第41話 急転直下

◆ 九条 太陽・一姫 剛志



「……そんなことが秘密裏に行われていたのか」


 一姫は表情を硬くしながら頷く。


「確かに、洋を肉体的に傷付けず、降参させることが出来るだろう。素晴らしい作戦だと思う」

「だろ?」

「……だが、どうして俺にそのことを知らせなかった?」


 一姫は思いきり太陽を睨む。


「んー、まあ、大した理由じゃない」


 太陽は苦笑する。


「ただ単に、お前に気付かれないかどうか試したかっただけなんだよ」

「本当に大した理由じゃないな」


 ハッと短く息を吐く一姫。


「で、俺達は何をするつもりなんだ?」

「何をって……ああ、気が付いていなかったのか」


 太陽は再び階段を登り始める。一姫はその後を追いながら、太陽に訊ねる。


「気が付いていなかったって、何について言っているんだ?」

「あのさ、姫よ」


 四階にちょうど辿り着いた辺りで、太陽は逆に問う。


「この事件、これで終わりだと思っているのか?」

「え……?」


 一姫は思わず、疑問の声を口から漏らす。

 億里洋がエゴイストであり、この事件の総括である。彼以外の犯人は全て交渉し、味方に付けた。

 そういう話を先程したばかりなのに、太陽は、真犯人は違うとでも言う口振りである。


「ちょっと待て……洋は、エゴイストじゃないとでも言うのか?」

「いや、それはそのまんまでいいんだけどさ」


 太陽は人差し指を立てる。


「一人だけ、行方っていうか、詳細不明な奴がいてな」

「詳細不明?」

「放送していた奴。これだけは情報を聞き出せなくって……ってか、有田は知らなかったらしくてな。こいつだけはまだ、見つけていない」


 それに、と太陽は視線を宙に漂わせる。


「もしかしたら洋じゃなく、こいつがエゴイストかもしれないしな」

「どういうことだ?」


 オレにはさ、と太陽は顎に手を当てる。


「洋がこんな計画を思いつくとは、どうしても思えねえんだよ」

「……それは俺も同感だ」

「だから、誰か扇動した人がいるんじゃねえか、って思うのさ」

「それが放送者、ってことか」

「ああ。皆の前に唯一、姿を現していない人物だしな。十分に可能性はある」

「まあ、真実は、そいつに問い質せば分かるな」

「何処にいるか判んないけどな」

「だが、当てはあるのだろう?」


 ああ、と肯定しながら、両手を上に向ける太陽。


「なくて進んでいると思っていたのか?」

「いや、それはない」

「じゃあ、目的地も判るだろ?」


 太陽は足を止め、前方を指差す。

 その先にあるのは、三年の教室。

 さらにその奥にあるのは――


「放送室、か」

「正解」


 手を叩く太陽。


「実は生贄に関する放送の直後に、機材をぶっ壊しておいた」

「……成程」


 一姫は顎に手を置く。


「確かに、必ず放送はするだろうな。本来であれば生贄が仲間となって犯人側の虐殺が始まるはずだったのだから、恐らく、ルールの改定などを伝達する予定だったのだろう」

「放送しなくちゃいけないのに、放送ができない。となれば――」

「直接放送室に来る、か」


 誘き出す、ということである。


「放送室に行けば自然と犯人と対峙するってことか。犯人以外には放送室なんかに来る用事はないだろうし」

「ああ。まだ放送がないってことは、来ていなさそうだしな。隠れて待って奇襲、ってのもできそうだな」

「いや、もしかしたら機器をいじっている所で、先に来ている可能性も否定できないぞ」

「そうか。じゃあ、慎重に行かないとな」


 太陽は再び歩き出し――



「――なーんて、だけどな」



 数歩進んだだけで、突然、立ち止まった。


「……建て前?」

「おうよ。放送者が見つかっていないのは確かだが、扇動していた奴は、もう目星は付いている。つーか判り切っている」

「その放送者じゃないのか?」

「そうじゃないってことは確かだ。まあ、そいつも別の形で扇動したって可能性もあるけど、とりあえずは置いておこう」


 うん、と頷き腕を組む太陽。その背中に一姫は驚きの声を投げる。


「ってことは……放送者とは違う、洋を扇動した真犯人ならぬ――【真のエゴイスト】が、この先にいるってことなのか?」

「ああ。この先っていうか、この階にいるさ」

「一体、誰なんだ、それは?」

「誰なんだ?」


 太陽は呆れたような声を放つ。


「またまた。判っている癖に」



 そう言って振り向いた太陽の手には――


 一姫が、それを視認した瞬間――




 太陽は一姫に向かって――

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