◆3ー2ー2

 

フリスト「さておき、まずは礼を言わねばなるまい。

我々は貴様に救われたのだ、ありがとう、戦士たづな」

 

 

カーラ「そうそう!

フレズヴェルグを一発でやっちゃうなんて、あんた、すごいじゃん!

しかもキック、あはは!」

 

 

たづな「フレズ……何?」

 

 

ロタ「フレズヴェルグ、さっききみが倒してくれた魔物よ。

この辺で遭遇したのは初めてだったんだけど……」

 

 

 言われてたづなは再び下界を見下ろす。

 

あの巨大な鳥の姿はすでになく、わずかばかりの泡がそいつの痕跡として海面に浮かんでいるだけだ。

 

【ピピピ】

 

 と、3つのコクピットからほぼ同時に、何かを知らせる電子音が鳴った。

 

 

カーラ「ハッ……!

当たり!」

 

 

フリスト「ようやくだな」

 

 

ロタ「やった!」

 

 

 にわかにあわただしくなって、カーラとフリストが操縦席に座り直してキャノピーを閉じると、ただちに散開していった。

 

 

ロタ「たづな、キャノピー閉めるから、その上に座ってくれない?

きみのおかげで安全に回収できるわ♪」

 

 

たづな「かいしゅう……?」

 

 

 たづなはロタ機の肩部にひとまず待避し、キャノピーが降りてからその上へ指示通りにまたがった。

 

ちょうど両手の先に持ち手があったので、急な挙動で振り落とされずにはすみそうだ。

 

 持ち手をしっかりつかんで腰を落ち着けてみれば、眺めも良好で360°見渡すことができた。

 

ただ、頭上には雨雲が、足下にはにび色の海が広がって、その両方がにじんで水平線も隠されていたのだが。

 

 

ロタ「さぁ、行くわよ!」

 

 

たづな「えっ、……ぅわっ!」

 

 

 キャノピー越しにロタが声をかけて機体を動かしたので、たづなはひどい揺れに上体を大きく前後しなければならなかった。

 

4人の機体はフォーメーションを組んで慎重に上昇してゆく。

 

雲足が触れそうな位置にまでやって来ると、その場で滞空を始めて何かを待った。

 

 しばらくすると、見上げた雲の中のほうで稲光が走り、まだ静かなくらいの雷鳴が起こる。

 

【バチッ……】

 

 かみなり雲の真下にいるにしては、何ともぱっとしないかみなりだ。

 

【バチッ……バチバチッ】

 

 それは次々に起こり、割と広い範囲にまでおよんだが、たづなが経験したことのある雷雨と比べると、全くもっておだやかそのものであった。

 

【バチバチッ……バチッ……バチバチバチッ】

 

 やがて連続的になると、雲を突き破って青白い何らかの塊が落下してきた。

 

 

ロタ「来たわよっ!」

 

 

 落下速度としてはそれほど速くなく、その奇妙な形状を目で捉えられるくらいにはゆっくり気味。

 

下部は下にとがった実や種のよう。

 

上部からは枝分かれしたいくつもの羽根らしきもの。

 

 ほのかに発光するそれは、まるで本当に木から落ちる種子のような物体、あるいは鉱物のようであった。

 

 

フリスト『右側はまかせろ』

 

 

カーラ『じゃあ、あたし左行ってくるねー♪』

 

 

 スピーカーから2人の声が聞こえると、驚いたことに彼女らの機体が変形を始めてしまった。

 

空中で直立した状態から各部位がこまやかにずれ動く。

 

胸部装甲の中央からノーズコーンがせり出し、それと連動してコクピット内部が前傾座式から後傾座式に移行する。

 

上体が反るように上を向くと、背面にあった燃料タンクらしき長方体の部位が両腕部と両脚部にはさみこまれるかっこうで直結、固定される。

 

 終わってみればカナードと前進翼に、2枚の垂直尾翼を備えた、かなり先鋭的な形状の戦闘機となっていた。

 

 

たづな「す……すげー!!」

 

 

ロタ「ふふふ♪

たづなって、子供みたい♪」

 

 

 双発のジェットエンジンがけたたましい爆音をとどろかせて、空中発進をやってのけた2機は左右に分かれて飛んでいった。

 

すさまじいスピードで飛行し、落下物のそばまでたどり着くと、さっきとは逆の手順で変形し、再び人型へと戻る。

 

その物体を機体の両腕でつかみ取ると、今度はそのままホバリングによって水平飛行し、エイルという少女が操縦する機の荷台へと運んでいった。

 

 しばらくしてたづな達の近くにも物体が落下してきたので、ロタは機体を動かしてそれをつかみにかかった。

 

 

ロタ「天上ではどうか知らないんだけど、

これは“フィラクタリ”っていうものよ♪」

 

 

 キャノピーの上にまたがるたづなが見やすい位置でかかげて、ロタがほこらかに言った。

 

 

ロタ「わたし達はこれで生活しているの。

フィラクタリはとてつもなく大きなエネルギーの塊。

フィラクタリで街の電気を作って、いろんな機械を動かして、さまざまなものを製造してる。

もちろん、この子、フレイヤの動力も、フィラクタリなのよ。

これのおかげで、わたし達の国は豊かになることができたの……。

さわっちゃダメよ!

素手でさわると、熱反応して手が溶けちゃうから」

 

 

 片手を伸ばして触れてみようとしていたたづなは、彼女の制止であわててその手を引っこめた。

 

 

ロタ「……ねぇ、たづな。

もし良かったらだけど、基地まで一緒に来ない?」

 

 

たづな「行っていいの?」

 

 

ロタ「もちろん!」

 

 

たづな「すっげー助かる!」

 

 

 3機はせっせと仕事を続けた。

 

やがて落下してくるフィラクタリも止み、浮揚する荷台がいっぱいになると、一行は基地とやらへの帰路についた。

 

ロタ機を最後尾に、フィラクタリを満載した荷台を中心にして編隊を組みつつ、みな人型ロボットのまま飛行する。

 

 目的地へ向かう途中、たづなは彼女らから日本とは全く違ったその生活ぶりをたくさん聞くことができた。

 

たとえば、この世界では雨雲の中からフィラクタリが産まれ、それを回収するためにヴァナドラッシルと呼ばれる飛行型ロボットが開発されたこと。

 

なぜなら、先ほどたづなが偶然にも踏みつけて倒した巨大な鳥・フレズヴェルグなどといった怪物に対抗しなくてはならないからだった。

 

 全員この若さで軍学校に入学して、フィラクタリを回収する兵科に所属しているということだ。

 

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