◆3ー2ー3

 

どうやらたづなの住む世界とはだいぶ勝手が違うらしい。

 

 

通信『こちらシグルーン基地、レギンレイヴ小隊、確認しました』

 

 

 陸が近付いてきて、“エインなんとか”をロタにたずねようとしたが、基地からのものと思しき通信のためにそれはさえぎられた。

 

 

ロタ「こちらレギンレイヴ小隊。

ポイントデルタのフィラクタリ回収に成功しました。

バスケットは満載です」

 

 

 ロタが返信に応じると、コクピット内に大勢の歓声があふれ出た。

 

あまりに多くの声を拾ったためにスピーカーが割れそうにもなったが、聞いた限りではみな女性のものらしく、それもどこか幼げであった。

 

 

通信『シグルーン了解しました。

やったわね、ロタ!』

 

 

ロタ「ええ、それと、実はお客さんもいるのよ♪

今一緒にそっちへ向かってる所なの」

 

 

通信『お客さん?』

 

 

ロタ「そうなの、天上から来たそうよ。

ごちそうを用意しておいてね」

 

 

通信『分かった、まかせておいて。

交信終了──』

 

 

 たづなのことを紹介したところで何かはやすような声が混じり、通信は終了した。

 

気が付くと、もうずいぶんと空は暗く、街のものらしき細かな光が目前にせまっていた。

 

 その手前の海食崖に巨大な施設が建てられているのが見えて、一行は海に突き出た3本の滑走路へと降下を始めたのである。

 

どうやらここが、彼女らの基地ということらしい。

 

 

ロタ「こちらレギンレイヴ小隊。

スカルモルドでの着陸許可願います」

 

 

通信『3番滑走路への着陸を許可します。

ヘルヴォルを先頭に降りて来てください』

 

 

 指示されて、右端の滑走路へ、フィラクタリをいっぱいにした荷台を前にしてエイル機から順繰りに着陸していった。

 

最後にたづなが乗ったロタ機が、滑走路奥の格納庫らしき場所へ降り着くと、待ち構えていた大勢の少女達が黄色い声を上げた。

 

 

ロタ「たづな、降りれる?」

 

 

たづな「ああ、ごめん、今降りる……」

 

 

 長いこと座りっ放しであった彼の足は軽くしびれていたものの、ひざまずいた姿勢のロボットをそろそろと降りるのはそれほど苦労しなかった。

 

出迎えていたのはロタと同じ服装に身を包んだ同僚たちらしく、やはり女の子しかいないようだ。

 

 

ロタ「来て、教官に紹介するわ」

 

 

 頭上から飛び降りて、こちらの眼前にさっそうと着地し言ったロタ。

 

腕をかっさらわれて彼女に連れられてゆくと、一人だけ色が違う服を着ている女の前に、4人とたづなが整列した。

 

 

ロタ「レギンレイヴ小隊、ただいま帰投しました。

全員無事です」

 

 

教官「はい、おかえりなさい。

貴方がお客さんね、ようこそスヴァルトス国へ」

 

 

たづな「あ、こんばんわ。

俺、たづな……」

 

 

 教官と呼ばれている者でさえ、たづなよりも頭半分ほど低い身長であったので、彼は何とも奇妙な気分になった。

 

教官といえば先生だ。

 

小学校の先生でも、皆大人で長身だったし、背の順で割と後方のたづなが背伸びをしたとしても、まだ見上げなければならない人ばかりであった。

 

それが、今ではこちらが見下ろす側なのだから、どうにも落ち着けない気分になる。

 

 

教官「私達は貴方を歓迎します。

さっそくだけど、私と一緒に来てちょうだい。

入国するのに色々と手続きがありますからね。

他の人は回収したフィラクタリの搬入作業お願いね」

 

 

一同「はい!」

 

 

ロタ「…………」

 

 

 軍帽を斜めにかぶった鋭い目つきの教官の命に、一同は元気よくうなずいたが、ロタだけは何か心配事がありそうな顔を浮かべていた。

 

ちらりと目に触れただけであったが、彼女のそんな顔を見ただけでたづなも気がかりを覚えてしまう。

 

 いそいそと作業に取りかかった少女らをよけ、彼は言われるままに教官について建物の奥へと入っていった。

 

 

 

 

 

 殺風景な廊下を前後に並んで歩いた。

 

ずいぶん奥のほうまで連れられて来たが、窓が全く無くて誰ともすれ違わなかったので、少々窮屈でもありさびしさを感じる所でもある。

 

 

教官「さ、こっちよ」

 

 

 一つのドアを開けながら、こちらを振り向いて彼女が声をかけた。

 

たづなはあとに続いて、教官とともにその部屋へと入った。

 

 中は薬品のにおいがたちこめていて、医療室といった場所のようだ。

 

 

教官「そこに座って」

 

 

たづな「うん……」

 

 

 うながされて丸イスにたづなが腰かけると、教官はガラス戸棚を探して何かの道具と薬品を手にした。

 

 

教官「一応、予防接種を受けてもらいます。

この国へは初めてでしょう?」

 

 

たづな「ええっ!?

注射すんの!?

やだよー、俺、注射キライなんだよー!」

 

 

教官「子供みたいなことを言うのね。

これを受けなければ、入国は許可できませんよ?」

 

 

たづな「えええ──……」

 

 

 彼女がガンタイプの注射器に小さなビンをセットしつつこちらへやって来たので、たづなはしぶしぶダウンジャケットごと腕をまくった。

 

 

教官「……ん?

首すじにするんだけど……」

 

 

たづな「えっ!?

くびにっ!?

やだよ、こわいよ!」

 

 

教官「…………」

 

 

 たづなが嫌がって両手で耳の下辺りを隠すと、彼女は注射器を持ったまま深く考えこむしぐさをした。

 

しばらくして、

 

 

教官「……ねぇ、貴方。

歳はいくつなの?」

 

 

たづな「12才だけど……?

せめて肩とかにしてくれない?

肩だったらまだマシだから……」

 

 

教官「12歳……!?

子供じゃないっ」

 

 

 たづなの回答に、質問をよこした教官のほうがひどく驚いていた。

 

 

教官「本当に……?

そう、まだ子供なのね……」

 

 

 彼女はさらに注射器を後ろ手に隠すようにしてあとずさりし、診察机の上にコトリとそれを落とした。

 

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