第2話終わりの始まりー2
「……ぅぁ……」
短いうめき声を上げて、カイトは体を起き上がらせる。様々な物体がぶつかった節々は痛く、その痛みが、なぜかまだ自分が生きていると言うことを理解させた。
どうして生きているのか? そんな疑問より先にカイトにはすることがあった。それは弟であるソラの生存の確認だ。たった一人の家族。守るべき弟。カイトは、自分の命よりも。ソラの命の方が大切だった。
「うぅ……」
「ソラ! 」
鈍い体を動かした先で、地面に倒れるソラをカイトは目撃する。ソラの体を調べ、大きな怪我が無いことを確認すると、どっと疲れて座り込んだ。
「よかった……」
「まったく、兄さんは心配し過ぎだよ。僕のことより、ちょっとは自分のことを気にしてよね」
兄の様子を確認し、異常が無いことを確認したソラは、体を叩いて汚れを落とし立ち上がる。
「それより……ここはどこなんだろう?」
「さあ、ただ言えることは、日本では無いことは確かだろうな」
同じように立ち上がり、辺りを見回したカイトがそう言う。周囲に見えるのは侵略によって荒廃した日本とは違い、汚れ一つも無い、発展した機械都市だった。
「異次元ワープとか?」
先ほど居た場所と明らかに違うこの世界。吹き飛ばされてたどり着いたとは考えにくい。死後の世界かとも思ったが、肉体は残っているし、痛みもある。それにこんな近未来的な世界が死後の世界とは考えにくい。ソラは消去法から導き出された最もあり得る可能性を口にする。
「かもな、エルロイドの技術力なら出来そうだし」
ソラの言葉にカイトは同意する。あれだけの技術を持っているんだ、やってやれないことは無いだろうと考えていた。そして、その前提で考えを進める。もし、これがエルロイドの転移技術によって引き起こされたものだとしたら、ここは一体どこなのか、答えは簡単だ。
「……となると、ここは敵の本拠地、エルデンってことになるな」
「……それって、凄くまずいよね」
「まずいなんてものじゃない。状況は最悪だ。……俺はともかく、ソラが見つかれば殺される。とにかくここを離れよう。いつ誰か来るか分からない。安全な場所を見つけてからゆっくりと捜索を始めた方が良い。それとソラはフードを被っておけよ?」
「わかった」
ソラの了承を得ると共にカイト達は動き出す。機械によるゴチャゴチャした町並みは姿を隠すのにはうってつけだった。建物や、よく分からない機材の裏に隠れながら、出来るだけ人が少ないであろう建物の少ない方へと向かい駆け出す。
(人が全く居ないな……)
そんな中でカイトは疑問を抱いた。エルロイドの本星だと言うのなら、もっとエルロイド達が居てもおかしくない。これだけ歩き回っているのに未だに誰も見つけられないというのは明らかにおかしい自体だった。
「……あ! 兄さんあれ!」
周囲を見渡しながら走っていたソラがある一点を指さしながらそう声を上げる。そこにはあの時、日本で宇宙から落ちてきた塔のような建物が建っていた。
「あれは、あの時の……」
「あれは【皇の柱】だ。来訪者」
「……っ!? 誰だ!!」
不意に聞こえた第三者の声、カイトはソラを自分の後ろに隠しながらそう答えた。いざというときは自分で交渉を行うためだ。ソラにフードをより深く被った。
暗い建物の中から現れたのは真っ白な仮面を付けた背の高い男だった。その奇妙な出で立ちに怪訝そうな顔をしているカイトに構わず男は名乗り出す。
「私の名前は【白仮面】。この星、第53エルデン植民地惑星、通称【アスタ】の統率官(マスター)だ」
「植民地惑星……。ここはエルデンじゃないのか?」
「そうだ。来訪者。そして、だからこそ、お前達はここで死ぬことになる」
そう言うと白仮面は腰から剣の持ち手のような機械を取り出した。そして持ち手のような機械を右手で強く握りしめると機械から音声が発せられる。
<血族認証……確認、エルロイド。ビームセイバーの使用を許可します>
すると突然持ち手のような機械から突然ビームの刀身が現れる。カイトは機械の音声から理解した。どうやらあれはビームセイバーという名の武器らしい。
明らかな敵意を感じ、そして高度な武器を持っていることを確認したカイトはすがりつくように男に語りかけた。
「待ってくれ、いきなり攻撃することは無いだろう! 俺たちは仲間かも知れないじゃないか!?」
「残念だが、この星でそれはあり得ない。……まるで何も分かっていないようだから教えてやろう。エルデンが侵略した星を自由に扱えるのは、侵略戦争に参加したものだけだ。そしてその参加者はエルデンによって選ばれる。その参加者が増えることは、第一陣となる参加者が一定人数以下になったとき以外あり得ない。エルデンは効率良くエルロイドを間引きしたいのだから、うっかりと侵略を簡単に成功できるほどの人を送り込んだら、戦争でエルロイドを減らせないだろう?だからそう言う取り決めになっている。そしてここは既に侵略が完了した星……つまり現在登録されている。私の知っているもの以外は、この星に勝手に住み着きに来た敵と言うわけだ」
そこまで言うと白仮面はやれやれと首を振った。
「まさか、異次元ワープ装置の研究中に、お前達のようなものがやってくるとは予想外だった。兎に角、災いの芽は若葉の内に刈り取らなければな。悪いがお前達にはここで死んで貰う、……或いはこの星の原住民達のように【標本体(デコイ)】になってもらおう」
そう言い放つと共に白仮面は一気に距離を詰め、ビームセイバーを振るう。カイトはそれを後ろに飛び退き、躱す。
「動きは良いな」
「くっそ……!」
服を一部切り裂かれながらもなんとか躱したカイト。切り裂かれた服の内ポケットから、何かが地面に落ちる。それを白仮面は拾い言った。
「紙の手帳か、良いものを持っている。だが、今のお前には過ぎたものだ」
そう言って白仮面は拾った手帳を懐に入れた。その瞬間、やるならここしかないと思ったソラが声を張り上げながら白仮面へと殴りかかる。
「わぁああああ!!」
「馬鹿、ソラ、逃げろ!!」
「……ふっ」
ビームセイバーを使うことも無く、白仮面の回し蹴りで吹き飛ばされるソラ。足に何かの装置でも付けられていたのか、尋常じゃ無い脚力で吹き飛ばされたソラは壁にぶつかり、うめきながら崩れ落ちる。
その際、深く被ったフードが外れてしまった。白仮面はちらりとソラの姿を見るとカイトの方に向き直る。
「まずは一人だ」
「よくも、ソラを!!」
激怒しながらもカイトはそれに身を任せなかった。激怒し、ただ闇雲に突っかかってもこの相手、白仮面には太刀打ち出来ないと理解していたからだ。怒りを抱きながらも冷静に、カイトはそれを自分に言い聞かせながら、白仮面の出方を伺う。
「よく、わきまえているな。怒りに身を任せずに、こちらの出方を伺うか。実力差が分かっている証拠だ」
「……」
カイトは何も言わず。ただ、白仮面をにらみ続ける。するとそれを見た白仮面は何が面白いのか突然、笑い始めた。
「何がおかしい」
「ははは……。いや、あまりにも来訪者、お前が滑稽だったものだからな」
「滑稽……だと!?」
「ありもしない希望を抱き、無理だと分かっていても挑まなければいけない、その姿。あまりにも哀れ、あまりにも愚か、あまりにも脆弱。……絶対に勝てないということくらい分かっているのに、そんな姿勢に何の意味がある?」
「……やって見なければ分からない。きっとお前を倒すことだって不可能じゃない……」
「いいや、不可能だよ。この世には絶対はある」
この世に絶対なことは存在する。それを心から信じ、言い切る白仮面。彼は突然、カイトに向けて問いを投げかける。
「来訪者、一つ聞こう。理想の未来にたどり着くためにはどうしたら良いと思う?」
「……そんなの誰もが諦めずに努力して、良い未来になるように頑張ればいい、そうすればいつか理想の未来とやらにたどり着くだろう」
よく分からない問いを投げかけてきた白仮面に怪訝な表情を見せるカイトだが、今、この場を支配しているのはビームセイバーという強力な兵器を所有している白仮面だ。カイトは相手に合わせるように思いつく回答を述べてみる。
「ふ、甘いな。誰もが諦めなかったから、努力したから、それだけで理想の未来にたどり着けるほど世の中甘くない。現に、今、私たちが居るこの星。この星の原住民達は必死で戦っていたぞ、高度な兵器を有する私たちよりもな。だが結果はどうだ」
そう言うと白仮面は足を持ち上げ、地面に叩きつけるとそのまま地面を抉るように踏みしめる。それは星自体を、星を守ろうとしていた人々の思いを踏みにじっているようにカイトには見えた。
「この通り、滅ぼされてしまった。大義も正義も夢も希望もあったのだろうよ。そこにはドラマのような愛憎を含んだ冒険劇があったのかも知れない。だが、そんな思いも全て踏みにじられ灰となった。精神論なんて結局役になんて立たない。哀れに足掻いて、哀れに死ぬだけだ。それが現実だ」
「……そう思うのなら、理想の未来にたどり着く方法なんてお前には無いだろう。無駄な問答をして何が目的だ?」
此奴はそもそも理想の未来なんてもの信じてない。そうカイトは思った。ただ現実を投げかけるだけなら誰だってできる。哀れな弱者に現実を見せたいだけなのか? なんて無駄で無意味なことなんだろう。敵から現実の無情さについて語られたところでカイトに取ってはどうでもいいことだ。この星の人々はエルロイド達にやられてしまったのかも知れないが自分は違う。どんな手を使っても弟と二人で生き残る。カイトにはその思いがあった。
「方法はあるさ。単純なことだ。それは可能性を消すことだよ。あらゆる理想の未来を阻む可能性、その全てを一つ一つ潰していく、そうしてあらゆる可能性をそぎ落とし、たどり着いた世界こそが理想の未来、世界となるのだ。色を全て取り除いていき、美しく濁りの無い色になる、この白(・)のようにな」
白仮面はそう言って自分の仮面を指さした。白仮面が白い(・・)仮面を付ける理由は自身のその考えを表したものなのだろう。そこまで考えたところでカイトはあることに気づいた。
「まさか、人が一人もいないのは!?」
「全員刈り尽くしたからだ。これで今、この場にお前への助けが入る可能性は無くなったな。そして助けが来なければお前が生き残る未来はあり得ない」
そう言って白仮面は再びビームセイバーを構える。どうやらお喋りはここまでのようだ。カイトは周囲を見渡す。近未来的な町並みにはゴミ一つ存在しない。つまり武器になりそうなものはない。どうするか……。
(ん?あれは……。そうか、白仮面はまだ気づいていないがもしかしたら……)
カイトは自分が(・・・)やるべきことを見据え、白仮面を見つめる。白仮面が踏み出した、その一撃をカイトは転がるように回避する。狙いは白仮面の腰に付けたビームセイバーの予備だ、だがそれは白仮面も予測していた手。彼は体を大きく反らすと共にその回転の勢いを利用してカイトを蹴り飛ばす。
「がっ……!」
ソラのように何かの装置の影響か、カイトは普通の脚力ではあり得ないほど飛ばされる。壁にこそぶつかりはしなかったものの地面に倒れ落ちるカイト。
「武器を取ることが出来れば対等に戦える。出来れば、で未来を考える愚かな思考だ。そんなものでは私は倒せない」
そのとき、何かの起動音がカイトと白仮面の耳に入った。
「……? なんだ……?」
「……っは。出来ればで考えるのは愚かなことってお前は言うが。そう捨てたもんじゃないみたいだぜ」
「にーさーん!」
その言葉と共に小さな小型の飛行機に乗ったソラがこちらに向かって飛んできていた。それを見た白仮面は現状を直ぐに理解する。
「あれは、私のフェザーシップか!?」
「消えろ!エルロイド!」
その言葉と共にソラはフェザーシップに取り付けられた重火器を白仮面に向けて放った。白仮面は予備のビームセイバーを手に取ると二つを繋げ、ダブルセイバーの状態に変え、それを回転させることでその砲撃を防ぐ。
攻撃が防がれてしまったソラ。だがこれは想定内だ。白仮面が防御に手を回すことになってしまった為に今、蹴り飛ばされ距離が離されたカイトはフリーになっている。
「兄さん!」
「ソラ!」
ソラの出した手をカイトは掴み、フェザーシップに飛び乗る。そしてそのまま白仮面を置き去りに飛び立つ。
「お前が居なくなっているのを見て、きっと何かしてくれると思ってたよ」
そう、あの時、カイトが気づいたこと。それはビルにぶつけられ倒れているはずのソラがいつの間にか居なくなっていることだった。それを見たカイトは、もしかしたら何か手を考えているのでは無いかと考えた。ソラが逃げた可能性も考えたが、それならそれでいいと思っていたカイトはわずかな可能性に賭け、白仮面から距離を取るために白仮面のビームセイバーを狙ったのだ。
「白仮面は突然僕らの近くに現れたよね。地面に倒れているときに空を見てそのことに気づいたんだ。もしかしたら、白仮面も日本に襲いかかってきたエルロイド達みたいに何らかの移動用手段……小型飛行機に乗ってやってきたんじゃないかって。だから白仮面が兄さんに夢中になっている間に周囲を散策したんだ。それさえ有れば彼奴を振り切れるから。そしてこれを見つけたってわけ。動くかわかんなかったけどなんとか動いて良かったよ」
ふーと息を吐くソラを見た後、カイトは遠い空を眺める。それをちらっと横目で見たソラがカイトに対して言った。
「……これからどうする? ここにはもう安全な場所はなさそうだよ?」
「……なら、元の世界に帰るしか無いだろう。異次元ワープを研究してたってあの男は言っていた。ならそれを利用すれば元の世界に帰ることが出来るかも知れない。そしてその研究が行われてそうな場所と言えば……」
「あの塔だね」
「そういうことだ」
ソラは飛行機の針路を皇の柱へと向けた。
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