◆1ー2

 

 

 

 翌日、彼は3巻目を学校へ持っていって読むことにした。

 

もはや続きが気になって仕方がなかったのだ。

 

 

白石「あ、それ3巻?」

 

 

鈴村「あ、ああ、今ちょっとまた読み返してる感じ、ほんと」

 

 

 休み時間にまで教室の生徒机で本を開いていたものだから、通りすがりの白石にぴかぴかすぎる笑顔で声をかけられてしまった。

 

 

白石「3巻目、けっこーしょうげき的だったよねー♪」

 

 

鈴村「お、おう、まあな」

 

 

白石「あっ、友達がその作者のファンサイトやってるんだけどさー、鈴村くんも来ない?

わたしも見てるんだよー」

 

 

鈴村「マジで!?」

 

 

 さらになりゆきで彼女とアドレス交かんを果たしてしまった。

 

急に距離がちぢまったみたいでとてもうれしかった。

 

 おかげでその後の授業は、机の陰でこそこそとケータイをいじるのに必死で、まともに受けられなかった。

 

話にあったサイトにアクセスしてみれば、ミミとマジョの作者、みなりゅう先生についてあれこれと書かれたページにつながった。

 

BBSでは、本の感想やかなり身内的な雑談などが書きこまれていて、白石と思われるハンドルネームまである。

 

自分もいつか、このBBSで彼女と語り合えないものかと、胸を熱くする鈴村であった。

 

 

 

 

 

 学校が終わると、まっすぐ帰宅する。

 

帰った途端に自室へこもって読書。

 

ほんの二日前までは考えられないライフスタイルとなっていた。

 

この調子でいけば、今日中に全巻を読破してしまうだろう。

 

鈴村は期待で胸をいっぱいにして、読みかけの3巻目を読み始めた。

 

 3巻は白石が言っていたように、実に衝撃の連続だった。

 

旅を続けるコリンとアビーは、大きな街にやって来る。

 

そこでコリンが正体不明の男に捕まり、荷台がオリになった馬車に入れられどこかへ連れていかれてしまう。

 

アビーのほうも、よろいを着けた兵士に悪い魔女のうたがいをかけられた上に捕まって、二人は離れ離れになってしまうのだった。

 

 

鈴村「誰だよ、この男!

何なんだよ、この兵士!」

 

 

 男の正体は、隣街で見せ物小屋をやっている悪徳商人だった。

 

コリンは隣街へ着く前に何とか脱出を果たす。

 

が、大きな街へ戻っても、アビーの姿はなかった。

 

人々のうわさ話に耳をそばだててみると、彼女はどうやら公開処刑を行うために帝都へ護送されたらしいことが判明する。

 

 そして4巻目、最新巻だ。

 

前半では魔法が使えないアビーを、どうにかして魔女に仕立て上げようとする大臣がえがかれていた。

 

 

鈴村「くっそ!

大臣か!

大臣が!」

 

 

 やさしい理解者をよそおってアビーに近付き、あらゆる手段を用いて彼女をついに悪い魔女として世間に知らしめた大臣。

 

そのひきょうな手口とひどい裏切りに、鈴村はやり場のない怒りを覚えた。

 

こんなに怒ったのは、いったい何年ぶりだろう、しかも小説で。

 

 後半、とうとうアビーが処刑場の台の上にはりつけになった。

 

刑場のさくの外から、大勢の民の激しい野次が飛ぶ。

 

ただ魔女というだけで、処刑されなければならない一人の女の子の理不尽な運命に、鈴村は今度はとても悲しくなった。

 

それでも、魔法も使えない、助けもない、力もない女の子に、その運命を回避する手段はなかった。

 

 いよいよ台の端から火が入り、火あぶりの刑が始まる。

 

“コリン……助けて……”

 

そう小声で叫んだアビーに、鈴村の目がかすかにうるんだ。

 

 だが次のページでは、観衆の中からさっそうと現れるコリンの姿がえがかれていた。

 

 

鈴村「来た──!!」

 

 

 コリンはさくのてっぺんにのぼり立って、アビーに向かって叫ぶ。

 

 

鈴村「ぼくはきみを見すてたりしない。

どんなに小さな声で叫んでも、ぼくにはきみの声が聞こえるんだ。

ぼくの耳は、きみの声を聞くためにあったんだ!」

 

 

 もはやコリンになりきって音読する鈴村。

 

彼の胸は、感動でいっぱいだった。

 

4巻は、コリンが見事アビーを救い出し、帝都からなんとか無事に逃げおおせた所で終わっている。

 

続きは次巻を待たなくてはならなかった。

 

白石が“すっごい面白いよね”とうれしそうに声をかけてきたのも、充分うなずけた。

 

 読み終えた鈴村は、何もかもを放り出してベッドにあお向けになった。

 

胸の中に芽生えた色々な感情が、想いが、今にもあふれ出しそうになっていた。

 

彼女も、こんな気持ちを経験したのだろうか。

 

 ……そう、彼女も。

 

鈴村にとっては、ここからが本番だった。

 

 

 

 

  

 

 

 

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