第29話 体育館
「さて、吉と出るか凶と出るか」
太陽は両拳を打ち付けて、体育館の扉に手を掛ける。
「……お邪魔します」
辺りに誰もいないことを確認して、太陽は正面から体育館に入った。門番がいるからか鍵は掛かっておらず、容易に侵入することができた。
怪しまれないようにするため、すぐさま扉を閉める。
まだ夕方に差し掛かった頃とはいえ、窓を閉め切った体育館の中は相当暗い。唯一光が差し込んでいるのは足元程度の低い位置にある窓だけだったが、その周囲飲みが若干照らされているだけで、体育館全てを照らす光量には到底届いていなかった。それを想定していた太陽は、あらかじめ片眼を瞑っておき、ある程度の視界は確保していた。
中に人の気配はないが、一応警戒しながらも、太陽は捜索を開始する。
壇上。
放送室。
二階。
用具室。
その内に両眼とも暗闇に慣れ、天井の挟まっているボールの視認まで出来るようになる。
やがて、ある程度体育館内を調査した所で――
「……何てことだ」
太陽はある事実に気付き、絶句した。
体育館と呼ばれる施設は、ここ一つしかない。
しかし、そこにあるべき『あるモノ』がなかった。
――そこから、するすると、パズルのピースのように事象が当て嵌まり始める。
生贄を必要とする理由。
クラスを三分の一に減らす理由。
犯人がいないクラスへの処分はどうするのか。
そして――犯人の真の目的。
「いや……でも……それならどうして、こんなに危うい計画を……?」
太陽は頭を抱え、独り言を呟く。
「……そういや、どうして外部の人間って入って来れないんだっけ? 外部の人間の介入があれば、犯人側の目的は全て崩れさるのに……」
そう自問自答しながら、思い出す。
「……そっか。犯人が入るなって言ったからか。地雷があるからって口にしていたから、入るに入れず……」
そこで太陽の動きが止まる。
「……待てよ? 地雷?」
地雷。
そのワードに違和感を覚える。
「――ッ!」
そこでようやく、太陽の中で全てが――繋がった。
「……いや、まさか、そんな……」
辿り着いた答えに、太陽は言葉を失う。
確証はない。
だが、確信はあった。
「有り得ない……いや、だからこそ有り得るのか……」
太陽は苦悩する。
ここから導き出したことは、誰にも言えない。
言ったのならば、場は混乱し、安心が崩れる。
何より、太陽自身が信じられなかった。
自分で思考したのに。
自分で辿り着いた答えなのに。
間違いないと――思っているのに。
「……」
とりあえず、太陽は辿り着いた答えを胸に秘める。
同時に、ある一つの計画を思いつく。
「……勝負は夜十時、か」
誰もいない体育館で、太陽は小さく、だが決意を込めた声でそう呟いた。
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