第39話 真実

◆ 九条 太陽・一姫 剛志



「それは違うな」


 三階と四階の間の踊り場で、太陽は足を止めて否定を口にする。


「お前の認識は違っている。犯人は別に、オレ達全員を殺そうとしている訳じゃない」

「……どういうことだ?」

「犯人グループの特徴を考えてみろ。あいつらはどんな奴で構成されている?」


 太陽は問う。

 一姫は確認も含め答える。



「犯人グループは――【】だ」



「その通り。いじめられていた奴らが、この事件を起こした」


 部活でもない。

 委員会でもない。

 知り合いでもない。

 クラスでもない。

 何の繋がりも見えなかった犯人を結ぶ糸は――【いじめ】という単語で繋がる。


「じゃあ姫よ、犯人達は誰を何するためにこんなことを起こしたと思う?」

「それは……学校に復讐するため、じゃないのか。いじめに対して、何の対策もしていなかった……だから無関係な人達まで巻き込んだ」

「それもあるけれどさ」


 そう前置いて、太陽は指を振る。


「いじめられていた人が、一番、死なせたいと思うのは誰だろうな?」

「それは勿論、いじめていた奴に決まっている」

「そうだな。じゃあ、どうして犯人はそいつらだけを殺さないんだ?」

「バレたくないからだろ。この事件が終わって、逮捕されたくないから。だから仮面を付け、自分に繋がらないように不特定多数の人を殺そうとしている」

「何だ。判っているじゃないか」


 太陽は意外そうに言う。


「犯人の目的は皆殺しじゃない、いじめている人さえ殺せば良い、ってことが」

「だが、そのために他の人を巻き込むことになるのであれば、皆殺しが目的と言っても間違いではないだろう? 考えの通り、生贄がそのまま犯人グループに加わって、犯人がいないクラスを補うのならば」

「ん、まあ、そうだけどさ。でも、幾つかのクラスは逃れるだろうよ。犯人グループの性質上、生贄の中に犯人はいるだろうしな。でもって、犯人はいるけれど殺したい奴がいないクラスは、生き残る可能性は高い」

「確かに……殺す理由がないならば、生贄に選ばれた恨みもそれ程ないだろうし、自分の手を汚そうとはしないだろうな」

「もう一つ。周囲の人々に流されず、人を殺すなんて出来ないという強い意志を持っている人が生贄であるクラスも安全だろうな」


 五島のことだろう、と一姫は想像する。


「でも、まあ、その人はかなり危険な立ち位置になるだろうけれどね」

「……ちょっと待て」


 一姫は耳を疑った。


「お前、それが判っていて」

「未来を行かせたのか、って言いたいんだろう?」


 次の瞬間、一姫は眼をも疑った。


「ああ、その通りだ」


 太陽は――笑っていた。


 単純に、一姫が正解を口にしたという軽い笑みであり、未来をそんな危ない目に送ったことに関する後悔は、一切含まれていなかった。

 一姫は信じられないという表情で太陽を見る。


「何だよ? 言いたいことがあるなら言えよ」

「あるに決まっているだろ」


 眉を顰めて、一姫は言う。


「お前……五島が死にそうだからって、そんな扱いは流石にひどいんじゃないのか?」

「……あのさあ」


 一転、太陽は呆れ顔で頭部を掻く。


「お前さ、いつだと思っているんだ?」

「何がだ?」

「オレが、この事件の全てに気が付いたのがさ」

「それは……」


 一姫は少しだけ思考する。


「……お前が短い睡眠を取った後に閃いたのだと思っていた。五島が傷を負った後、冷静に頭が働いたのはそこくらいしかないだろう、と」

「不正解」


 太陽は胸の前で両腕をクロスさせる。


「というか、前提条件が違う」

「前提条件?」

「お前は勘違いしている」


 右手の親指で自分の胸を指差して、太陽は笑みを濃くする。


「教室に帰って来た時から――ずっと、オレは冷静だったぞ」

「……何だと?」


 一姫が驚いた様子を見せると、太陽は得意そうに鼻を鳴らす。


「未来が撃たれたっていうのが衝撃的過ぎて、あんな様子だったんだと思っていただろ。あれは茫然自失しているように演技しただけだ」


 確かに一姫は、太陽のあの態度についてそのような見方をしていた。あれが演技だとは、本人の口から聞いてもまだ信じられなかった。


「何故演技をする必要が……いや、違う」


 首を横に振って、一姫は強く問う。


「どうして演技が出来た?」

「これくらいの演技は誰だって出来るだろ? 驚くことか?」

「そうじゃない。演技が出来るような心境になることが……いや、そもそも、冷静になることが出来るのは何故なんだ?」

「そんなのは至って簡単なことだ」


 太陽は口端を上げる。


「……え?」

「考えてみろよ」


 肩を竦める太陽。



「このオレが――と思うか?」



「それじゃあ……」

「そうだ」


 太陽は悪戯をした後の子供のように、無邪気な笑みを見せつけて言い放つ。




「未来は

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