◆2ー1

 

1.夢オチ

 

 

 

まつり「ダメだ!

魔法がまったく効かない!」

 

 

こより「MPも残り少ないのだ……」

 

 

 まつりとこよりがめずらしく弱音を吐いた。

 

今回の敵はそれほど強大であったのだ。

 

魔法戦士として危険な魔獣を退治する使命があるとはいえ、そいつの全身をおおったうろこの前では、どんな魔法攻撃も歯が立たないというのだから。

 

 

しおり「あきらめないで!

こよりちゃん、まつりちゃん!」

 

 

 自分もキズだらけだったが、しおりはできるだけ胸を張って、地に伏す2人を背にして敵と向かい合う。

 

まるでオオカミのような姿の、こちらの何倍もある巨大な魔獣をにらみつけ、しおりはゆっくりと杖を持ち上げてかかげた。

 

 

しおり「3人の魔力を合わせれば!

あんな魔獣、一発よ!」

 

 

こより「しおり……」

 

 

まつり「しおりん……そうか、わかった。

やろう!」

 

 

 半分あきらめかけていた2人も、しおりの言葉に希望と勇気に満ちた笑顔で答えて立ち上がる。

 

そして3本の杖を交差させ、魔獣に向けて彼女たちはついに最後の魔法を放った。

 

 

3人「‡リネジーガ‡!!」

 

 

魔獣「グワオオオオォ!!」

 

 

 

 

 

 

──……んせい!

せんせい!

先生!」

 

 

しおり「……んん……」

 

 

 しおりは机の上にうつぶせになるかっこうで目を覚ました。

 

 

まつり「しおりん先生!

居眠りしてちゃダメですよ!

はやく原稿上げちゃって下さい!」

 

 

 担当編集のまつりが、横合いから鬼のような形相でさいそくする。

 

しおりの目の前には、さっきの魔法戦士たちのたたかうシーンが描かれたマンガ原稿があった。

 

 

こより「せんせー!

ベタぬり終わったのだー!」

 

 

 向かいの机から、こよりが作業を終えた原稿を一枚こちらへ差し出した。

 

 

まつり「あと20分しかありませんよ!

これ以上は輪転機止めてもらえませんよ!」

 

 

 ケータイを片手に声を荒らげるまつり。

 

状況がいまだによく理解できていないしおりは、しかし今一度落ち着いて思い返してみた。

 

 

しおり「待って待って、ちょっと待って!

おかしいよ、だってわたし達まだ中2だし、それにマンガじゃなくてノベルよ!

これは……夢だわ!」

 

 

 

 

 

【ピピピッ ピピピッ ピピピッ】

 

 目覚まし時計の音で、しおりは今度こそ本当に目が覚めたことを悟った。

 

ベッドの上でパジャマ姿でばんざいをしていて、かけ布団が半分もずり落ちていた。

 

 

しおり「夢……二段オチ!!」

 

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