◆3ー4ー2
ずいぶんとやせ我慢をしてしまったが、その後、3人で食事をすませ、最後まで平静をよそおって自室のベッドへたどり着き、この日を終えた。
翌日、案の定、ひどい筋肉痛となった。
それでも彼は授業を終えると、パワードスーツの屋外試運転のため、2人と訓練場を訪れる。
いよいよ空を飛ぶ訓練だと聞かされては、多少なりとも無理をするというものだ。
空は青く晴れ渡っていて、鉄の翼を広げて縦横に翔るのは、思ったとおり爽快であった。
全身に痛みをかかえながらも、この日一日でパワードスーツの扱いにもほぼ慣れたといえるだろう。
また次の日には筋肉痛も治まってきたのだが、残念ながら朝からずっと雨が降った。
予定していた戦闘訓練は、エイルのラボでパワードスーツを外した状態で実銃とシミュレータを使用して行った。
とはいえ、アサルトライフルは空包で、他の武装も疑似映像によるものであったが、たづなはこれもまたなかなか上手く使いこなした。
しかし、自分でもよくここまでがんばれるものだと思う。
彼は文句も言わず大変な作業をたんたんとこなしてゆく自分自身に、正直驚いていた。
確かに彼はこの世界にたった一人で放り出され、不満など言ってはいられないほどとんでもない境遇に身を置いてはいたのだが。
たぶんにそれは、ロタたちの影響なのだろう。
自分よりも幼い姿の彼女らが、自分にはできそうもないことをずっと上手くやっている。
それを見るにつけ、助けられてばかりの己の未熟さに、歯がゆさのようなものを覚えてしまうのだ。
“もうすぐ中学生なんだから”
今はその言葉も、また違った意味を成して、たづなの心に深く突き刺さるのだった。
カーラ「見て見て、この資料!」
ひと通りのことを終え、作業台に茶菓を広げて休けいをしていると、とても明るい顔のカーラがドアを開けて勢いよく突入してきた。
カーラ「ここ最近のフィラクタリ出現ポイントログ!」
彼女の手には半透明の青い下じきのようなものがあり、それはこの世界でノートの代わりとなっている、いわば携帯端末ディスプレイだ。
赤毛のツインテールを揺らしながらこちらへやって来て、カーラが作業台へそれを置いたので、たづなはティーカップを持ったまま何事かとのぞきこんだ。
左右からもロタとエイルが首を伸ばし、4人の頭がディスプレイの直上で集合した。
カーラが向かいから指先を使ってディスプレイをなぞると、画面上に天気予報の時に見かける衛星写真が表示される。
さらに画面端のアイコンをタッチすると、地図の海面上に白い点線が現れた。
カーラ「これは6日ごとのフィラクタリ出現ポイントを示したものだよ。
あたし、思ったんだけどさ、たづながこの世界にワープしてきた地点と、フィラクタリが出現する空域に何か関係があるんじゃないかなって……」
ロタ「フィラクタリクラウドの空間干渉性ってヤツ?」
たづな「くうかん、かん……何?」
エイル「空間かんしょう性ですわ♪
フィラクタリが出現する雲には、空間への干渉が起こっているのではないか、という説がありまして。
巨大な物体が雲の中から突然現れるのは、実は全く違う場所、あるいは違う世界と通じているから。
そこから何らかの原因によってフィラクタリが転送されてくるのではないか、ということですの」
カーラ「そう!
そんでね、もっと上空に同じように異世界と干渉する空間があってね、そこからたづながやって来たんじゃないかって思ったの」
たづな「マジで!?
そうなの!?」
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