◆3ー4ー4

 

カーラ「ん?

なぁに?」

 

 

たづな「カーラのおかげで帰れるんだよな、ありがとう、すっげぇ感謝してる。

ロタも、エイルも……ありがとう」

 

 

カーラ「あんた……」

 

 

エイル「たづなさま……」

 

 

ロタ「たづな……」

 

 

 目を伏せ、最大限気持ちをこめて礼を告げると、3人は熱っぽいまなざしでこちらを見つめ返した。

 

 

カーラ「あはは。

まだ本当に帰れるって決まったわけじゃないけどね。

それでも感謝したいってんなら、じゃー、

ギュッ! ってして♪」

 

 

たづな「わっ!」

 

 

 持っていたディスプレイを再び台の上へほうり出して、カーラがいきなり抱きついてくる。

 

たづなはとっさに踏んばって、何とか少女の体を受け止めた。

 

首に腕でまきつかれ、ふくらみかけの胸を押しつけられても、彼女は驚くほど軽かった。

 

 

エイル「まあっ!

カーラちゃんだけずるいですわ!

わたくしもっ♪」

 

 

 今度はエイルが、カーラに制圧されていないたづなの右腕にしがみついてきた。

 

とてもやわらかくて大きいものが、腕をふんわりとつつみこむのが分かる。

 

 

たづな「ちょっ……待っ、うはは……ι」

 

 

 予想だにしていなかった2人の少女のはさみ撃ちに、体勢を保つことに四苦八苦するたづな。

 

無理やりにでも振り払おうかとも考えたが、すでに身動きが取れないほどがっちりとホールドされていて、だめだった。

 

カーラのツインテールやエイルのゆるふわロングが甘いシャンプーの香りを放って鼻先をくすぐり、さらに彼の胸の奥まで刺激して鼓動を早める。

 

 

ロタ「ふ……2人とも!

なんか子供みたいだよ!

もうっ!

子供みたいだよっ!」

 

 

 どういう訳か、ロタだけがにぎりこぶしでひどく動揺して、怒っているのか恥ずかしいのか、はたまた苦笑いなのかよく分からない顔をしていた。

 

ようやく2人がたづなを解放して、おのおの作業に戻った。

 

 そうしてこの日も、多忙ながら充実感にあふれたまま暮れてゆく。

 

すべての準備が整い、ついに翌日、決闘の日となったのである。

 

 

 

 

 

 当日。

 

実のところ、フリストはたづなに決闘を申しこんだあの時以来、ずっと姿を見せていなかった。

 

クラスメイト達の情報網によると、ここ数日は彼女の家が持つ工場のほうへ出向いているという話であったが、何か企みでもあるのだろうか。

 

 よく晴れた午後に、たづなは決闘の地、訓練場へとやって来た。

 

多くの他生徒と初めて見る制服の何者かが数人混じって訓練場脇の厰舎(ショウシャ)に集まっているのが見えたが、肝心のフリストの姿はなかった。

 

ギャラリー達はこれから始まる決闘に、早くも興奮気味だ。

 

 

ロタ「まさか、上層部まで来るなんてね……」

 

 

たづな「じょうそうぶ?」

 

 

ロタ「中央軍の連中だわ。

きっとパワードスーツを見に来たのね。

エイル……目を付けられなきゃいいけど……」

 

 

 運び出したパワードスーツ、“ブリュンヒルデ”を積んだバンボディのトラックの横で、ロタがぐちっぽくつぶやいた。

 

その辺りの事情はよく分からなかったが、どうやら観戦者の中に不穏分子がまぎれこんでいるらしい。

 

 

エイル「たづなさま、用意できましたわよ♪」

 

 

たづな「うん……」

 

 

 エイルに呼ばれ、たづなとロタは荷台の後部から車に乗りこんだ。

 

この日ばかりは皆、ライダースーツにショートジャケットという飛行服。

 

たづなも初めてそれを着てみたが、けっこう暖かくて動きやすい。

 

 彼は台に乗ったパワードスーツに背中からもたれかかると、2人に手伝われて着装に取りかかった。

 

慣れた手つきで着装し終え、仕上げに両ほほへ三角のシールが貼られると、たづなの視界に様々な図形が浮かび上がる。

 

シールの突起部分から出た光線が、彼の網膜に直接映像を投影しているのだ。

 

通信装置もかねているそれによって、武器の残弾数や燃料など、自機の状況が全て分かるというもの。

 

もちろんたづなはこの世界の文字が読めないので、ほとんどアイコンやゲージによる表示となっていたが。

 

 

たづな「ねぇ、コレって目が悪くなるってコトはないよねぇ?」

 

 

エイル「ご安心下さい♪

フィラクタリ回収部隊、正式採用品です♪

たづなさまのブーツと同期させてありますので、翻訳機能も有効ですわ」

 

 

たづな「さすがエイル、メチャ頭いいじゃん」

 

 

 ひと通りパーツの確認をして武器を受け取ると、たづなはそろそろとした足取りで車を出た。

 

荷台の端から軽く飛んで地面に降り立つと、数十メートルも先の厰舎からどよめきと歓声の入り混じった黄色い声が上がる。

 

 なんだか照れくさくなって、たづなはハードグローブをはめた手で頭をかきつつ、遠まきのギャラリーをちらりとうかがっていた。

 

 

ロタ「わたしも、フレイヤの用意をしてくるね」

 

 

 ロタも車を降りて、基地の格納庫につながる搬入口へと駆けていった。

 

 

通信『こちらフリスト。

今からそちらへ向かう』

 

 

 ロタが去ったあとで、フリストの声を受信した。

 

 

たづな「フ……フリスト……」

 

 

 久しぶりに聞いたその堂々とした声は、たづなをにわかに緊張させた。

 

後ろからエイルが降車してくると、やがて青空が小さくうなり出した。

 

それがジェットエンジンの遠音であろうことを悟った時、

 

【ピピピピピッ】

 

 パワードスーツの警戒用レーダーが飛来してくる機の反応を捉え、網膜ディスプレイが遠くの空に三角形の矢印を示した。

 

視線をそちらへ向けてみると、中空に一つの機影があり、同時に四角いマーカーが浮かび上がる。

 

 たづなとエイルがじっとながめる中、機影とジェット音が次第に大きくなり、2人の頭上を通り過ぎたところで上昇。

 

シルエットを見た限りでは、可変翼を有した戦闘機らしい。

 

それがストールターンを行ったかと思うと、即座に機体自体が変形を始め、ずいぶん突起の多い強暴そうなデザインの人型へと形を成した。

 

 地上すれすれまでゆっくり降下してくると、脚部から噴き出ていた4つのジェットスラスターが停止してたづな達の前へ豪快に着地した。

 

【ドシンッ】

 

 しめ固められた土がめりこむほどに、機体はいかにも重そうだ。

 

 

フリスト「待たせたな、たづな……」

 

 

たづな「……いや、でかっ!

でかいよ!

俺ん家ぐらいあるよー!」

 

 

 三階建ての自宅の屋根あたりに相当する高さから、キャノピーを跳ね上げ操縦桿をにぎりつつフリストが言った。

 

その大きさにたづなもさすがに驚いて、思わず長距離ツッコミを打ち上げてしまった。

 

 

カーラ『フリン……それ、開発中だったヤツじゃ……?』

 

 

 搬入口を歩行でやって来たカーラ機から、送られてきた声に動揺がうかがえる。

 

 

ロタ『フリスト……最新型ってわけ?

本気なのね……』

 

 

フリスト「最新型はお互い様であろう?」

 

 

 遅れてやって来たロタ機からも、同じく動揺した声。

 

2人の機、フレイヤと見比べてみても、フリストの機はひと回りほども大きい。

 

コクピット周りや背部の燃料タンクなど、基本的な形状は現行機に似るが、肩当てや前垂れなどの装甲が強化され、アポジモーターと思しきノズルが至る所に設けられていた。

 

黒鉄色のカラーリングのためか、重量感と威圧感に拍車がかかっている。

 

 

フリスト「たづな、貴様の実力を見せてもらうぞ。

この制空戦闘機兵、“スカジ”でな!」

 

 

 

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