第10話 情報収集
◆九条 太陽・五島 未来
時刻は十一時を過ぎた辺り。
太陽と未来の二人は三階にいた。三階は二年生の教室が点在しているだけで目ぼしい部屋はあまりないのだが、四階はまだ死体が転がっている可能性があったため、未来のことを考えた太陽が敢えて避けたのだ。かといって本当に何もないわけではなく、二人は、唯一役に立ちそうな施設であろう図書室を目指していた。図書室には過去の卒業アルバムなどがあるため、先程、久が調べた人物の近親者がいないかを苗字から探して、その顔写真を入手しておこうというのが太陽の考えであった。
その図書室までもうすぐの所で、太陽は未来に話し掛ける。
「すまんね、五島さん。あいつらが好き勝手やりやがって……」
「いえ。全然気にしていませんから」
それに、と未来は口端を上げる。
「言い返しましたからね。今頃教室はあの二人に対して質問攻めが行われているでしょう」
「だな。しっかし、五島さんがこんなにノリがいいとは思っていなかったよ」
「そうですか? 私、結構こういう性格ですよ。太陽君は私のこと、どう思っていたのですか?」
「えーっと……大人しくて清楚で、なおかつ頭の回転が速いお嬢様って感じだと。敬語使っているしさ」
「敬語は癖ですから仕方ないとはいえ、お嬢様はないです。私、結構な暴れん坊ですよ」
くすくす、と潜んだ笑い声を上げる未来に太陽は苦笑する。
「んー、そうは見えないけどなあ」
「……だからですね」
少しだけ早足で太陽の先に進み、振り返って彼女は頼みごとをする。
「私のことも、その……名前で呼んでくれませんか?」
「名前で?」
「しかも呼び捨てで」
「つーことは……未来、って呼べばいいの?」
「はい」
「……本当に未来でいいの?」
「はい」
「未来で?」
「はい」
太陽が名前を呼ぶ度に、彼女は嬉しそうに返事をする。あまりにも輝いている笑顔なので、太陽は直視出来なかった。自分の名前は太陽なのに。
「……分かった。じゃあ姫にもそう呼ぶように伝えておくよ」
「あ、いえ。私を呼び捨てにしてもいい男子は、太陽君だけで……」
「何で?」
太陽の問いに、未来はもじもじしながら答える。
「あの……私、大人しいわけではないのですが、人見知りが激しいので……」
「ああ。大人しいではなく人見知りが激しいのか。納得」
「だから、さっきみんなの前で話した時も、勇気を振り絞ったんですよ」
「そうか……ありがとうな」
いえいえ、と未来が微笑み、静かな桃色の空間があっという間に出来上がる。
「あ、う、そ、そういやさ、未来。ここら辺、静かだね」
「え……? そ、そうですね……」
「あ、いや、一応言っておくけど、厭らしいことを考えて言ったわけじゃないからね。ただ単に、三階がやけに静かな気がするってことだよ」
「あ、はい。そう言われれば……」
教室から少し離れている場所にいるとはいえ、今いる三階は、耳を澄ませば教室から人の話し声は聞こえる程度のものであった。因みに比較対象として、二階では、罵声や叫び声、泣き声などの大声が五月蠅いほど聞こえていた。
「きっと皆さん落ち着いたのではないでしょうか? 既にある程度の時間が経過しているので」
「ということは……まずいな。そろそろみんな動き出すか」
太陽が顎に手を当てて考え込む。そこに未来は遠慮がちに訊ねる。
「あの、太陽君。一ついいですか?」
「うん、どうした?」
「太陽君のお姉さんって、本当にお強いのですか?」
「あー、うん」
太陽は歯切れが悪そうに少しの間だけ唸ると、バツが悪そうに頬を掻く。
「いやさね、それは……実は、嘘なんだよね」
「え? そうなのですか?」
「うん。姫が言った通り、虚弱な姉だ。本性も何もないよ」
太陽は両手を組んで伸びをする。
「でも、あの場面でそんなこと言えないじゃん。姉貴が心配だとはね。少なくともオレが言っては絶対に駄目だ」
「でも本当は、心配なんですよね?」
「心配だよ。でも、それってみんな同じじゃん」
太陽は眼を少し伏せる。
「オレは姉だけど、部活の先輩とか他のクラスの友達だとか、彼氏彼女、……誰だってクラス内だけが世界ではないんだ。助けたいと思っている。それなのに、せっかくリーダーとして認めてもらっているオレが、真っ先に他クラスを助ける行動をしたら、みんなの纏まりがなくなっちゃうでしょ? 姫が作ってくれたそれを、オレが崩すわけにはいかない」
「……」
「だからね。このことについて、誰にも言わないでくれるとありがたい」
「……はい、分かりました。二人だけの秘密ですね」
「まあ、そういうことになるね。っと」
照れながら頭を掻いていた太陽は、何か思い出したかのようにその手を止める。
「そういやさ、オレもちょっと相談したいことがあったんだった。訊いていい?」
「ええ。構いませんよ」
「未来はさ、犯人グループが、どんな集団だと思っている?」
「えっと……すみません。質問の意味が良く判らないのですが……?」
「ああ、つまりね。兵頭って奴が犯人なのは事実だったでしょ? でさ……」
太陽はポケットから兵頭の生徒手帳を取り出し、そこに挟まっていた一ページのメモを見せつける。
『To兵頭 部ミーティング 茶室に十六時に集合 これからの茶道部の予定を決めるから部員たるもの絶対に来ること! 三山』
「こいつ、茶道部に所属していたらしいんだよ」
「茶道部ですか。男の人なのに珍しいですね。偏見かもしれないですけれど」
「で、茶道部についてオレは知らないんだけど、今、部員って何人くらいかな?」
「私もよくは知りませんが、恐らく、二桁はいないのではないでしょうか?」
と、そこで未来の眼がゆっくりと開く。
「……成程。そういうことなのですか。太陽君の先程の質問の意味がやっと判りました」
「おお、察しが早いね」
「つまり犯人グループは、犯行以前にどのような集まりであったのか、ということですね」
「正解」
太陽のその言葉を受け、未来は嬉しそうに微笑む。
「太陽君の考えでは、犯人グループに所属する人は各クラスに一人ずつ――つまり、二十四人はいるということですよね」
「そう。だからまずオレは、部活動を疑っていたんだ。集団といって思いつくのがそれだしな。もしくは委員会」
「となると、前者の可能性は低いですか?」
「いや、茶道部と他の部が組んでいる可能性もある。……まあ、それを言い出したら個人同士ってのも考えられて際限無いけどね。だから君に聞いたんだよ。どんな集団だと思う、って」
「うーん……そうですね。私にもそれを見せてください」
未来は太陽から生徒手帳を受け取り、素早くページを捲る。
「……やっぱり、茶道部だということ以外は、他に何も判りませんね」
「未来の知り合いに茶道部はいる?」
「えっと、確か、クラスの
「ああ。
青野由美子は、一姫の言葉に異を唱えたうちの一人であった。
「じゃあ一応、彼女に警戒を払っておくか」
「後で話を聞いてみましょう」
「――由美子ちゃんがどうかした?」
唐突に、太陽と未来の背後からそう声が掛かり、二人は瞬時に声の方に振り向く。
そこには、寝起きのように髪を乱れさせた、中背中肉の男子生徒がいた。
「……誰だあんた?」
「いやいや、すまんね。部員の名前が聞こえたから、つい呼び止めちまった」
「誰ですか、と聞いているんです。質問に答えてください」
「おおっと。君、可愛いのにきついねえ。いや、大してきつくないか」
男子生徒が軽薄に笑うのを、二人は訝しげな眼で見る。
「どうしようか、未来?」
「私に訊かれても……」
「全く、レディを困らせちゃ駄目だぞ」
「お前のせいだよ」
「おいおい、上級生に向かってお前とはいいご身分だな」
「ということはあんた、三年か?」
太陽がこの生徒を二年生ではなく三年生だと断定した理由は、この生徒が二人を『下級生』だと認識したからである。
「まあな。そういうお前らは二年の階だから、まんま二年か?」
「お察しの通りです」
未来がしれっと嘘を吐く。男子生徒はそれに対して得心がいった様子で頷いた後、その首を横に曲げていく。
「あれ? でも外に出ている生徒がいるなんて珍しいな。何で教室の外にいるんだ?」
「食糧確保のためですよ」
「ん? それはもう遅いぞ。どっかの誰かが全部かっさらったらしいからな」
誰かってオレ達だけどな、と太陽は心の中で答える。
「あんたはその情報をどこで手に入れた?」
「ああ。さっきトイレで会った奴に聞いた。というよりも……」
そう言って男子生徒は、
「脅したんだけどね」
黒く光る鉄の塊を、こちらに向けてきた。
太陽と未来の表情が瞬時に凍りつく。
拳銃。
一般生徒どころか一般人すら持っていることがありえないという代物を、彼は持っていた。
「……あんた、名前は何て言うんだ?」
太陽は咄嗟に未来を背中に背負いながら訊ねる。目の前の学生は飄々と答える。
「ん?
「成程。あんたが犯人か」
「犯人? 何のこっちゃ」
三山は眉をぐっと沈める。
「俺はこれを見つけただけだ。それだけで犯人にされちゃあ困るぜ」
「私達を撃つつもりですか?」
「撃つつもりではないかな。脅すだけだよ」
「……馬鹿だろ、お前」
首を振って肩を竦めた三山の隙をついて、太陽は真正面から突進する。そして太陽は素早く拳銃を左手で上から押さえつける。即座に右手で相手の手首を掴んで裏返し、落とさせる。
「ぐっ……」
落ちた拳銃は地面に着く前に太陽が蹴り上げる。
その拳銃は、未来の手に納まる。
「ナイスキャッチ」
「ナイスキックです。さすがサッカー部ですね」
そうにっこりと微笑んで、未来は銃口を三山に向ける。
「……可愛い君、それをどうするんだい?」
「あなたに可愛いと言われても嬉しくありません」
「は、はは……そうだね……」
青ざめた顔で硬直している三山。それに相対する未来は、変わらず笑顔。
「で、でもそれ拳銃だよ? き、君にう、撃てるかい?」
「ええ。当然です。撃――」
「撃たせないよ」
太陽はそう言って、横から拳銃を未来の手から奪う。
「あ、太陽君。返して下さい」
「返さないよ。君を殺人者になんかさせない」
だから、と太陽は改めて銃口を三山に向ける。
「オレが撃つ」
「やめてください。私が撃ちます。私も同じ気持ちです」
「なっ……ちょ、ちょっと待ってくれ! あんたらおかしい!」
三山が声を裏返して批判する。
「どうしてそんなに冷静に拳銃を使えるなんて言えるんだ! 絶対おかしいって!」
「おかしいのはこの状況だろ? そもそも、拳銃があるのがおかしいじゃないか」
「そりゃそうだけど……」
「三山さんだっけ。この状況に、本物の拳銃が存在する意味って知っているかい?」
「な、何?」
「人を殺せってことだよ。それは犯人側が望んでいること、つまりは、これからあんたを殺す、って啓示なのさ」
「なっ……こ、殺す……っ?」
その言葉を聞いた三山は、顔を蒼くし、眼を数秒虚空を彷徨わせる。
が、やがて――
「……そうか。そうだよな」
意外にも、肩の力を抜いて、ふっと笑った。
「まあ『死んでこい』って言われたくらいだしな。一人で行動していれば、死に直面するか」
「やけにあっさりと諦めますね」
「しょうがないよ、可愛い君。そういや名前も教えてもらってないね」
「教えるつもりはありません」
「最後なのに冷たいなあ。まあいいけど」
そう言って三山は、廊下の真ん中で正座をする。
「さあ、撃つが良い」
「死にたいの?」
「死にたくないよ。だけど、状況が状況だから仕方ない、だろ?」
達観した様子の三山。彼は太陽達を嘗めている訳ではなく、本気で死を覚悟したようだ。
そんな彼に向かって、太陽は呆れた溜め息をつく。
「あんた、いじめられていたりするの?」
「何で?」
「だってさっき、死んでこいって言われたって言ってたじゃん」
「ああ、冗談みたいなもんだよ。本気で死んでこいって言われた訳じゃないと思う。むしろそうであってほしい」
「いじめられていないのに、どうして一人でここにいるんだ?」
「うん、好きな子の目の前でカッコつけちゃってね。普段お茶らけているから、素直に送り出されちゃった」
「お前のクラスはおかしい。どこのクラスだよ。ってか、担任は止めなかったのかよ?」
「三年五組だけどさ。っていうか、何言っているの?」
三山はキョトンとした顔で言う。
「担任なんて最初からいないじゃん」
その言葉に太陽は少し反応を示す。が、すぐに平静を装う。
「……まあいい。じゃああんたは死んでもいいってことだな?」
「死にたくないけどね。いいよ。……ああ、でも」
三山は、一つだけ、と人差し指を立てる。
「好きだった女の子に、伝えておいてほしい言葉があるんだけど、いいかな?」
「これからあんたを殺す相手に、そんなこと伝えてどうする?」
「んー、まあ、俺が逃げていなかったって伝えてくれればいい。好きだってことまで伝えてくれると、非常にありがたいな」
彼は命を請わずに、伝言を請うた。一人で捜索し、好きな女の子が生きられるように行動する。それは軽い気持ちで出来るものではないはずだ。
彼は死ぬ覚悟があったのだろう。
だが、別の覚悟――人を殺して、生き伸びる覚悟が足りなかった。
「……馬鹿だな」
太陽はその言葉は、三山に対して。
そして――自分に対してのモノでもあった。
「……分かった。伝えよう」
「本当か?」
「但し、条件がある」
太陽は口の端を上げて告げる。
「死ぬ前に、あんたから情報を聞き出したい。オレ達が言う質問に正直に答えてくれ」
「いいよ。別に死ぬ前に一矢報いるために意地悪する、なんてことはするつもりもないよ」
飄々と答える三山。それを見て太陽は一つ頷き、左のポケットから携帯電話を取り出して、三山に投げる。携帯は三山の胸にあたって彼の手元に落ちる。
「まずこれを見てくれ」
「ん? 何だこれ、メール……名前?」
「ああ。この事件の犯人に繋がる人物が、この中にいると考えられている。誰か知っている人はいないか?」
「えっと……知らない名前ばかりだけど、……あ」
「どうした?」
「一人だけ知っている」
携帯電話の下部を指しながら、三山は告げる。
「
「いつの時?」
「一年の時だ。でも……自殺したんだ。イジメのせいで」
三山が眼を伏せる。
「イジメ? あんたがやっていたのか?」
「違う。イジメていたのは――教師、だったんだ」
「……どういうことだ? 教師がイジメで生徒を殺したなんて話、聞いたこと無いぞ」
「二年生の君達が知らないのも無理ないさ。一年の時にその教師も処分して、表面だけでもその話題は誰も口にしなくなったんだから。上級生に知り合いがいれば、知っていたかもね」
「あの、イジメとは一体、どのようなことが……?」
「……女の子には少し、聞かせられないことだったらしい。だから、具体的には話せない」
三山は顔を歪ませる。
「ただ、こう言えば判るかな? …… 一は男で、加害教師は、女性だった」
「……」
「あいつは全て文章に残していてね。弟の【たー君】が遺体と共に見つけたらしい。本当に可哀想だった。……いや、待てよ?」
唐突にそこで三山は、思い出したかのように口を半開きにさせる。
「たー君、この学校にいたかもしれないな」
「何だって?」
「二年ぶりだけど、多分、あの子に違いない。下駄箱で見たからね」
「それはどこのクラスで、何て名前なんだ!」
「……すまないが、彼の名前を覚えていないんだ。たー君って一は言っていたから下の名前も分からない。一年の下駄箱で見たから多分一年生だとは思うんだが……九十九って苗字は珍しいから、探せばすぐに見つかるんじゃないか?」
しかし太陽が知る限り、一年生に九十九という苗字の生徒はいない。
「その九十九一家のその後とか分かる?」
「いいや。オレも一が死んでからは知らないな。知っていたら、たー君がこの学校にいることも確信を持って言えたのにな」
「そうだよな。……で、その他の名前に見覚えは?」
「悪いが、見覚えも聞き覚えもない。いや、単に俺が覚えていないだけかもしれないな」
「そうか。じゃあ携帯返してくれ」
三山が下から投げた携帯を受け止め、太陽は質問を継続させる。
「んじゃ、次の質問。あんたが拳銃を見つけた場所を教えてもらおうか」
「うん。三階のそこ」
太陽の後方を指差す。
「その窪みにある消火器の裏だ。トイレから出てきた男子生徒にぶつかられてな。よろけた際に倒してしまったんだ。そうしたら裏から出てきてね。慌ててその男子生徒を脅して口止めして、トイレで事情を聞いたんだ」
「変態だな」
兵頭の件で、太陽も人のことは言えないのだが。
「いやいや! そこでそんな風に思われると心外だ! 拳銃を持っているということがバレたらみんな怖がるじゃないか! というか混乱を起こして状況がいらぬ方向にいきそうだったから、口止めしないと駄目だし……で、周りに見られたくないから近場のトイレで……」
「どう思う? 未来」
「とある女生徒にはたまらないシチュエーションとなるでしょうね」
「だからさっき言ったじゃん! 俺には好きな女がいるの!」
「でも、好きな男がいないとは言ってないじゃん」
「へ理屈だ!」
「ああ、叫ばないでくれ。他の誰かに来られたら面倒だ」
とにかく、と太陽は一息つく。
「その男子生徒には、拳銃のことを話すなって釘は刺してあるんだな?」
「ああ。脅したからな。言ったら分かっているよなって。クラスも名前も把握したし」
「それならいい。じゃあ次の質問に行くけど、――担任がいないってどういうこと?」
「は?」
三山は不可解そうな顔をする。
「どういうことって……君、あの最初の爆発見ていないの?」
「見たよ」
「あれで死んだんじゃないか。――教師は全員」
「え……?」
太陽と未来が表情を強張らせる。
一年二組の担任の千田は、そのすぐ後の爆発で死んだ。だから、全員ではないはずだ。
「全員てのは、どこから聞いた話だ?」
「どこからって……あの、犯人からの放送じゃないか。君達は聞いてなかったのか?」
「それは、どんな風に言っていた?」
「最初の放送の、確か……『アソコニイルノハ、ココノ教師達デアル。心配シナクトモ、生徒ハアノ中ニハ一人モイナイ。メインハ君達、生徒ナノダカラ』だったっけな」
「そこから、全員だと思ったのか?」
「ああ。だって俺のクラスも最初から担任はいなかったし、連絡を取った他のクラスの奴も、あの爆発で担任が死んだ以外には犠牲者なんていない、なんて話だったよ」
「……太陽君」
「ああ。未来も判ったか」
ええ、と未来が表情を曇らせて頷く。
「思わぬ繋がりの犯人グループの可能性が出てきましたね」
「そっち方面でも推理を考察しなくちゃな」
「……おーい。俺には話が見えないぞ」
三山が不満の声を上げる。
「えっとですね、つまり」
「説明しなくていいよ、未来」
太陽が微かに微笑んで未来を制す。
「この人は、ここで死ぬからね」
「ん? もう質問はないのかい」
「ああ。未来はあるか?」
「ないですね」
「ん、じゃあお別れタイムが訪れた、か……」
深く息を吐き、三山は顔を上げる。
「じゃあ殺せ。俺はもう覚悟が出来ている。走馬灯はまだ見ていないけれど、いつか覚えます」
「ん、分かった。そろそろ拳銃を構えているのも疲れたしな」
太陽は左手で、三山の右肩を叩く。
「そういや、あんたの好きな人の名前聞いていないな。約束通りに伝えるから、言ってみ」
「ああ。俺が好きな人は」
うん、と頷いて、胸を張って堂々と三山は告げる。
「――九条風美というクラスメイトだ。彼女によろしく言ってくれ」
「……」
やっぱりか。
三年五組は太陽の姉のいる組。太陽の姉のもて具合は半端ではないことを弟として太陽はよく知っていたので、好きな女の子と聞いて、ほとんど想像はついていた。未来は驚いているが、三年に人気すぎて下級生にその存在をほとんど隠されている人なのだから仕方がない。太陽は、そこまで姉である彼女に魅力を感じてはいないので、不思議に思っているのだが。
しかし、やはり弟としての心中は複雑であり、太陽は心の中と現実の両方で溜め息を吐く。
「ああ、すまんね。それ無理」
「なっ!」
「約束守りたいのは山々なんだけどさ……三山さんよ」
「何だよ!」
「オレの名前はな、九条太陽って言うんだ」
「え?」
「つまり九条風美はオレの姉でな。弟としては――」
にやり、と。
太陽は悪役にしか見えない笑みを浮かべて告げる。
「やーめた、って選択肢しか残ってねえんだよ」
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