第31話Break Down World(幸せな未来)ー2


 「始まったな」


 アリアドネからやってきて皇の柱で戦闘を開始した地球防衛軍を見た、カイトはそう言う。手元の通信機を取り出し、オルトスに繋げた。


 「計画通りに動く、準備は出来ているか?」

 『はい、既に地球防衛軍に紛れ込ませる形で、アイギスの時に奪った兵器を持たせた子飼いの部下を援軍として送っています。私自身も正体を隠し、潜入に成功しています。いつでも実行できます

 「よし、では計画通りに紗山流花を軍から引き離せ、確保する」

 『了解いたしました』

 「ジュードにはその間、邪魔が入らないようにエルロイド、地球軍双方の足止めを頼むぞ」

 『……』

 「? どうしたジュード?」

 『あ! 了解!』

 『ジュード。気持ちは分かりますがしっかりとしてくださいね?』

 『分かってるって。ネズミ』

 「なんだか、よく分からないが、集中しろよ? これは世界を変えるための大きな戦いなんだからな? ……では、通信を切るぞ」


☆☆☆


 皇の柱周辺の戦闘は激化していた。既に突入をしたソラ達の部隊は、内部でエルロイド達と戦っている。一つ一つ部屋を確認しながら進んでいると、流花は一人の兵士に話しかけれた。


 「すみません! こちらの戦力が足りなくて。来て貰ってもいいですか!?」

 「え、援軍に……?」


 流花はちらりとソラ達を見る。現在の所、問題なく進めているようだ。さすがにこの全員で援軍に行くわけにはいかない。少しの手伝いなら、私一人でいいかと考え、流花は返答を返す。


 「分かったわ。私一人だけだけど。大丈夫?」

 「はい、大丈夫です。少し、人数が足らなかっただけなので。そちらのリーダーには後で、こちらのリーダーから連絡を入れておきます」

 「そう? じゃあ行きましょう」


 流花はソラ達が進む方向から離れ、その兵士に従って道を進み始めた。しばらく立ってある部屋が見えてくると兵士は言う。


 「あの中です、速く行きましょう!」

 「そうね」


 そう言って流花は部屋に入った。だが、そこには一人の人物以外だれもいない。おかしい、そう思って流花が振り返ると、そこに先ほどの兵士はおらず。扉は堅く閉ざされていた。


 「罠ね……!」


 まんまと嵌められた。そう思い、流花は目の前の人物を見る。目の前の人物はこちらに振り返った。そして露わになる白い仮面。それを見て流花は相手が誰なのか理解した。


 「白仮面!」

 「ふふふ、そうだ。私が白仮面だ。ようこそお嬢さん。ここが君の終着駅だ」


 そう言うとカイトはビームセイバーを二本取り出して構える。流花もビームランスを取り出した。


 「未来じゃ、私はあんたに負けたことになっているらしいけど。やられるつもりはないわ! ここで貴方を倒して! 私が未来を変える!」

 「何を言っているのか分からないが。出来るものなら、やってみるがいい。まあ、出来ないだろうがな」


 カイトに向かって流花は飛びかかる。カイトはその攻撃をたやすくいなすと、流花を蹴り飛ばす。蹴り飛ばされた流花は宙を飛び、地面へと叩きつけられた。


 「うっ」


 流花がその衝撃でうめき声を上げる。カイトはそんな流花に近づきながら言う。


 「安心しろ、楽に終わらせてやる。せめてもの情けと言う奴だ」

 「っは。舐めないでよね……!」


 流花はそう言いながら、痛みを堪え、立ち上がる。


 「この命はね。ある人に助けて貰った命なのよ。……その人とはもう会えなくなってしまったけど、私はその人の分まで、助けられた分だけ生きなければいけないの! だから私は負けられない。貴方みたいな奴に持って行かれるほど、安い命じゃないのよ! この命は!」

 「ふ、大層な決意だ。だが……!」


 カイトは流花の攻撃をビームセイバーで受けきり、返しの剣で腕を軽く切りつける。斬られた痛みで右手の剣を落とした流花は、左手で銃を取り出し、カイトに乱射する。それをカイトはビームセイバーを繋げ、回転させることで防いだ。


 「どのような覚悟を持っていようと、たやすく死ぬのが世界というものだ。思いだけでは、人は何もなし得ることは出来ない! 分かったのなら、自身の運命を受け入れろ!」

 「っぐ……!」


 カイトは新しく、銃を取り出した。そしてダブルセイバーを一瞬止めると、移動しながら流花を撃つ。右足を撃ち抜かれた流花は、痛みで呻き、崩れ落ちる。


 「まだ、まだよ……ここで終われない……!」

 「まだ立ち上がるのか!? ……いい加減諦めろ!!」


 そう言ってカイトは流花を次々と撃ち抜いていく、決して殺さないように、致命傷を外してはいるものの、それでも相応の痛みがあるはずなのに、全身傷だらけになりながら、流花はまだ立ち上がろうとする。


 (くそ、早く諦めろ……! これ以上は……!)


 それに、動揺していたのはカイトだった。流花を未来で生き残らせるために確保しようとしているのに、このままだと流花を殺してしまう。カイトは焦りながらも流花に問いかける。


 「どうして立ち上がる? もう勝てないことは分かっているだろう。大人しく負けを認めろ!」

 「勝てるか、勝てないかじゃないのよ……」


 そう言うと流花はカイトを嘲笑いながら立ち上がった。


 「約束がある。思いがある。私たちは譲れないものの為に戦っているの! だから、どんな状況だって、決して屈しはしない! 白仮面、貴方が私のことを理解出来ないのは、貴方が既に諦めているからよ。だから抗う者の気持ちが分からないんだわ」

 「……そのようなもの分かるはずもない! 希望と言う曖昧な言葉にしか縋れず、そのために命を無駄にしていく愚か者の気持ちなど。理解出来るはずもない! お前達は希望などと言う。きれい事を並べて、自身を誤魔化しているだけだ。認めたくないから抗っているだけだ。お前達のやっていることは所詮、事実から目を反らした、現実逃避だ」

 「それの何が悪いって言うの! 何かを変えられるのは、認めたくないと最後まで諦めなかった人間だわ! それが現実逃避で愚かなことだと言うのなら、私は愚か者のまま死んでいい!」


 迷いのない意思でカイトを見る流花。その目を見て、カイトは思った。


 (やめろ、やめてくれ。そんなにも抗うな。その目で俺を見るな!)

 

 自分との約束の為に、自分のことを思って、抗い続ける流花を見た。カイトの心は大きく抉られる。だが、今更引き返す道もない。これも全て、未来を、ソラと流花を救うためのことじゃないか。白仮面の死を見たときに既にカイトは自分の運命を決めた。全てを捨てる覚悟をした。今更、迷うことがあるか! カイトはそう考えると、ダブルセイバーを強く握る。迷いを打ち消すように。


 「……ならば、お前達の言う。その大切な約束を、その思いを! 断ち切ってやろう!」


 そう言うとカイトは流花に斬りかかった。防御しようとした流花の防御を打ち破り、左腕を切り飛ばす。

 これは自身がした約束と、自身が流花に抱いた思いとの決別の一撃だ。


 カイトの目の前で切り取られた腕は、地面に落下した。


 「あ、ぁああ! どうして、左腕を……!」

 「知れたこと、カイト・アオヌマを殺したのは私だからだ。……確か、再開の約束だそうだな? くだらない」


 そう言うとカイトは流花の切り落とされた左腕を踏みつける。それを目にして流花が激怒するなか、白仮面は淡々と続けた。


 「結局、約束がどうなった? 願いなど叶わない。お前の抱いた思いとやらは! 今、ここで! 私の足に踏みつけられる! そんな存在なのだ! この程度のものが! 人が抱く思いだ!」


 何度も何度も流花の左腕を壊すように踏みつけるカイト。


 「叶わぬ思いにすがりつき! もしかしたらと希望する! そして結局それは果たされず、現実を再認識する! くだらない! 本当にくだらない! 約束も! それを行った者も! 等しく愚かだ! そんなものが何になる。どんなに辛くても最後に全てを決めるのは、思いでは無く、純然たる事実だけだ!」


 そう言ってカイトは流花の左腕を流花に向かって蹴飛ばした。流花は傷だらけになった自身の左腕を見ながら、痛みを堪え、立ち上がった。


 「許さない……。私の思いを、あの人を侮辱した! 貴方だけは! 絶対に許さない!」


 流花は最後の力を振り絞って、カイトに斬りかかる。それを見て、カイトは思った。


 (そうだ、それで良い、白仮面を、俺を恨め。そうでなければ。俺は事実を作れない!)


 カイトは流花の剣を躱すと、流花を殴りつける。カイトに殴られた流花は、地面に倒れ落ちる。薄れゆく意識の中で流花は聞いた。


 「今は、しばし眠れ。それがお前の辿るべき道だ」


 その言葉を最後に流花の意識は途切れた。

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