◆3ー3ー3
次の日はついに、この世界式の授業を受けられることとなった。
といっても、教室で生徒机を並べて教だんに立つ先生に教わるという様式はこちらでも変わらないようだ。
朝、転校生の要領でたづなが生徒達に紹介されると、目立った混乱もなくおだやかに始業となった。
編入されたクラスには知っている4人の他に、12人の個性ゆたかな髪型と髪色をした女子ばかりがいて、たづなは親しみをもって迎え入れられた。
それも、クラスメイトどうしで事前に情報が共有されていたらしく、良くも悪くも彼の素性はかなりくわしいところまで広まっていたのである。
肝心の授業はといえば、読めない文字と難しい数式らしき記号のら列を前方の壁に固定された大きなホワイトボードに書かれ、内容こそ分からなかったものの、たづなにとっては全てが新鮮で興味深いものに思えた。
来月通うことになっている中学校での授業も、こんな感じなのだろうか。
一時限目、二時限目と、ホワイトボードとテキストを用いての、たづなの世界でもよく見られる授業風景が続いたが、三・四時限目の操機実習という教科では、一昨日に実施された実習訓練の成果発表を行った。
つまりは、その実習訓練中にたづなは彼女らと出会い、今ここにいるというわけだ。
訓練はロボットに乗りこんだ4人一組の小隊ごとに実施され、フィラクタリ出現ポイント予測に従ってそれぞれの空域へ向かい、あの物体を回収し戻ってくるというものだった。
クラスには合わせて4組の小隊があったが、ロタ達レギンレイヴ小隊以外の所は天候の悪化や危険生物の襲撃によって、どこもフィラクタリの回収に失敗していた。
教官はそれらの訓練生たちを責めることはせず、むしろ状況把握の的確さととっさの判断力をほめていた。
それほどまでに、フィラクタリを回収するという作業はとても簡単なことではないらしい。
そしていよいよレギンレイヴ小隊の出番となり、遮光カーテンが閉められると、ディスプレイにもなるホワイトボードに一昨日の様子らしきが動画として映し出された。
フリスト『気を付けろ、フレズヴェルグ1体』
カーラ『こっちへ来るよ、どうする?
あたし先行しようか?』
ボードには4つの四角いウィンドウがバラバラに映されていて、それぞれが小隊のロボットに取り付けられたカメラの記録映像ということらしかった。
空は一面厚い雲がおおっていて、どこまでも灰色の海が画面の下半分を占領していた。
どの映像にも黒い点があり、じょじょに大きくなってくるのが分かる。
ロタ『フリスト、カーラ、左右に広がって。
エイルは相手進路に入らないよう右から迂回しましょう』
エイル『了解ですわ』
しばらく、ジェットエンジンの高い音と回転翼の細かい音がして、同じ旨の映像が続く。
カーラ『……ねぇ、あいつ……』
フリスト『ああ、こちらを狙っているな……』
画面が横へスクロールしても、大わしの影は確実にこちらへ近付いてきているようだ。
ロタ『仕方ないわね……。
前方のフレズヴェルグを脅威と断定、以後、敵とする。
各機戦闘用意。
エイル、低空で距離をとって、後方からついてきて。
フリスト、カーラ、上昇して敵をひきつけつつ左へ旋回。
エイルからできるだけ引き離して』
フリスト『了解。
セーフティロック解除、射撃用レーダー起動』
カーラ『了解。
カーラ、先行するよ!』
カーラ機のカメラの映像がどんどん敵に接近してゆき、他の3つのカメラが大わしに向かってゆく戦闘機の姿を捉える。
フリスト機のカメラが飛行形態から人型に変形するカーラ機を追い、さらに背中のウェポンベイを開いて2基のミサイルを発射するさまを映し出す。
ミサイルは敵のすぐ近くまで飛翔して炸裂し、敵をしたたか驚かせた。
すぐさま飛行形態へ戻り、奇怪な鳴き声を上げて迫りくる大わしのくちばしを回避するカーラ。
彼女のカメラがぎらりと光るいくつも並んだ鋭い牙を、ほんの一瞬だけウィンドウいっぱいに映し取った。
続けてフリストがノーズコーン部分に装備された機関銃で攻撃を加えて、たちまち乱戦状態におちいった。
ロタ『2人とも、射撃角に気を付けて!
敵を内側に入れちゃダメよ』
カーラ『了解。
フリン、上から叩くよっ』
フリスト『そっちはまかせた。
自分は敵の頭を押さえ……うわっ!』
【バシリッ……!】
大きく打ち広げられた翼の先が、人型のフリスト機を横ざまに打ち叩く。
カーラ『フリン!』
ロタ『フリスト!』
映像が乱れ、姿勢を崩され、けたたましい警報が鳴り響いて、たちまち制御不能になるフリスト機。
失速し、逆さまに落下してゆく彼女を、飛行形態となったカーラが追いかける。
見たところ、両脚部のジェットエンジンしか推力がなかったので、それが一度上を向いてしまうと、自力で正しい姿勢に復帰するのは困難なようであった。
こうなってはもう、他機の力を借りるしかない。
幸いこの場面では、カーラがフリスト機に追いつき、人型に変形しつつ相手の機の腕部を引き起こして機体の上下を戻すことに成功した。
彼女らの行動ひとつひとつに、他生徒から悲鳴や安堵の声がもれる。
が、不運にも2人のマークが外れた怪鳥は、ロタ機を次の標的に定め、すでに転進していたのだった。
ロタは同様に機関銃で対応するが、とげとげしい造作の鉄かぶとでもかぶっているようなそいつの顔面には、まるで効果がない。
フリスト『逃げろ、ロタ!』
カーラ『よけてっ!』
ロタ『ダメッ……!』
いよいよ物恐ろしいくちばしが、人型のロタ機を食い壊そうと肉薄する。
ロタ『みんな……あとは……』
半分あきらめたように、その場で大わしを映し続けるロタ機のカメラ。
背後にエイルがいたために、彼女は退くことができなかったのだ。
そこへ……
【ズドン!!】
何か、砲弾のようであった。
物体が上空から落ちてきて、怪鳥の脳天を直撃したのだ。
両翼を上方へ伸ばし、長首を大きく下方へ曲げた状態でこおりつく魔物。
ロタ『……ハッ!』
突然のことに驚いたロタの声を音声が拾ったが、敵の両眼はすでに瞳を失っていた。
やがてそいつが落下を始める。
声『わわわわわ!
落ちる、落ちる!
たすけて、助けてっ!!』
怪鳥の頭にいたのは人間で、そこでようやくたづなは自分がその映像に出演していたことに気付く。
ロタ機のカメラが、映像のたづなに近付いてゆく。
画面の上端から手が伸びて、少年の手をつかんだ。
映像のたづなが、画面の上を見る。
ロタ『つかまえた……!
わたしの、エインヘリヤル!』
【キャ────ッ(///)】
最後のシーンで、教室中が黄色い声にわいた。
どうやら“エインヘリヤル”という言葉に、他の生徒らが過剰に反応したらしい。
記録映像はそこで終わっていた。
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