第25話領域封鎖ー3
その夜。見張りの兵士以外、誰もが寝静まった頃、事態は動いた。
焦げるような臭いと煙、そして争う人の声でソラは目を覚ます。その時、扉が開かれた。
「ソラ君! 敵襲だよ!」
部屋に飛び込んできた美玲がそう言う。美玲は手早くソラの私物から、ソラの装備を取り出すと、混乱するソラにそれを渡した。
「早く準備して! 休息を取っていた他の三軍のみんなも動いているから!」
そう言ってドアの前で打ち合いを始める美玲。ようやく頭が冴えてきたソラは急いで準備を終わらせた。そして美玲と合流する。
「これ、どういう状況なの!?」
「詳しくは、ノーマさんか、田中さん、クラックさんに聞いた方が良いと思う。取り敢えず移動しよう!」
美玲に先導され、移動していくソラ。そこに流花が合流してきた。
「二人とも大丈夫!?」
「ああ、大丈夫だけど。これは!?」
「軍内に裏切り者が出たの! そいつらが基地に火を放つなど破壊工作をして! もう基地はパニック状態よ! 他の三軍のみんなとも離れちゃったし、誰が味方で誰が敵かも分からない最悪な状況! 指揮系統もグチャグチャだわ! それについさっき……!」
その音と共に基地が大きく揺れる。そして戦闘音が激しくなった。
「物見からの連絡でエルロイドが動き出したって放送が入った。もう、ここは駄目だわ。落とされる! 早く脱出しないと私たち、全滅よ!」
「何だって!?」
ソラは想像以上の状況の悪さに思わず声を上げる。そして思い出していた未来でのことを。
(確か未来でも僕たちの中に白仮面が放ったネズミがいた。あの時はノーマさんだと思ったけど、今なら違うと断言できる。あの人は手段は選ばないけど地球人の未来について誰よりも責任感を感じてる人だ。でも、そうすると未来での裏切り者は誰だったんだ。あの場所を知るには僕たちの中に犯人がいる必要がある。でも流花もクラックもノーマも。過去で一緒に戦って、絶対に違うと言える……。何かがおかしい。何かが間違っている気がする……!いや、今はそれを追求している時じゃない!)
「取り敢えず、今は、ノーマさんや、田中さん、クラックと合流を優先しよう。このまま僕たちだけじゃ、何も出来ない! 二人ならこの混乱の中でも三軍を纏めてくれているはずだ!」
ソラはそう言い。それに頷いた美玲と流花も動き始める。各地で銃弾が飛び、地球人が地球人を殺していく基地をソラは悲痛な目で見ながら、ひたすらに田中とクラックを探す。
「どうしてこんなことに、同じ地球人じゃないか、エルロイドに滅ぼされるって分かっているのに裏切るなんて」
「そう思っていたからこそ、今、こんなピンチになっている!」
ソラの質問に答えるようにビームアックスを振るい、流花を攻撃しようとしていた裏切り者の男をクラックが切り裂く。そこに田中が引き連れた三軍もやってきた。
「まさに盲点を突かれた。敵対種族との戦争で、身内から裏切り者が出るとは誰も思わん。それが我らをゴミのように扱う敵対種族であればあるほど、その思いは強くなる。だから、誰も何の対策も出来なかった。一体いつから裏切り者になっていたのか。何故裏切ったのか。利権も絡まない滅びの危機でも人間は欲を押さえられないのか、あるいは弱みを握らされて脅迫されているのか、個人的には後者の方がまだましだな。これだけ頑張って人類を救おうとしているのに、そんなふざけた考えで全てを台無しにされてはたまらん」
「……」
そう言って田中と三軍はクラックと共に敵を蹴散らしていく。そんな中でソラは彼らに話しかけた。
「田中さん! 無事だったんですね! 三軍のみんなも!」
「全員無事とは言えないが、なんとかな。ともかくここから脱出しないと尻損だ。態勢を立て直すにしても、この状況では何もできん。一旦、安全な場所に引かなくては」
そう言ってソラ達は地上に向けて下っていく。その途中で裏切り者の兵士達が次々と襲いかかり、大した攻撃もなく、反撃で笑顔で殺されていく。
それを見た、田中が吐き捨てる。
「殺された癖に、晴れやかな顔をしおって」
その光景を見ていたソラが、ある可能性に気付いた。
「これ、もしかしたら奴隷化(スレイブ)を使われてるんじゃ……」
「前にソラが言っていた、連帯責任で爆発するっていうあの?」
「そう、身内を人質に取られてるから命令に従うしかない、最悪の道具だ。ルーカスってエルロイドが使ってるって未来の流花が言っていたんだけど……」
「……っ!」
その言葉に、美玲が小さく悲鳴を上げる。だが、戦場の音にかき消されて誰も気付くことはなかった。
ソラが手を握り、自身の失態を悔やむ。
「僕がもっと早く動いていれば……! エルロイドの武器を奪って、戦況を覆すことに必死で、周りが見えていなかった僕のミスだ……」
「ソラ、お前のせいではない。どちらにしろ、お前が行動するより早く、既に裏切り者は浸透していたのだろう。ならば、お前が動き出したところで、その瞬間に事態が起こると、時期が変わるに過ぎん。遅かれ早かれ、これは防げなかったことだ」
そう、ソラに田中が言う。それを聞いたクラックがやるせない表情で拳を握ると叫んだ。
「地球防衛軍の将兵よ! 聞こえているか! 我らの仲間は! 悪しきエルロイドの兵器によって、身内の命を盾に脅されてしまっている! この兵器は自分で取り除くことができん。 彼らを救えるのは! 同士である、我らだけだ! 友だからと手を緩めるな! 友だから全力で殺せ! 死を持って我らが、同士の戒めを解放しよう! それが同士であり、仲間であり、友である! 我々の役目だ!」
そう言って、飛びかかってきた裏切り者を切り捨てるクラック。その表情は憤怒に包まれていた。それを見た、地球防衛軍の兵士も覚悟を決め、次々とその手で、友を、愛する人を殺していく。
「うおぉおおおお!」
兵士の銃が、同じ地球防衛軍の兵士を撃ち抜く。
「すまねぇ。剛……。ありがとう……」
そんなことを言いながら、死んでいく仲間を、兵士は涙を流して見送っていった。
クラックの魂の叫びにより、仲間同士の打ち合いに戸惑い、押されていた地球防衛軍の兵士が息を吹き返す。戦況は地球防衛軍の有利になっていた。だが、そこで事態がまた動く。
「エルロイドだ! エルロイドがここまで来たぞ!」
戦艦で屋上から降下してきたエルロイドや、地上から進入してきたエルロイドが挟み込むようにソラ達の階層まで襲いかかってきたのだ。
「……不味い……。逃げ道を完全に塞がれた!」
「つまり、脱出出来ないってこと!?」
田中の言葉に流花が叫ぶ。三軍の全員も事態に気付き、絶望の表情を見せる。だが、ソラ以外に諦めていない少女が一人いた。
「まだ、可能性はあります」
「美玲?」
「この基地は重要な拠点です。なので高位の将官が常駐することになっています。そのため、実は何処かに、将官が脱出するための秘密の抜け道がある……という噂を聞いたことがあります。……一般兵士は知らないかも知れないですが、ピエールさんを見つけることが出来れば……」
「その抜け道を使うことが出来ると言うわけか!……だが、あくまでも噂だろう?」
クラックが美玲の発言に疑問を投げかける。だが、それをソラが切って捨てた。
「噂だろうが何だろうが、どうだっていい。可能性があるなら、這いつくばってでもそれを掴むだけだ!」
それを聞いた田中や流花、三軍のメンバーがふっと笑う。
「相変わらずだな、だが、私たちはいつもそうやってきた。何処までも諦めない、それが3軍だ。行こう、ピエールを探すのだ。流花、これを」
そう言って田中が流花に通信機を渡す。
「基地の混乱により、ほとんど使い物にならんが、全体に伝言を頼むくらいなら出来るはずだ。それでピエールの居場所を聞いてくれ」
「分かったわ!」
通信をし、無防備になった流花をかばいながら、ピエールを探して移動する3軍。しばらくしていると無線に連絡が入った。
『こ……ノーマ……僕は……ピエール……食堂……』
「ノーマからです。どうやら、ピエールと共に食堂にいるみたいです!」
「ノーマの奴、どこにいるかと思ったらピエールと一緒だったか! 詳しいことは分からないが、出るに出られん状態なのかもしれん。救出に向かうぞ!」
そう言って3軍は動き出した。
☆☆☆
一方その頃、エルロイド本陣では、ルーカスの策により、圧倒的有利な状況が作られ、我先にと砦に突撃して言っている状態だった。
そんな中、本陣で戦局を観戦していたマルタの元に数人のエルロイドが近寄る。
「マルタ団長! 私に名誉挽回のチャンスを!」
そう言いながら、ゼスタはマルタに頭を下げる。ゼスタの周囲には、同じく護衛としてここに待機していた貴族派のエルロイド達がいた。どうやら、誰も彼もが、この圧倒的有利な現状を見て、少しでも多く功績を手に入れたいらしい。特に汚名を負ったゼスタ達、敗残した貴族と、成り上がりを目指す下級貴族の気持ちは堅いようだ。
それを見て、マルタはため息を一つ吐き、了承した。
「まあ、いいよ。劣等種族達がこの状況から何かをすることなど出来るはずもないし、護衛は君たちが抜けても充分な数がいる。少しでも手柄が欲しいのであれば行っても構わないよ」
「ありがとうございます!」
そう言って何人かの兵士が走って去って行く。それを見てマルタは思った。
(やれやれ、誰も彼もが自分のことだけ、侵略者としては当然のことかも知れないけど、本当に、我がエルデン軍は脆いな)
何か、決定的な掛け違いが起これば、一気に崩れるかも知れない。そんな状況を見て、マルタは憂いていた。
(もっとも、僕も自分のことしか考えていないものの一人なんだけどね。……白仮面は上手くやったかな? まあ、失敗しても尻尾切りをするだけだから、構わないんだけど)
そんなことを考えながら、マルタはひたすら戦いが終わるのを待つ。有利な軍の指揮官というのも存外つまらないものだ。っとマルタが考えていたその時、異変は起こった。
護衛としてこの周辺を哨戒していたエルロイドの一人が、ぼろぼろになりながら駆け込んで来たのだ。
「マルタ団長! た、たすけ……」
そして、そう言葉を発した、その瞬間、エルロイドの顔がはじけ飛ぶ。マルタが驚いて目を丸くしていると、護衛がマルタを守るように前に立つ。
そしてエルロイドが走ってきた方向、そこから一人のエルロイドがやってきた。見たこともない顔のエルロイドだ。マルタは自分も武器を持ち、警戒しながら、その男に聞く。
「まさか、僕を襲いに来るものが現れるなんてね、何処の手の者だい? スラム派か? 軍属派か? それともまさか、移住派か?」
「……」
「答える気はないってことだね。いいだろう。これでも僕は貴族の身、腕に覚えはある。黒幕をつかめないのは残念だが、君には消えて貰おう!」
そう言って、生き残っていた護衛のエルロイドと共に、五人でその男を囲む。
「五対一だ。これで君も終わりだね」
「逆に聞こう。五対一で何故、勝てると思った?」
その言葉にマルタ達、囲んでいたエルロイドが馬鹿にされたと怒りを見せる。
マルタが叫んだ。
「やれ!」
その言葉と同時に護衛のエルロイド達が襲撃者の男を襲う。誰もが男の敗北の未来を見た。だが……。
「ば、馬鹿な……」
護衛をしていた最後のエルロイドが倒される。襲撃者の男は五対一という状況にも関わらず、あっという間に全ての敵を粉砕していた。
それを見た、マルタはプライドを捨てて逃げ出した。ここで殺されてしまったら、全てが終わる。統率官としてのこの星を侵略した後の輝かしい未来が終わってしまう。マルタはただ、ひたすらに走った。だが、襲撃者の男から逃れることは出来なかった。腹部に痛みを感じ、そこを見ると、ビームセイバーがそこに刺さっていた。マルタは初めて体験する痛みに叫び声を上げる。
それを聞きながら、襲撃者の男は二つ目のビームセイバーを取り出した。そして思い出したように言う。
「先ほどの質問ですが、私は、貴方の手の者ですよ。閣下」
「まさか、き……み、は……」
マルタは理解した。仮面を付けていないが、この男は……!
そこまで、マルタが考えを巡らせた瞬間、マルタの頭は地に落ちた。
☆☆☆
マルタを殺したその時、そこに複数人の地球人が現れた。カイトはその地球人に話しかける。
「お前達がオルトスが選んだメンバーか。……これからお前達は死ぬことになる。全員覚悟はいいか?」
「我ら一同。既に覚悟は出来ています。憎きエルロイド達を殺し尽くす為なら、どんなことでもするつもりです。それが例え、戦地で戦う同胞を見捨てることでも、自身の命がなくなることだったとしても。あのエルロイド達を殺せるなら、私たちはそれで満足です」
曇りのない笑顔でそう宣言する男。彼らはオルトスのようにエルロイドに家族を惨殺された地球人達だ。エルロイドへの復讐だけを誓い。オルトスの元に集った。だからこそ、カイトに利用されて殺されるのだとしても、エルロイドを倒すチャンスをくれるなら、それで構わなかった、むしろ直接その手でエルロイドを殺すチャンスを与えて貰って感謝しているくらいだった。
だからこそ地球人達の行動に迷いはなかった。上着を脱ぎ、自らの胸をカイトに見せつける。そこに取り付けられた装置を見て、カイトは大きく頷いた。
「……そうか。分かった。お前達の覚悟、確かに受け取った」
その装置は奴隷化(スレイブ)と呼ばれる兵器によく似た見た目をした装置だった。だが、奴隷化ではない。これは未来で奴隷化を見たカイトが、その特徴を伝え、地球人達に作らせた装置だ。奴隷化のような命令を遵守させる能力はなく、機能はただ一つ、この装置を外そうとすると、周囲にある同じ装置と共に爆発するというものだ。
だが、これで充分なのだ。ジュードが奴隷化の詳細を知らなかったようにスラム派は奴隷化の情報を隠している。恐らく、エルデンの一般人で構成された移住派は奴隷化のことを、胸に取り付ける爆弾で裏切ると爆発する……それくらいしか知らないだろう。だからこそ、それに似た装置を使えば、きっとそれが奴隷化だと勘違いする。
そして、奴隷化を知っていると思われる。貴族派、軍属派、スラム派はそれぞれ別の考えを持つ。 まずはスラム派だ。スラム派は奴隷化の情報を一番持っている。使われたのが奴隷化じゃないことくらい直ぐに判別できるはずだ。なら気付くはず。誰かによってスラム派は罪を着せられたと。可能性があるのは奴隷化の情報を持っている貴族派か軍属派だ。スラム派は恐怖するはずだ。マルタ暗殺を行った派閥が自分たちに罪を着せた。これで大義名分は出来た、自分たちが処分されてしまうと。そうなれば強欲なスラム派なことだ。きっとやられる前にやれ、理論で貴族派、軍属派を攻撃し始めるだろう。
次は貴族派だ。安直に奴隷化による犯行だと考えるものもいれば、軍属派による策謀を疑うものもいるだろう。どちらにしろ、リーダーを失った貴族派は、その影響力を保つために、他派閥の責任を追及し続けなければならない。それはやがて反意を呼び、軍属派とスラム派の行動を早めることになる。
最後は軍属派だ。軍属派としてはわざとらしくても他の二派閥を追求しなければならない。なぜなら、自分の派閥はやっていないと証明するならどちらかに罪を着せるしかないからだ。貴族派のリーダーが殺されて、スラム派の道具が使われた。これを策謀とするなら、犯人候補は軍属派だ。だからこそ、これはそう思わせる貴族派の策謀だと言い張らなくてはいけないし、もしくは奴隷化が使われたとしてスラム派せいにしなければいけない。結果的に二つの派閥とは袂を分かつことになる。
このように、やがてこの三派閥はお互いにつぶし合うことになる。マルタ暗殺とこれから行うエルロイド虐殺の責任を押しつけ合って。そして三派閥はお互いの権力を強めるために移住派を吸収していくことになる。最後に待つのは三派閥に分かれたエルロイド同士の殺し合いだ。
そう、カイトが考えていると地球人の一人が、通信機をカイトに手渡した。カイトはその通信に出る。
「オルトスか、こちらは準備が終わった」
『そうですか。……こちらは想定通り、裏切り者が出ました』
「やはり、いたか、ルーカスの放った奴隷(うらぎりもの)が、目星は付けたんだろうな?」
カイト達は地球防衛軍内にオルトスが放った奴隷(うらぎりもの)がいることは想定していた。だが、直接軍に関わることが難しい、カイトとオルトスでは詳細な調査することができなかった、だからこそ、その奴隷(うらぎりもの)が動き出すであろう、この大きな戦いを待っていたのだ。
奴隷(うらぎりもの)を捕らえ、全ての裏切りを終わらせるために。
カイトの言葉を聞いたオルトスは答える。
『はい、既に一人、確保してあります。予定通り、例の場所に運んでおきました』
「わかった。ジュードもそろそろ動いている頃だ。計画を次の段階に移そう」
『了解いたしました』
そう言ってオルトスとの通信が切れる。カイトは装置を付けた地球人達を見ながら言う。
「まず、お前達には、軍が管理し、軍だけがその場所を知っている、この戦いの為に各地から集められた物資を強奪して貰う。その物資は例の場所に運んでおけ。そしてそれが終わったら、私が認証しておいた、ここにある武器を使って、ルーカスに操られた地球人を演じながら、エルロイド本陣より、オルトスが実行する策を免れたエルロイド達をひたすら撃ち殺せ。そして最後は敵に口を割る事無く、装置の効果で自爆しろ。…できるな?」
「もちろんです!」
全員が叫ぶように言う。それを見てカイトは頷いた。
「私も次の仕事がある。検討を祈っているぞ」
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