第22話泡沫希望ー3


 「ポイントB、敵影は無し」

 「了解、逃走ルートは確保しておきます。襲撃メンバーはクラック隊長の指示に従って行動してください」

 「「「了解!」」」


 人影が動き出していく、作戦は至極簡単だ。少数の襲撃メンバーが先に基地に侵入し、エルロイドの武器を強奪する。その後、脱出ルートを確保していた別働隊と合流し、脱出すると言った計画だ。


 誰も何も言わず、黙々と進む。しばらくすると見張りをする数体の機械兵とあくびをする一人のエルロイドが目に入った。クラックと田中は目配せをする。そして同時に飛び出した。


 「な、お前……!」


 エルロイドが気付いた時、既にその頭は撃ち抜かれていた。そして機械兵が振り返るより早く、クラックの剣が機械兵全てを刈り取る。


 クラックがそのまま前に進もうとするが、それを流花が止める。監視カメラがあったのだ。流花はそれに向かって何かを投げる。それは監視カメラに張り付いた。


 「あれは?」

 「モニターとカメラよ。ぶつかってから数秒間映像を録画して、それを流し続けるの、貼り付けておけば気付かれずに通れるでしょ? もっとも子供だましみたいなものだから、そうだまし続けておけるものではないと思うけど」

 「気休め程度で充分だ。ここからは戦闘もある。全員気を引き締めておけ、行くぞ!」


 そこからの流れも順調だった、通路の先をクラックが確認し、敵がいた場合はクラックの剣戟か、田中の銃弾で沈める。監視カメラは流花が対策をすると言った流れでどんどん内部に侵入していく。どうやらここを守っているエルロイド達はさほど練度が高くないらしい。あっという間にソラ達は物資が保管されている倉庫に到着した。


 「倉庫の在り処とか、俺らとエルロイドも大差はないんだな」

 「利便性重視で突き詰めていったら、こうなるのだろう。エルロイドの要塞や戦艦の情報を集め、この場所を推測したノーマに感謝と言ったところだな。ソラ、どうだ?」

 「順調だよ。取り敢えず、ここにいる全員分は認証した。後は持って帰ってからやろう」


 そう言って、ソラは手に持っていた兵器をそれぞれの隊員に渡し、残りの物資を袋に入れる。


 「エルロイドの武器が小型化されていて助かったわね。初めはいくつか置いてくことになると思ったけど、これなら全て持って行けそうだわ」

 「そうだな。なあ、ソラ。こっちの方はいけそうか?」


 そう言って昭人が指さしたのはエルロイドが使う機械兵だ。それを見て、ソラは少し悩んで言う。


 「できるとは思う。でもどうするの? こんなのつれて歩いたら見つかると思うけど……」

 「馬鹿、エルロイドが襲撃に気付くのは時間の問題だ、だからこれを使って攪乱してやるのさ」


 そう言うと昭人はにやりと笑った。


☆☆☆


 ベゼスタ要塞のエルロイド達が異常に気付いたのはソラ達が侵入して、それなりの時間がたった後だった。エルロイド達の中でも上流階級の貴族派である彼らは、何もしなくても地球侵略後の地位は決まっているため、戦争に対する意欲が低かったのだ。

 結果、練度も低く、見張りが帰ってこないと言うことで、事態に気付いた時には、かなり奥深くまで進入を許してしまっている状況だった。


 その報告を受けた、この要塞の責任者であるゼスタ・ドレッドは、状況を知って、その焦りを露わにしていた。


 「馬鹿な、見張りは何をやっていた! たかが、劣等種族にここまで侵入されるとは!」

 「す、すみません。ゼスタ様。しかし、敵の劣等種族は我々と同レベルの武器を使っているようで、見張りは一撃で倒されていました」


 エルデンからゼスタを補佐するために送られてきた取り巻きが腰を低くしながらそう謝る。それを聞いたゼスタは激高した。


 「劣等種族が我々と同じレベルの武器を……? 私を馬鹿にしているのか!」


 そう言うとゼスタは取り巻きのエルロイドを殴る。


 「お前達の無能がそれで許されると思うなよ! 後で消されたくないのなら、さっさと侵入者共を殺してこい!」

 「は、はい……!」


 慌てて取り巻き達が部屋の外へと出て行く。


 「……っち。どいつもこいつも使えない。……このまま物資が奪われてしまえば、俺の本国からの評価が……」


 その時、ゼスタの元に通信が入る。


 『ぜ、ゼスタ様! 大変です! 機械兵が! 機械兵が! 我々に攻撃を! う、うぎゃああああ!』

 「おい、どうした。おい! 役立たずが、詳しい状況すら報告できんのか! くそ、俺も出る! お前達も付いてこい!」


 そう言うとゼスタは自室から出る。


 (司令室に行き、監視カメラの映像を確認してる時間はない。その間に逃げられてしまうだろう。このまま、直接、敵を襲撃する必要がある。通信は混乱して頼りにならん。敵の行動を推察しなければ……敵の狙いは何だ? いや、それは今は言い。考えても答えは出ないことだ)


 そこまで考えたところで、ゼスタはあることに気付く。


 「現在、機械兵は周辺を散開しているもの以外は、全て格納庫にあるはず。それが何かしらかの理由で攻撃してきたと言うことは、少なくとも敵は一度は格納庫に寄ったと言うことだ。……あの周辺は襲撃を警戒して、有事の際、障壁が出入り口を塞ぐことになっている。もし、そこから逃げたとしたら……。なるほど、つまり敵の逃げる道は一つしかないと言うわけだ」


 そう言うとゼスタは進路をその方向へと向ける。同時に無線で指示を出した。


☆☆☆


 機械兵を暴走させたソラ達は、障壁で進行を妨害されながらも通路をひたすら走っていた。


 「ひゃっほう。どうだいい作戦だっただろ!」

 「ああ、だが油断するな。機械兵で攪乱しているとは言え、まだ敵の方が兵数は上だ。このまま敵と接触しないように駆け抜けるぞ!」


 全員がこのまま上手くいくと思って走り続ける。その中で歴戦の将である田中とクラックはこの状況に違和感を覚えていた。


 (妙だ。先ほどから我々を攻撃してくる兵が少なくなっている。敵を撒いたと言えばそれまでだが、これは……)


 「外だわ、出口よ!」


 そうして走っていると外の景色が見えてきた。全員が我先にとそこへ飛び出そうとするだが……。


 「ここまで、ご苦労。さすがは劣等種族だ。探す手間が省けたよ」


 にやりと笑顔を浮かべるゼスタと大量の機械兵、エルロイドがそこには居た。


 「な、待ち伏せ!?」


 ソラが驚いて声を上げる。機械兵により場内は混乱していたはずだし、何よりいくつもある出口の中からここをピンポイントで当て、これだけの兵力を集中していたことが信じられなかった。


 だが、ソラが驚いている理由はもう一つあった。それは指揮官のような男に見覚えがあったからだ。


 (彼奴はあの時の……)


 そう、ソラがゼスタを見ているとゼスタは愉悦に満ちた顔で笑う。


 「どうして場所が、そう言いたそうな顔だな。くくく、お前達が相手をしたのがその辺の」


 そう言ってゼスタは取り巻きのエルロイドに視線を向ける。


 「雑多なエルロイドで、あれば確かにここまでのことは出来なかったかも、知れないな。だが、俺は此奴らと違って全てを持っている貴族だ。お前達のような劣等種族の考えることなど、手に取るように分かる。機械兵が動き出していることから、格納庫からここにやってくると思っていたよ」

 「俺のせいか……」


 昭人が呆然と呟いた。だが、ソラは言う。


 「機械兵を動かさなかったら、それはそれで別の問題が起こっていたよ。昭人のせいってわけじゃない」


 そう言うと昭人は励まして貰って悪いなっと力のない笑顔を見せる。


 「お前達にはまだ聞きたいことがある。じっくりと痛めつけて、どうして我々の武器を使っているのか、吐いて貰おうか」


 そう言ってゼスタが手を上げると周囲のエルロイドと機械兵が一斉に銃をソラ達に向けた。絶体絶命のピンチ。ソラ達は選択を迫られた。


 (ここで出来る選択は二つに一つだ。このまま包囲網に突撃し、犠牲を受け入れて(・・・・・)脱出する方法。外には別の部隊がいる。ある程度逃げ切れば、そのまま逃げ切れるはずだ。もう一つの選択肢は今来た道を戻ること、他の出口が見つかるかも分からない、敵の罠が張り巡らされているかもしれない。だけど、もしかしたらここに兵が集まっているため、上手く脱出できるかもしれない。全員が生き残れるように抗う(・・)方法だ)


 ソラは選択した。


 「『道を戻ろう』。ここに敵の兵力を集めたと言うことは他が手薄になっているはずだ。上手くいけば他の道から逃げられるかも知れない」

 「……そうだな。このまま突っ込むのもありだと思ったが、可能性に賭けてみるのも悪くないか」 「ああ、どちらにしろ確証はねえ。なら、やりたい方をやるだけだ」


 そう言って仲間達は武器を構える。そんな仲間達にソラは言った。


 「……僕があの指揮官っぽいのを攻撃するのが合図で、全員が動きだそう」


 ソラには自信があった。未来での彼奴の傷が自分によって付けられたものであるならば、この攻撃が成功する可能性は高い。


 ソラは一歩前に出た。ゼスタが怪訝な表情でそれを見て、ソラに問いかける。


 「なんだ?」

 「僕の名前は、ソラ・アオヌマ。貴方の質問に答えたいと思う。だから見逃してくれないか?」

 「ははは、命乞いか、そうだな……いいだろう。大人しく理由を話すというのなら、お前だけは見逃してやろうじゃないか。おい、お前、武器を出せ」


 そう言うとゼスタは突然話しかけられ、驚いた取り巻きからビームセイバーを奪い取った。そしてそれをソラの足下になげる。


 「そこで方法を試してみろ。こっちによく見えるようにな。ああ、それと、おかしなまねをしたらその瞬間撃つからな」


 自分からは近づかず、慎重にいうゼスタ。ソラは頷き、足下に落ちたビームセイバーを拾うとそのままゼスタに投げつけた。


 「方法は…これだよ!」


 何もせずにエルロイドの武器を投げつけたことに驚くゼスタ。するとそのビームセイバーの刀身が何故か出現する。


 (馬鹿な、奴は何をした!)


 何もしてないはずなのに現れた刀身にゼスタが驚愕する。何とか顔を反らそうとするが躱しきれずにその刀身はゼスタの顔を切り裂いた。


 「ぐぁ。いたい、いたいぃ~!」


 顔を血だらけにしながら押さえるゼスタ。それを見た周りの取り巻き達が慌て出す。そして、その隙を突き、三軍が動き出した。


 「今だ、逃げるぞ!」


 銃を撃ちながら、建物の中へと戻っていく三軍、同時にエルロイド側も銃による反撃を行う。その流れ弾が一人、前に出すぎていたソラを狙う。


 「危ねぇ! ソラ! …っぐ!」

 「昭人!」

 「かすり傷だ……今は走るぞ!」


☆☆☆


 「っく。そのまま突っ込めば、幾らでも援護出来たのに、くそ!」


 その頃、カイトはジュードに聞かれないように悪態をついていた。カイト達はもしもの時に備えて外で待機していたのだ。ソラ達が中央突破を始めたときに、どさくさに紛れて攻撃し、援護する予定だったのだが、それが全て崩れてしまった。


 (どうする? ソラ達は再び建物の中に入ってしまった。何の援護も無しに抜けられるとは思えない……脱出口を教えなければ。だが、それをするためにはソラ達の前にその姿を見せる必要がある。そうすれば今後の計画が全て崩れる……!)


 そこでカイトは近くに居たジュードを見た。


 (リスクはあるが、ジュードに行かせるか? 未来ではジュードとソラの接点はなかったはずだ。ここで顔見知りになっても、そこまで大きな変化はないはず……)


 「ジュード。基地に入り、奴らを出口まで誘導しろ。その際、姿を見せることは構わんが、私の存在を話すことは許さん。……できるか?」

 「出来るけど、白仮面様はどうするの?」

 「私はここで奴らを攻撃する。ここで釘付けにしなければ全ての戦力が向かってしまうからな。頃合いを見て脱出するから、こちらのことは気にするな」

 「わかった。じゃあ行ってくるね」


 カイトはスナイパーライフルでエルロイド達を狙撃しながらジュードのことを見送った。


☆☆☆


 「走れ! 立ち止まるな!」


 前方にいる敵を打ち倒しながらクラックがそう叫ぶ。中にいる敵兵は外より少ないとは言え、それなりの数が集まっていたため、全員が無傷とは行かず。多くのものが怪我を負っている状態だった。

 「居たぞ!」


 そこにまた新たなエルロイド達が駆け寄ってくる。


 「く、また来たか……」


 田中がそう言って銃を構えたとき、エルロイド達の頭がはじけ飛んだ。それを見て三軍が驚く、まだ、誰も攻撃していないのにっと。


 すると奥から一人のエルロイドがやってきた。その人物は手を上に上げながらソラ達に対して言う。


 「攻撃しないでね。僕は味方! 君たちを外まで案内してあげるよ!」

 「何を馬鹿な、お前! エルロイドだろ!」

 「そうだけど、今は味方なの。疑うなら別にここで死んで貰っても構わないんだよ? 君たちの換えは別にいるし」

 「……分かった。ついて行こう、どちらにしろ私たちに選択の余地はない」


 敵意もなく、あっさりとそんなことを言ったジュードを、田中は信用することに決めたようだ。実際に味方であるエルロイド達を倒しているし、そもそも敵の罠だったとしたら、ここが敵の基地である以上、見つかった時点で終わりだ。だからこそ、味方である可能性も残っていると田中は判断した。


 全員が疑いながらもジュードについて行く、そんな中で美玲がソラに小声で話しかけた。


 「あれが、ソラのお兄さん?」

 「いや、違う人だ」


 そんな話しをソラ達がしている頃、クラックがジュードに話しかけていた。


 「どうして助けてくれるんだ?」

 「それはね、君たちに利用価値があるから。エルロイドはね、星を侵略した後、その星を納める一番偉い人を選び出すの、その選ぶ基準が一番戦争で活躍した人なんだけど、そのままだと、さっきのやつみたいな貴族がその権利を奪って言っちゃうのね。だから、その貴族達を君たちに倒して貰おうってわけ、そうすれば僕たちのチャンスも増えるでしょ?」

 「内ゲバか……何処も変わらんものだな」

 「そうそう、そんなもん。あ、僕の裏切りがばれるわけにはいかないから、君たちを助けるのはこれで最後だよ?」


 そう言うとジュードは何かを思い出すようにソラを見た。そして聞く。


 「そう言えば、君。もしかしてエルロイドの知り合いとかいる?」

 「エルロイドの知り合い……? 何でそんなことを?」

 「あ、いや。別に深い理由はないんだけど……」


 意味深な発言をする、ジュード。その時、角から別のエルロイドがやってくるのが見えた。かなりの数だ。


 「やばっ。これ以上は不味いか。……この先を真っ直ぐ行って突き当たりを右にその先にある曲がり角を左に行けば出口が見えるよ、それじゃ!」


 そう言うと直ぐにその場から離れるジュード。それを見てソラは思った。


 「何だったんだ?」


 ソラ達はジュードの指示に従い走り続けた。程なくして基地を脱出することに成功した。


☆☆☆


 「ここまで来れば、敵も追ってこれないだろう」


 田中がそう宣言する。全員が安堵の表情でその場に座り込む。


 「良かった……」


 その時、後ろで誰かが倒れる音がした。それを見て、ソラが笑いながら駆け寄る。


 「昭人、いくら疲れたからって、そんな……昭人!?」


 だが、その笑顔が凍り付くことになった。ソラが倒れた昭人に駆け寄るとその腹に開いた傷が目に入る。そこからは血が流れていて、今までよく無事にここまでたどり着けたなっと言えるほどの重傷だった。


 ソラは賭けより、昭人を抱き上げる。


 「そんな、昭人。もしかして僕をかばったあの時に……。御免、僕のせいだ……」


 そう言って悔し涙を見せるソラ。それを見て昭人が笑う。


 「なくなっつーの。あの事態を招いたのはそもそも俺だろ?」

 「それでも、僕がこの襲撃のことを言い出さなかったら……」


 それを聞いた昭人は呆れたような顔をする。


 「何言ってんだよ。お前がこの作戦を言い出さなくても、軍にいる以上、いつなくなるか分からない命だ。なら友達の夢の為に散れるのは本望ってもんだろ。俺は正直、嬉しいんだぜ、最後に意味のあることができた、ただ死ぬんじゃなくて、最後に何かを残せたってな」


 そう言って昭人はソラに自分の持っていたビームセイバーをソラの手に握らせる。


 「ソラ、お前はすげーよ。俺が原因で彼奴らに待ち伏せされた時、俺は正直、なんてことしちまったんだ。俺のせいでみんなが死んでしまうって思った。この状況をどうすることも出来ないって諦めちまった。だけど、お前は違った。こうして最後まで諦めずに可能性を探して……最善とは言えないかもしれないけど、確かに被害を減らした」


 昭人はビームセイバーを握らせた手ごと、ソラの手を掴んだ。


 「希望ってのは不確かなものだ。手を伸ばそうと足掻けば、離れていき、手を伸ばさなければ、ここにあると目の前で光る。常に移ろいゆく、泡沫なものなんだ。だけど、そんなものでも、それがなければ生きてはいけねぇ。みんなでその希望を繋げて行かなければ、何も生まれねぇんだ。……ソラ、お前は俺の英雄だ。俺の希望だ。これからも多くの犠牲があるだろう。だけどそれは決して無駄じゃない。同じ光を灯す誰かがいるなら、希望は繋がっていく。希望って言うのは決して消えない。いつまでだって続いていくんだ。だからお前は、今のお前のままでいてくれ、決して消えない光となって、最後まで俺たちを照らしてくれ」


 そう言うと昭人はソラから手を離す。


 「だから俺のことを後悔するな、俺のその気持ちを否定するな。お前は最後までお前らしく進めばいい。それが俺がお前に渡す、思いだ」


 その言葉を最後に昭人は何も喋らなくなった。ソラは昭人の瞳を下ろし、目を瞑らせる。


 「昭人、分かった。俺は泣かないよ。君の分まで、希望を灯し続けてみせる」


 そう言ってソラは昭人のビームセイバーを持ち、立ち上がった。


☆☆☆


 「……っ!」

 「美玲、大丈夫?」


 流花は腹部を押さえて呻く美玲を見て声をかける。昭人のような深い傷ではないが、かすり傷を負っているらしい。だが、安心は出来ない。昭人の死を見た流花は直ぐにそれを治療しようとする。


 「だ、大丈夫! 自分でやるから、流花は他の人に……」

 「でも、自分じゃやりづらいでしょ? 貴方を直してから二人で他の人を直した方が早いし、私がぱっぱと……」


 そう言って美玲に近づく流花。だが、それを止めるものが居た。


 「待ってください。流花。君も怪我をしているでしょう? 後は全て私たちに任せて」


 そう言って現れたのは日本支部からやってきた衛生部隊だ。彼らはもしもの時のバックアップをノーマから依頼されていたらしい。手早い処置を行い次々と負傷者を治療していく。


 「美玲ちゃん。その傷だと脱がないといけないわね。ここだと男の人の目もあるし、少し移動しましょう」

 「え!? はい……」


 その女性に従い美玲は移動する。


 「あ、あの……」

 「大丈夫よ。私もそうだから」

 「……っ!? ……そうですか」


 全てを察し、一言そう言う美玲。それを見て、女性も悲しげに言う。


 「もう、どうにもならないことよ。きっとこれが運命ってやつなのね」

 「……こんなのが運命だなんて、そんなのあんまりです。じゃあ、私たちは一体何のために生まれてきたんですか?」

 「生まれてきた意味なんて、誰も持ってないわ。それでも生きる意味は誰でも持っているの。だからこそ私たちは逃れられない。私も貴方も、仕方ないことなのよ、受け入れるしかないの」

 「……そう、ですね……」


 二人は治療し、生きるために。暗い、天幕の中に入っていった。

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