◆2ー7

 

7.ダメだし

 

 

 

まつり「うぇ~ん!

まーたジュン先輩にダメ出しされちゃったよー!」

 

 

 授業が終わり、例によって図書室で部活動にうちこんでいると、先輩に作品の下書きをチェックしてもらったまつりが、泣きながらテーブルへ帰ってきた。

 

 

まつり「ジュン先輩、きびしすぎなんだよー!

もうオレを嫁にもらってくれよー!」

 

 

しおり「おー、よしよし、まつりちゃん落ちこみすぎて発言が変よ♪」

 

 

 イスに着いたまつりを、隣のしおりが肩を抱いてなぐさめる。

 

 

まつり「オレの小説は視点がブレブレだって言われたー……。

映画とか見て研究してんだけどなー……」

 

 

しおり「映像作品は、アイデアの参考にはなっても、小説の書き方の参考にはならないわよ」

 

 

 テーブルに置いた10枚ほどのルーズリーフに目を落としてまつりが愚痴をこぼしたので、しおりはできるだけやさしい声でさとした。

 

 

しおり「映画は視点人物がコロコロ変わるものだから。

演出や立ち位置によってシーンごとで毎回違ったりするのよ」

 

 

こより「同じ映像作品なら、ゲームのほうが参考になるのだ」

 

 

まつり「ゲーム?」

 

 

しおり「一人称ならFPS、三人称ならTPS、とかね♪」

 

 

まつり「F……PS?

なんだそりゃ?」

 

 

しおり「ファーストパーソンシューティングって言ってね、主人公の目から通して見た景色がそのまま画面になってるゲームよ。

わたしはまだ手を出してないんだけどね、そっちの方面はι」

 

 

こより「レーティングに注意……なのだ」

 

 

まつり「こよりん、くわしそうだな……ι

でもオレ、ゲームとかやらないしなぁ……」

 

 

しおり「じゃあ、誰かのかたわらからその人の見てる景色と同じものを見てみたら、ちょっとは書き方のヒントになるんじゃない?」

 

 

こより「名付けて、おんぶ練習法……なのだ」

 

 

まつり「なーるほど、こういうことか!」

 

 

しおり「キャッ!」

 

 

 いじわるっぽく笑ってまつりが背中から抱きついてきたので、しおりは驚いて小さく悲鳴を上げた。

 

ほほがくっつくほどの距離にまつりの顔があって、2人分の体重がかかったイスがガタガタとあばれる。

 

 

まつり「おー、しおりん、けっこうあるじゃん!」

 

 

しおり「いたいっ、いたいっ!

胸、今痛いから、待って、ちょっ(///)」

 

 

まつり「へー、しおりん成長期?

まだ大きくなるなんて、お母さん、うれしいぞ!」

 

 

しおり「やんっ、あっ、だめっ!」

 

 

【ゴンッ!】

 

 まつりが恥ずかしい部分を何のちゅうちょもなくもみしだいてくるものだから、しおりはついに彼女の顔面へとひじ打ちを食らわしたのだった。

 

 

まつり「がふっ!」

 

 

しおり「いい加減にしなさい!」

 

 

 まつりは鼻先を押さえつつ、ようやくしおりから放れた。

 

 

まつり「いつつ……ひどいなぁ、しおりんは」

 

 

しおり「しつこいのよ、もう胸さわらないで!」

 

 

まつり「しおりんがダメなら……(チラッ+)」

 

 

こより【ギクッ……】

 

 

 まつりが向かいの席のこよりを横目でそっとうかがうと、こよりはすぐさま危険を察して身をこわばらせる。

 

 

まつり「こーよりんっ♪

たのむ、オレのレベルアップに協力してくれ!」

 

 

こより「こよりは にげだした、のだ!」

 

 

 まつりはイスから飛び上がってテーブルを飛び越え、席を立ったこよりの背中めがけてダイブした。

 

 

まつり「つかまえ……た──!?」

 

 

 彼女の背に飛びついたまでは良かったが、不運なことにまつりが乗ってもこよりは逃亡をあきらめようとはしなかった。

 

 

 なんと2人は、そのまま図書室の窓から外へ飛び出し、上の階へと消えていってしまったのである。

 

 

まつり「うわわわわわわわ!

落ちる落ちる落ちる落ちる────!!」

 

 

 しおりにとっては全く信じられないことであったが、どうやらこよりは自分の身長の倍ほどもある女子1人をおんぶして、それでも手と足だけで校舎の壁面を駆け登っているらしいのだ。

 

 

まつり「あ──れ──……」

 

 

【ヒュ────……びたんっ=3】

 

 彼女らが今しがた出ていった窓をながめていると、やがてまつりの体のみが落下してゆくさまをしおりはひとり目撃した。

 

しかも、まつりは着地に失敗して校庭の地面に勢いよくたたきつけられたようだが、効果音は全くチープだった。

 

 

しおり「……地面、固くないといいけど……」

 

 

 それほども心配していない面持ちで、しおりはイスに座ったままつぶやいた。

 

そのあと、当たり前のように下校のチャイムが鳴り始めるのだった。

 

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