第21話泡沫希望ー2


 「地下街かぁ。活気づいているな~」

 「そりゃ、そうよ。地上にいたら、いつエルロイドに狙われるか分からないからね。こういう市場は今や大体地下に移動してるから」

 「エルロイドの奴ら、自身が直接戦うことになりやすい地下での戦いを嫌うからな。なぜが地下ごと破壊できる空爆もしてこないし、今のところは地上より地下の方が安全だ。……このまま、負け続けて地下に追いやられたら、俺たち地底人になっちゃうかもな!」

 「うーん。それはちょっとやかな……。地下は暗くて気分も落ち込むし……やっぱり空があった方がいいよ」

 「美玲の言うとおり、やっぱり空があってこそだと思うよ」

 「ソラだけにってか?」

 「これ、下らんシャレを言うんじゃない。一緒に来ている他の三軍の士気が下がるだろう」

 「そりゃないって、俺のシャレはみんなの士気を上げてるだろ? なあ! おい、みんなちゃんと頷けよ!」


 ムードメーカーの昭人が先導しながら、三軍と田中を含んだメンバーは日本支部の近くにある地下街に来ていた。ここでは、辛くも戦火を逃れてきた人々が、様々な所から集めた商品を売り合っている。

 しばらく歩いていると大通りについた。田中は振り返り、全員を視界に入れると喋り始める。


 「さて、今日は、大切な休暇中にも関わらず、無理を言って集まって貰って申し訳ない。……実はな、私に退職金が出たのだ。これでも地球防衛軍が自衛隊の頃から勤務を続けてきただけ合ってそれなりの金が出た。それに加え……」


 そう言うとクラックがお金の入った袋を取り出す。


 「このように、死地に赴く俺たちを思って、近藤支部長が特別ボーナスをくれた。このご時世で使えるところは少ないが、それでも金は金だ。今日ここに集まったのは他でもない。この金を使ってみんなでパーッとやろうじゃないか!」


 わーっと一斉に三軍のメンバーから歓声が上がる。田中はコホンとわざと咳き込み注目を集めさせる。


 「取り敢えず、午後までは自由時間だ。使った費用は私宛の領収書を取ればいい。後で私が支払おう。……最も、常識の範囲内でだぞ? 家を買うとか言い出したらぶん殴って自分で払わせるからな? ……午後になったらここに戻るように、その後はカラオケと居酒屋の予約が入っているから、遅れるなよ? 私からは以上だ。では、解散!」


 その言葉と共に三軍のメンバーそれぞれがグループを作って地下街へと消えていく。ソラはいつも通り、美玲と流花と合流した。


 「じゃ、僕たちも行こうか。どこに行く? 僕は特に行きたい場所はないんだけど……」

 「そうね、じゃあ、久しぶりにショッピングにでも行きましょうか。美玲はそれでいい?」

 「うん。大丈夫」


 そう言って商店街へと向かおうとするソラ達。そこに声がかかる。


 「ちょっと待ったー!」


 走ってやってきたのは昭人だった。


 「俺もお前達について行くぜ」

 「何で?」

 「何でって。お前、酷いな言い方。俺はただ、どうせ街を回るなら女の子と一緒が良かったんだよ。俺たち戦闘班にはほとんど女の子いないしな。正直ソラがうらやましいぜ。衛生班で女の子が多い上に、同期二人がこんな美少女でよ。両手に花状態じゃねーか。ちょっとは俺もいい思いしてもいいだろう?」


 そう言ってソラ達にウィンクをする昭人。流花がそんな昭人を軽蔑するような目で見る。


 「そんな不純な動機で来ても、昭人にチャンスはないわよ? 私には心に決めた運命の相手がいるし、美玲だって、好きな相手いるもんね?」

 「え、それってまさか俺のこと?」

 「違う」


 昭人が期待を込めた目で美玲を見るが、美玲は瞬時にそれを切り捨てる。そしてちらっとソラを見て、恥ずかしそうに目を伏せた。


 「なるほど、そういうことね。んで、流花の運命の相手ってのは誰なん? まさか三角関係か!?」


 ソラと美玲を見て、露骨に驚いた表情を見せる昭人。それを見て流花はげんなりした顔で言った。


 「なわけないでしょ。私の運命の相手はソラのお兄さんよ。今は行方不明で居場所を探している所だけどね」

 「ああ、あのお兄さんね。なるほどなるほど、ここはそう言う繋がりなのか。ま、取り敢えず今は関係ないわ。相手が誰を好きとか、どうでもいいんだ。隣に女の子がいればいいんだよ!」

 「最終的にそうなるんだ……」


 ソラが呆れた表情を見せる。ともかくこれ以上無駄話してもしょうがないとソラ達は動き出した。まず初めは服屋さんだ。


 「このご時世でも色々服があるんだね」

 「ほとんどが戦争が始まる前に作られたものだけどね。ここは焼け残ったそういう服を集めて売っているんだ。だから他より安くするよ」


 お店の主人のそんな営業トークを聞きながら、服を選んでいく。それぞれが服を着替え見せ合いをして楽しんでいた。


 「美玲、まだ?」

 「ご、御免。流花ちゃん。これちょっときつくて……」

 「もう、何やってるの。私が手伝うからちょっと待って……」

 「駄目!」


 手間取る美玲を助けようと、流花が試着室に入ろうとするがそれを美玲が止める。流花は驚いて止まった。それを感じ取った美玲はすまなそうに言う。


 「ご、ごめん。でも、女の子同士でも裸を見せ合うのは良くないと思うの」

 「ああ、そうね。まあ。私は気にしないけど。美玲はお淑やかだものね」


 その発言を聞いた昭人が流花を茶化す。


 「流花ががさつなだけなんじゃねーか?」

 「違うわよ! ね、ソラ!」

 「え? う、うん。まあ、そうじゃない?」

 「ちょっと何よその反応! ……別にいいわよ。貴方たちにそう思われていようと、ソラのお兄さんにしっかりと認めて貰えればそれでいいんだから!」


 ぷんぷんと怒る流花。そうやっているうちに美玲がやっと出てくる。それを見て、ソラは思わず声を失った。そして言う。


 「可愛い……」

 「え?」


 その言葉を聞いた美玲が顔を真っ赤にした。それを見てソラも慌てて手を振る。


 「あ、御免。口が滑った。嫌だった?」

 「いや、別にいやじゃないよ……」


 二人でもじもじとし始めたのを見て、昭人は流花を引っ張った。


 「ちょ、何?」

 「なあ、ここは二人にしてやろうぜ? 俺たちはさ、こっそりと別の班と合流して。折角両思いなんだから、何か起こるかも知れない、危険な任務の前に、思いを告白し会える状況にした方がいいだろう?」

 「貴方、まさか、最初からそのつもりで……?」

 「ま、そういう所だ。俺はな、三軍で一番気配りが出来る男なんだよ」

 「……ま、それが本当かどうかは別にして、確かに二人にするのは賛成だわ。上手く離れて、戻ってこれないように別の班に合流しましょう」


 そう言って昭人達は離れる。ソラ達は二人がいなくなったことに気付いたが、見つけることは出来ず、今更他の班に割って入ることも出来ないため、二人でデートを再開する。


 昭人達は、他の班に紛れながらその様子を確認していた。喫茶店、アトラクション、水族館のような施設。次々とデートで訪れるような場所に訪れていき、いい雰囲気で談笑する二人を見て、にやにやする二人。


 「楽しいね」

 「そうだね」


 その頃、ソラは緊張していた。自分が行っていることがデートだとソラも理解していたのだ。そして流花と昭人が気を利かせてくれたというのも分かっていた。


 (こ、これから先、どうすればいいんだろう……こんな経験ないし、助けて兄さん! どうにかして!)


 そう兄のことを思い出した時、未来での兄と流花のやり取りを思い出す。


 (そうだ、告白だ。流花もあの時、決戦に挑む前に思いを伝えていた。僕だって次の任務でどうなるか分からない。この機会だ。この機会を逃せば、思いを伝えるタイミングがなくなるかもしれない! 美玲も僕のことそんなに嫌いじゃないはずだ! きっと大丈夫!)


 ソラは美玲のことが好きだった。美玲はソラの未来での話しを、ソラが言ったという理由だけで純粋に信じてくれた唯一の人物であり、その控えめな態度はソラのタイプだった。加えて言えば今までの同じ班としての日々の仲で強い絆も生まれたと思っている。そう言った要素とか、あとは単純に言葉で言い表せないものとか、全部含めて美玲をソラは好きになっていたのだ。


 場所は、いつの間にか、人通りの少ないムード溢れる場所になっていた。告白に向かうソラの気持ちが自然とこんな場所に二人を案内したのかもしれない。ソラは意を決して美玲に向き直る。


 「あの、美玲。僕、今、言いたいことがあるんだ!」

 「え?」

 「僕、前から美玲のことが好きでした、付き合ってください!」


 「言った~!」

 「やったなソラ!」


 影から二人の様子をのぞき込む、流花と昭人がそう言いガッツポーズを作る。美玲はソラに言われたことにしばらく呆然とした後、顔を真っ赤にする。そしてしばらくした後、目を反らしながら言った。


 「御免なさい。無理です。私、ソラ君のこと、そんな好きじゃないの」

 「え!?」


 その言葉にソラの顔が固まる。同時に見ていた二人もソラ達に気付かれるかも知れないと言うことを忘れて叫んだ。


 「うそでしょ!?」

 「はぁ!?」


 ソラはしばらくして、ゴクッと息を飲み込むと、顔をこちらに向けないように反らす美玲に言う。


 「ほ、本当に……?」

 「勘違いさせちゃったなら、御免なさい。……頼りになるとは思うけど。恋人にするわけにはいかないの」

 「は、はは。そうか~そうか~。御免、僕、一人で舞い上がっちゃった……」


 ソラは泣きそうになりながらそう言った。そして精一杯の元気を振り絞って言う。


 「も、戻ろうか、そろそろ時間だ」

 「……うん」


 そう言って二人はとぼとぼと道を戻っていく。その様子を見て、昭人は言った。


 「あれ~。あれは脈ありだと思ったのに余計なお世話になっちゃったかな?」

 「そうね、美玲どうしてあんなこと言ったんだろう? 絶対ソラのこと好きなのに。……もしかして私たちのこと気付いて、それで恥ずかしくなって断っちゃったとか……?」

 「いや、完璧に隠れてたはずだぞ? まあ、可能性がないわけじゃないが……。あー、しばらくこれはソラを元気づけてやらないとな」

 「そうね」


 釈然としない気持ちを抱えながらも二人も集合場所に戻った。


☆☆☆


 『~~♪』


 合流した三軍の面々は全員でカラオケに来ていた。ソラと美玲の様子がおかしいことに全員が気付いていたが、皆は生暖かい目で二人を優しく見守ることを決め、完全に見ない振りをすることにした。そんな中で昭人と流花だけは必死でソラを励ます。ソラは力ない表情でその励ましを受けていた。


 「う、うう……」

 「そんな落ち込むなって。な?」

 「そうよ。今は無理でも、いつかきっと告白すればチャンスはあるわ」

 「チャンスって何だよ~勇気を振り絞って言ったのに~玉砕したじゃないか~!」


 机に突っ伏すソラ。そこに一人の三軍のメンバーがマイクを持ってきた。


 「あの、次、ソラの番なんだけど……どうする?」

 「やる、歌ってやる」


 そう言ってソラはマイクを取り、失恋ソングを歌い始める。それを見て昭人は言った。


 「女々しい……」

 「それだけ本気だったってことでしょ」


 そう言っているとソラは戻ってくる。


 「今日のことはもう忘れる。明日から普通の仲間同士。もうそれでいい、吹っ切れた」

 「お疲れさん。ソラ」


 こうしてソラの休日はほろ苦い思い出を残しながら終わった。


☆☆☆


 一週間後、ソラ達、三軍は当初の約束通り、ノーマの元を訪れていた。中からはやつれたノーマが出てくる。


 「ああ、君たちか、ちゃんと作戦は出来上がったよ」


 そう言ってノーマは一つの紙束を手渡す。それを見て田中が声を上げる。


 「これは、エルロイドの基地の詳細までどうして……」

 「オルトス統括長が情報を流してくれたんだ」

 「オルトス!?」


 その名前を聞いたソラが声を上げる。


 「そう言えばノーマさんってオルトスさんのこと知ってるんでしたよね。この時期から連絡が取れるんですか!?」

 「いや、合ったことはあるが、連絡を取れる立場に僕はいない。連絡を取ったのは近藤支部長だ。……しかし、なぜ、そんなことを聞く?」

 「実は僕には兄がいるんです。兄と僕はエルロイドと地球人のハーフなので、地球人の特徴を受け継いだ自分とは違って、兄はエルロイドの見た目の特徴を受け継いでいますが、大切な兄なんです! その兄の行方を捜して貰うために、オルトスさんにお願いしたいんです!」

 「エルロイドと地球人のハーフ。なるほどそれで……」


 その場にいた全員がなぜ、ソラがエルロイドの武器を使えるか理解し、納得する。


 補足するように流花が喋る。


 「ソラのお兄さんはエルロイドに殺されて戦死してしまうらしいの。だから、それよりも早く見つける必要があるの。そのためにはオルトスに捜査をできるだけ早くお願いする必要があるわ」

 「……そうは言っても、オルトス統括長はこの地球防衛軍の権力者の一人です。故にエルロイドから身を隠さなければならず。用意に連絡を取ることが出来ません。……最近では地球人の中から裏切り者が出て、エルロイドに情報を流している可能性もあると言われています。ただの衛生兵であるソラ君を合わせることも、ただの士官の僕が連絡を取ることも難しい……、ですが、今回の件が無事に達成出来たのなら、もしかしたら掛け合ってくれる可能性もあります。一応、近藤支部長に伝えておきましょう」


 そう言うとノーマはぱんぱんと二回手を叩いた。


 「無駄話はこれくらいにして、一つ一つ説明していきます。まずは手元の資料を見てください」


 その言葉に従い、全員がノーマが用意した資料に目を移す。


 「まず、基本的なことから、オルトス統括長からの情報で、エルロイド達がどうやって物資を補給しているか判明しました。これを見てください」


 そう言うとノーマはスクリーンに資料を映す。


 「エルロイド達の物資補給方法は至極簡単です。宇宙から、基地に向けて直接物資を落とす。……それだけです。より詳細に説明すると、エルロイド達は事前に物資受け取り用の基地を建設し、その基地内部に落ちるように宇宙から直接物資を降下させる。そして落ちた物資は、他のエルロイド達が基地に戻った時に、それぞれに支給される……そう言った流れになっています。つまり……」

 「物資を奪うことは不可能ではないということか」

 「そうです、クラック。宇宙から物資が送られる頻度は少なく、一度に大量に送られます。ですが、受け取るエルロイドは基地に戻った時に受け渡す形となっているため、タイムラグが存在します。つまり、基地には受け取り待ちとなっているエルロイドの物資が大量に保管されている可能性があります」


 ノーマはスクリーンに映る資料を別のものに変える。


 「この基地、通称【ベゼスタ要塞】は二日前に宇宙から物資が送られたばかりです。まだ、受け取りに来たエルロイドも少なく、確実に物資が残っていると言えます。そして、これが一番重要なことなのですが、この基地から少し離れた場所でつい先日、大規模な都市襲撃がありました。どうやらこの基地のエルロイドの大半は、その後始末のためにこの基地を離れているようです。つまり、今なら最も少ないリスクで基地を襲撃できることになります」

 「なるほど……」

 「この機会を逃すことはありません。今日の深夜、エルロイド達が寝静まった頃、我々はこの基地を」


 そこでノーマは一度言葉を切り、深く呼吸してから言う。


 「襲撃します!」


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