第30話 クライマックスを始めよう

 体育館を出ると、当然の如く、見張りについていた未来が目の前にいた。


「あ、大丈夫ですか太陽君?」

「この様子を見て判らない?」


 おどけた様に両手を広げる太陽。未来は、ほっと小さく息を漏らす。


「十分に大丈夫みたいですね。良かったです」

「ありがとう」


 首を少し揺らして、太陽は未来の肩を叩く。


「じゃあ――戻ろうか」

「え……?」


 呆けた声を未来が放つ。


「ちょっと待って下さい。トイレにいる二人から情報を聞き出すのではなかったのですか?」

「ああ、その……時間の無駄だからな。どうせあいつらは何も言わないだろう」

「そうかもしれませんが……」

「まあ、こんな危険な場所からは早く帰りたいじゃん。危険を冒すのは愚か者のやることだよ」

「私達はその愚か者です」

「はは。そうだったな」

「……太陽君」


 仮面があるので判らないが、恐らく睨み付けるように、下から太陽の顔を覗き込む未来。


「何か隠していますね? というよりも――私を教室に返そうとしましたね?」

「……うーん、バレバレか」

「あの態度でバレない方がおかしいですよ」

「見て見ぬ振りは?」

「しませんよ」

「ですよね」


 太陽は深く息を吐く。


「……やっぱり、未来だけには話しておきたかったかもしれないな。つーか、無意識にわざとバラした感もあるな、オレ」

「わざと、ですか?」

「ったく、オレって未来にすぐ甘えちゃうな。駄目だな。つーかよく考えてみたら、あの作戦って誰か一人の助けが必要じゃねえか。くっそー」


 髪をくしゃくしゃと掻き毟りながら「あーもう」と首を振って、太陽は未来と向きあう。


「未来。頼む。ちょっとした作戦があるんだが、それに協力してくれ」

「協力なら喜んでします。けれど……」


 少し戸惑っているような声を出す未来。


「それが、秘密にしていることと関係あるのですか?」

「ある」


 首を横に振りながら、太陽は肯定する。その仕草から未来は、ある程度のことを悟る。


「聞かせてください」


 その上で彼女は 覚悟を持って訊ねる。


「分かった。じゃあまずは――」


 太陽は、先程の事実と、辿り着いた結論までを詳細に語る。

 全てを聞いた直後、未来は息を呑んだ。


「信じられません。というよりも……信じたくありません」


 ですが、と震える肩を抱いて、彼女は言う。


「私には否定できません。太陽君の言ったことは、間違っていないと思います」

「未来の後押しがあると心強いな。うん。全く」


 太陽は強く頷く。


「ま、そういうことなんだ。だからオレは――【あの策】を打とうと思う」

「確かに、その策ならば成功すると思います。太陽君の話を聞く限りでは、ですが……」


 歯切れ悪く、未来は言葉を続ける。


「でも今度は……太陽君の危険が、あまりにも大きいです」

「うん。未来もね」

「私に比べたら、太陽君は……」

「比べるものじゃないでしょ、危険なんて」

「それは、そうですけれど」

「どっちも危険。でも」

「やるしかない。……ですよね?」

「その通り。判ってるじゃん」


 仮面を外し、太陽は全ての不安を吹き飛ばすかのように、にやりと笑う。




「さあ――クライマックスを始めよう」

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