第13話Break Down World(大切な過去)-1
オルトスの案内を受けたソラ達はアリアドネに到着していた。ノーマとの確執により、ギスギスし始めた雰囲気を見た、オルトスが気を利かせてソラ達に向かって話しかける。
「では、まずは自己紹介をしておこう、ワシはオルトス・ヴァーミリオン。現在、ここの指揮官を務めている者じゃ」
「貴方がオルトスさん……。過去の僕が会おうとして会えなかった方ですか」
「ソラ殿じゃな。その節は申し訳ない。ワシは地球防衛軍の実質的なリーダーを行っていて、それ故、多くのエルロイドから最優先で狙われていたのじゃ。だからこそ、簡単に周囲の人間と連絡を取ることが出来なかった……。そのことが貴方のお兄さんの死を招いてしまったことは大変遺憾に思っている」
「でも、今は話せているわ。ソラは過去に戻ることになる。だから、今、ソラのお兄さんに何があったか教えて!」
それを聞いたオルトスは悲しそうな顔をした。
「話したいのは山々なのじゃが……。実はワシも詳しい状況はわからんのじゃ」
「はぁ? どういうことですか? 兄さんの死亡を確認したのは貴方なんでしょ!?」
兄の生死に関わる重要な情報を聞けると思っていたソラは思わず声を荒げてしまう。
「これこれ、そう強く当たらないでくれ、順に説明する……ワシがソラ殿、其方の兄、カイト殿について知ったのは戦争の中盤とも言える頃じゃった。エルロイドの武器は、エルロイドが許可しないと扱えない。だからこそ人類に味方してくれるカイト殿はのどから手が出るほど欲しい存在じゃった。ワシはカイト殿の居場所を知るために様々な場所に使いを出し、行方を探った。……じゃが……」
「何があったんだ?」
「ワシが見つけたのは腐敗が進んだ一人のエルロイドの死体じゃった。腐敗が進み、顔を判別出来なかったもののその死体をワシはカイト殿だと判断した」
「待って、顔を確認していないなら兄さんじゃない可能性も……」
ソラはいきなり出てきたエルロイドを兄だ、と判断したオルトスの判断にもの申す。だが、周囲のメンバーを見ると誰もその判断に問題がないような顔をしていた。
それを見て、ソラが不思議に思っているとオルトスが話しを続ける。
「……ソラ殿は知らないと思うが、戦時中のエルロイド達にはある共通した特徴があるのじゃ、それは自決機能。先ほども言ったがエルロイドの武器はエルロイドしか扱えない。じゃから、地球人に味方するエルロイドが現れるとエルロイドも困るわけじゃ。加えて言うならエルロイド自身を解析されることも、じゃな。当時の地球の技術では難しかったかも知れないが、エルロイド達はそのリスクをしっかりと理解していた。だからこそ、死亡したエルロイドや敵に捕らえられたエルロイドは必ず、体の内側から燃え上がり、欠片も残さず消滅する……。だからこそ、腐敗した状況でエルロイドが残っていること自体がまずおかしなことなのじゃ。あり得る可能性とすれば、それはすなわちエルデンに登録されていない、エルロイドの姿を持ったもの……すなわちお前の兄じゃ」
「そんな、きっと何か抜け穴が……」
「確かにあるかもしれん……じゃが、この話にはさらに続きがある。……そのエルロイドを見つけた後、ワシはワシの部下を使って、過去のお主……お主からすれば未来のお主に連絡を取った。そしてDNA鑑定を行った。結果としてその死体とお主には血縁関係があることが証明されたのじゃ。……その場には日本人の少女も同行していたと聞く、それはお主のことではないか?」
そこで問いかけられたのは流花だった。流花は肩を落として頷く。
「そうよ。私は、ソラと一緒に、その結果を確認したわ。そして、そこでソラのお兄さんが本当に死んでしまったことを知ったの。だからこそ、状況を詳しく聞き出そうと思ったのだけど、貴方の部下は詳しいことは答えてくれなかったわ。だから、直接貴方に聞けば、何か分かるかと思ったんだけど……」
「なるほど、ワシから情報を聞き出して、未来経由で過去のソラ殿に情報を伝える気だったと言うことじゃな。しかし、残念じゃが、ワシが知ったのも事後じゃ。知っていることは少ない。……せめてあと少し早くカイト殿存在を知っていれば、あるいは何かつかめたのかもしれん」
「それはつまり、過去に戻った僕が、オルトスさんと接触を図ろうとすれば、未来は変えられる可能性があると言うことですか?」
「変えられるかもしれんし、変えられないかもしれん。……それは、残念じゃがやってみなければ分からないことじゃ。この世界こそが既に変えようと努力した結果の世界でこれ以上変化しない可能性もあるし、過去での活動を強めれば、ワシが今ここで知っている情報が増える可能性もある。どちらにしろ、それらは全て結果じゃ。終わらなければわからん」
ソラと流花が押し黙る。それを見たノーマが言った。
「だから、言ったじゃないですか。どうせ死ぬことになるんです。ならその犠牲を有効的に活用して何が悪いんですか。世の中、きれい事だけじゃやっていけないんですよ」
「ノーマ。いい加減にしろよ。失われる予定の命だったとしても、それを元から捨てる前提で考えるのは違うだろう」
クラックがノーマをたしなめるように言う。それを見てオルトスは口を挟んだ。
「じゃが、ノーマ殿が言うことも確かに事実ではある。どうにもならないことは、どうにもならん。ならば、少しでもその犠牲を利用しようと考えるのは当然のことじゃ。むしろ先のことも考えず無駄に命を散らせてしまう方がもんだいじゃろ。それでは何も残せん。助けられると言う希望を抱いて全てを無駄にするより、助けられないと言う現実を意識して、どうにかそれを無駄にしないようにすることも大切なことじゃ。……それに、これはもう終わったことじゃろ? 過去を大切に振り返って後悔したところで何も変えることなどできん。そんな無駄なことに労力を使うより、これからの突入作戦のことを考える方がワシは、建設的じゃと思うがの」
「……でも、それでも。諦めるのは間違ってると思う。全てが無駄になるなんて誰が決めたんだ。必死に生きた人の思いが、何も残らないなんてことはない! だからこそ、どうにかしようと思うことを止めちゃ駄目だと思う」
「ほう……」
そう言うとオルトスはソラを品定めするような目つきで見た。
「どんな時で諦めない。まさしく英雄の器じゃな。もっとも誰もがその器を持っているわけではないが……まあいい、どちらにしろ、現状の目的は変わらないはずじゃ、……地下には最後の決戦の時に使われた皇の柱への直通通路がある。少しした後、それを使い、全軍で突撃をかける……この場はそれでいいじゃろう? それと裏切り者の件についてはワシが直々に調査しよう。この状況で仲間に不和を招くのはマイナスにしかならないのでな。取り敢えず今は、全員味方だと思って行動するようにそれでよいな?」
確かに現状、打てる手は少ない。裏切り者の件に関しても、一組織を率いていたオルトスに任せた方が良いだろう。ノーマを完全に信用は出来ないのものの、取り敢えずは自分のやれることだけしっかりとやろうとソラは考え、準備に取りかかった。
☆☆☆
白仮面とカイトが皇の柱に着くと、そこには二人のエルロイドが居た。そのうちの一人、少女のような可愛らしい顔をしたエルロイドが白仮面に向かって近づいてくる。
「白仮面様! 任務ご苦労様です!」
「ジュードも、皇の柱の護衛ご苦労だった。ゼスタもな」
「……っち」
そう舌打ち一つするとゼスタはカイトに近寄り、胸ぐらを掴み上げる。
「……此奴がエルデンからやってきた不法移民のエルロイドか、おい、お前、俺はエルデン第三区間ドレッド男爵家のゼスタだ。この意味分かるよな? 分かるのなら俺の質問に答えて貰おうか」
「待ってよ、ゼスタ。いきなり何してるの? ここはエルデンじゃなくてアスタなんだよ? 今更、そんなエルデンの地位を持ち出すまね、止めてくれない? 尋問は白仮面様がやるって言ってたでしょう?」
「うるせーな。お前には関係ねーだろうが、貧民街のガキが。運良く生き残れたからって我が物顔しやがって。そもそもここは俺の星になる予定だったんだ。この顔に傷を付けたあの忌々しいソラ・アオヌマと白仮面。お前さえ居なければ俺は……!」
その言葉からジュードをかばうように白仮面が立つ。
「やれやれ、負け犬の遠吠えほど聞き苦しいものはないな」
「何だと……!」
「エルデンは私を統率官にした。……君がエルデン本国のお偉い方とどんな取引をしていたのかは知らないが、それを含めても、私は君より上と判断されたということだ。まさか、それが分からない訳ではあるまい。……それとも、そのことが分からないほど落ちぶれたのかな、運良く生き残っただけの(・・・・・・・・・・)ゼスタ殿」
「お前! やっぱりお前はあの時に殺しておくべきだった。ソラ・アオヌマと一緒に、最終決戦のあの時に……! いや、今からでも遅くねぇ、ワープ装置さえあれば。皇の柱を気にする必要もない! 今すぐここで殺して……!っ……!?」
そう叫んだ、その時、カイトが視認出来ないほどの、一瞬の間にゼスタののど元にナイフが向けられていた。少しぶつかった先端からは血が垂れている。それを行ったのは先ほどまで白仮面の後ろにいたジュードだ。ジュードは濁った目をしながら淡々と言う。
「お前が今も生きていられるのは、白仮面様の温情だということを忘れないでね」
「うっ、……っち。嘘だよ。仮にも統率官様を殺そうとするはず、ねーだろ」
そう言うとゼスタは投げ飛ばすようにカイトを解放し、何処かに歩いて行った。それを見たジュードが白仮面に対して言う。
「やっぱり彼奴は殺しておくべきじゃないですか?」
「まあ、そう言うな。あれでも一応はエルロイドの仲間で、元貴族だ。処理するとなると色々面倒になる。既に星が制圧されている以上、エルロイドに死者が出るとボルト達の時のように私が疑われるしな」
「でも、白仮面様!」
「私のことを案じてくれるのは嬉しいが、ジュード、お前もそろそろ自分のことを考えろ。事が起こった時、私の仲間だと思われているお前も、同様に巻き込まれるのだぞ? どちらにしろあの小物はそうそう手出しは出来ないさ。放っておけばいい」
そう言うと白仮面はカイトの首輪をジュードに渡す。
「取り調べは自分で行おうと思ったが、先に情報を整理する必要が出てきた。取り調べ、任せていいか?」
「はい! もちろんです!!」
ジュードは首輪を受け取り、去って行く白仮面を見つめる。その瞳には明らかに上司に対するものではない熱い視線がこもっていた。
「あ~あ。エルロイドも、標本体も、複製体も、全部全部、殺しちゃえば良いのに。そうすれば、私と白仮面様でここで第二のエルデンを……いや、私たちの本当の星作りを始められるのに……。私は別に白仮面様さえ居ればそれでいいのにな~。というかそもそも白仮面様しか私にはいないし。どうやったらこの気持ち伝えられるかな。……ね、どう思う侵入者君?」
そう言いながら笑顔で振り返ってくるジュード。全く笑っていない目を見て、カイトは震え上がった。
「え、どう……と言われましても……」
「分からないか~。残念。良い方法思いついたら、ボルトとルーカスを消して貰った恩もあるし、少しは拷問。緩めてあげようと思ったのに。仕方ないね。……僕の白仮面様の治政の邪魔をした侵入者。ただですむとは思うなよ?」
後半、ドスの効いた声でそう言われたカイトはジュードに連れられ、拷問部屋へと連れて行かれた。
☆☆☆
「全員、準備は出来たようじゃな」
オルトスが辺りを見回し、そう宣言する。そこにはオルトスが助け出したレジスタンスを含め、かなりの人数が、ソラによって解放されたエルロイドの武器を持って佇んでいた。
「これから、皇の柱への突撃作戦を実行する。B~D班は班長の指示に従い、ワシらが後ろから攻撃されないようにこのアリアドネを守れ、A班はワシと共に皇の柱への突撃を行う。よいな?」
『はい!』
「ソラ殿も準備はいいですな?」
「大丈夫」
「では、行こう。通路はこの先にあるのでな」
そう促されてソラ達は歩いて行く。正直ソラは、ただ、ただ、感心していた。
「凄いな、命令するだけでこんなテキパキと……これがカリスマって奴なのかな?」
「さすが一軍の将をやっているだけあるわよね」
二人で頷きながら歩いて行く。ソラと流花。離れた場所では同じようにノーマとクラックが会話をしながら歩いている。
歩いていると壁が見えてきた。オルトスはその壁の近くにある装置を弄ると壁は下にずれていき、道が現れ始める。
「……この先が皇の柱じゃ。真っ直ぐ進めば皇の柱の裏門の前に出る。後はその裏門から入り、中を探索すれば良い訳じゃな。……っむ!ソラ殿危ない!」
突然、オルトスがそう叫ぶとソラを弾き飛ばした。その瞬間、ソラが居た位置に狙撃が行われる。オルトスは右肩を撃ち抜かれるものの、そして素早く装置を操作して壁を再び出現させ、ソラとレジスタンスを分断させた。
「……っ! オルトスさん! 何が!」
「裏切り者による攻撃じゃ! どうやら思っていたよりも多く居たらしい。このまま壁を開ければ一気になだれ込んでお主の命を奪うやも知れぬ。こちらは大丈夫じゃから、お主は先行して皇の柱に向かうのじゃ」
「……でも!」
「心配は無用じゃ! お主を先に行かせるのは守りながら戦うのは厳しいからじゃ、こちらを片付けたら直ぐに向かう。じゃから行け!」
「……分かった! 流花、クラック、ノーマ。先に行く!」
そう言ってソラは一人、皇の柱に向かい駆けだした。
☆☆☆
「オルトスさん。これは一体どういうことなの?」
流花は武器を構えながらオルトスにそう問いかける。するとそれを聞いたオルトスは少し残念そうな表情をした。
「なんじゃ、まだ分からないのか。くっくっく。まあ、言うより見せる方が早いか」
そう言うとオルトスは来ていた服を脱ぎ破る。右肩は先ほど設置されていた装置からの射撃を受けたはずだが、その傷が見当たらない。そしてその代わりにオルトスの心臓部分には大きな機械が取り付けられていた。それを見た流花が声を上げる。
「まさか、奴隷化? いや、形状が違う!」
「奴隷化、ああ、あれか。ワシがあの方より授かったものはそのような低俗なものではない。……そうじゃな、奴隷化のようにワシらの言葉で言い表すならこれは【永遠(リバイブ)】。使用者の細胞を再生・活性化させ、エルロイド以外の種族でも不老の力を実現できるようにするためのものよ」
「まさか……!?」
ノーマが驚きの声を上げる。同時にA班のメンツも隠しきれない動揺を見せる。
クラックが全員を代表して聞いた。
「あなたが、我々の中にいる裏切り者だったんですか」
「そうじゃ。ワシが、いや私が裏切り者だ。あの過去の大戦から私は、地球防衛軍の実質的なリーダーである老人を演じながら、こうしてあのお方、白仮面様のためのネズミをしてきていたのですよ」
今までの好々爺とした態度を捨て、冷淡な執事のような雰囲気を纏うオルトス。それを見た流花が叫んだ。
「ソラ! 戻ってきて! その先は罠よ!!」
「無駄です。この壁は厚い防音仕様になっていて、声は届かない。そして向こうでは私があの見せかけだけの射撃装置と同じように用意しておいた、録音が流れているはず。あの者は何も疑う事無く前に進んでいることでしょう」
「っく……。何が目的なの貴方は! 仮にも地球防衛軍のリーダーだったんでしょ!」
「永遠の命に目でも眩んだか!!」
クラックが叫ぶようにそう言う。それを聞いたオルトスは自分の理想を汚されたことを怒るように静かに怒気を放つ。その圧倒的なカリスマと威圧感に全員が押し黙った。
「永遠の命? そんなものに興味はない。私の目的はただ一つ。尊き白い世界(・・・・・・・)。そしてそれを実現するためには、この先をソラが一人で進んで貰わないと困るのです。そして同時に貴方たちはここで私と遊んで貰わないと困る」
その言葉と共にオルトスは胸のスイッチを押した。すると心臓部に取り付けられた永遠が高速で起動し始める。
「永遠の能力は細胞の再生と活性化。後先考えずに使用すればぁアアア」
オルトスの体が少しずつ変貌していく、巨大化していき、そして体は剛毛で包まれる。変化が続いていき、それが収まった時、そこには巨大な毛深い猿の化け物が存在していた。
「コノヨウニカラダヲバケモノニスルコトモデキル。サア、ハジメマショウカ」
オルトスはその豪腕を流花達に向けて振るってきた。
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