第3話終わりの始まりー3


 「……ふん」


 一言だけそう漏らすと、白仮面は腰に下げた装置の中から通信用端末を取り出す。その端末の中央に指を付けると機械で出来た音声が鳴る。


 <血族認証……確認、エルロイド。ポータルの使用を許可します>


 すると端末を中心に白仮面の前に複数の画面が浮かび上がる。その画面一つ一つに一人のエルロイドが映っていた。


 『白仮面様! 何か、何か御用ですか? ボクに手伝えることはありますか?』

 『はっ、普段特に何もやっていないでくの坊が、賢人会回線なんて面倒なものを使って何のようだ?俺は今、お楽しみ中だったんだが』

 『くけけ、【ルーカス】、相変わらず気色悪い趣味をしているな。劣等種族を周囲にはべらかすなんて』

 『【マルコ】の言うとおりだルーカス。我らは誉れあるエルデン軍人なのだぞ、少しは自制を覚えろ』

 『ああ?【 ボルト】のじじいはいつもうるせーんだよ。立派なエルデン軍人?はっ、もう軍人でもねーのによ。最後の最後で統率官(マスター)の権利を白仮面に奪われた能なしのくせに』

 『ああ、また始まったよ。俺、興味ないからもう寝るね』

 『おいおい、ここで寝ちゃうの。ちょっと待ってよ! この人達仲悪いんだから収集付かなくなるでしょ』

 『俺が……なんとか』

 『……っち…』

 『おーい。【ゼスタ】も勝手にどっか行かないでー!』

 『ははは、【フィリップ】は相変わらず苦労人ですね。統率官、このままだと収まりが付きません。さっさと始めませんか』


 【レヴィン】の言葉を聞き、このままでは本題にいつまで経っても入れないと確信した白仮面は腕を持ち上げる。それを見た残りのエルロイド達はそれまでの会話を止め、形式に従い白仮面の言葉を待つために画面の前へと舞い戻る。


 「まずはアルトを統べる。我らが同胞。急な呼び出しをして申し訳ない。いささか問題が発生してね、その解決の為に君たちの力を借りたいと考えている」

 『問題というのはやはりあの異次元ワープ研究ですか、だからあれほど私は言ったのです。本国でも危険性から行われていない研究を行うなど。そもそも既に星を得ている我々には必要の無い技術ではないですか』

 『あーあ。始まったよボルトのじじいの説教。つーか、ここまで来て研究の目的も分からないの? 耄碌してるの? 異次元ワープなんて研究、今更始める理由なんて本国を侵略するため以外ないじゃん』

 『くけけ、本国、本国かぁ~。確かにむかつくよな~。今でこそ星を手に入れたが、それまでどれだけ苦労したことか、本国の臭い貧民街に押し込められて、挙げ句の果てに数減らしの侵略だ。もっと楽に勝てる戦いをエルデンのお偉い方のせいであんなに苦労したんだ。それにオイラの苦労なんて知らずにお偉い方はずっと変わらずにオイラの故郷で権威を振るう。同じエルロイドの中でもオイラたちの方が優性種なのにな。一度痛い目に遭わせたいとオイラも思っていたところだ』

 『やれやれ、気持ちは分かります。ここに居る全員が少なからずそう言う気持ちを持っているでしょう。星を統べることになったとはいえ、私たちは所詮、本国から捨てられたエルロイドですからね、ですがその話は後です。問題が起こったのならその理由を』

 『そうです! 教えてください!! ボク、白仮面様のためなら何でもしますから』

 『ん? 今何でもって言った?』

 『フィリップ、めんどくさいから止めろ』

 『……ぁ、話しに入るタイミング…』

 『……っち。早くしろよ白仮面。俺はお前の顔なんか見たくないんだ。お前も自分を殺そうとした相手の顔なんて見ていたくはないだろう? 賢人会回線は用件が終わらない限り、全員の回線が切れないんだ。分かったら早くしろ』

 「やれやれ、相変わらずまとまりの無い奴らだ。……仕方ない手短に言うぞ。異次元ワープ実験の失敗によって別の星から二人の子供がこの星に迷い込んでしまったようだ」


 その発言を聞いたエルロイド達は驚きの表情を露わにする。白仮面は彼らから詰問の言葉が飛び始める前に会話を進めた。


 「今回君たちにお願いしたいのは、この二人の処刑もしくは確保だ。どちらを選ぶかは君たちの好きにするがいい。殺して安寧を取るも良し、欲望に任せて新たな標本体(デコイ)にするのもいい」

 『ちょっと待てよ。何、話しを勝手に進めてるんだよ。これは大問題だろうが、いくら統率官(マスター)とは言え、責任を取らずに後始末を押しつけるってのはどうなんかね~?』


 ルーカスの煽るような詰問が白仮面の言葉を遮る。白仮面はため息をついた後、エルロイド達を見回して言う。


 「ああ、そうだな。統率官(マスター)という地位にも飽きてきた所だ。そこまで言うなら責任を取ろう。私は今回の一件が終わり次第、統率官(マスター)を降りる。次の統率官(マスター)はこの二人を始末した人間にやって貰う。……これでどうだ?」


 その言葉を聞いて、残りのエルロイド達の目の色が変わる。一番初めに乗り気になったのはマルコだった。


 『くけけ、劣等種族狩りか、いつもクローンを使って楽しんでいるが、たまには本物相手っていうのも面白いかもなぁ~』


 それに反論したのは【ジュード】だ。


 『待ってください。なに乗り気になっているんですか。統率官(マスター)にふさわしいのは白仮面様以外いないじゃないですか!』

 『ジュードは相変わらず白仮面の金魚のふんをやってるのか。そんなんだからいつまで経ってもお子ちゃまなんだよ』

 『……っち。ルーカス、お前はいつもうるせーんだよ。黙ってろ。もういいですよね、白仮面殿?俺は出撃しますよ』

 『ゼスタ、てめー。本国の貴族だからっていい気になりやがって、どら息子で辺境の星に捨てられた癖に、いつまでも俺たち平民の上位者だと思ってるその態度、気にくわねーんだよ』

 「静まれ!」


 白仮面のその言葉に湧いていた会議がまた静寂に戻される。


 「お前達に自由にさせていたら纏まるものも纏まらん。よって任務には出撃順を付けさせて貰う。ルーカス!ボルト!現在のこの地点から最も近い領地はお前達だ。まずはお前達が任務に当たれ、失敗したら再度別のものに任務を与える。異論はないな?」


 ぎろりと仮面を付けていても分かるほど鋭い威圧を受けたエルロイド達は渋々それを許諾する。


 『あ~あ。結局俺は何もなしか、これなら寝てれば良かった』

 『……っち。なんてことはない。此奴らが失敗すればいいんだ。そうすれば俺の出番が来る』

 『そしたらまた少なくなってしまうな~最後の戦いのちょっと前までは結構いたと思ったのに、結局終わったら、こんなに少なくなってたもんな~』

 『まあ、気にすることは無いでしょう。どうせまた増えます。……それでは統率官、締めの言葉を』

 「連絡は以上だ。全員注意して任務に当たれ。解散」


 その言葉と共に通信が切れる。白仮面はポータルを腰に付けると共に空を見た。


 「全てはあの(・・)尊い白い世界の為に」


 白仮面はそれだけ呟くと再び視線を前に向け歩き始めた。

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