◆1ー3

 

 

 

 彼は寝そべったままケータイを手に取り、例のファンサイトへアクセスした。

 

もう深夜の1時を過ぎていたが、BBSの“書き込み”をクリックしてコメントを入力し始める。

 

一度火がついてしまった勢いは、押しとどめることが難しかった。

 

 本当は初めて読んだことを打ち明けよう。

 

本屋を2軒回ったことを打ち明けよう。

 

コリンとアビーが出会うシーンでワクワクしたこと、

道具屋の店主に大笑いしたこと、

大臣の裏切りに怒ったこと、

アビーが処刑されるシーンで泣いたこと、

そしてコリンが彼女を助けるシーンで感動したこと。

 

自分の持っている言葉を駆使して一生懸命に文字を入力した。

 

 ……が、それは途中で突然止まってしまった。

 

書き込みの文字数が1000文字を越えて、それ以上入力できなくなってしまったのだ。

 

 

鈴村「く────っ……!」

 

 

 うつ伏せになって、ケータイをおがみ上げるようなかっこうでくやしさに身をふるわす鈴村。

 

文字を減らすべきか、書き込みを何回かに分けるべきか、はたまた、原稿用紙を使って読書感想文をしたため、朝一番に提出するべきか……。

 

悩みに悩みすぎてよく分からない思考をくり返す。

 

結局、良い答えは見つからなかった。

 

 そこでふと、鈴村はこの本に出会った頃を思い出す。

 

そもそも彼は、この本のことについて語りたかったのだろうか。

 

いや、そうじゃない。

 

始めはただ、彼女と……。

 

 何かひとつ大切なことを思い出した鈴村は、シャーペンと小さなメモ用紙を取り出して、書き込み始めた。

 

それを明日、もはや今日となってしまったが、

白石に渡そうと決めたのだった。

 

 

 

 

 

 その日の放課後、彼は校舎の屋上で一人静かに待っていた。

 

まだ本番前の夏の日ざしが力をおさえて照りつける中、部活動でにぎやかな校庭を背に、手すりによりかかって階段へのドアをじっと見すえる。

 

 やがてそのノブが回り、ドアがひらかれ、彼女が現れた。

 

彼がにこりとほほ笑んで、彼女のほうへ近付いてゆく。

 

彼女の手には、たった三行のメッセージが書かれたメモ用紙がにぎられていたのだった。

 

 

 

 

 

“君と話がしてみたいんだけど。

学校終わり屋上来てくれると、すごいうれしい。

一千文字では、語れそうにないから、、、”

 

 

 

 

 

── おわり ──

  

 

 

 

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