第33話Break Down World(幸せな未来)-4
ソラ達は順調に皇の柱を攻略していた。ばらばらになりながら進んでいるとある部屋に入った。その瞬間、この部屋と今までの部屋の違いに気付く。そこには大勢のエルロイドと地球防衛軍兵士が折り重なるように倒れていた。
それを見た、ソラはこれをなした人物に目を向ける。中央でただ一人立ち尽くす白い仮面を付けた男……白仮面だ。
ソラはそっと倒れいてる地球防衛軍の兵士に近づくと、その生死を確かめる。まだ息があることを確かめると、自身の周囲にいる地球防衛軍兵士に向かって言う。
「まだ息がある。みんなは彼らを連れて下がって。奴の相手は……僕の仕事だ」
「しかし、英雄殿、これだけの数をやった相手を一人では……」
「大丈夫だ。奴とは一対一で決着をつけなければいけない。……分かってくれ」
「……わかりました」
そう言って兵士達は去って行く。二人だけとなった空間でカイトはソラに語りかけた。
「なぜ、全員で挑まない? その方が確実だっただろう?」
「それは、白仮面、いやカイト兄さん。貴方を説得して連れ戻すためです」
「ほう、気付いていたのか……。いつからだ?」
カイトは目を尖らせて、純粋な興味からそう質問した。それを受けてソラは答える。
「地球防衛軍の中にいた奴隷化を付けられていた人が爆発したときだよ。あの時、未来で白仮面が言っていた裏切り者のことを思い出して。その可能性に気付いたんだ」
「なるほどな。だが、これも記述通り、想定内だ(・・・・)」
そう言うとカイトは手をソラに差し出した。
「ソラ、なら、私がやろうとしていることも想像がついているのだろう? この手を取れ、お前の敗北で、私は統率官になる。それで全てが決まる。未来は救われる」
「……兄さん。その手はとれないよ」
「……なぜだ? この先の結末はお前も直接見ているはずだ。人類は革命を起こし、エルロイドに勝利する。そしてエルロイドの脅威の無い世界で永遠の平和を得ることになる。目の前に、そんな幸せな未来の世界があるというのに、この手を握ればそれが必ず叶うと分かっているはずなのに、どうしてこの手を取らない? ソラ」
笑顔でそう言うカイトを見て、ソラは苦痛な表情をして言う。
「確かに、その手を取れば。あの未来が訪れることは分かる。何より僕らが体験したことだ、間違いはないさ。だけどそんな世界はまやかしだよ。兄さん。未来っていうのは先の見えないものなんだ。だからがみんなが努力して、抗い続けて、そうやって思いを持って行動することで、未来を作り出していくんだ! 初めから、結末が決められた。既に作られていて、ただそこに進むだけの未来に、何の意味があると言うんだ。そんなまやかしの世界! 僕にはいらない!」
「まやかしだと? あらゆる可能性を潰し、たどり着いた、あの最良の未来が、あの(・・)尊い白い世界が、まやかしだと、お前は言うのか? 何人もの私が犠牲になり、たどり着いたあの結末を! お前はまやかしだと言うのか! お前の言う、不確かな世界こそ、本当のまやかしじゃないか! そんな、どうなるかも分からない世界で何が得られると言うんだ! ソラ!」
「何が得られるかなんて分からない。だけど残り続けるものがある! 僕は託されたその思いを守り通す!」
<血族認証……確認、エルロイド。ビームセイバーの使用を許可します>
そう言ってソラはビームセイバーを構え、カイトに向けた。カイトも対抗するようにビームセイバーを取り出す。
<血族認証……確認、エルロイド。ビームセイバーの使用を許可します>
「そうか、やはり、こうなるのか……。これが最後だソラ! 未来を受け入れろ! これはお前の為に用意された未来だ! お前にはその世界で生きる義務がある!」
「何度だって言うよ兄さん。僕は受け入れるつもりはない。未来を諦めず抗い続ける! 兄さんがそうやって白仮面であり続けるなら、その仮面を無理矢理剥がしてでも! 元の兄さんに戻って貰う!」
「ならば、私もお前を倒して! あの世界に送り届けるとしよう!」
二人は同時に踏み込む。そして二人同時に同じことを喋った。
「この……」
「分からず屋がー!!」
二人の持つビームセイバーがぶつかり合う。お互いの顔が間近に迫る。
「受け入れろ! ソラ!!」
「抗え! 兄さん!!」
カイトはソラに足払いを仕掛けると蹴り飛ばす。
「希望があるから立ち上がり続ける! 残酷にも、それが世界を滅ぼす! ソラ! 何故、分からない! 全てが終わった世界には! 希望など残っていないと言うことを! そんなまやかしは受け継がれないと! なぜ、理解出来ない!」
「だから兄さんは世界を自ら滅ぼすと言うのか! 全てを終わらせて! 新たな世界を作るために! その過程でどれだけの人が犠牲になると言うんだ! そしてその上で救われた世界に! ただ救われたという事実だけが残った世界に! 意味はあるのか!」
「あるさ! 世界が救われる以外に! 優先すべきことものなどあるか! そのために大勢の命が失われるとしても! それはどうせ、元々失われる命だ! 利用して何が悪い!」
「それが兄さんが本当に思う、思いなのか!? 兄さんの本当の意思なのか!?」
「意思や思いなど関係ない! 俺すらも世界を救うための! ただの歯車だ! 俺はそのためならどんなことだってする。かつての仲間も! 約束を誓った相手も! そしてソラ! お前すら犠牲にして! 全てを救う! ただ、目の前の事実を作り出す! そこへと道を辿っていく!」
カイトは銃を取り出すと、ソラに向かって銃弾を撃ち続ける。ソラはそれをビームセイバーで防ぎ、立ち上がると再びカイトに向かう。
「約束を誓った相手……? まさか、流花もノーマ達と同じように!?」
「そうだ、既に確保した。俺自身の手で左腕を切り取ってやった!」
それを聞いたソラは怒りの表情でカイトに斬りかかる。
「兄さんはそれでいいのか! 流花を、僕を、仲間達を倒して! 地球を滅ぼして! それで何も感じないのか!」
「痛みも慟哭も思いも、形のないものは、いずれ消え去るのが定めだ。そのようなものに価値はない!」
「そんなわけ、あるものか! 形のない大切なものだからこそ! 思いは! 永遠にそこに残り続けるんだ! そして残り続ける限り、きっとそこに意味はある!」
カイトとソラは激しく斬り合う。時には銃で撃ち合い。体術をぶつけ合う。
「意味があるだと……? その思いとやらで今まで何が出来た! お前は自分の思いとやらでここまで来たと思っているだろうが、それは間違いだ! お前はただ、俺に守られていただけだ! 守られ続けてやっとここまで来たお前が! 今更、思いの力とやらで! 何かをなせると本気で思っているのか!? ……世界を変える英雄はお前じゃない! この……私だ!」
「確かに僕は英雄なんかじゃない。だけどそれは兄さんも同じだ! たった一人で世界を変えるなんてそんなのは傲慢だよ兄さん! 誰もが支え合って! 思いを伝え合って! 繋いでいくんだ! 世界を変えるための力を! それを英雄と呼ぶのなら! 生きとし生けるもの全てが英雄だ!」
「それは違う。英雄はいる! 事実、白仮面(わたし)は成し遂げた!」
カイトはソラを弾き飛ばした。そしてそのまま斬りかかる。ソラは転がるようにしてそれを回避する。
「ソラ! 今、お前に出来る最善を考えてみろ! それは何だ! ここで私に抗い続けることか!? 否! 私に敗北し、未来を受け入れることだろう!」
「何が最善なのかなんて分からないよ! でも今すべきことは分かる。だからこそ僕は兄さんを止めるんだ! 僕は兄さんを救う!」
「私を救うだと……? くくく。ソラ、私は言ったよな? 敵を救いたい、でも仲間が危険な目に合うのは止めたい。そんな都合の良いこと、あるわけないだろう?っと。……世界は残酷なんだ。俺たちに全てを救うと言う選択肢は無い。何かを得るなら、代わりに何かを犠牲にしないといけない! 世界を救うためには! 世界の犠牲がいる! それが何故分からない! ソラ!」
「分からないさ! 分かってたまるか! 全部を諦めた先で! 手に入れられるものがあるか! 対価を払わなければ、何かを得られないなんて決まっていない!」
ソラとカイトの戦いの激しさは増す。様々な武器により、お互いがボロボロになっていく。
「お前は知らないだけだ! 知ればお前だって私の用になる! 地球はエルデンに勝てない! 今、出ているのはただの第一陣だ! まだ、幾らでもエルデンからやってくる! 終わりはない! 奴らは捨てたくて捨てたくてたまらないんだよ。初めから地球人に勝利の可能性はなかった! それを知ってもそんな戯れ言を言えるのか!」
「そんなこと僕には関係ない! その先が例え、必ず敗北する未来になろうとも! それを僕が知ったとしても! 僕の行動は変わらない! 自分の道は! 未来は自分たちで切り開く! その歩みに意味はあると信じ続けて! 進み続ける!」
そう言うとソラは隠し持っていた兵器をカイトに向けて投げる。だが、カイトはそれを同じように隠し持っていた兵器で撃ち落とす。
「無駄だ、その未来は知っている!」
そしてソラに接近し、大きくソラを切り裂いた。ソラはその攻撃を受け、床に倒れる。
「お前が勝てると思っているのか!? 五対一で私に負けたお前が! ソラ! これが絶対的な差だ! これが絶望だ! これが事実だ! 乗り越えることなど出来ない! 変えることなど出来ない! ここでお前は! 私に負け、未来で英雄となる! それがお前の、運命(さだめ)だ!」
「違うよ兄さん……運命は! 変えることが出来る! みんなの思いがあれば乗り越えることができる!」
ソラがそう叫んだ瞬間、カイトのビームセイバーが誰かに撃ち落とされる。
「な!?」
カイトは突然の乱入者の攻撃に驚く、そして邪魔が入らないように護衛しているはずの人物の名を呼ぶために声を張り上げた。
「オルトス! 何をやって……」
だが、カイトの言葉は続かなかった。カイトが見た、その先。そこには銃を構え、こちらを向くジュードと、自身が倒したはずの流花がいた。
「馬鹿な……!?」
「兄さん! これが人の思いだ!!」
ソラのビームセイバーが、隙だらけになったカイトを大きく切り裂く。大きなダメージを受けたカイトは動けなくなり、その場に倒れる。
地に這いつくばりながら、カイトは事態を理解し、憤怒を纏わせた声で叫ぶ。
「私を! あの(・・)尊い白い世界を! 裏切ったのか! ジュード! オルトス!」
カイトの叫びに合わせて、新たにオルトスが室内に入ってくる。
「私は……全てを失ったつもりでした。だからこそ、何に変えてもエルロイドを滅ぼすつもりでした。でも、そんな私に、また新しく思いが生まれてしまった。ここまで過ごす中で、白仮面様……いえ、カイト様。貴方とジュードを失いたくないと言う気持ちが。それにより、私は弱くなってしまったのでしょうか? いえ、違います。強くなったのです。このまま、決まった道を進み、全てを失うのではなく、抗って全てを得たい。そう、思うようになりました。それが例え、どんな絶望的な状況でも。私は諦めることはないでしょう。……だからこそ、ジュードを通じてソラさんから連絡が合ったとき、彼の計画に乗ることを決めました」
晴れ晴れとした顔でそう言うオルトス。続いてジュードが言葉を発する。
「白仮面様……カイト様が死ぬことになる計画なんて私が許すはずないじゃん! カイト様は私にとって世界。気付いてないかも知れないけど。それだけ大きな存在で、大切なんだよ?」
「そんなくだらないことで……私の理想が……」
「そんなくだらないことでも力になる。それが人の思いというものでしょう。ソラのお兄さん」
そう言って流花が近寄ってくる。ジュードがエルロイドの技術を使ったのか、左腕が元通り繋がっていた。流花はカイトの隣に立つと、その左上でカイトの頬を叩く。
「な……!?」
驚くカイトの前で流花は目を涙でにじませながら言う。
「馬鹿。あのエルロイドから全部話は聞いたわよ。一人で抱え込んで。まったく。……約束したでしょう? 恩返しするって。言ってくれれば相談に乗ったのに」
そう言ってカイトを抱きしめようとする流花をジュードが止めた。
「あー。こいつ。カイト様に何してくれてるの!? あんた、カイト様とどんな約束があるのか知らないけど。今までカイト様を支えてきたのは私なんだかね。あのまま放置したら不戦勝になって、気分が悪かったから助けたけど、私とカイト様の邪魔しないで!」
「貴方こそ、何者よ! エルロイドの癖に、ずうずうしい……!」
「やるのか!」
「やってやるわよ!」
突然、暴れ出した二人を見て、カイトは呆然と呟く。
「な、何なんだ、これは……」
、その時、カイトはあることに気付いた。
「待て、ジュードがここにいると言うことはゼスタが!?」
「それなら大丈夫だよ。助っ人がちゃんと向かってるから!」
ジュードは流花に絞め技をかけながら、白仮面に向けて笑顔でそう言った。
☆☆☆
ルーカスとゼスタの戦いは一進一退の攻防が続いていた。
「くそが! 坊ちゃんの癖にやるじゃないの!」
「貧民街に落ちた野良犬が! ちょこまかと……!」
平行線を辿る戦況。そんな中、急激な変化が訪れることになった。
「がぁ! な、お、俺が……俺は全てをもって……」
そう言って突然撃たれたゼスタが倒れる。ルーカスが武器を構えて銃撃があった方を向くと、そこには二人の人物がいた。
「見事だな。休み明けとは思えんぞ。田中将軍」
「当たり前だ。この程度の距離で外してたまるか。約束通り、あっちは任せるぞ。私は機材を破壊するからな。クラック」
そう言って別れる二人、クラックは警戒して逃げようとするルーカスに向かって足を一歩踏み出した。
「お前がルーカスだな。奴隷化を地球防衛軍兵士に使った。忌むべき邪悪」
「はぁ? お前、誰だよ。劣等種族に名乗られるほど俺の名前は軽くねーんだよ。大体よ、俺の兵器は奴隷化なんて名前じゃねえ。お前らの泣き叫ぶ声にふさわしい。もっとかっこいい……ぐ!」
クラックはルーカスがその兵器の名前を言う前に、その肉体を生かしたスピードで近づき、逃げる暇も与えず、ビームアックスでルーカスを貫く。貫かれたルーカスは血を吐いた。
「別に名前は聞いていない。お前がルーカスだと分かればそれでいい。あまたの仲間達を弄んだその報いを受けろ!」
そう言うとクラックはルーカスごとビームアックスを投げ飛ばした。怒りに身を任せ、超人的な力で放られたビームアックスは隣のビルに突き刺さる。それは同時にルーカスも隣のビルに突き刺さることを意味していた。
「た、だずげてぐれ……」
弱々しいルーカスの声が聞こえる。ルーカスはずるずると重みでビームアックスに体を引き裂かれ続けていた。それを見たクラックがルーカスに言う。
「お前にふさわしい刑罰だ。きっとその先でお前が今まで弄んだものたちが待っている。心して彼らの憤怒を受け入れるのだな」
「ああ”あ”~! つれてかないでくれ~!」
そう言うルーカスを背にクラック達はこの場所を破壊し、立ち去った。
☆☆☆
「あ、貴方は行方不明だったノーマ将軍!? 何故ここに!」
「そんなことどうでも良いだろう! くそ、未来にいけるはずだったのに! こうなったらやけだ! やれるだけやってやる! 全軍、僕が指揮を執る! 続け!」
そう言ってノーマは指揮を執り、皇の柱を駆け上る。その先、最上階の間にいたのはボルトだった。
「む、ここまでやってきたか!」
「あれが、僕たちが倒す敵だ! 全軍行くぞ!」
「ははは、戦争とはこうでなくてはな! 軍人の血がたぎる! 行くぞ同胞よ! 奴らを迎え撃て!」
☆☆☆
各地で地球防衛軍の善戦が続く中、カイトとジュードの持つポータルに機械的な、ある通信音声が入る。
『参加者が一定数以下になりました。第二陣の出撃を開始します』
その言葉と同時に、空にいくつもの影が現れる。エルロイドの第二陣がやってきたのだ。それを見て、カイトはソラに言う。
「ソラ、お前、自分が何をしたのか分かっているのか? これで地球が勝てる望みは無くなった。未来は絶望に包まれることになるんだぞ?」
カイトはただ、ただ、呆然とした。もう、終わってしまったのだ。望んだ幸せは、ソラの未来はもうやってこない。先の見えない。この大切な過去の世界で、守るために戦い続けなければいけないのだ。
カイトの質問にソラは笑って答える。
「そうかも知れない。だけどここにはみんながいるよ。それに力尽きた仲間たちの思いも確かに受け取っている。だから僕たちは最後まで戦える。みんなでしっかりと思いを抱きながら、この(・・)世界を生き抜くことができる」
そのソラの言葉にオルトス、ジュード、流花が頷く。
「老いた身ですが。皆様の為に力がみなぎっています」
「折角会えたんだもの、ここからは絶対に貴方を、みんなを守ってみせるわ!」
「カイト様と一緒なら私はどこまでだっていける! だから一緒に頑張ろう!」
その言葉を聞いてカイトは諦めたように笑った。
「分かったよ。なら、最後までみんなで頑張るか」
こうして人々の思いを乗せた、戦いは続くことになる。未来がどうなるか分からないが、そこに生きる人々の思いだけは確かにそこにあった。
(おわり)
Break Down World(壊す世界) きしと @guruguru
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