第20話泡沫希望ー1

 「君は自分が何をしたのか、分かっているのか!」


 ノーマの叱責の声が軍法会議の会場に響く。


 今現在、ソラ達は、ノーマの報告により、任務の後、勝手に軍を抜け出した罪で軍法会議にかけられていた。


 「ですが、僕たちは任務を果たしています。その後、どう行動しようと、それは……」

 「そんな屁理屈が、軍に通用すると思っているのですか!」


 ソラの言葉を遮るようにノーマが机を叩き、怒鳴る。ノーマも必死だ。結果的に囮のメンバーを救出、出来たとは言え。一歩間違えば、三人の兵士を失っていたことになる。それは勝手に軍を離れさせたノーマの責任だ。それを追求されないために、ここでソラ達を確実に糾弾する必要があった。


 それを見ていたクラックが助け船を出す。


 「ノーマ。確かに抜け出したのはいけないが、おかげで俺たちは助かった。ここは俺に免じて許して貰えないか?」

 「……一応。貴方も貴方で、勝手に囮部隊に入っていた問題があるのですが……」

 「あ……」

 「あ、じゃないですよ! 僕の責任になるんですからね! ちょっとはこっちのことを考えてくださいよ!」


 悪い悪いと言うクラックの態度にノーマがぶち切れる。それを見て、ソラはそろそろ頃合いか、と考え、今回の件で参考人として呼ばれている田中と目配せをする。


 そう、実はソラ達はただ、怒られる為だけにここに来たわけではない。多くの士官が集まるこの場でソラは伝えたいことがあったのだ。


 「あの、少し良いですか?」

 「何ですか、急に」

 「僕が気狂いだと言われていることは知っています。ですが、僕は嘘は言っていません。それをここで証明します。これを見てください」


 そう言うとソラは隠し持っていたビームセイバーを取り出した。エルロイドの武器を持ち込んでいるとは誰も思ってない上に、エルロイドの武器は使用時のみ展開されると言った、小型が進んでいるので隠し通すことが出来たのだ。


 ソラは全員が見る前でその武器を認証する。


 <血族認証……確認、エルロイド。ビームセイバーの使用を許可します>


 ソラが持っていた装備から、ビームの刀身を出現させたのを目撃してその場が騒然とする。


 「これは、まさか本当に……」

 「ええ、僕はエルロイドの武器を扱うことが出来ます。そして未来を見てきたというのも本当の事です。……このままでは地球はエルデンに敗北します。そうならない為に、僕に権限をください!」

 再び、ソラは地球防衛軍に訴える。自分の力がどれだけ役に立つか、今がどれほど危機的な状況なのか、だが、未来の危機をいくら伝えても、今を生きる地球防衛軍の幹部達の心には響かない。


 「貴様! 少しくらいエルロイドの武器が解析できたからと言って! 我々が負けるだと!」

 「その発言は人類全体に対する冒涜であり、裏切りだ。会議の必要もない。今すぐ此奴を刑に処すべきだ」

 「待ってください! ソラの言うことは信じがたいことかも知れませんが、能力は本物です! ただの気狂いの発言と思うのではなく、是非、一考をして頂けないでしょうか!」


 幹部達の追求を、田中は声を張り上げて止め、ソラの言葉の正当性について説得を試みる。だが、帰ってきた返事は無情にもそれを切り捨てるものだった。


 「田中、君の辞表は既に受理され、現在の君はただの部外者だ。参考人として君をこの場に呼んだが。今の発言に君が介入することは許されない」

 「くっ……」

 「まあ、待て」

 「近藤支部長。どうなされました?」

 「ソラと言ったな」


 そう言うと近藤支部長は机に肘を付け、手を組む姿勢を作るとソラを見つめる。それを見てソラは思った。


 (あれが、近藤支部長……地球防衛軍日本支部で一番偉い人か、威圧感が違う……!)


 「エルロイドの武器が使えるというのは、どうやら本当のようだ。未来が地球の敗北で終わる……可能性事態は考えても良いだろう。だが、重要なことが抜けているな」

 「じゅ、重要なこと?」

 「未来が敗北で終わる。それを変えるために権限が欲しい……ソラ、お前は権限を得て、どのように未来を救う気だ?」

 「それは、エルロイドの武器を集めて、それを使えるようにして反撃すれば……!」

 「君、一人で。地球防衛軍全ての武器のエルロイドの武器と入れ替えると言うのか? そもそも我々はエルロイドの武器を保有していない。彼奴らは死ぬと武器ごと燃えるからな。どうやってエルロイドの武器をそれだけの数集めるつもりだ?」


 クスクスと周りから笑い声がする。それでもめげずにソラは答えを返す。


 「エルロイドが使用する前の武器や、死ぬ前に権限を奪えれば、こうやって持ち帰ることが出来ます。だから奴らの基地を襲撃して物資を奪えば……」

 「ほう、たった一つ、やっと手に入れたエルロイドの武器で、その武器を大量に持ったエルロイド達が守る基地を襲撃し、物資を奪って逃げ帰ることが出来ると。自分ならそれが出来ると言いたいのかな?」

 「そ、それは……出来ます! やって見せます!」

 「ははは、馬鹿も休み休み言え。そんなこと出来るわけないだろう! たった一人で戦況を変えられるなら軍などいらん。ですよね支部長?」

 「いや、やってみると言い」

 「え!?」


 その近藤の発言にその場にいた全員が驚く。近藤はソラを品定めするような目で見ながら言う。


 「私は価値があるなら、あるうちに使い潰す人間だ。ソラ。お前が成功しようと失敗しようと大局に差はない。ならここで一つ、賭けに出てみるのも悪くないだろう。別にお前を失ったとしても、もとより実現性の低い手を一つ失った……それだけの話しだ。……ノーマ!」

 「はい!」

 「エルロイド基地襲撃は第三軍に動いてもらう。指揮官であった。田中は辞表を出し、軍人ではなくなった為、これからはお前が三軍の指揮を執れ。……会議は以上だ。今回の命令違反の件に関しては不問にする」

 「で、ですが……」

 「くどい、私がいいと言った」

 「は、はい……」

 「ソラ、期待しているぞ、お前が言った未来を変えられるかどうか。軍の中で這い上がりたいなら功績をあげて見せろ」

 「はい! 了解いたしました!」


 そう言って近藤は去って行った。軍法会議はこれで終わりを告げた。


☆☆☆


 「ああ、あああ! 何で! 何で! こんなことに!」


 目の前でノーマが頭をかきむしっている。とても話しかけられる雰囲気ではない。


 「エルロイドの基地を襲撃するなんて正気の沙汰じゃない……死ぬ。死んでしまう……」

 「御免なさいノーマさん。でも、ああ言うしか……」

 「うるさい! 黙っていてください! 今、僕は作戦を考えているのです!」

 「は、はい……」


 そう言うとソラはノーマの元から離れる。それを見ていたクラックと田中がソラに話しかける。


 「まあ、許してやってくれ。良い奴ではあるんだが、人一倍責任感の強い奴なんだ。今回の件はさすがに無謀すぎて、頭がパニくってんだろう」

 「辞表を出しておいて正解だったな。私があそこで作戦を考えることになっていたら。それこそ今でこそ薄い髪が、本当に禿げ上がってしまっていたかもしれん。現場を指揮すると言うことは、部下全ての命を預かると言うことだからな。特に今回は死地に自らいくようなものだ。プレッシャーは半端なものでは無いだろう」

 「自分の軍を囮に出すような奴なのに?」


 流花が冷たくそう言い放つ。田中は苦笑いしながら頷く。


 「そうだ、あれはあの作戦が最善だったから行ったまでのことだからな。実際、直接エルロイドの軍勢とぶつかれば、全滅してしまう可能性もあった。そのことを考えればノーマは事前に半分の兵士を切り捨てることで、残り半分の兵士を救ったとも言える。……作戦を立てるものにはそれほどの非情さが必要なのだよ。私はそのことに納得しきれずにこのように軍を辞めてしまったがな」


 田中はそう言うとソラを見た。


 「私は軍を抜けてフリーになった。だが、異星人共を倒し、地球を救いたいと言う気持ちまでは捨てていない。ソラ君。今回の作戦。私も参加させてもらう。君に貰った命だ。君の夢の為に使いたい」

 「それは、嬉しいんですけど……ノーマさんに言った方が良いんじゃないですか? 軍の取り決めとか色々有るだろうし……」

 「心配ない。ノーマにはもう言ってある。戦力はのどから手が出るほどに欲しいみたいだからな、二つ返事でオーケーしてくれたぞ?」

 「そ、そうなんですか……」


 そう言って会話をしているとノーマが突然叫んだ。


 「あー! うるさい! 全員、うるさい! もう出て行ってください! これからどの基地が襲撃しやすいか、そう言った情報も集めなければいけないんですから! しばらくは出撃はありません! フリータイム! これから一週間自由時間を与えるので! もうここには入らないでください!」


 そう言うとノーマは指揮官室から全員を追い出す。追い出された全員はお互いの顔を見て苦笑した。


 「だ、そうだ。体良く、最後の休日が手に入ったってわけだ」

 「縁起でもないこと言わないでください……」

 「まあ、今回に限っては楽観視も出来ないだろう。それぞれ、この間に悔いのないように過ごした方が良い」

 「なんか、僕のせいでみんなゴメン」


 ソラはそう言って、三軍の全員に頭を下げる。そんなソラの背中を昭人が思いっきり叩いた。


 「気にすんなって、ここにいる奴の半分はお前に助けられて生きているようなものだし、エルロイドの武器を使えるお前は、俺たちからすれば希望の光だ。希望の光は光らしく。後先考えずに光っておけばいいんだよ」


 昭人のその言葉と共に、三軍のメンバーがそれぞれ思い思いの言葉を言う。


 「前は気狂いとか言ってすまん。お前はすげー奴だよ。囮役を助けにいくなんて普通は出来ないし」

 「今までだって、衛生兵なのに色々助けて貰ったことあるからな」

 「私、家に足の不自由なおばあちゃんがいるの。だから少しでも力を付けてエルロイドを市街地から話したい。そのために必要なことならどこまでもついて行くわ」

 「武器があれば、むかつくエルロイド達を吹っ飛ばせるようになるしな!」


 それ以外にも次々と届く励ましの言葉。それを聞いたソラは感激して涙を流しながら言う。


 「みんな……ありがとう!」


 クラックがその光景を見ながら、田中の背中を叩く。


 「ははは、良い軍じゃないか田中将軍!」

 「もう、将軍ではないわ。だが、まあ手塩にかけて育てた者達だからな。囮も立派に勤め上げてくれる。私は本当に良い部下を持っていた。これは将軍を辞めて失敗だったことかな」


 こうして三軍はつかの間の休息を取ることになった。


☆☆☆


 「……日本支部より連絡がありました。どうやら、予定通り、武器を手に入れるために、エルロイドの基地を襲撃するようです」

 「そうか、順調に、ことが進んでいるな。ここにエルロイドの基地についての資料がある。これを渡しておいてくれ」

 「承知いたしました。違和感のないように情報を流しておきます」


 オルトスが用意した隠れ家でオルトスとカイトは会話を行う。ジュードはそれを見ながらソファに寝転び、足をバタバタさせる。


 「ね~。いつも二人して何の話しをしてるの~? 私も混ぜてよ~」

 「……これは、地球防衛軍に対する工作の話しだからな、ジュードには関係ないことだ」

 「関係なくないよ! 白仮面様のすることは全部、私に関係ある! いつもネズミばっかりを重宝してさ、ちょっとは私も使ってよ!」


 不満げに頬を膨らませてそういうジュード。それを聞いたオルトスは優しく笑う


 「たまには話してあげるのも良いのではないですか? この間の護衛の時も、しっかりと任務を果たしてくれたのでしょう?」

 「まあ、それはそうだが……。……しかし、随分と優しいことを言うようになったじゃないか? お前のことだ、もっと邪険に扱うものだと思っていたが」


 オルトスは自身の娘とその家族をエルロイドに惨殺されている。それ故にこの計画に参加した男だ。ジュートが全く関係ない話しとは言え、同じエルロイド。憎しみを持って接してもおかしくない。それなのにまるで子供を見るような優しい目でジュードを擁護するオルトスに、カイトは驚いていた。


 「私だって上に立ったことのある人間です。地球人に様々な人がいるように、エルロイドの見た目(・・・)をした方にも様々な人がいるのを理解しています。侵略し、地球人を虐殺しようとする奴らは許せませんが、貴方の目的は理解してますし、ジュードはただ逃げ回っていただけですからね。他のエルロイドとは、やはり違いますよ。……それに、この子は手がかかりますからねぇ。さすがに何年も一緒にいれば情も湧きます。もう一人の娘、と言う気分でいますよ今は」


 ほっほっほと笑うオルトス。オルトスの発言を聞いたジュードがにこにこ笑顔になりながら言う。

 「娘だって! 白仮面様! でも、地球人を裏切っているネズミに言われても、信じられないよね~」


 ジュードは直接言われて恥ずかしかったのかそんな冗談を言う。


 「ははは、これは手厳しい」


 オルトスはそれを冗談だと理解して笑いながら言った。


 「はいはい、分かった、分かった。もうお前達が仲がいいのは充分分かったから。さっさと、次の作戦の話しに戻るぞ」

 「時には遊び心も必要ですよ、白仮面様?」

 「あー! ネズミまで白仮面様って! 今まで呼んでなかったのに!」

 「心境の変化という奴です。最初はそれしか道がないから貴方について行くことを決めましたが、今では心からこの道を選んで良かったと思っています」


 そう言うとオルトスは真剣な顔となり、カイトを見つめる。


 「……ですが、だからこそ、思ったこともあります。……この計画のままで本当にいいのですか? 私は思うのです。一度、全てを壊して、生まれた変わらせる。それは果たして救った(・・・)ということになるのかと」

 「命が惜しくなったのか?」

 「いえ、そういうわけではありません。ただ、一度壊す以上。依然とまったく同じものを再生できると言うわけではありません。失うものも多く出てきてしまいます。地球人は、存外、気持ちを大切にするものでしてね。それならばいっそ、例え勝てなかったとしても、抗い続けることに意味があるのではないかと、そう思うときもあるのですよ。どちらにしても一度、負けてしまうのです。それからロスタイムを初めて何の意味があるのかと。全力で勝負して華々しく散る方がいいのではないかと。……それに一度でも、奴らを勝たせると言うことが気にくわないという気持ちもあります」

 「??」


 突然よく分からないことを話し出した二人を見てジュードは目を丸くする。


 カイトはオルトスの発言を聞き、じっくりと考える。だが、やはりいくら考えても答えは決まっている。それが例え、意義のないロスタイムであったとしても、そのロスタイムが生まれることに意義がある。そこに気持ちのない、機械的な勝利であっても、勝利は勝利だ。


 「……どちらにしろ、私は進む道を変えるつもりはない。……計画はこのまま続行だ」

 「……分かりました。詮無きことを言いました。では準備いたします」

 「ジュード、次の作戦も引き続き手伝って貰う。準備をしておけ」

 「わかったよ!」


 ジュードが笑顔でそう言う姿をカイトは直視しないように部屋から出た。


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