第3話 犠牲者

 ――ドゴン!



 再び、耳を劈く爆音が鳴り響いた。

 二人は離れていたために被害は少なかったが、それでも少々の耳鳴りを起こす程度には影響を受けた。やがて窓の外を見ていた生徒達の発するものが、罵声から悲鳴へと変更される。


「地雷か。やはりあったんだな」


 一姫は冷ややかにそう呟く。


「おい、千田が死ぬってどういうことだよ! ってか、多分あいつらの反応を見る所、本当に死んだっぽいぞ!」

「予想通りなんだよ。おそらく千田は、爆弾なんてそうそうないはずだから、あの爆発によって恐怖を植え付けた校庭は逆に安全なんだ、と思って向かったんだろうな」

「違うのか?」

「外からの侵入者に対してはどうするって考えれば、もう二、三発は埋め込んであるって判るだろうさ。少なくとも、裏門の前と正門の前にはあるだろう。それを爆破させて犠牲が出れば、侵入にも恐怖が生じさせる。そしてトラップに対し慎重になって、突入の時期を誤るだろうな」

「それが犯人の狙いって訳か」

「そう。だから犯人自身も予想通りだったのだろうな。誰かが逃げることは」


『判ッテモラエタダロウカ。逃ゲダスコトノ愚カサヲ』


 太陽達の会話が聞こえたかのように、タイミング良くスピーカーから声が流れ始める。


『死ンダノハ教師カ。生徒ヲ見捨テテ真ッ先ニ逃ゲ出ストハ、愚カ者メ』


 愚かということには同意するが、今はそのような場合ではない。


『サテ―― 一年二組』


 自分達のクラスが呼ばれ、皆はビクリと反応する。


『早速ストックヲ使ッタ所ガアル。コノ調子デドンドン死ンデクレ。デハ』


 そう言って放送が途切れる。

 直後、一姫は教卓に戻って、思い切り黒板を叩く。


「これで俺達の中で犠牲はもう出せなくなった。つまり、誰かが逃げだそうとすれば、ここにいる全員が死んでしまうってことだ」


 女子生徒がまたもや悲鳴をあげる。皆は絶望を眼に浮かべていた。


(……成程。確かに、あの策を取らざるを得なくなったな。こういうことか……)


 しかし、その中で太陽だけは、冷静に一姫の真意を汲み取っていた。

 そして、よし、と声に出さずに口だけ動かし、小さく、だが力強く頷く。


(――ならばオレは、このクラスのみんなだけでも守ってやる。そして……)


 太陽は密かにあることを強く決意し、それを実行するために動き出す。


「そうだ。一姫の言う通り、オレ達は不利になった」


 教卓が壊れんばかりに、太陽は強く拳を振り下ろす。


「だからこそオレ達は一致団結しなくてはならない! みんなが纏まらないと、この非常事態を生き抜けない! なあ、みんな! 生きたいよな!」

「い、生きたいよ……」


 洋が涙混じりに声を絞り出す。それをきっかけに、周りからも生を求める声が上がってくる。


「だったらみんなだ! みんなで生きよう! みんなで協力して、全員で生還しようぜ!」


 太陽の拳の振り上げに、クラス全員が同様の仕草をする。泣いている人も、絶望に瞳を沈ませていた人も、決意を含んだ眼をして拳を掲げる。


「さて、じゃあみんな聞いてくれ。生きるために、これからやらなくちゃいけないことがある」


 一姫はチョークを黒板に押し付けていく。


「まずは食事の確保。これは購買や学食に向かえばあるだろう。次は調理用具と食器。食器は学食にあるだろうけど、教室でも使える簡易的なガスコンロとかは家庭課室にあるだろう。あとは一応だけど保健室に行って、救命道具を持てるだけ持ってきてくれ。で、戻ってきた人は、悪いけど教室の掃除をしてくれ。……と、とりあえずこれくらいかな」


 購買、学食、家庭科室、保健室の四つ場所を黒板に記し、その下に、合計するとクラスの人数と合致する数字を加えて、チョークを教室の真ん中に向ける。



「早速だけど、適当に分けるから。よろしく」

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