第12話復路一路ー3


 カイトを兵器によって縛り上げた白仮面は賢人会回線を開いた。そしてカイトの姿を見せるように突き出して言う。


 「皆の者、侵入者の一人を捕らえることに、私は成功した。これで君たちの私への疑いは晴れたかな?」


 そう言ってにやりと笑う白仮面。だが、見ていたエルロイド達は白仮面が捕まえたと言う事実よりも、捕らえられたカイトの見た目に驚いていた。


 『そんな、我らの同胞が……』

 『くけけ、此奴は見たことがない。登録されてない奴だ。ああ、確かにこれは侵入者だなぁ……

 『っとなると、残りの一人もエルロイドってことになるのか?』

 『本当に面倒なことになった……』

 『……一応は本国とのワープに成功してたということか……』


 何かを考えるようにゼスタがうつむく。それを横目にしながら白仮面は続ける。


 「私は一人を捕らえることに成功したが、残る一人は取り逃がしてしまった。彼はこの星の原住種族である者達が作った、アリアドネと言われる基地に向かったようだ。そしてそこで標本体達を目覚めさせ、戦力としようとしているらしい」

 『それ、大変な事態じゃないですか!』

 「ああ、そうだ、ジュード。だからここで再度君たちに要請したい。既に侵入者の正体は割れた、相手は我らの同胞。我らと同じ兵器を使える。もはや、手をこまねく必要はない。全軍を持ってアリアドネに強襲を仕掛ける! ……異論はないな?」


 他のエルロイド達は相手が同じエルロイドと知って油断を捨てたようだ。誰もがその意見に反対しない。だが、その時、一人のエルロイドが言葉をかけてきた。


 『白仮面。俺はジュードと共に皇の柱の護衛に回りたい。相手がエルロイドな以上、皇の柱を守る戦力はいるだろう? 正直、ジュードだけでは心許ない』

 『ゼスタさん。それ、どういうことですか!?』

 『くけけ、待て、そう言って自分だけ被害を減らそうって腹じゃねーよな? ゼスタ?』

 『そうだ、ずるいぞ』

 『俺も、ゆっくりしたい……』

 『あ…、俺…』


 それぞれのエルロイドが口々にゼスタの行動を咎める。白仮面はキリの良いタイミングを待ち、ゼスタの問いに返答を返す。


 「……良いだろう。ゼスタの要請を許諾しよう。だが、代わりに残りのメンバーは、統率官になる可能性を渡す。……内容は先ほどと同じだ。一番先に侵入者を倒した者が新たな統率官となる。これならどちらも文句はあるまい」

 『……っち。わかったそれでいいよ』


 ゼスタは統率官となることを諦めて防衛に回る。その内容にエルロイド達全員が納得した。


 「では、通信を切る。私はこの侵入者を柱へと連れて帰り、尋問する。各々の検討を期待する」


☆☆☆


 「全て、全て。指示通りだ……」


 ノーマは誰にも聞こえることがないように声を抑えながらそう呟いた。現在、彼の目論見通りにソラの兄は白仮面に討ち取られ、そして自分たちはレジスタンスの本拠地へと向かっている。


 既にかなりの距離を歩いた。そろそろ本部に着くだろう。そう思った時、背負っていたソラが目を覚ました。


 「こ…ここは…」

 「リーダー、目が覚めましたか! ここはアリアドネに通じる地下道です。何とか白仮面から逃げてここまでやってきたのですよ」

 「ぅ…ううん…」


 足を止め、ソラに向かってそう語りかけるノーマ。動きが急に止まったことで同じく気絶していた流花も目を覚まし、地面に降りる。


 「逃げてきた……? そうか僕ら白仮面にやられて……、あれ? 兄さんは?」


 その言葉を受けたクラックが悲痛な顔をする。そして言った。


 「あの人は俺たちを逃がすために殿になった。最後には通路を破壊して白仮面と一緒に外に残った」

 「殿? 白仮面と一緒に残った……? そんな!? 兄さん!!」


 今、来た道を戻ろうとするソラ。少しして同じく意味に気付いた流花も戻ろうとするが、その二人の手をノーマが掴み止める。


 「待ってください二人とも、既に道は壊されています。戻ることは出来ません!」

 「そんなこと言ってられるか! 兄さんが残ってるんだぞ!」

 「そうよ、私が守るって決めたんだから! 別の道を探してでも……!」

 「止めろ! お前達は、カイトの思いを無駄にする気か!!」


 そんな二人を見たクラックが一喝した。静かになったその場をぐるりと見回したクラックが言葉を続ける。


 「俺たちが戻って何が出来る。白仮面には歯が立たない。それは身をもって体感したことだろう。だからこそカイトは一部の望みをかけて俺たちを逃がしたんだ。自分が白仮面を引きつけている間に、ソラ、お前に皇の柱の制御権を奪って貰おうと考えてな。ならば、俺たちが出来ることはカイトの場所に戻り、むざむざ彼奴の犠牲を無駄にすることではなく、一刻も早く、皇の柱に向かうことのはずだ」

 「……そ、それは……だけど、兄さんが死んだら!!」

 「大丈夫ですよリーダー。何の問題はありません。全て計画通りなんですよ。これもリーダー。貴方から送られた手紙通りの展開なんです」


 ソラの叫びに割って入るようにノーマがそう言う。


 「手紙……だと!? ノーマ、俺は聞いてないぞ!」

 「あの手紙にはそんなこと書いてなかったじゃない!」


 その言葉にノーマの仲間であるクラックと流花が叫ぶ。だが、ソラには一つ思い当たることがあった。


 「そう言えば、あの便せん、一枚しかないのにページ番号が1だった……まさか、手紙にはその続きがあったのか!?」

 「ええ、そうです。リーダー。手紙には続きがありました。そこにはアリアドネへの入り口で白仮面と遭遇し、カイトさんを犠牲にすることで逃げ延びることが出来たと書いてありました。そして我々はそのままレジスタンス本部と合流。皇の柱に向かい見事制圧した……と。僕たちが迅速に皇の柱を制圧したことで、白仮面に捕らえられたカイトさんも無事に過去に帰ったとも書いてあります。だから心配はいりません。クラックの言うとおり、僕たちがやるべきことは早くレジスタンス本部と合流して皇の柱を目指すことです」


 なんてことでもないことを言うように言うノーマを見て、ソラは眩暈がするような思いを抱きながらノーマを問い詰める。


 「待って、遭遇することを知っているなら、何故、話さなかった、何故、対策を考えなかった。そうすれば、今、ここに、兄さんも居たかもしれないだろ!」

 「リーダに口止めされていたからですよ」

 「僕に……?」


 驚いて声を上げるソラ。ソラは思っていた、自分が何よりも大切な兄を犠牲にするようなことを黙っているかと。


 「……それに、もし話して未来が変わってしまったらどうするんですか、折角、未来のリーダーからの情報で、僕たちは絶対勝てると分かっているのに、その情報と変わった未来を進んでしまったら、もしかしたら負けてしまうかも知れない。だから……」

 「だから兄さんを見捨てたのか!」

 「人聞きの悪いことを言わないで頂きたい。結果的にカイトさんは過去に帰れるのです。ならば見捨てたことにはならないでしょう」

 「結果が良ければ何をしてもいいと言うのか! まだ、何か出来たかも知れないのに、全て諦めて、今、ここで苦しんでいる兄さんを見捨ててもいいと! そう言いたいのかノーマは!」


 ソラの言葉を受けて苦い顔をするノーマ。それを見た流花がノーマに問いかける。


 「ノーマ、まさか貴方。私たちを裏切ってないわよね? 白仮面は情報を聞いてあの場所に来たと言った。……確かにレジスタンス本部に伝えた情報があれば、私たちがアリアドネに行くと言うことは分かるわ。だけど、アリアドネへの道はいくつもある。あの場所でピンポイントに待ち受ける……なんて、この場にいるものが情報を流さない限り不可能だわ」

 「そんな! 僕は便せんにより、未来を知っていただけで! 情報を流すなんてことはしていない!」


 裏切り者だと言われて憤慨するノーマ。納得出来ないかのように語り出した。


 「第一、どうしてそこまで、カイトさんに拘るんです?薄汚いエルロイドの見た目の青年でしょ?そいつの犠牲で、人類が救われるのなら、それで良いじゃないですか、どうせ、もう過去で死んでしまっている方なんですよ?」

 「ノーマァーーー!」


 その言葉に激高した流花が、ノーマに殴りかかろうとする。それをクラックが止めた。


 「気持ちは分かる。だが……」

 「ノーマ、僕は」


 ソラが言葉を発しようとしたその時、誰かがこちらに歩きながら声をかけてきた。


 「皆さん。今はそのように騒いでいる時ではないのではないですか?」

 「オルトス……」


 流花とソラを警戒していたノーマがその人物を見て、そう言う。しっかりとした身なりの初老の老人……レジスタンスの総帥とも言える立場にあるとされる、オルトス、その人だ。


 「まずは、基地に入りましょう。話しはそこからです」


 オルトスはそう言うと、争っていたソラ達を有無を言わさず基地へと連れて行った。


☆☆☆


 「ここは……」


 カイトは何かの乗り物の揺れにより、目を覚ました。立ち上がるとするものの、手と足を縛られていて身動きができない。何とか上の方を見上げるとそこには見知った白い仮面があった。


 「白仮面」

 「ようやく目が覚めたか、カイト」


 敵意のないその様子を見て、思わずカイトの気が抜ける。


 「俺を殺さないのか……?」

 「言っただろ? お前にはまだやるべきことがあると、それに私にはお前を殺せない理由がある」

 「……殺せない理由って何だよ。……お前はもしかして……」


 そこで一瞬、カイトは言葉を詰まらせながらも、もしかしたらと頭の片隅で考えていたことを問いかける。


 「親父なのか?」

 「さてな。どうだろうか、言ったはずだぞ、解は既にお前の前に出ていると。……それに」


 白仮面はそこまで言うと何処か遠い目をしながら言う。


 「あと少し、あと少しで、お前は真実を知ることになる。何よりも残酷で、何よりも過酷な、その現実をな」


 そう言うと白仮面は語りかけるように言った。


 「……極限まで追い詰められた時、人に出来るのは、抗うか、受け入れるか、その二つのどちらかだけだ」


 そこで白仮面は言葉を切り、確信を持った口調で喋る。


 「……私には分かる。お前は受け入れる。全てを知ったその時、その残酷な真実と、現実をな」

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