第26話領域封鎖ー4


 「ひ、ひぇえええ!」

 「ピエールさんも手伝ってください! こっちは一杯一杯なんです!」

 「そうは言われましても! 私は兵糧班から成り上がったので、戦闘はからっきし……ひぇえええ!」

 「なんてことだ。どうして僕がこんな目に! くそ! ピエールさんと食堂で打ち合わせなんてするんじゃなかった!」


 食堂のキッチンに隠れながらノーマは機械兵と打ち合いを行っている。エルロイドの武器のおかげで機械兵を少しずつ排除しているものの、徐々に数は増し、突破されていまうのは時間の問題だった。


 「ノーマァー!」


 その時、その叫び声と共に機械兵が吹っ飛ぶ。それを行った人物を見て、ノーマは叫んだ。


 「助かった!」


 そう、やってきたのは3軍だった。ノーマが駆け出すより先に、ピエールがクラックに抱きつく。


 「だ、だずがりまじだ~!」

 「ええい。うっとうしい!」


 涙ながらに抱きついたピエールは直ぐにクラックに振り落とされる。ノーマは何故か、ピンチの自分を仲間が助けに来てくれたという美談がコメディとして汚されたような気がした。


 「ピエールさん。貴方に聞きたいことがあるんだけど……」

 「え? 何でしょうか?」

 「貴方のしっている秘密の抜け道について教えて貰いたい」

 「秘密の抜け道、秘密の抜け道。そうです、そうです! そう言えば、そんなのありました!」

 「……大丈夫なの? この人」


 流花が思わずそう言う。ピエールは突然立ち上がると駆けだした。


 「ちょ…!」

 「司令室です! 道は司令室にあります! うひゃあああ!」


 そう叫びながら逃げるように走り去るピエール。それを見て田中が叫んだ。


 「これはいかん。ピエールを守れ、死なせたら全てが終わるぞ!」


 三軍はピエールを追いかけて走った。


☆☆☆


 「ここです。そうここですよ! 確かこの椅子をこうして、番号は、そうそうこれです!」


 そう言ってピエールが司令室で操作を行うと、司令室の本棚がずれ、地下への道が現れた。それを見て、ピエールが言う。


 「さあ、行きましょう! 早く、行きましょう! こんな要塞とはおさらばです!」

 「いや、貴方、こんな要塞って、指揮官でしょ……」


 流花が呆れたような表情をする。というよりも三軍全員が同じような表情をしていた。そんな中、ソラがピエールに言う。


 「ピエールさんは先に行ってください。僕たちはここで殿を勤めます」

 「え!? 死ぬ気ですか? ソラ殿!?」


 ソラの発言に驚いたピエールが飛び上がる。ソラはそれを聞いて首を振る。


 「死ぬ気はないです。でも、まだ逃げようとしている仲間がいるのに見過ごすことはできません。流花、無線でここに来るように連絡をするんだ」

 「わかったわ」


 無線で流花が全ての地球防衛軍兵士に司令室に来るように伝える。それを見た、ピエールが焦ったように言う。


 「で、ですが! いくらエルロイドの武器を使えるからと言っても、相手の物量は既に我々を超えています! それに、通路の行く先は私以外だれも知りませんが、時間をかければ何れ見つかります。そうなったら、撤退することも出来ずに! 挟み撃ちになって万事休すですぞ!」

 「……確かに、砦の周囲を散策されれば気付かれる可能性は高くなるな。逃げ出せば逃げ出すほど、不自然に兵が現れる場所が特定される。それにこんな狭い部屋に大量の兵士が来るのは、相手も外へ出る通路があるからだと理解しているはずだ。対策をしないはずがない……残れば確実に死ぬことになる……か」


 田中が呻くようにそう言う。それを見て、ソラは言った。


 「それでも、そうならない可能性もある。それにここで多くの仲間を失えば、これから先、エルロイドとの戦いがたち行かなくなる。ここは無理をしてでも残って戦うべきだ」

 「正論だな。結局は誰かが残らなくちゃいけない……。だが、それは全員でなくてもいいはずだ。ソラ、お前たちは脱出しろ。ここには俺が残る」


 それを聞いたソラは問い詰めるように声を上げる。


 「何言ってるんだ! クラック、一人を見捨てて……」


 そこまで言ったところでソラは未来でのクラックとの会話を思い出していた。


 『「おう、こんなに小さくなって、久しぶりだな! 俺とは砦の戦い以来か!」』

 

 「砦、そう砦だ。クラック! クラックは未来であったとき、砦の戦い以来か!って言ってた。砦の戦いってきっとこれのことだよ。だからここに残ったら、クラックは白い仮面を被った男、白仮面にやられちゃう! だから一人で残すわけにはいかない!」


 白仮面は確かにこの戦場にいた。なら可能性は高いはずだ。ソラは未来を変えるためにも、ここでクラックを残すという選択はしたくなかった。


 だが、既にクラックは覚悟を決めているようだ。


 「未来の俺も迂闊だな……。まあ、再開が嬉しくてつい言っちまったのかも知れないが。まぁ、どちらにしろ、そんな話しは関係ないんだよ、ソラ」


 そう言うとクラックはソラの近くに寄った。


 「俺はな、どうなるか分からない未来のために戦っているんじゃないんだ。今、大切な何かを守るために、ここでみんなと共に戦ってるんだよ。つまり、未来が、どうだとか、どうなるとか、そうなのはどうだっていい。そんなもの、未来にならなきゃ分からないからな。でも今、分かっていることがある。それはここで誰かが体を張らなきゃ、ソラ、お前も含めた大切なもんがなくなっちまうってことだ。だから、俺が今したいことはただ一つ。仲間の為にここで体を張る、ただそれだけだ」


 そう言うとクラックは笑顔を見せてソラの肩を叩く。


 「……だいたいソラ。お前は俺を信用してないのか? 俺が負けるなんてまだ決まったわけじゃないだろう。俺は勝ってくる、お前はそれを信じてただ待っていればいいんだ」

 「そんな! いい加減な……ぐぅ!?」


 クラックの言葉を否定し、止めようとするソラ。だが、その途中でクラックの拳がソラを抉る。殴られたソラは床に叩きつけられて意識を失った。


 「クラック何を!?」


 それを見た流花が叫ぶ。クラックはピエールの方を向くとピエールに向かって命令する。


 「ピエール。今すぐソラをつれて脱出しろ。三軍のみんなは、それの護衛だ。さっきも言ったがここは俺が受け持つ。……分かったらさっさと行け!」

 「はいさ~!」


 ピエールがその言葉と同時にソラを担ぎ逃げ出した。それを見て、慌てて三軍もついていく。クラックは去って行く流花と美玲を呼び止める。


 「嬢ちゃんたち! 分かってると思うが、ソラをしっかりと支えてくれよ。彼奴は直ぐに危ない道に突っ込む、俺たちの英雄様だからな。一番近い場所にいるお前たちが、しっかりと見守ってやってくれ!」

 「はい、任せてください!」

 「……何、今生の別れみたいに言ってるの。帰ってくるでしょ? 戻ってきて自分でやってちょうだい。私たちは先に行ってるわ」

 「別れみたいか、そりゃそうだ。らしくないこと言っちまった」

 「全く、そうだな。そんな図体にしおらしい言葉は似合わん。未来は気にしないんじゃなかったのか? 怖いなら逃げてもいいんだぞ?」


 そう言ってその場に佇むのは田中だ。クラックは田中に向かって言う。


 「怖いは怖い。軍人になってからずっと怖い思いばっかしているよ。だが、それ以上に気力で溢れているんだ。ここが俺の見せ場だとな。田中将軍はいいのか? 一緒に行かなくて」

 「もう、将軍ではないわい。……決まってるだろう。囮に殿、この二つをこなして生き残った軍人などそうそうおらん。自分がそれを出来ると思うと興奮しないか? 軍人日和に尽きるとな。それにあの時助けに来てくれた借りもかえさんといかん」


 そう言って武器を構える田中。それを見たクラックも言う。


 「軍人日和か。ああ、そうだな。俺もそうだ。そうなったら最高に格好いいな。やれやれ、いっそのこと負けるわけにはいかなくなった。しっかりと帰ってこのことを伝えて自慢しないとな」


 クラックは深呼吸をする。


 「未来がどうなるかなんて分からない。そして例え知っていたとしても同じ道を取っただろう。変えられると信じて、自らの意思で切り開くだけだ」


 そう言ってクラックは自分の頬を叩き、気合いを入れた。


 「……準備はいいか相棒!」

 「もちろんだ。さっさと終わらせよう相棒!」


 二人は司令室に逃げ込む地球防衛軍を助けるために司令室を飛び出した。後ろから追撃しようとするエルロイドを田中が撃ち、クラックが切り裂いていく。鬼気迫るその動きに、数多くいるエルロイドと機械兵が押されていた。


 「此奴たった二人で俺たちを!」

 「そうさ、私たちはお前たちと違って強い!」

 「地球人の生きる意思を舐めるな! 宇宙のもやし共!」


 そう言うとクラックと田中は背中を合わせた。長い戦いの中で、既にほとんどの兵士が逃げいていき、クラックたちは周囲を囲まれている。だが、それでも司令室に続く扉は通さない。


 「ここから先の領域は俺たちによって封鎖されている!」

 「私たちが居る限り、絶対に通させはしない! つまり、永遠に封鎖中だ!」


 そして再び二人は離れ、次々とエルロイドと機械兵に襲いかかる。クラックを狙う敵を田中が討ち、田中に近づく敵をクラックが切り裂く、古くからの友人である、古くから戦い続けた二人の兵によって、武器だけを頼りに戦ってきたエルロイドたちはその気迫に足が前に出なくなる。


 永遠にも続くと思われた戦い、だが、それも終わることとなった。


 「この程度の相手にここまでされるとは、情けないな。お前たちは」


 そう言って奥から一人のエルロイドがやってくる。白い仮面を付けたエルロイド。それを見たクラックが叫んだ。


 「あれが……白仮面!」


 今、クラックたちの未来を変えるための正念場がやってきていた。


☆☆☆


 (なんか一人多いな? 白仮面様の話だと、クラックって言う兵士一人だけだったと思うんだけど)


 司令室の前に立つ、二人の地球人を見た、白仮面の仮面を付けたジュードはそんなことを考えていた。ジュードがなぜ白仮面の仮面を付けているか……それは白仮面に成り代わるためだ。

 白仮面は現在、マルタ暗殺を行っている。その時に目立つ仮面をつけたエルロイドが前線にいなければ白仮面の犯行が疑われてしまう。だからこそジュードは白仮面のアリバイ作りの為に、白仮面を演じてここまでやってきたのだ。


 (ま、いいや。どちらにしろやることは変わらない。二人いるなら二人確保しよう。二人に増えて難易度が上がったけど、どんな困難なミッションでも! 愛の力があれば乗り越えられる!)


 「さあ、では始めようか」


 ジュードは短くそう言うと、ビームセイバーを二本取り出して二刀流にする。そして田中に斬りかかった。


 「此奴! 速い!」


 このときの為に、エルロイド最強の男である、カイトから直々に特訓を受けた剣技だ。カイトには劣るもの、ジュードの剣技はこの世界の最高レベルに達していた。


 「っち……!」


 クラックが間に入り、ビームセイバーとビームアックスがぶつかる。ジュードは回転すると下から上に突き上げるようにビームセイバーを上げた。それにより、アックスが上に持ち上がる。


 「何!?」


 細身の相手に力負けしたことを驚くクラック。そこへジュードの剣が迫る。それを田中が銃を放つことで止めようとする。だが……


 「甘い」


 その銃弾をジュードはビームセイバーで弾き返し、田中の銃を持つ腕に命中させる。腕を撃たれ、田中は痛みで銃を落とした。

 そして、田中の援護がなくなったクラックをジュードはビームセイバーの柄を使って思いっきり殴る。


 「がぁ!」


 他のエルロイドが、種族として優れている自分たちがその能力を劣等種族相手に強化するなど、滑稽だとして、ほとんど使わない筋力強化兵器を使ったジュードの連撃にクラックは「くそ……」と無念さの残る声を出しながら意識を失う。


 「強者の勝負は……」

 「ぬぅ!?」

 「たった数手で決着がつく」


 いつかカイトが言っていたことを思い出しながら、ジュードは田中も殴り倒し、気絶させた。


 二人を手早くかたづけたジュード。それを見て、手間取っていたエルロイドたちが歓声を上げる。そしてクラックと田中にトドメを刺そうとしたところでジュードがそれを止めた。


 「待て、此奴らは私が貰っていく」

 「し、しかし……」

 「貴公らにはまだやるべきことがあるだろう。この先に進み、後を追わなければ。私の手柄を横取りしている暇ではないのでは?」

 「し、失礼しました!」


 ぎろりとにらまれたことで駆けだしていったエルロイドたちを見ながら、ジュードは田中とクラックを回収する。そして通信機を取り出してオルトスに連絡を入れた。


 「任務完了」


 それだけ伝えるとジュードは急いでその基地から離れていった。


☆☆☆


 『任務完了』


 その報告を受けたオルトスは離れた高台にいた。そして手元の装置に目を向けるとそのボタンの一つを押した。


 それと同時にオルトスが数年前より仕込んでいた爆弾が爆発し、アイギス要塞は地下の秘密通路を含めて崩壊していく。それを見ながら、オルトスは二つ目のボタンを押した。

 すると、ダムの堤防が決壊し、そこから流れ出た大量の濁流が戦場に向かっていく。


 「本来なら、こんな荒技は、エルロイドには聞かないんでしょうが、今ならエルロイドにも有効な一撃となる」


 濁流はついに崩壊したアイギスまで到達する。陸地に展開していたエルロイドたちが巻き込まれ、死んでいくのを見ながらオルトスはカイトとの会話を思い出す。


 『エルロイドは基本的に、少数での行動を基本とした戦術をとる。……それは高性能な兵器による圧倒的なアドバンテージがあるからだ。建物ごと押しつぶすとか、濁流で流すとか、そう言った、いかなる事態も兵器を使えば切り抜けることはたやすい。それ故に、軍であるにも関わらず、一人で切り抜ける個人主義が蔓延し、少数行動を取るのだ。だから、普段なら、例えその策が成功したとしてもたった数人だけを倒せるだけで労力に見合わない。だが、今回の戦は勝手が違う』

 『どういうことですか?』

 『まず、第一にこれが本来少数で動くことを基本とするエルロイド達が、初めて大規模な集団で展開する作戦だということだ。これにより、ヒットアンドアウェイを基本にした、戦闘機による攻撃は、お互いの戦闘機が邪魔をすることになるため、使えず、多くの戦闘員が陸地から直接乗り込むという、原始的な方法をとらざる終えなくなった。これにより、計画している二つの策にかかる可能性があるエルロイドを増やすことが出来た。そして同時に、この人数の多さは、ことが起こった時の対応の悪さに繋げることもできる。本来であれば、周囲のことを気にせず、自分だけが助かる兵器を使えば良かった。だが、今回はすぐ側に別のエルロイドがいる。……そんな状況で誰もが自分だけは助かろうと別々の兵器を使い始めたらどうなる? 結果は分かりきっている。お互いの兵器がお互いの兵器をつぶし合い。誰も有効な兵器を使えなくなる。そこで起こるのはパニックだ。冷静に相談して使うべき兵器を全員で使わなければならないのに、それすら考えることが出来ず、迫ってきた濁流や崩落に為す術も無く殺されることになるわけだ』

 『なるほど、そのパニックをより強くするために指揮官を……』

 『そうだ、第二に上げられるのは指揮官であるマルタの死亡だ。これにより、エルロイド達は取るべき手を聞けなくなるどころか、本陣からはオルトスが用意した地球人部隊が射撃を行いエルロイド達を攻撃することになる。きっとエルロイド達はより思うだろう。助けてくれるべき本陣からの連絡はなく、逆に攻撃された。自分たちは裏切られたと、もとより先の通信で味方の中に自分たちを襲おうとしている裏切り者の存在は示唆されている。そうなってくれば本格的に裏切り者が動き出したと考えるだろう、共に攻めている味方も本当に味方かどうかわからない、自分でどうにかするしかないと考える思いが、他者を蹴落としてでも助かろうとする思いに繋がり、エルロイド同士で助けられる仲間を助けず、被害が広がるうえに、争い合う。……もとより、エルロイド達は侵略を目的とした、エルデン本国の様々な住民だ。全員が軍人と言うわけでもなければ、エルデンのためという崇高な理由でいるわけでもない。それぞれが侵略したうまみを味わうために来ているのだから、地球防衛軍のような、追い込まれている状態になった時、他のものを考えて、自分を捨てて戦うという、軍人としての気概がそもそも足りていないのだ。簡単に言えば、利益を得ているときはいいが、自分の命が危機にさらされると脆い。侵略者とは大概そのようなものだ』

 『崩落した基地と、迫り来る濁流が彼らの危機感を煽るわけですね』

 『その通り、そして最後に上げられるのは、地球防衛軍の奮闘だ。いくら強力な兵器を持っているとは言え、それを使えなければ意味がない。簡単に言えば、それを使えない状況を作ればいい。基地や外にはエルロイドに対して決死の抵抗をする地球防衛軍たちがいるはずだ。ほとんどのエルロイド達はそれと戦闘中だった。その状況で突然崩落や、濁流が来ても。目の前にいる地球防衛軍を無視することは出来ず、判断は遅れる。結果、兵器を使うことが出来ずに大勢のエルロイドが巻き込まれる結果となる。……だからこそ……』


 「大勢の地球防衛軍兵士を生け贄に捧げる必要があった」


 オルトスは、エルロイドと共に押しつぶされ、流される。勇敢で誇り高い地球防衛軍兵士達を見ながらそう呟いた。


 『どうせ、エルロイドに殺されていた命だ。死ぬという事実は変わらない。なら、せめて多くのエルロイド達を殺すための対価とした方がいいだろう。……彼らの犠牲が、あの(・・)尊い白い世界へと道しるべとなるのだ』


 「あと何人の命を対価に差し出せば、世界は救われるのでしょうか……」


 そう言うとオルトスは戦場に背を向け、離れていく。


 アイギスで仲間の為に戦い抜いた地球防衛軍の兵士、エルロイド本陣でエルロイド達を殺し、最後は自ら死ぬ予定の自身の部下達。多くの思いを、命の火を、犠牲にしているのにも関わらず。まだ運命は救いの火を灯さない。一体、どれだけの、思いを、命を、捧げれば世界は救えるのか、どれだけのものを運命は欲しているのか。


 オルトスは思わず呟いてしまう。


 「運命とは強欲なものです」


 心から出たオルトスの本音だった。


☆☆☆


 「こ、ここは……」

 「あ、ソラ君!」

 「目を覚ましたのね!」


 ソラは揺れ動くピエールの背中で目を覚ます。駆け寄ってきた流花と美玲を見て、ソラはすぐ、気絶する前の状況を思い出した。


 「クラックは!? あれ? 田中さんもいない! 二人はどうなって……」


 周囲の仲間を見渡して、その二人がいないことに気付いたソラは声を上げる。それを聞いたピエールは悲痛な顔をして言う。


 「残念ですが、ソラ殿。私たちが去った後、アイギスは謎の崩壊を遂げました。もし、あのままあそこで戦っていたのなら、悲しいことですがお二人は……」

 「そんな、僕は結局、救うことが出来なかったのか、未来を変えることが……出来なかったのか……」


 そんなソラの言葉をノーマが神妙な顔で聞いていた。


 大勢の仲間を失った地球防衛軍は自らの基地への帰宅の途に就く。また新たな戦いの日々を、生き残ったものとしての役割を……果たすために。


☆☆☆


 「君がソラだね? 私はオルトス様からの命令でやってきたものだ。君に伝えなければならないことがある。……今、時間は大丈夫かね?」

 「はい……。大丈夫です……」


 日本支部を帰ってきたソラ達を出迎えたのはオルトスの使いを名乗る男だった。クラックと田中、そして他の地球防衛軍の仲間達を失った衝撃から立ち直れていないソラは、それに力なく頷く。


 「では、こっちに来なさい」

 「私も付いていくわ!」

 「わ、わたしも!」


 ソラを引き連れていく、男。流花と美玲も共に付いていく。しばらく歩いているとソラ達はある部屋の前に着いた。その部屋を見て、思わずソラが呟く。


 「霊安室……そんなまさか……!」


 ソラは男の制止を聞かず扉を開けた。そんな結末信じたくなかった。だが、現実は無情だ。ソラ達は開けられた扉の先で見ることになる。腐敗し、辛うじてエルロイドだと分かる。そんな遺体を


 「見つかった時にはかなり腐敗が進んでいてね。だけどオルトス様はこれを君の兄だと判断したようだ。一応DNA鑑定をするように頼まれている。ソラ、後で君の血液を採取させて貰うよ」

 「どうして……。どうしてソラのお兄さんが死んでいるんですか! あんなに早く探すように伝えたのに! 何が原因でなくなったんですか! お兄さん! お兄さんは!!」


 未来でソラが聞いた通りの展開になり、大切なソラの兄を失ったことに気付いた流花は発狂しながら、男に詰めかかる。男はすさまじい勢いで首を絞められ、殺されるという危機感を抱きながらも律儀に答える。


 「私も詳しくは知らないよ! 発見したときには既に死んでいたんだ。どうしようもないだろう!」


 そう言うと男は流花を突き飛ばし、足早にそこを去って行く。流花はそのまま泣き始めた。


 「約束したのに、今度は私が守るって……。それすら出来なかった……」


 泣き出した、流花の隣で、呆然としていたソラが、流花が泣き始めたことで何かの意図が切れたのか膝をつく。


 それを見て、美玲が心配そうな声を上げる。


 「ソラ君……」

 「もう泣くなって」


 ソラが呟く。


 「諦めるなって。そんなこと、今は出来ないよ……」


 思い出すのは、なくなった友人との大切な約束。だが、ソラはあふれ出る気持ちを止めることが出来なかった。


 「兄さーーーーん!!」


 ソラは叫んだ、そして泣いた。


 失ったものたちとはもう二度と会うことは出来ない。この世界への道は、領域は封鎖されている。もう、誰も帰ってくることは出来ないのだ……。

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