第4話城下決闘-1

 「機械兵(ドロイド)達よ、出撃の準備だ、支度をしろ」

 『了解です、マイマスター』


 ボルトは機械兵に短く準備を指示すると、自身も先の侵略戦争時代に使っていた装備を取り出し、身に纏う。旧式の装備ではあるが、毎日丁寧な整備を行っていた為、まだまだ現役でも使える状態だ。ボルトにとってこの装備はエルデン本国から支給された大切な装備なのだ。そうして全ての装備を調えたところで、統率官(マスター)である白仮面から新たにこの星の正式装備として支給されたビームセイバーが目に入る。

 白仮面からはこのビームセイバーの装備が義務づけられている。もちろん新型であるこちらの方が性能は高い、他のエルロイド達は問題なくこれを使っているだが……


 (私はあの得体の知れないあの男から渡された武器など使わん。私には本国より託されたこの武器達がある。誉れあるエルデン軍人として私はこれを使う。……だが、命令は命令だ。使わずとも腰に下げておけばそれでいいだろう)


 そう考え、ビームセイバーを腰に付ける。絶対に使わないと誓いを込めながら。


 「これはチャンスだ。統率官(マスター)の仕事を飽きたと言って投げ出すような、あの男からその職務を取り上げる。そもそもが間違いだったのだ。戦乱の最初期に行方不明となり、突然戻ってきたと思ったら白い仮面を付け、表情をすら見せないあやつが統率官(マスター)になったのは、ここで全ての間違いを正す」


 そのとき、警報が鳴った。どうやら哨戒機の一つが壊されたらしい。


 「哨戒機が壊されたか、どうやら一番槍は私のようだ」


☆☆☆


 私室でくつろぐルーカスの元に一本の通信が入った。あーっと呻きながらルーカスは脱ぎ散らかした服の中からポータルを探す。だが、それも面倒くさくなった彼は周囲で怯えたように全裸姿で座り込む【複製体(レプリカ)】の少女達に命令を出す。


 「お前達5秒で俺のポータルを探せ。さあ行くぞ、いーち」


 ルーカスのその言葉と共に、もし失敗したらどうなるか、そう考えた複製体(レプリカ)の少女達は必死の形相で周囲を探す。


 「に~。さ~ん。し~い」

 「ありました!」


 一人の少女がそのかけ声と共にポータルを掲げた。時間内にことを終えられた、これでお仕置きはない。少女の顔に安堵の表情が浮かぶ。


 「そうか」


 そういうと共にルーカスは近くに置いていたビームショットガンを取り出し、少女の額を打ち抜いた。


 「え?」


 少女からその言葉が漏れると共に、少女の顔が抉られ、血や中身が周りに飛び散る。それを見た別の少女が甲高い叫び声を上げた。


 「お前のその必死な顔、醜かったわ。普通にしてればましな顔だったのにな。俺のコレクションには必要がない。処分だ」


 そして、ルーカスは怯えて動かない少女達に目を向ける。


 「おい、お前ら、どうすればいいか、分かってるよな?」

 「は、はい! もちろんですルーカス様!」


 そう言うと一人の少女が飛び散ったものをよけながらポータルを手に取る。そして残りの少女は仲間であった少女の残骸を踏みつけ始めた。


 「この、よくもルーカス様に手間をかけさせて」

 「ぐず、でくの坊」

 「さっさと消えろ!」


 罵りながら幾人もの少女達が仲間であった少女の残骸を踏みつける。だが、それが本意で無いことは明白だった。声は震え、涙を堪えながらも生き残るために彼女たちはそれを行う。


 なぜなら彼女たちは複製体(レプリカ)だからだ。

 

 この星の原住民、エルロイドとは違い、耳の短い彼らは、侵略戦争に負けた。戦争の中で多くのものが死んだが、それでも生き残っていたもの達は残党狩りに合い、殺される事無く、研究所の特殊な装置で保存される標本体(デコイ)となった。

 複製体(レプリカ)はそんな標本体(デコイ)から作り出されたクローンだ。故に素体である標本体(デコイ)が残っていれば幾らでも生産出来るため、命の価値は低い。貴重な原住民という資源を効率的に扱うためのエルロイドの技術の一つだ。


 「これでよろしいですかルーカス様」


 少女の残骸を踏みつけていた少女の一人がルーカスの前で頭を垂れながらそう言う。するとルーカスは満足した表情を浮かべ、下を向いているその少女の頭の上に足を乗せ、通信に出た。


 「なんだよ、じじい」

 『……お前! 何という格好をしている! 我々は統率官(マスター)より任務を請け負った所だろう。準備もせずに未だそんなもの(・・)で遊んでいるとは』


 画面に映し出されたルーカスの全裸姿を見たボルトは憤慨したようにその様子を詰問する。だが、ルーカスはまるで興味が無いとばかりにその怒りを受け流す。


 「あ~。説教ならきるけど」

 『……もはや、呆れて言葉もでぬ。……我が領地に例の二人がやってきた。統率官(マスター)は私たち二人に任務を出した。だから一応は伝えに来たそれだけだ』

 「そ、じゃあ切るよ」

 『……まて、そこに居る複製体(レプリカ)どもの中にまさか身籠もっているものは居ないだろうな? 現在、エルロイドを増やすことには制限がかかっている。隠し子が居るなどとなったら問題になるぞ?』

 「大丈夫、大丈夫。そうなる前に処分するからさ、あ……」


 そこまでルーカスが言ったところでルーカスは少女達の中で一人だけ青い顔しているものに気づいた、そして少女側も気づかれたことに気づいたらしい。彼女は半狂乱になりながら、ルーカスの近くに掘ってあったビームショットガンを手に取りルーカスに向けた。


 『ん? 何かあったのか?』

 「なんでもない、切るぞ」


 そう言って回線を切り、少女の方を睨み付ける。


 「お前、何のまねだ? まさかそれで俺を殺そうってんじゃないよな」

 「そ、その通りよ! あんたが好き放題振る舞えるのはこの武器があるからでしょ!? でもそれは今、私の手元にある。殺されたくなければ私たちを解放しなさい!」


 必死の形相でルーカスに要求する彼女。それを見たルーカスは笑い始めた。


 「はははっ! 此奴は傑作だ。そう言えば新しく来た新人だったけ、誰も此奴に教えてないのかぁ~」

 「な、なにがよ!」


 周囲の少女達を見て、明らかに勝利と違う雰囲気に動揺する彼女。それを見たルーカスは笑いながら言う。


 「撃ってみろよ」

 「はぁ!?」

 「いいから撃てみろよ。そうすればわかるぜぇ~」

 「そう、なら望み通り……」


 彼女はビームショットガンの引き金に手をかけた。使い方はさっきの少女を殺すときに見ている。

 「死になさい」


 そして引き金を引いた。


 <血族認証……確認、アンノウン。ビームショットガンの使用を拒否します>


 その銃から弾が発射されることは無かった。


 「あ、あれ? 何で? 何で、何で、何で! 何で撃てないの!?」

 「ば~か!エルロイドの血を継ぐものにしか、エルロイドの兵器は使えねーんだよ!」


 そう言うとルーカスは身籠もっていると思われる少女の少し大きくなった腹を蹴り飛ばし、ビームショットガンを奪い返す。そして少女の額に銃を向けた。


 「いや……助けて」


 少女の悲痛な声が漏れる。それを見てルーカスは笑ったまま言った。


 「い・や・だ」


 引き金が引かれ、少女だったものが辺りに飛び散る。すると周囲の少女達はまた、その残骸を罵りながら踏みつける。それを見ながらルーカスはベットに身を投げた。


 「やれやれ。ここにいる複製体(レプリカ)達にも飽きてきたな、とはいえ、標本体も一回使ってみたが、クローンのコピー元だから複製体(レプリカ)と大差ないし」


 そう言うと方角を向く、その先にあるのは皇の柱だ。


 「確か、白仮面は独自の標本体(デコイ)を確保してるって言ってたな。きっとあの柱の全権を握れば全てが俺のものになるんだろうな」


 そういうとルーカスは再び笑う。


 「全く、この星は最高だぜ! 物も、土地も、女も、権力も、全てが手に入る!全てが思いのままだ!まだまだ遊び足りねー!」


 そこまで叫んだところでルーカスは冷静になる。ふしだらに遊びほうけても自分の命が関わるところなら冷静になる。このような小物臭さを極めていることがルーカスがあの戦乱を生き抜いた理由の一つだ。


 「とはいえ、どんな相手か分からないのに挑むのはリスクがあるな、死んじまったら何も始まらねー。……白仮面には二人がかりでと言われているが、じじい一人に行かせて様子を見るか」


 そう言ってルーカスは再び、自身が楽しむために少女達に向き直る。


 複製体の少女達の地獄は終わらない……


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