第19話始まりの終わりー3
「ポイントは……ここから近いのはこの場所か!」
「あ~あ、やっちゃたわね。でも少しすっきりしたわ。私たちは地球防衛軍の規則を守るために軍に入ったんじゃなくて、人を救うために軍に入ったんだもの。やっぱりこうでなくちゃ! ね、美玲」
「え、う、うん……」
しばらく歩いていると目的地近くに来た、周囲を探しても人がいないため、ソラはそこにバツを付けて次の場所に向かおうとする。
「そう簡単には見つからないか……」
「そうね。さすがに北海道は広いわ。あんまり時間をかけると囮達の命が危ないし……どうするソラ?」
深刻な表情で二人は話す。時間をかければかけるほど。生存確率は低くなる。どうにかして居場所を特定するか、移動手段を確保しないといけない。そう二人が考えた時、美玲が一点を指さした。
「あれを使うのはどうでしょう!」
美玲が指さしたもの、それは除雪車だった。
「確かに、あれなら雪に影響されずに移動できるかも知れない。でも、運転はどうする? 僕、地球防衛軍の自動車講習受けてないんだけど……」
「あ、私もだ。あれって確か、小隊で一人取れば良いってことで私たちは取らなかったのよね。確か取ったのは……」
ソラと流花、二人の目が一人の少女に集まる。
「え、わ、わたし……?」
少女は涙目になりながら自分を指さした。
☆☆☆
「うぁあああああ!」
「きゃあああ!」
「ふえぇええん!」
ソラ達は今、暴走するようにスピードを出して走る。除雪車に乗っていた。誰もが悲鳴を上げている。
「わたし、ペーパーなんです~! やっぱり無理でした~!」
「止めて止めて! 出来るか分からないけど僕が!」
「それが、止め方ってどうするんでしたっけ?」
「うわあああ! そんな~!」
「う、なんか気持ち……」
「流花さん止めて、ここで出さないで! 飛んでくるから!」
わいわいと騒ぎつつもソラ達は確実に目的地へと向かっていく。
「ソラ、場所ってこの近くよね、どこ?」
「えっと……あ」
「ど、どうしたんですか!」
「この先の崖の下だ」
「「え? 崖」」
そう言った瞬間、三人を浮遊感が襲う。そして、下にいて戦っていたエルロイドと地球人は突然飛び出してきた除雪車に目を丸くした。
「お、落ちてくる! 退避! 退避~!」
「お、おお! 劣等種族の罠か!」
ドンと大きな音を立てて、エルロイドと地球人の間に除雪車は落ちる。ソラ達は地球人側になんとか落ちた。雪がクッションになったおかげで大きな怪我もなく、立ち上がる。
「ソラ! お前、何上からやってきてるんだよ! 相変わらずどうしようもない奴だな!」
銃を構え、エルロイドに向けていた昭人がそう言いながら笑う。それを見て、ソラは体を起こして言った。
「助けに来た! 昭人!」
「ほう、危険を冒して仲間を助けに来たか! なかなか骨のある男だ!」
ソラは聞き覚えがある声で話しかけてきたその男を見るために振り返った。そこにいたのは頼りがいがある歴戦の兵士と言った風貌の男。ソラはその人物を知っている。
「クラックさん! クラックさんじゃないか! 三軍にはいなかったはずなのにどうしてここに!?」
「む、俺を知っているのか、俺はな……」
「そこからは私が説明しよう、ソラ君」
「た、田中将軍!?」
話しかけてきた人物を見て、ソラ達は驚きの声を上げる。老将、田中はエルロイド達に向かって銃を撃ちながらもソラに説明を始める。
「私の三軍が囮を引き受けることになった……。私は、将軍失格だが、未来ある若者がこんなくだらない囮で死んでしまうことが耐えられなくてね、辞表を叩きつけて、こっそりと付いてきていたんだ。死ぬのは私のような未来のない年寄りの役目と勝手が決まっている、私が彼らを守ろうとね。クラック君は昔の教え子で、そんな私を見かねて助けに来てくれたんだ。一軍の士官だったのに上司を殴り、わざと三軍に飛ばされることでね」
「仲間を見捨てて、任務を果たそうなんて行為、男が廃る。田中将軍には恩義もあった。一軍なんて地位、軍人としてつとめを果たすために絶対に必要なものでもないからな! こうして助太刀に来たわけだ」
それを聞いていた昭人が会話に混ざる。
「っと、言うわけだ。歴戦の将の二人が来てくれたおかげで、俺たち囮部隊は何とか生きながらえてここで抵抗してるってこと。そう言えば、ソラ。お前達、任務はどうした?」
「終わらせたに決まってるだろ? そっから先は命令されてないから、僕たちの自由のはずだ。別に命令違反をしたわけじゃない」
ソラはどや顔をしながら自分も武器を取り、エルロイドに向かって撃つ。ソラの話しを聞いた田中は大きく笑った。
「ははは、へりくつじゃないか! だけど、おかげで助かった。本隊の任務達成も知れたしな……敵を引きつけるのはここまでだ、我々は撤退を開始する。ソラ君達も手伝って貰えるかな?」
「もちろんです!」
銃を撃ち、敵を牽制しながら移動するソラ達。人数の利点があるものの、敵の方が圧倒的に優れた火力を持つ。失敗すれば一瞬で状況を逆転されるかも知れない。ソラ達は警戒しながら動き出す。
そんな中、ソラはとあることを考えていた。
(殺してしまったエルロイドからは共に燃えてしまうために奪えない。……だけど、殺す前に奪うことが出来れば! 以前は前線に出られなかったけど! 今なら出来る!)
もし、奪えるタイミングがあれば奪う。そう考えて敵のエルロイドに目を向ける。敵はどうやらエルロイドが三人、機械兵が十五機のようだ。それで四十弱いる囮の部隊を押さえている。このまま逃げることは可能だが、雪で機動力が奪われている上に、相手の方が少数で小回りが利き、そしてこちらは負傷した兵がいる状況だ。かなり厳しい移動になりそうだった。
それならいっそ……。そう考えてソラはその場にいる仲間に声をかける。
「流花、美玲、昭人。カバーをお願いできる? 今ここで、僕がただの気狂いじゃないって証明してみせる!」
ソラのその発言を聞いた三人がソラのやろうとしていることに気付く。
「お前、まさか突っ込んで彼奴らの武器を奪うつもりか!」
「危ないよ! ソラ君! 他のチャンスを待った方が!」
「さすがに、この状況じゃ、厳しいんじゃない……?」
「ここで博打を打たなければ、チャンスは巡ってこないよ。このままじりじり逃げても負けるしね。……立ち向かうために引けない時がある。それが今だ!」
「よく言った! 勇ましいじゃないか! 分かった。何をやる気かは分からないが。俺が援護をしてやろう! お前に敵の攻撃は当てさせん」
クラックがそう言って自分の胸を叩く、それを見るとソラは頷いた。
「よし、いくよ!」
そう言うとソラは除雪車に向かって銃を撃ちながら走る。ソラによって撃ち抜かれた除雪車は燃料に引火し、爆発した。その衝撃でエルロイドと機械兵がばらける。
「何が目的かは知らんが。とんだ愚か者だな!」
そう言うとソラに一番近いエルロイドが、ビームセイバーを構え、ソラに向かう。同時にソラに迫ってきた機械兵を昭人が銃を連射することで防ぐ。
「流花、美玲! 俺たちの武器じゃ、機械兵は簡単には潰せねー。壊れるまで打ち続けろ!」
「分かったわ」
「りょ、了解」
三人掛かりでソラに近づく機械兵を止める昭人達。エルロイドと一対一の環境になったソラは、銃の柄でエルロイドを殴ろうとする。だが、それは躱され、エルロイドのビームセイバーがソラ目がけて振るわれる。ソラはそれをしゃがんで回避すると足払いを仕掛けた。だが、それは後ろに引いたエルロイドに躱される。
「言い動きだぞ! ソラ!」
ソラが見上げるとクラックがエルロイドの後ろに回り込んでいた、クラックはエルロイドの頭を思いっきり殴りつける。巨漢であるクラックに殴られたエルロイドは、態勢を崩し、手の持っていたビームセイバーを落とした。それをソラは拾いに向かう。
だが、その前には機械兵が立ちはだかった。とれない、そう思ったその時、ビームセイバーが銃弾に弾かれ、ソラの手元に飛んでくる。
「これでも、射撃の腕は自衛隊で一番だったんだ」
田中のアシストによってソラの手に握られていた。後のやり方は分かる。これを使えば良いだけだ。
<血族認証……確認、エルロイド。ビームセイバーの使用を許可します>
目の前の機械兵がソラに銃口を向ける。だが、ソラは誰よりも冷静だった。手にしたその剣で機械兵を切り裂く。それを見た、その場の全員が一瞬全てを忘れてソラを見た。
「はは、彼奴やった。やりやがった!」
「ただの気狂いではなかったか……」
「ソラ君……凄い!」
「やっと始まりってわけね」
「な? 劣等種族が俺のビームセイバーを!」
「どういうことだ、【リーガル】! なぜ認証を与えた!」
「お、俺はしらねーよ!」
動揺するエルロイドに向かってソラは切り込む。地球防衛軍の仲間達も勢いづいてソラを援護する。
「なるほど、これが目的なのだったのだな。ならばもう一個!」
クラックは頭を打たれ、武器を奪われた衝撃で立ち止まったエルロイドを蹴り上げる。そして同時に腰から一つ兵器を取り出す。
「ソラ!」
「クラックさんはこれを!」
クラックから兵器を受け取ったソラは代わりにクラックにビームセイバーを投げる。そして同時に認証を行った。
<血族認証……確認、エルロイド。ビームショットガンの使用を許可します>
「喰らえ! エルロイド!」
ソラの放った銃弾が後方にいた一人のエルロイドに命中する。それとほぼ同時にクラックが先ほどのエルロイドをビームセイバーで切り裂いた。
「まさか、武器一つでこうまで違うとは……」
田中が周りの機械兵を撃ちながらそう呟く。地球の武器で何度も撃たなければ潰せない機械兵をクラックはまるで草を刈るように一撃で狩っていく。ソラは逃げだそうと後ろを向いたエルロイドを撃ち抜いた。これで全てのエルロイドが倒された。
「やった! 俺たちの、地球の勝ちだ!」
囮という絶望的な状況から生き残り、エルロイド三体を倒すという功績を挙げた、地球防衛軍のメンバーが腕を掲げ喜びを露わにする。ソラもその輪に入り、喜びを共有するがそれは長く続かなかった。
「……待って! 何か音がしない?」
「音?」
その流花の発言に全員が会話を止める。そして耳を澄ませた、確かにその音は聞こえる。そして近づいてきている……!
その時、建物の隙間から戦闘機が見えた、全員がそれを見て理解する。
「エルロイドの増援……! 爆音が大きすぎたか! いくら武器を得られたと言ってもこれでは……! く、隠れろ!」
田中の声に、それまで勝利に沸き立っていた面々が蜘蛛の子を散らす勢いで建物の影に隠れる。戦闘機は攻撃しながら通り過ぎたものの、旋回して戻ってくることは明白だった。
「……もはや、これまで、か」
そう言うと田中はソラを見つめる。
「ソラ君。今まで君のことをただの気狂いだと思ってすまなかった。君は本当のことを言っていたんだな。……君はまさしく人類の希望だ。今日、あの戦いを見て、私はそれを理解した」
「田中将軍……?」
「だからこそ、君は生きなければならん。生きて、その力を使わなければ。人類は負けてしまうだろう……だから、ソラ君。助けて貰いに来たのに申し訳ないが、私が囮になる。その間に逃げろ!」
「そんな、田中将軍! ここで逃げ出すなんて!」
「今の我々の武器では、あの航空戦力には敵わない! それが最善なんだ受け入れてくれ! ……クラック、残りの部隊員とソラのことを頼む」
「田中将軍……」
クラックが田中の目を見る。そこにある覚悟を見て、クラックは歯を食いしばった。
「ソラ、行こう。田中将軍の思いを無駄にするな」
そう言ってクラックはソラの手を取る。ソラは考えた。これは大切な選択だ。これで田中将軍の運命が決まる。犠牲を受け入れて(・・・・・)逃げるか、抗って(・・・)戦い続けるか。
ソラは決断した。
「『嫌です』。僕は田中将軍を見捨てません!」
「馬鹿な、どうやって勝とうというのだ! 逃げるしか道はないだろう!」
「ビームショットガンで狙い撃ちます! 難しいですが! 不可能ではないはずです!」
「確かに、あの威力なら戦闘機の装甲を破壊できるかもしれないが……。だが、あの動く物体に当てるのは至難の業だぞ!」
「それでもやります! 誰かを犠牲に必ず生き残るくらいなら、少しの確率しかなくても、全員が生き残る道を僕は選びます!」
「は、ははは。本当に愉快な奴だ、ソラ。お前は! やってやろうじゃないか田中将軍。ここまで生き残れたのはソラのおかげだ。ならソラにかけて見ましょう。それも悪くないでしょう?」
「クラックお前まで……。全くどうしようもない奴らだ。こんな老人の為に。貸せ、ソラ君!」
そう言うと田中はソラからビームショットガンを奪う。奪われたソラが不思議な表情で田中を見る。
「田中将軍?」
「言っただろう。これでも射撃の腕は自衛隊で一番だったとな。お主より、私の方が成功率は高い! ……撃ち抜いて見せるさ、この三軍を守るために私が、敵を! エルロイドを!」
そう言うと田中は銃口を戦闘機に向けた。田中の頬を汗が伝う。失敗することは出来ない。将として譲れない気持ち、全てを銃弾に込める。
「うぉおおおお!」
「「「いっけー!」」」
引き金を引いた。そして放たれた弾丸は真っ直ぐ戦闘機へと向かう。それは胴体に命中し、戦闘機は爆炎を上げた。
「やった! 成功だ!」
「皆のもの! 喜んでいる時間はない! 直ぐさまここから脱出するぞ!」
「「「了解!」」」
ソラ達は墜落していく戦闘機を後にしながら、見事死地を切り抜けた。
☆☆☆
「終わったか」
カイトは手に持ったスナイパービームライフルを腰へとしまう。そして立ち上がった。
(まさか、あの状況でソラが逃げ出す選択をしないとは思わなかった。ここでソラを殺すわけにはいかない。多少強引だったが、何とかなったか?)
カイトはソラの様子を伺っていた。エルロイド達を倒したところまでは良かった。だが、その後に登場した戦闘機が厄介だった。ソラを守るため、新たに参戦するエルロイドを倒すつもりだったが、さすがに戦闘機相手ではいささか分が悪い。手をこまねいている間にソラ達は攻撃されてしまった。しかし、盗聴していた会話から、田中という男がソラを逃がそうとしていることを知り、カイトは安堵した。現在、ソラの能力は判明した。それを最優先で逃がすのは当然のこと、このまま田中が囮になり、ソラは無事逃げるだろうと何もせずに見守ることを決めた、その瞬間、ソラがその全てをひっくり返した。ビームショットガンで戦闘機を狙い撃つなどという無謀なことを始めようとしたのだ。
さすがに、これにはカイトは焦った。もし、射撃が外れてもいいように、大急ぎで銃を用意し、同時のタイミングで戦闘機を撃ったのだ。どちらの弾が命中したのかは分からないが、無事、戦闘機は破壊。カイトはほっとため息をついて立ち上がったというわけだ。
それを見ていたジュードがカイトに聞く。
「ねえ、なんでスナイパーライフルまで出して、あの子達を助けたの?」
「さっきも言っただろう。貴族達を潰すためだ」
「あんな少数の部隊が貴族を倒せるの? それにあんなに慌てて銃を取り出して、そもそもあの子、エルロイドの武器を使ったよね? あれは」
「ジュード。そのことは今はいい。ここにもエルロイドの兵が来るはずだ。このまま居続けるとあの戦闘機をやった犯人だと特定される。……今すぐ動くぞ!」
「……は~い」
ジュードは疑問は解決しなかったが、カイトの言葉は絶対なので大人しく従い、移動する。だが、先ほどの部隊。その中でもエルロイドの武器を使った少年に対する興味がなくなったわけではなかった。
(あの子と白仮面様、一体どういう関係なんだろう?)
時間が空いたらネズミに聞いてみようかな。そう思いながらジュードはカイトと共にその場を後にした。
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