするもんなぁ……。

ああ、ちょっともうなんにも分からなくなってきた……」

 

 

ロタ「どうしたの、たづな?

大丈夫?」

 

 

 あまりに突拍子もない今のこの状況に、理解しようとすればするほど、ますますさらに混乱してしまうたづなであった。

 

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